【平成の世にサムライを探して】第130回 深中メッキ工業株式会社 代表取締役 深田稔 「「世界一給料が高い町工場」をめざして──「技術」と「人」の力であらゆる困難を乗り越える」|システム構築やトータルソリューションをお探しなら、日立ソリューションズをご利用ください。

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【平成の世にサムライを探して】第130回 深中メッキ工業株式会社 代表取締役 深田稔 「「世界一給料が高い町工場」をめざして──「技術」と「人」の力であらゆる困難を乗り越える」

「給料が上がり続ける町工場」として注目を集め、安倍晋三首相も視察に訪れた東京・墨田区の深中メッキ工業。世界シェア100%を誇るメッキ製品もあるという同社の強みは、他社がまねできない技術力と人材力にある。社員9人の「小さくて大きな会社」を率いる深田稔社長が、ものづくりに懸ける強い信念を語る。

「簡単なこと」の組み合わせが模倣困難な技術となる

深田稔 (ふかだ みのる)プロフィール

1983年、獨協大学経済学部経済学科卒業後、明治製菓に入社しトップ営業となる。
91年、父が社長を務める深中メッキ工業株式会社に入社。
父の死後に2代目社長となった母とともに経営不振に陥っていた会社を立て直す。
2009年に3代目社長に就任。
早稲田大学招聘研究員、札幌学院大学客員教授も務める。

※黒字=深田稔 氏

──  事業の内容を教えていただけますか。

お客様からお預かりした様々な部品にメッキ加工を施す、というのが基本的な仕事です。うちが主に手がけているのは「機能メッキ」と呼ばれる分野で、例えば、電気が通りにくい部品に電気が通りやすいメッキを塗ることで通電可能にするとか、ハンダが付きにくい金属にハンダが付きやすいメッキを塗るといった加工作業です。

──  どのような分野の部品が多いのですか。

非常に多岐にわたります。自動車のオーディオ、安全装置、ヒューズ、エンジンパーツ、テレビなどの家電の基盤の部品。それから医療機器や、最近では航空機の部品も手がけています。
機能メッキはあらゆる分野の機械に使われていますから、今メッキがなくなったら、江戸時代の生活に戻ってしまいます。

深田稔氏
深田稔氏

──  私たちの生活の様々な領域をメッキが支えているわけですね。とりわけ御社にしかない技術はどのようなものなのでしょうか。

例えば、温泉の硫黄に耐えられるメッキ加工技術があります。通常、メッキの厚さは仕様によって決まっているのですが、その仕様の範囲内で、耐蝕性の高いメッキを、最大限に薄く、かつ平均的に塗ることが可能です。あるいは、普通はハンダが付かないニッケルメッキにハンダを付けるといった技術もあります。
もっとも、それらの技術の細かな要素を同業者が知れば、「そんな簡単なことだったのか」と思うはずです。しかし、その「簡単なこと」をいくつも組み合わせることで、他社にはまねのできない技術になるわけです。ニッケルメッキになぜハンダが付くのか、大企業が緻密に分析してもまず分からないと思います。

──  なぜ、そのような技術を実現できるのですか。

そこに特化しているからです。私がこの会社に入った頃は、メッキ加工を全自動でやっていました。しかし、機械でできる仕事は、いずれ海外に持っていかれてしまいます。そうなったら、人件費の安い国に価格競争で勝てるはずがありません。
そこで私は、機械作業に人の手作業を加える「半自動」の仕組みを導入しました。日本人の器用な手作業は、なかなか他の国の人にはまねができません。さらにそこに様々な独自の工夫を加えることで、技術力を高めていくことに注力したわけです

──  以前は製菓メーカーに勤めていたそうですね。メッキの技術はどのようにして身につけたのですか

大学は文系だったので、当初はメッキのことは何も分かりませんでした。ですから、働きながら中学校の理科や数学から勉強し直しました。それから、通信教育でメッキの講座を受講しながら、現場で分からなかった疑問を質問したりもしていましたね。それでも分からないことがあると、メッキの学科がある大学や、薬品メーカーの研究室に教えを請いにいっていました。そんな生活が5年くらいは続いたでしょうか。

