『10年後、2027年のIoTビジネスで成功する施策』続:IoT 先行企業の狙いを見極める。|アメリカ・ファースト時代の米国IoT戦略の行方|鍋野 敬一郎


製造・流通・通信業向けビジネスナレッジ

特集・コラム

第3回 アメリカ・ファースト時代の米国IoT戦略の行方

 「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」が、新米国大統領ドナルド・トランプ氏の公約です。米国経済は堅調に推移していますが、その所得格差は過去最大となっています。金融とITを強みとしてきた米国ですが、その代償として製造業とこれに従事する労働者の雇用が失われていました。ゼネラル・エレクトリック社(GE)などが、デジタル革新による新しい製造業への取り組みを進めていますが、その恩恵を得られるのはシリコンバレーに集まる優秀なIT技術者です。興味深いことに、米国GDPに占める割合が約1割まで低下した製造業にスポットライトが当たっていますが、トランプ新大統領とGE社など大手製造業ではアプローチが大きく異なります。
 トランプ新大統領は、海外へ移転した生産拠点を米国内へ戻して製造業の雇用を作ろうとしています。そして、ここで雇用されるのは米国籍(ソーシャルセキリュティナンバーを持つことが条件)がある人だけで、国籍を持たない不法移民や外国籍居住者は対象から外される可能性が高いと思われます。その見返りとして、企業は大幅な法人税減税を受けることができます。
 これに逆らった場合は、米空調機器大手キヤリア社がインディアナ州の工場をメキシコへ移転しようとした計画を名ざしで阻止したように、企業名をあげて「アメリカ・ファースト」に非協力的な企業としてレッテルを貼られることになるのではないでしょうか。この構図は、1950年に吹き荒れたレッドパージ「マッカーシー旋風」に似ているような気がします。
 米国の製造業は、トランプ新政権による政策と、GE社などが目論んでいる産業向けIoTやCPS(サイバーフィジカルシステム)を活用した新しい製造業の妥協点に答えを見出すことができると考察されます。

保護主義とマーケットアクセスに計画変更を強いられるIoTビジネス戦略

 マスメディアや有識者の予想を大きく裏切って、新米国大統領はドナルド・トランプ氏が選ばれました。これによって米国の方向性が大きく転換することは確実です。
 トランプ新大統領は、大統領に就任したその日に「TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)」離脱を表明していますので、「NAFTA(北米自由貿易協定)」の枠組みが崩れてメキシコの安い労働力を使って生産していた自動車産業は、大きな戦略転換に備える必要が出てきました。既に、生産拠点を米国からメキシコへ移管しようとしていたメーカーや、中国で生産していたiPhoneの製造を米国内で行うようにアップル社などへ打診しているという話も出ています。
 『アメリカ・ファースト、反グローバル』という公約が世界経済に与える影響は、これまでの前提を根底から吹き飛ばすくらいの破壊力があります。

 さて、米国はIoTやCPSというテクノロジーを活用して、一度は捨てた製造業をデジタル化した新しいビジネスモデルで再生し、ヘルスケアや運輸、エネルギーや社会インフラ、農業や流通に至る幅広い産業にこの仕組みを展開しています。豊富な投資資金と世界最強のIT産業が、その実現を大きく支えています。インダストリー4.0を掲げたドイツが、製造業でのIoT活用では先行していますが、その成功事例をあっという間に塗り替える勢いで米国企業が追撃しています。
 2016年3月には、名より実を獲る戦略で、米国はドイツと国際標準策定に協力することに合意して、実質的にドイツと米国が世界を主導することが確実となりそうです。
 孤立化を回避したい日本は、ドイツと提携することでその枠組みに加わることができましたが、世界最大の米国市場と第2位の中国市場で生き残れるかは依然不透明なままです。米国と中国の間に挟まれて、国防も経済も神経質な対応を迫られる可能性が高いと思われます。米国主導のグローバル化を信じて疑わなかった日本は、いきなり自らの判断で『反グローバル、保護主義貿易』に立ち向かうことになります。
 IoTビジネスにおいても、先行する欧米企業の成功事例を真似するだけでは間違いなく勝ち残ることは難しいと思われます。目的とビジョンを明確にして、長期戦略を策定しなければなりません。

