第三十三回 山下純司 -前編-古来より伝わる鵜匠の技と精神 大切なことは、すべて鵜が教えてくれた|システム構築やトータルソリューションをお探しなら、日立ソリューションズをご利...

平成の世にサムライを探して 

山下純司 -前編-古来より伝わる鵜匠の技と精神 大切なことは、すべて鵜が教えてくれた

1300年も前から脈々と受け継がれる伝統漁法「長良川鵜飼」。日本の風物詩として、時代の覇者たちにより「天下の奇観」「世界一景」と讃えられたのち、明治時代より伝承すべき文化として宮内庁式部職を賜り、今や世界に誇る日本の芸術として広く知られるようになりました。しかし、その精神は、かつて生活の糧を得るための漁として、日本全国で一般的に行われていたころと何ら変わりがありません。鵜とともに、川とともに生き、自然から与えられるものを必要なだけ享受し、感謝しながら生きていく。鵜匠として47年間鵜とともに生きてきた山下純司さんの独自の世界観には、自然に抱かれて生きる人の強さ、豊かさが感じられました。

鵜をなぶることで気がついた、日本古来の「自然との語らい」

山下純司(やましたじゅんじ)プロフィール
1934年、岐阜市生まれ。宮内庁式部職鵜匠。江戸時代より十数代続く鵜匠の家から、祖父の時代に分家し、山下さんで三代目。幼少時より鵜に親しみ、鵜匠としての自覚を持ちつつも、愛知学院大学商学部を卒業後に川魚の養殖場を設立。夏期は鵜匠、冬期は養殖場の仕事という二足のわらじで多忙な日々を過ごす。27歳の時、父親であり鵜匠二代目の順一さんが倒れ、やむなく養殖場を手放して後目を継ぐ。1971年に正式に宮内庁式部職鵜匠となり、2002年より長良川の鵜匠代表を務める。1976年、自宅の一部を改装し、鵜匠の装束・鵜舟、用具などの展示物や、24羽の鵜の飼育の様子を見学できる鵜飼資料園として開放している。

漆黒の闇の中、赤々と燃える篝火を川面に映しながら、鵜舟が滑るように近づく。鵜匠と鵜が一体となって繰り広げられた、古(いにしえ)の時代から続く伝統漁は、幽玄の世界を垣間見せながら、静かにその終わりの時を迎えた。その余韻がさめやらぬうち、大にぎわいの見物客の歓声や視線をものともせず、もくもくと鵜を篭にさす1人の鵜匠。その人こそ、今回のインタビューに登場いただいた山下純司さんだった。

「おもしろうてやがて悲しき鵜舟かな」

俳聖・松尾芭蕉が呼んだ句のような寂寥感を味わえるほど、残念ながら21世紀の夜は静謐ではない。幻のように妖しく輝く篝火や、滑らかに泳ぐ美しい鵜の姿を、息をひそめて見つめたその後で、見物客は我に返ったかのように屋形船から身を乗り出して手を打ち鳴らし、口々に鵜匠に向かって賛辞の言葉を投げかける。鵜匠たちも笑みをたたえて手を振り、船縁に鵜を並べて見せてくれるなど、フレンドリーなパフォーマンスで応えている。

そんな中、山下さんは見物客にほとんど目もくれず、仏頂面で片付けを終えると無造作に篝火を水面に浸す。しゅつと音がして水煙が上がり、篝火はその日の役目を終えた。辺りに闇が訪れ、祭りが終わったような寂しさが漂う。

「こんなに早く落としちゃうの、純司さんだけだよ。もっと、お客さんにサービスしてくれるといいのに」と屋形船の船頭さんがぼやく。ふと、昼間にインタビューした際の偏屈親父ぶりが思い出され、船頭さんには悪いが密かに笑いが止まらない。
「山下さーん、先ほどはどうもー。すばらしかったですー」とオーバーアクション気味に手を振って声をかけると、「ああ」という感じで目を細め小さく手を上げて応えてくれた。

昼間、山下さんを訪ねたのは、ご自身が経営する「鵜の庵 鵜」。自宅を改造して鵜飼資料園として開放している施設の一室だった。中庭に入ると、プールが併設された鵜小屋と東屋がある。時折あがる「ガアー」という鵜の声がBGMだ。一見無骨そうな風貌だが、カメラマンの「鵜匠の衣装に」というリクエストに快く席を立つ。毎日舟に乗っているせいか、浅黒く日に焼けた肌と俊敏な身のこなしが若々しい。

鵜飼は、1300年前から行われてきた、漁師が鵜を遣い魚を捕える伝統的な漁法である。長良川の鵜飼は世襲によって受け継がれ、山下さんは現在6人を残すのみとなった鵜匠の1人であり、その長でもある。正式な職名を宮内庁式部職鵜匠といい、長良川の鵜飼用具一式122点は、国の重要有形民俗文化財に、長良川鵜飼漁法は岐阜市重要無形民俗文化財に指定されている。そうした歴史ある伝統文化の継承者ともなるともの静かで無口な人が多いのではないか。勝手にそんなイメージを持っていた。

まもなく頭にターバンのような風折烏帽子をかぶり、渋い紺色の漁布を纏って山下さんが登場した。物珍しそうに見ていると、「篝火から頭や身体を守るようになってるんやね。これにワラの腰巻き巻いて、足半っちゅう半分の大きさほどのわらじをはくんよ」と装束の説明をしてくれた。「足半はな、舟の中で水垢や魚の脂に滑らないようになっているわけよ。でも、真夏ならええけど、5月の中旬っていったら寒くてね」 へええ、と感心する一同。それがきっかけとなって、山下さんは堰を切ったように話し出した。

