【平成の世にサムライを探して】第119回 株式会社 環境生物化学研究所/株式会社 夢創造 代表取締役社長 野口勝明「『海のない県』でフグの養殖に成功──固定観念を打ち破り新しい法則を導く」|システム構築やトータルソリューションをお探しなら、日立ソリューションズをご利用ください。

平成の世にサムライを探して 

【平成の世にサムライを探して】第119回 株式会社 環境生物化学研究所/株式会社 夢創造 代表取締役社長 野口勝明「『海のない県』でフグの養殖に成功──固定観念を打ち破り新しい法則を導く」

独自の発想力、仕事で培った専門性、地元のネットワーク力などを駆使し、海のない栃木県で、海水魚であるトラフグの養殖を成功させたのが野口勝明氏だ。過疎に悩む那珂川町の新たな特産品として注目を集める「温泉トラフグ」。その誕生の軌跡を追った。

海水魚の養殖に好条件だった温泉水

野口勝明(のぐちかつあき)プロフィール

1956年栃木県那珂川町生まれ。
大学時代は化学を専攻する。
卒業後、東京の環境コンサルティング会社に就職。
84年、地元に戻り環境生物化学研究所を設立する。2010年、温泉水でトラフグを養殖する会社、夢創造を創設。現在、2社の代表取締役を務める。

※黒字=野口勝明 氏

──  温泉水でトラフグを養殖しようと考えたきっかけは何だったのですか。

環境調査などを手がける環境生物化学研究所という会社を27歳で立ち上げて、30年近くその会社の経営に携わってきたのですが、大病を患ったことをきっかけに、何か新しいことをやってみたいと考えるようなりました。これからの自分にできることは何か──。そう考えて浮かんだのが、生まれ育った那珂川町の町おこしに取り組むというアイデアでした。

養殖中のトラフグを手にする野口氏
養殖中のトラフグを手にする野口氏

那珂川町は、農業が衰退していることもあって、この10年で人口が2300人も減っています。若者が少なく、商店街にはシャッターを下ろした店が並ぶ典型的な過疎の町です。鮎釣りや林業を除けば、町の資源と呼べるのは温泉だけ。そこで私は、温泉を利用して何か新しいことができないかと考えました。

那珂川町から出る温泉の源泉には0.9%から1%程度の塩分が含まれています。塩分が含まれているということは、海水魚を育てることができるということです。魚を温泉水で養殖すれば、地元の新しい特産品になるし、話題も呼ぶだろう。そう考えて、トラフグの養殖の実験を始めました。トラフグを選んだのは、市場価格が高く採算が取れそうなことと、丈夫で養殖しやすい魚だったこと。その二つの理由からでした。

── 実験はうまくいったのですか。

うまくいきましたね。というのも、温泉水の塩分濃度が、実に絶妙だったからです。

0.9%というのは、生理食塩水、つまり生物の体液とほぼ同等の塩分濃度です。海水の塩分濃度は3.5%くらいで、天然のトラフグはその中で暮らしているわけですが、体液と比べて周囲の海水の塩分濃度が非常に高いので、それを体内に取り込む際は、えらにある塩分調整細胞で薄める必要があります。

日々、研究は続けられる
日々、研究は続けられる

しかし、周囲の水の濃度が体液と同じであれば、この作業の必要はなくなります。ということは、その分のカロリー消費を抑えられるということです。結果、摂取した栄養の多くが体の成長に回り、天然よりも大きなトラフグが育つというわけです。

──  温泉水は、トラフグの養殖には極めて好条件だったのですね。

その通りです。そうして最初に育てたトラフグを、町の皆さん150人ほどを招いて試食してもらいました。しかし、その時にはまだ、「味が薄い」「歯応えがない」といった感想が多かったんです。商品にするには、味を改善しなければならない。そう考えた私は、魚の生理学の専門家である東京大学の金子豊二先生にお会いして、味を向上させる方法を相談しました。幸い、金子先生はこの取り組みに興味を持たれ、「共同研究をやりましょう」とおっしゃってくださいました。その研究から生まれたのが、体内のアミノ酸値を増やして「味上げ」をするという方法でした。

「おいしいトラフグ」を育成する方法とは

──  「味上げ」とは、味わいを向上させるということですね。うまみ成分であるアミノ酸を増やせば、確かに味わいは良くなりそうです。

ええ。それを実現するには、トラフグを一定の時間、塩分濃度の高い水、つまり海水に帰してやればいいのです。つまり、こういうことです。

トラフグを塩分濃度0.9%の水から海水と同じ3.5%の水に移すと、トラフグは肝臓にためこんでいたアミノ酸を、血管を通じて全身の筋肉にいきわたらせ浸透圧を調整しようとします。それによって、筋肉中のアミノ酸の豊富な「おいしいトラフグ」になります。

しかし、このメカニズムが有効なのは、トラフグを海水に移してから12時間後までです。12時間たつと、えらの塩分調整細胞が活動し始め、筋肉中のアミノ酸値が再び低下していくからです。したがって、移動後12時間が経過した時点で出荷すれば、最もおいしい状態で食べていただけることになります。

スイミングスクールのプールを再利用した温泉水の水槽
スイミングスクールのプールを再利用した温泉水の水槽

この方法を試してみたところ、「天然のトラフグよりも甘みが強くておいしい」というご意見をいただきました。こうして「温泉トラフグ」の本格的な出荷がスタートしたわけです。

──  養殖はどこで行っているのですか。

閉鎖した町内のスイミングスクールのプールを使っています。そこで、地元高校の水産科出身の社員が5人で年間約2万5000匹のトラフグを飼育しています。

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