トランプ新政権が日本企業のIoT戦略に与える影響

 「アメリカ・ファースト」の掛け声によって、日本の製造業も生産拠点の一部をメキシコやカナダなどから米国内へ移転することになるでしょう。米国籍を持つ労働者を雇用して、トランプ新政権から反アメリカ・ファースト企業というレッテルを貼られないようにするためです。IoTやCPS導入は、複数の生産拠点間を連携する有効な手段となり得ます。これまでのIoT活用は、ビッグデータ活用や生産性の向上、デジタル化による新しいサービス提供という領域が注目されてきましたが、これからの米国では米国内における労働者の雇用やその生産性をコントロールする手段として活用される場面が増えていくと思われます。
 これまでの自由貿易では、アップル社のiPhone生産のように部品をできるだけ安く調達して、最も安く組み立てられる場所で生産を行い、これを市場へ共有するビジネスモデルが有効でした。アップル社が一切の工場を持たないことは周知の通りですが、トランプ新政権下ではこのやり方は認められません。「アメリカ・ファースト」の狙いは、労働者の雇用を米国内で創出することなので、組み立てや製品検査など生産工程の一部を米国内の工場で行う必要があります。つまり、生産工程分業を実現する必要があります。例えば、アップル社は、iPhoneの組み立て工程まではこれまで通り行って、最終検査工程のみ米国内工場で行い、ここで雇用を作るというような考え方が可能ではないでしょうか。

 自動車産業では、消耗品や修理部品といったアフターサービスの領域を米国内に複数拠点展開して、広く薄く雇用を創出することが可能です。アフターサービス領域は、利益率が高く安定した売上が得られます。米国内での雇用によるコスト上昇は、ロボットやAIによる自働化と効率化に加えて、サプライチェーンを短くして短納期と物流コストの抑制で相殺をめざします。いずれもIoT技術が活用できると思われます。今後の米国市場ほどでは無いと思われますが、所得格差を緩和する手段として欧州市場や日本市場も同様にそれぞれ自国の雇用調整を行う政策が出てくるのではないかと思われます。

日本企業が見直すべきIoT戦略の変更点とは

イメージ

 これからのトランプ新政権下における「アメリカ・ファースト」は、企業の事業戦略に大きく影響を与えます。IoT技術とその活用は、こうした事業戦略の実現にきめ細かく対応できる手段として磨かれていくことが予想されます。
 自由貿易によるグローバル市場に近い活動は、米国ではなく「一帯一路」を推し進めている中国経済圏が担う可能性が高いという声もあります。中国におけるIoT戦略は、「中国製造2025」に掲げられています。この取り組みは、中国がドイツに学んだものですが、資金力と米国に次ぐ巨大市場を持つことで、成功する可能性は高いと思われます。急激な賃金上昇や、都市部と地方の所得格差、一人っ子政策の弊害による急激な労働人口の減少が予想される中国は、ロボットによる完全自動生産や徹底したIT化による遠隔操作などに取り組んでいます。

 日本企業が見直すべきIoT戦略は、米国や中国の市場環境の変化を見据えた取り組みを考慮する必要があります。自社製品の市場が米国市場なのか、中国経済圏市場にあるのかを考えます。必然的にその市場内に拠点を置き、その拠点にどのような役割を与えるのかを考えます。
 例えば、米国市場であれば米国内の雇用を創出するために生産の一部工程を切り出して、アフターサービス拠点を複数置いてここと連携する手段にIoT技術を導入します。中国経済圏の市場であれば、中国と欧州に跨るサプライチェーンを想定して、生産拠点と販売拠点の最適配置を考えて災害や紛争などのリスクに迅速かつ柔軟に対応可能な情報共有、データ連携をIoT技術で補完します。

 以上のように国家レベルでビジネスルールの変更が予想される場合、「モノにセンサーやコンピュータを搭載してネットワークにつなぐ」というミクロレベルでIoT活用を考えるのではなく、人工衛星から地球を眺めるようなマクロレベルで、市場動向の変化や需要共有の変化を正確に把握する手段としてのIoT活用を考えることも重要ではないかと思います。テクノロジーとしての機能や原理は同じですが、見たい範囲や規模に合わせミクロからマクロまでレンズの焦点を調整できる仕組みが、これからのIoT活用には求められると思います。

お探しの情報は
このページで見つかりましたか?


