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【平成の世にサムライを探して】第136回 琴職人 金子政弘「演じ手が求める音を追求するあくなき情熱」

「もの」としての形や意匠ばかりでなく、それが発する「音」をいかに作り上げるか──。そこに楽器作りの難しさと醍醐味がある。会津桐の丸太を製材して琴にまで仕上げる日本唯一の工房、かねこ琴三絃楽器店。その2代目当主である金子政弘氏に、素材や製法へのこだわりと、理想の「音」を生み出す方法について聞いた。

琴作りは作り手と演奏者による共同作業

金子政弘(かねこ・まさひろ)プロフィール

かねこ琴三絃楽器店の2代目当主。
高校時代から父・誠次氏の琴作りを手伝い、2011年に誠次氏が亡くなった後に正式に2代目となる。
学生時代はコンピューターのプログラミングなどを学んだ。

ものが「完成する」とはどういうことだろうか。材料を厳選し、丹念に加工を施し、形や色や風合いや手触りに工夫を重ねた末に、一つの「もの」が姿を成す。しかし、そこでその「もの」が完成するわけでは必ずしもない。道具には使い手が、楽器には演じ手が、芸術作品には鑑賞者がいる。道具は生活や仕事の中で日々使用されることで、楽器は演奏者が一音一音に魂を込めて奏でることで、芸術作品はそれを見る人の深い感動によって、それぞれ確かな命を吹き込まれることになる。

福島・会津産の桐を使って琴作りを続ける金子政弘氏は、「琴作りは作り手と演奏者の共同作業」だと言う。

金子政弘氏の画像
金子政弘氏

「琴は一つひとつがカスタマイズされた楽器です。それを使う演奏者と対話を重ねながら、演奏者が必要としている音を実現しなければなりません」

ある演奏者は「低くて柔らかい音」が必要であると言う。またある演奏者は「カンカンした音」が欲しいと言う。言葉をもってしてはすべてを言い尽くすことのできないその微妙なニュアンスをくみ取り、演じ手が求める以上のものを実現する。それこそが、職人の技と努力なのだ、と。

「期待通りでは駄目なんです。期待を上回らないと。求められているものを超えないと。そうしなければ、お客さんに本当に喜んでもらえる楽器にはなりません。演奏者がまるで自分の演奏技術が突然上達したように感じられる。そんな楽器を作って、演奏者を驚かせたいという思いで、いつも琴を作っています」

素材の見極めが楽器の質を決める

工房での作業の様子の画像
工房での作業の様子

東京・大田区にある「かねこ琴三絃楽器店」の2代目、父・誠次氏は、桐の優良な産地として知られる会津・柳津町(やないづまち)の材木商の家に生まれた。桐材屋として琴職人に材木を売る立場から転じ、勇敢にも30代になって東京に出て、自ら琴作りの世界に身を投じた。

その父の琴作りを子どもの頃から間近で見て、やや長じてからは実際に作業を手伝うようになった政弘氏は、5年前に亡くなった父の跡を自然に継ぐ形で2代目となった。

「父から、あれをやっておけ、これをやっておけと言われてこなしているうちに、琴作りの技術が身に付いてしまいました。琴作りを始めてから、ということでいうと、職人歴はもう40年になります」

琴作りは、柳津の集材所で桐の丸太を見極めるところからすべてが始まる。柳津産の桐の用途は、大きく箪笥(たんす)と琴とに分けられる。木目が均一な材木は桐箪笥に、木目が部分的にぎゅっと詰まった材木は琴に使用される。

「皮をむいた桐の丸太を転がしながら、全体をじっくり見て、傷や節などの場所を確認します。樹木は、日が当たらない北側の方が木目が詰まるんですよ。傷や節がなくて木目が詰まっているところが多い材木を選んで、琴作りの材料にします」

乾燥させた桐は「甲作り」で琴の形に整えられていく。の画像
乾燥させた桐は「甲作り」で琴の形に整えられていく。

材料を選んだ後に行うのが「墨掛け」で、これは最終的に琴となるブロックを丸太から切り出す「当たり」をつける作業である。この当たりをいかに正確に行うかが、楽器の質を大きく左右することとなる。十分に成長した桐であれば、通常、1本の丸太から4面から5面の琴が取れる。

この墨掛けの線に沿って丸太をカットする作業が「挽き割り」。それを琴専用の製材機で外形を整えた後、3年から5年にわたって自然な状態で乾燥させ、材木の「あく」を抜く。

数年を経て十分に乾燥した桐は、「甲作り」という作業によって、琴の形にさらに整えられていく。「甲」とは琴の本体のことで、「甲羅」と呼ばれることもある。甲作りは、琴作りのプロセス全体において極めて重要な作業である。これによって、琴の音の最終的な傾向がおおむね決まるからだ。

甲作りの作業は以下の手順で進められる。まず、甲の外側を削って表面をきれいにし、次に内側をアーチ状に削っていく。桐材の性質は一本一本異なり、また材木のどの部分から切り出したかにで硬さや材質の密度が異なる。従って、削り方もそれぞれに異なることになる。甲を外側と内側からコンコンとたたきながら、その響きに応じて材木を削り、厚さを調整していく。以前は手斧(ちょうな)で、現在は電動カンナなどを使って行われ、最終的には手鉋での微細な削りの作業で、甲の響き方が方向付けられる。この時点で、琴の個性がほぼ決定するわけだ。

「この作業は完全に勘です。甲をたたいた時の感じで、どんな音がする楽器になるかがだいたい分かります。この勘は経験によってしか身に付きません。次代に伝えていくのが一番難しいところですね」

こうして厚さを調整した甲に、琴の底部となる裏板をはめ、甲の表面全体を焼きごてで焼き、さらに石こうの粉と米糠とで段階的に磨いて艶を出す。ここまでが、柳津現地の工房での作業となる。

東京の工房での作業は、主にパーツ作りと装飾である。琴を支える「猫足」、装飾用の「柏葉」、弦のブリッジとなる「角」などの部品を作り、甲に取り付けていく。紅木(こうき)、象牙、黒檀(こくたん)、十八金、クジラの骨、漆などの素材を使って行う、精緻を極める作業だ。

琴を装飾するパーツ「柏葉」(左)、竜舌(右)の画像
琴を装飾するパーツ「柏葉」(左)、竜舌(右)

「琴の形や寸法は、型に沿って作るのでほぼ一定です。一方、装飾は作り手がある程度のオリジナリティーを発揮できる部分です。楽器作りの職人は、演奏者が楽器を弾いている姿を想像し、楽器が舞台の上で美しく映えることを考えながら作らなければなりません。場合によっては、演奏者自身も気づかないところまでこだわって装飾を作り込むようにしています」

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