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平成の世にサムライを探して 

【平成の世にサムライを探して】第125回 面打師 新井達矢「命と魂を木面に刻み込む練達の技」

日本の伝統的な舞台で使われる面、とりわけ能面を作る作業を「面打ち」と呼ぶ。江戸時代には世襲制だった面打師だが、その後、技能の伝承がひとたび途絶えたこともあり、現在では、専業の面打師は20人に満たないともいわれる。一つの木材から多様な人物の多様な表情を彫り出していく面打ちの作業の魅力と難しさを、若き面打師・新井達矢氏に聞いた。

過去の作品を写して彫る「模倣の芸術」

新井達矢(あらい たつや)プロフィール

1982年東京都生まれ。
面打師・長澤氏春氏との出会いをきっかけに、6歳から本格的に面作りを始める。
22歳で新作能面公募展に出品した「万媚(まんび)」が高い評価を受け、文部科学大臣賞奨励賞を史上最年少で受賞。
東京造形大学出身。

「生なき粗木を削り、男、女、天人、夜叉、羅刹、ありとあらゆる善悪邪正のたましいを打ち込む面作師。五体にみなぎる精力が、両の腕におのずから湊(あつ)まる時、わがたましいは流るるごとく彼に通いて、はじめて面も作られまする」

『半七捕物帳』などの作者として知られる岡本綺堂は、戯曲『修善寺物語』で主人公の面打師・夜叉王にそう語らせた。命を持たない一片の材木に魂を吹き込んで様々な人物の相貌(そうぼう)を表現するのが面作りをする者の仕事である。そのためには、自己の全身の力を材木に通じさせなければならない。そうして面は初めて形を現す──。そんな意味のせりふだ。

若い女性を表現した「小面(こおもて)」。能面の中では、最もよく知られたものの一つだ
若い女性を表現した「小面(こおもて)」。能面の中では、最もよく知られたものの一つだ

「性別、年齢、性格、身分の違いを彫り分けなければならないし、同じ尉(じょう)でも、それが神の化身か、武将の霊か、植物の精かによってすべて彫り方は異なります。微妙な差によって様々な人物を表現していくところに、日本的な繊細さを感じます」

これは、現代の若き面打師、新井達矢氏の言葉である。新井氏は、6歳から面打ちを始め、大学卒業後に本格的に専業の面打師としての活動を始めた。面を彫り始めることをもって面打ちのキャリアのスタートとするならば、32歳である現在、すでに面打ち歴26年の大ベテランということになる。これまで、能面、狂言面、舞楽面、神楽面など、手がけてきた面は百数十点に及ぶ。

岡本綺堂は、面作りに生涯を捧げる夜叉王を一人の芸術家として描いてみせたが、能面は純粋な芸術作品ではない。あえて芸術と呼ぶなら、それは模倣の芸術であり、「写し」の芸術である。

新井達矢氏
新井達矢氏

能が確立した室町時代から能が盛んに演じられた江戸時代初期にかけて作られた能面に自分の作品をいかに近づけるか。それが面打師に求められる構えであり、面が舞台上で演目の世界の一部に自然になることがすなわち面打ちにおける成功となる。

「面打ちは作り手の自己表現ではありません。能面はあくまでも能の演じ手のものだからです」と新井氏は話す。しかし、期せずしてにじむ「自分らしさ」もある。

「出てきてしまうんですよね、自分の癖や傾向のようなものが。私が過去の面を写し切れていないからなのかもしれません。あるいは、そうして否応なしに出てくるものを個性と呼ぶのかもしれません」

【左】面の素材となる檜(ひのき)。 面作りに最も適しているのは木曽檜だという。ブロック一つで1万円から高いものだと数万円はする。【中】手本を細かに採寸しながら型紙を作る。これが新しい面の「設計図」となる。【右】面の外形を整えていく際は、鑿(のみ)と槌(つち)を使って大胆に木材を彫っていく。「面打ちには勢いも必要」と新井氏は言う
【左】面の素材となる檜(ひのき)。 面作りに最も適しているのは木曽檜だという。ブロック一つで1万円から高いものだと数万円はする。【中】手本を細かに採寸しながら型紙を作る。これが新しい面の「設計図」となる。【右】面の外形を整えていく際は、鑿(のみ)と槌(つち)を使って大胆に木材を彫っていく。「面打ちには勢いも必要」と新井氏は言う
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