ご意見・ご感想をお気軽にお寄せください

お寄せいただいた内容は、当サイトの改善に役立てさせていただきます。

ソリュートくん

フォームによるお問い合わせはこちら


鍋野 敬一郎 氏の写真

鍋野 敬一郎 氏

株式会社フロンティアワン 代表取締役
ERP研究推進フォーラム講師

1989年 同志社大学工学部化学工学科(生化学研究室)卒業
1989年 米国大手総合化学会社デュポン社の日本法人へ入社。農業用製品事業部に所属し事業部のマーケティング・広報を担当。
1998年 ERPベンダー最大手SAP社の日本法人SAPジャパンに転職し、マーケティング担当、広報担当、プリセールスコンサルタントを経験。アライアンス本部にて戦略担当マネージャーとしてSAP Business All-in-One(ERP導入テンプレート)立ち上げを行った。
2003年 SAPジャパンを退社し、コンサルタントとしてERPの導入支援・提案活動に従事。
2005年 独立し株式会社フロンティアワン設立。現在はERP研究推進フォーラムでERP提案の研修講師、ITベンダーのERP/SOA/SaaS事業企画や提案活動の支援、ユーザー企業のシステム導入支援など、おもに業務アプリケーションに関わるビジネスを行っている。
2015年よりインダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI):サポート会員(ビジネス連携委員会委員、パブリシティ委員会委員エバンジェリスト)

鍋野氏寄稿ムック 丸わかり!! IoT入門の写真

鍋野氏寄稿ムック

丸わかり!! IoT入門

出版社: 洋泉社 (2017/2/16)

家電や自動車、住宅、ロボット、工場など身の回りのあらゆるモノがインターネットにつながる――。
IoT(モノのインターネット)によって、10年後の私たちの暮らしやビジネス、産業構造は、大きく変わるでしょう。
第4次産業革命と呼ばれる「IoT」を徹底解説するビジュアルムック。

鍋野氏寄稿ムック インダストリー4.0の衝撃の写真

鍋野氏寄稿ムック

インダストリー4.0の衝撃

出版社: 洋泉社 (2015/7/24)

製造業に押し寄せる新たな波「インダストリー4.0」――。
生産システムがつながる「スマート工場」の登場により、生産現場、サプライチェーン、われわれの暮らしはどう変わるのか!?
インダストリー4.0の立役者ヘンニヒ・カガーマンはじめ、日本GE、経産省のインタビュー、専門家の論考などにより、21世紀の新産業革命を多角的に読み解く。

この筆者の他のコラム記事

~関連ソリューション~

グローバル製造業の収益向上と価値創出を支援 / (株)日立ソリューションズ

製造業向けトータルソリューション

M2Mソリューション / (株)日立ソリューションズ

M2M組込み基盤スイート

ご参考サイト

2015年7月31日(金)開催「日本の製造業はインダストリー4.0にどう対処すべきか」スペシャルレポート(SBクリエイティブ株式会社(ソフトバンクグループ)のサイト「ビジネス+IT」へ)

インダストリー4.0から見る日本企業が執るべき戦略~日本的「つながる工場」とは何か。その示唆を探る~ 講演資料ダウンロードはこちら

連載目次

お問い合わせ・無料相談

フォームによるお問い合わせはこちら

まずはお気軽にご相談ください。

フリーダイヤル 0120-571-488

平日:10時~17時30分

『10年後、2027年のIoTビジネスで成功する施策』一覧

第1回:ドイツ、米国、日本におけるインダストリー4.0の現状

第2回:インダストリー4.0のイニシアティブを握りつつあるドイツ

第3回:アメリカ・ファースト時代の米国IoT戦略の行方

第4回:IoTビジネスに成功する日本企業の取り組み



おすすめコラム

その他おすすめコラムはこちら

おすすめ特集

グローバル製造業のための勝てるコストを作り込む「攻めの生産管理」

教えて!業務の達人

ビッグデータ特集

その他おすすめ特集はこちら


おすすめコラム特集・コラム一覧
おすすめ特集特集・コラム一覧

グローバル製造業のための勝てるコストを作り込む「攻めの生産管理」

教えて!業務の達人

ビッグデータ特集

お問い合わせのイメージ画像

まずはお気軽にご相談ください

BELINDAへのお問い合わせ・無料相談

フリーダイヤル 0120-571-488

平日:10時~17時30分

関連キーワード:
本サイトは2015年1月1日以前に公開されたもののため、旧社名で表記されている部分がありますが、当該ページで公開されている内容は全て新体制にて
引き続き提供しております。製品に関するご不明点等・ご要望等ございましたら、お気軽にお問い合わせください。
 【旧社名】(株)日立ソリューションズ・ビジネス/(株)日立ソリューションズ・ネクサス
  → 【新社名】(株)日立ソリューションズ・クリエイト

© Hitachi Solutions, Ltd. 2012-2017. All rights reserved.