【平成の世にサムライを探して】第121回 絵画保存修復家/IWAI ART保存修復研究所 代表取締役・所長 岩井希久子「絵画を未来に残していくための技術と理念──絵と対話を重ね画家の思いをよみがえらせる」|システム構築やトータルソリューションをお探しなら、日立ソリューションズをご利用ください。

  • ホーム
  • >ビジネスコラム
  • >平成の世にサムライを探して
  • >【平成の世にサムライを探して】第121回 絵画保存修復家/IWAI ART保存修復研究所 代表取締役・所長 岩井希久子「絵画を未来に残していくための技術と理念──絵と対話を重ね画家の思いをよみがえらせる」
平成の世にサムライを探して 

【平成の世にサムライを探して】第121回 絵画保存修復家/IWAI ART保存修復研究所 代表取締役・所長 岩井希久子「絵画を未来に残していくための技術と理念──絵と対話を重ね画家の思いをよみがえらせる」

ゴッホ、モネ、セザンヌ、ルノワール──。これまで、数々の名画の修復を手がけてきた絵画保存修復家の岩井希久子氏。修復の作業で最も大切なのは、絵との対話であり、画家の心を理解することだと彼女は言う。優れた文化を未来に残していくために日々奮闘を続ける岩井氏が仕事にかける熱い思いを語る。

何て夢のような仕事なのだろう

岩井希久子(いわいきくこ)プロフィール

1955年熊本生まれ。
74年、絵画保存研究所で修復の仕事と出合う。80年に渡英し、ナショナル・マリタイム・ミュージアムで修復技術を学び、84年に帰国。
以後、フリーランスとして海外の数々の名画や現代アートの修復を手がけている。
著書に『モネ、ゴッホ、ピカソも治療した絵のお医者さん』(美術出版社)、『岩井希久子の生きる力』(六耀社)がある。

※黒字=岩井希久子 氏

──  絵画修復という仕事に出合ったのはいつ頃でしたか。

芸大進学をめざして東京で浪人生活を送っていた時に、熊本県立美術館の建設準備室の室長をしていた父から、油絵の修復をする仕事があると聞いたのが最初でした。実際に修復の現場を目にしたのは、当時、中野にあった絵画保存研究所でアルバイトをすることになってから。西洋の有名な絵が目の前にあることに衝撃を受けました。それまで名画をじかに見た経験は全くなかったので、「何て夢のような仕事なのだろう」と感激したことを今でもよく憶えています。

──  当初は画家をめざしていたそうですね。

ええ。自分で絵を描きたいと思っていたのですが、やはり画家をめざしていた夫・岩井壽照(よしてる)と出会って結婚する時に、さすがに2人とも絵描きでは食べていけないということで、私には画家の才能はないと思い、筆を折る決心をし、修復の仕事で生きていこうと考えました。それが、この仕事のスタートでしたね。

──  修復の技術はどこで身に付けたのですか。

基礎的な技術は、3年ちょっと働いた絵画保存研究所で学びました。その後、「もっと本格的に修復の勉強がしたい」と考えている時に、運よく夫が英国に留学することになったのです。英国は絵画修復の方法を世界で初めて学問として体系化した国でしたから、修復の勉強をするには理想的でした。それで夫と一緒に渡英したわけです。

英国滞在中は、グリニッジ天文台を併設しているナショナル・マリタイム・ミュージアムの修復部門で4年間、絵画修復の方法と理念を学びました。ここでの修行と経験で何とか一人で絵画保存修復家として生きていく基盤ができました。

絵との「対話」で作者の思いを汲み取る

──  絵画修復の基本的な工程を教えていただけますか。

岩井氏が修復作業で実際に使用する道具
岩井氏が修復作業で実際に使用する道具

絵の「観察」からすべては始まります。絵とじっくり向き合い、修復の方向性を決めるのがこの段階です。レントゲン、紫外線、赤外線などを使って、科学的な調査をする場合もあります。また、修復前の状態を記録に残すために、この時点で写真を撮ったり、実態顕微鏡で観察したり、状態を記録したりします。

次に、具体的な処置の方法と、使用する素材や道具を決めます。薬品を使う場合は、テストをして、絵を損なう可能性がないかを確認します。いわゆる「診断」です。そして実際の修復の作業(治療)に入っていきます。油絵の場合、キャンバスを張ってある木枠やパネルなどの基底材があり、キャンバスがあり、地塗りがあり、絵の具がありと、1枚の絵はいくつかの層で形成されています。

時間をかけて、それぞれの層に対応する処置をしていくのがここでの作業になります。基底材の補強をしたり、キャンバスのゆがみを直したりした上で、画面の汚れや黄変したニスを取り除く作業をし、さらに絵の具層の剥落や亀裂の処置をし、破損した部分に素材を充填したり、色が落ちてしまっているところに捕彩をしたりします。

修復で重要なのは、作者がもともと使っていたのと同じ素材は使わないことです。例えば捕彩の場合、一般には、作者が使っていた絵具と同じものを使って色を補うと思われていますが、そうではありません。将来オリジナルを傷つける事なく安全に除去できる素材を使用し、どこまでがオリジナルでどこからが修復による処置かが肉眼または特殊な光で分かるようにしておくこと。それが絵画修復の基本です。

時間をかけ、絵と対話する岩井氏
時間をかけ、絵と対話する岩井氏

──  作業の中で、特に難しいのはどこですか。

どの作業も難しいのですが、特に大変なのは絵との最初の「対話」ですね。

絵には必ず経年変化の影響が現れるので、絵が描かれた当時の正確な色味や風合いは誰にも分かりません。だから、完全に元通りにするのは不可能ということになります。過去に施された修復を見ると、描かれた当時の状態に無理に戻すことを狙って、逆に絵の良さを壊してしまっているケースが少なくありません。

私はまず、長い時間をかけて絵と徹底的に対話をし、「作者が何を伝えたかったのか」を把握することから始めるようにしています。そうして、「元に戻す」のではなく、「作者の思いを可能な限り再現する」ことをめざします。

この続きは、日立ソリューションズの会員様向け情報提供サイト『PREMIUM SERVICE WEB(プレミアムサービスウェブ)』をご覧ください。
プレミアムサービスのご案内はこちら >>
PREMIUM SERVICE WEBをご覧いただくにはプレミアムサービスへの会員登録が必要です。
※本サービスは法人のお客様向けに提供しております。法人に所属していないお客様は入会をお断りさせていただく場合がございます。何卒、ご了承下さいますようお願い申し上げます。
プロフィールや記事など、掲載内容は取材時点のものです。現在と内容が異なる場合があります。
前回の特集を読む 次回の特集を読む
見出し、記事、写真の無断転載を禁じます。All Rights Reserved, Copyright (C) 2010, Hitachi Solutions,Ltd.
ページTOP

本記事の内容は公開当時のものです。本コラムに関するご意見等ございましたら、日立ソリューションズまでお問い合わせください。

日立ソリューションズのご紹介
日立ソリューションズは、お客様の業務ライフサイクルにわたり、豊富なソリューションを全体最適の視点で組み合わせ、ワンストップで提供する「ハイブリッドインテグレーション」を実現します。