インダストリー4.0が実現をめざすデジタル市場:App Store for Machines|AIで加速する知識創造サイクル|川野 俊充


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第3回 AIで加速する知識創造サイクル

AIで加速する知識創造サイクル

 最近注目されているのは、深層学習に代表されるAIの活用により、前回で紹介した知識創造スパイラルであるSECIサイクルの回転速度を大幅に引き上げられる可能性だ。2012年にトロント大学のヒントン教授が畳み込みニューラルネットを使って大量の画像データが何かを判別するコンテストで目覚しい成果をあげ、2016年には深層強化学習を駆使した囲碁プログラムAlpha Goが人間のチャンピオンに勝利を収めるニュースで、一般的にもAIに対する注目が集まった。データから有意な特徴を抽出する作業は一般的には勘と経験がものを言う世界なのだが、これを複雑な合成関数のパラメタの自動調整に、力任せの計算力で置き換えてしまうのである。

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 例えば工作機械を使って超高精度の切削加工を行う職人の「感覚」を設定情報として形式知化するのは困難であり、温度・湿度・振動・圧力・応力・位置・速度・電流など多数の物理量の多変量解析を伴うため、その技能を持つ職人自身ですらノウハウを言語化することができないことがある。ここに「深層学習」を適用することで伝達関数が導き出せるようになれば、SECIのサイクルタイムを大幅に高められるというわけだ。「深層学習」はビッグデータから特徴を自動抽出するのが得意であることを利用する考え方である。もう一歩踏み込んで言うなら、物理現象の精緻なシミュレーションモデルまでを構築することができれば「深層強化学習」によって暗黙知すら自動生成できるかもしれない(Alpha Goが人間では思いつかない手を編み出して世界チャンピオンに勝利したのはその実証例とも言える)。

 こうした手法は製造業のあらゆる分野に応用可能だ。工作機械の最適ツールパス生成、ロボットの自動軌道生成・自動ティーチング・自動協調、成形機の射出条件自動最適化、3Dプリンタの高速化、チョコ停の防止と自動復帰など、その可能性は計り知れない。 特に素形材加工装置と呼ばれる設備は数も種類も多く、操作には匠の技能者を必要とするために応用の可能性が高いとされている。切削・研磨・鋳造・鍛造・圧延・放電などの加工や積層造形・射出成型などが全て該当する。

 一度暗黙知を形式知としてアプリ化してしまえば、これを技術継承の手段として社内で活用することも、後進育成のために業界に公開してしまうことも、機械メーカにライセンスすることも、アプリストアで同業他社に売り出すことなど、ビジネスとしての打ち手が幾らでも湧いてくるのは前述の通りだ。これが「スマートサービスの世界」なのである。最近ドイツがI4.0そのものに加え、あらゆるサービスをデジタルプラットフォームに載せる「デジタル・アジェンダ」を国策のメッセージと位置付け始めたのは、このアプローチが農業・医療・エネルギーなどあらゆる産業に「革新:revolution」や「進化:evolution」をもたらす汎用性の高いフレームワークであることに気づいたからだと見て良い。I4.0はAIにより浸透が加速し、適用分野が拡大することになるだろう。

 センサ技術を駆使して様々な加工ノウハウを構成要素ごとにデジタル化し、再販できるアプリとして規格化できれば、ユーザも材料メーカもセットメーカもこれを対等に取引できる新たなパートナーシップを形成できる可能性がある。I4.0により、こうしたノウハウを通貨のように取引ができる新たな市場がクラウド上に生まれれば、そこで極めて高い競争力を発揮できるのは実は日本企業ではないかと筆者は考えている。

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川野 俊充 氏

ベッコフオートメーション株式会社(日本法人) 代表取締役社長

1998年 東京大学理学部物理学科を卒業後、日本ヒューレットパッカード株式会社を経て2003年カリフォルニア大学バークレー校 ハース経営大学院経営学修士。日本ナショナルインスツルメンツ株式会社の事業部長、慶應義塾大学SFC研究所 上席所員を経て2011年に「EtherCAT」開発元のベッコフオートメーション株式会社(日本法人)代表取締役社長に着任し、ソフトウェアPLC/NC/RCのTwinCATによるPC制御ソリューションの普及に努めている。

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第1回:新たな経済圏の象徴「App Store for Machines」

第2回:暗黙知を形式知に変換して知識を創造する

第3回:AIで加速する知識創造サイクル



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