「この前、福岡に行って話をしたら、えらい喜んでもらえてね。舞い上がってマイクも使わんと必死にしゃべったのがよかったみたいね。やっぱ、訴えようと思ったら直接しゃべらんといかんよ。上から押さえつけるみたいな話し方をするって、注意されることもあるけど、話し方なんてどうでもええ。気持ちがこもっているかどうか、伝えたいと思っているかが大切やね

ぶっきらぼうな話し方だが、温かく言葉に力がある。しかし意外な饒舌ぶりにあっけにとられていると、「ごめんねえ、たぶん、話し方が乱暴なのは漁師だからだと思うよ。そもそも岐阜の言葉はきついし簡潔。標準語はまどろっこしくてねえ」と笑う。確かに舟の上で丁寧な言葉遣いは似合わない。お互いがお互いを分かっているという前提で、できるだけ短い言葉で指示を出し、意思の疎通を図る必要がある。

「鵜にも話しかけるよ、毎日毎日ね。でも、こいつらのすごいところは、言葉でなくても伝わることやね。ぴゃーとかぱーとかでわかるんだから」
山下さんの1日は鵜とともにある。朝日が昇るとともに鵜たちが騒ぎ出し、勝手に篭から飛び出してくるものもいる。そうした鵜たちをつかまえて、挨拶代わりに1羽1羽のどをやさしくなでさするのが朝の習慣だ。

山下氏岐阜弁で『なぶる』てゆうて、なでるとか触るとかいう意味やね。そうするとね、鵜の体調とか気分とかが分かるわけよ。なぶろうとすると、『わしゃいやだ』と逃げ出すのもいれば、うっとりいくらでもなぶられていようとするのもいる」

なぶるだけではない、鵜の顔を観察し、口から吐き出される息の匂いを嗅ぎ、糞の色や声などを観察する。体調のよい鵜は生き生きとして顔色がよく、息もフレッシュで、糞の色が「黄色でいい色」なのだそうだ。体調の悪い鵜はその逆。顔色? フレッシュ? いい色? 鵜をまじまじと見ながら首を傾げていると、山下さんはぷっと吹き出して「毎日付き合ってこそわかるってもんだよ。あんたに分かるわけねえだろ」と笑う。

そんな山下さんも、鵜匠になってはじめのうちは、父親から毎日課せられた「なぶる」の意味がわからなかったという。それでもしぶしぶ、鵜をなぶり、鵜小屋の掃除をし、それを毎日毎日続ける中で、いつのまにか気持ちと気持ちが触れ合う感覚が得られるようになっていた。

「そのうちに、たとえば二日酔いの朝とか、『おめえ、飲み過ぎただろ』といわんばかりに鵜が指摘してくるのが分かるようになってね。観察しているつもりが、鵜に観察されているんだよ。でも、これも毎日触れ合っているからこそ、分かるわけ

同じ水を飲み、同じ空気を吸う。そうして生きている生き物であれば、触れ合うことで理解できることがもっとあるはずだと山下さんは指摘する。

人間ももっとね、親も子どもを抱きしめたり、触ったりすべきだよ。先生だってそう。友達同士だって、夫婦だってそうだよ。触れ合うってことはとっても大事。それでお互いを知るし、仲良くなれる。でも、それが分かってから、電車やバスに乗るのが怖くなって、よう乗らんのよ。だって、近くにきれいなお姉さんがいたら、仲良くなりたくて触ってしまいそうになるからね(笑)」

真剣な話に引き込まれてうなずきながら聞いていると、途端に冗談をいってはずす。山下さんなりの照れ隠しなのだろう。

「こんな話なんて、豚を飼う人、米や野菜を作る人、海で魚を獲る人、第一次産業の人なら誰だって感じていることだと思うよ。みんな生き物と触れ合って、その気持ちよさや大切さを知ってるはず。人間だって生き物の1つで、生き物っていうのは自然の一部で、それと触れ合うことは自然と触れ合うことだよ。鵜匠はそれを鵜から教えてもらった。でも、昔の日本人なら誰だって知ってたことだよ

この続きは、日立ソリューションズの会員様向け情報提供サイト『PREMIUM SERVICE WEB(プレミアムサービスウェブ)』をご覧ください。
プレミアムサービスのご案内はこちら >>
PREMIUM SERVICE WEBをご覧いただくにはプレミアムサービスへの会員登録が必要です。
※本サービスは法人のお客様向けに提供しております。法人に所属していないお客様は入会をお断りさせていただく場合がございます。何卒、ご了承下さいますようお願い申し上げます。
プロフィールや記事など、掲載内容は取材時点のものです。現在と内容が異なる場合があります。
見出し、記事、写真の無断転載を禁じます。All Rights Reserved, Copyright (C) 2010, Hitachi Solutions,Ltd.
ページTOP
前回の特集を読む 次回の特集を読む

本記事の内容は公開当時のものです。本コラムに関するご意見等ございましたら、日立ソリューションズまでお問い合わせください。

日立ソリューションズのご紹介
日立ソリューションズは、お客様の業務ライフサイクルにわたり、豊富なソリューションを全体最適の視点で組み合わせ、ワンストップで提供する「ハイブリッドインテグレーション」を実現します。