提案型ビジネスへの転換と徹底的なコストダウン

──  経営的に最も厳しかったのはいつ頃ですか。

私が会社に入った頃ですね。ちょうどバブルが弾けた時期で、売り上げがどんどん下がっていただけでなく、当時社長だった父が保証人になっていた会社がつぶれて、年商の2倍くらいの借金を背負うことになりました。前の会社にいた頃にボーナスを1円も使わずに貯めていたのですが、それも社員の給料に充てたらあっという間になくなってしまい、しかも自分の給料もないという時期が何カ月も続きました。仕事をしている時に力が入らず、「何かパワーが出ないんだよな」と妻に言ったら、「この半年間、食事にお肉を入れていないから」と言われたことをよく覚えています。肉も買えないほど困窮していたんですよ(笑)。

ブルーシートの金具をメッキ加工中に行われる水洗作業
ブルーシートの金具をメッキ加工中に行われる水洗作業

──  その危機をどうやって乗り越えたのですか。

売り上げを伸ばすのは難しいから、利益率を高めよう。そのためには、こちらからお客様に提案していかなければならない──。そう考えました。
加工業というのは靴磨きと一緒で、靴を出してもらわなければ磨けないわけです。あくまで受動的なビジネスなので、生産計画もほとんど立てられません。しかし、とことん追い詰められる中で、こちらから提案できる余地があることに気づきました。
例えば、「金を0.3ミクロンの厚さで塗る」というオーダーがあるとします。しかし金の厚さを薄くすれば、それだけコストを下げられます。そこで、「金の厚さを0.1ミクロンにして、下に銀メッキを塗りましょう」という提案をする。そうすれば、お客様は喜んでくださいます。あるいは、鉛に含まれる環境負荷物質を下げる提案をします。「他社さんはよくても100ppm、場合によっては1000ppmのところを、うちは30ppm以下でやれます」とアピールするわけです。
そんなことを繰り返す中で、「深中に任せよう」というお客様が増えてきました。次第に発注部門ではなく設計部門から直接相談が来るようになったりして、価格を高めに設定することも可能になりました。

──  「提案」によって差別化を図ったわけですね。

ええ。電子部品業界は先細りでしたから、そこで生き残っていくには、新しい市場をつくるか、自社の価値を高めるか、そのどちらかしかありません。新しい市場をつくるのは難しいことですから、提案型営業によって自社の価値を高めるしかなかったということです。

液体が通る穴の大きさ、数、操作性などに改良を加えた特製ケースに部品を入れてメッキ加工をする。作業工程のあらゆるところに独自の工夫をこらして品質を向上させるのが「深中流」だ
液体が通る穴の大きさ、数、操作性などに改良を加えた特製ケースに部品を入れてメッキ加工をする。作業工程のあらゆるところに独自の工夫をこらして品質を向上させるのが「深中流」だ

──  リーマンショックの時期も大変だったのではないですか。

大変でしたね。2008年12月まではすごく忙しかったのですが、1月になったら売り上げが通常の3割まで減ってしまいました。これはやばいと思いました。こういう時は、新しい仕事を取りにいくのにはリスクがあります。その取引先が倒産してしまうことがあり得るからです。やるべきことはコストを下げることですが、普段から無駄を徹底的に省いていましたから、もう省くところがないんですよ。
しかし、工夫の余地はありました。地下水をくみ上げて成分分析をすると、メッキに使っても問題ないことが分かったので、水道水を地下水に切り替えて水道代を浮かせました。次に、排水を中和する薬品を分析して、自分たちでその薬品を作ることにしました。これでひと月に数百万円のコストが削減できました。
そんな工夫を積み上げていって、1年が過ぎたら、売り上げは前年比3割減だったにもかかわらず、粗利は1割以上増えていました。利益率がさらに上がって、むしろ会社の体質が良くなったわけです。

──  社員教育にも力を入れているとのことですが、何から始めたのですか。

以前は高校生のアルバイトを何人も雇っていたのですが、とにかく大変でした。電話の応対はできない、挨拶もまともにできない。社内で喧嘩はするし、社用車のボンネットの上を走り回ってへこませるしで、中には入社して3時間で辞めた者もいましたね(笑)。こちらとしては、彼らに社員になってもらうことを期待していましたし、定時制高校に通っている人の学費を出してあげたりもしていましたが、そのままでまともな社員になれるはずがない。そこで、外に出しても恥ずかしくないような所作を徹底的に教えました。それが、社内教育の始まりでした。

──  成果はあったのですか。

苦労はしましたが、次第にみんな常識を身につけてくれて、技術習得にも熱心になりました。そうなると会社の生産性も上がるし、お客様からの印象も良くなります。中にはお客様から、「うちに来ないか」とヘッドハンティングに遭う社員もいましたね。

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