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平成の世にサムライを探して 

【第九十三回】独立時計師 浅岡肇「独立時計師が語るトゥールビヨンの魅力 極小の空間に“宇宙の調和”を作り出す」

重力の影響による時間のずれを最小限に抑える機構「トゥールビヨン」。本場スイスでもわずかな職人しか作れないといわれている。その特別な機構を搭載した腕時計を日本で作っているのが、浅岡肇氏である。企業に所属せず、時計製作のすべての工程をたった一人で手掛ける「独立時計師」の浅岡氏が、機械式腕時計作りの真髄を語る。

思い描いた通りの時計が作りたかった

浅岡肇(あさおかはじめ)プロフィール

Hajime Asaoka

1965年神奈川県生まれ。
90年、東京藝術大学美術学部デザイン科卒業。
92年に浅岡肇デザイン事務所を設立。腕時計をデザインしたことをきっかけに、トゥールビヨン機構を搭載した腕時計作りを独力で始める。

トゥールビヨンの動画を掲載中
http://www.hajimedesign.com/

※黒字=浅岡氏

── 設計から部品製作まで自ら手掛ける独立時計師というスタイルを選んだのはなぜですか。

もともとはメーカーからデザインを請け負う形で仕事をしていました。そのやり方だと、コストや市場性、いろいろな製作上の都合という要素が当然ながら発生するので、なかなか自分が思い描いた通りの時計にはならないんです。作りたい時計のイメージはすでに明確にある。でも人に頼むと出来上がってこない。最高のものしか作りたくない。それなら、全部自分で作ればいいじゃないかと。それが独立時計師になった動機です。

── 独立時計師は、国内・海外も含めて現在何人くらいいるのですか。

本当の意味での独立時計師は、世界に数人しかいません。内部の機械を購入し、それにアレンジを加えて、オリジナルの外装と文字盤を作って一つの製品にする、といったやり方で作っている人はそこそこいますが、ムーブメントを含め、ほとんどすべてを一人で作っている人はごく少数です。

── それにしても、時計を一人で一から作ろうという発想はなかなか出てこないように思いますが。

浅岡氏の制作の様子僕がやっているのは広い意味での金属加工です。母親の実家が鉄工所だったので、小さな頃から金属を加工するのを目にしていましたし、工作も得意で誰にも負けない自信がありました。時計を作るに当たっては、ジョージ・ダニエル氏が書いた『WATCHMAKING』という本を参考にしました。

── 独学で始められたのですか。

もともと工作が得意ですから、自分の中に「工作の引き出し」がいくつもあるわけです。時計も作れそうだという感覚はありました。ただ、自分の工作技術の範囲内だけで作るタイプの時計師には絶対になりたくなかった。だから、文字盤の印刷といった僕の引き出しになかった技術も徹底的に調べました。ありとあらゆる既成のインキを試しましたが、全然駄目。今はインキを自分で調合するところからやっています。

トゥールビヨンの美しさに魅了されて

── 浅岡さんが取り組まれているトゥールビヨンとはどのようなものなのですか。

機械式時計は内部で「テンプ」という回転する振り子が規則的に往復運動することで時を刻みます。時計の時刻のずれは、様々な理由でこのテンプの動きが狂うことで生じます。一つの理由に重力の影響があります。例えば、時計を机の上に置いた状態では時計の向きは一定ですが、いざ装着すれば、様々な方向に置かれることになります。その際、その向きに応じて、テンプに対する重力の影響が変わってくるので、回転がわずかに狂います。これを姿勢差と言いますが、並の時計なら日に20秒から30秒、非常に優れた時計でも10秒程度はずれます。

「HAJIME ASAOKA」のトゥールビヨン。時計内の装置がトゥールビヨン(写真左)。装置自体が1分間に1周回転するしかし、トゥールビヨンなら、そのずれを3秒以内に収めることも可能です。テンプを含めた時計の精度を司る装置一式が、時計の中で回っているんです。常に回転しているので、時計の姿勢が変わっても、部品にかかる重力が平均化されるわけです。非常に精密な機構ですね。

── なぜ、ほかの機構ではなくトゥールビヨンに取り組もうと思ったのですか。

日本製のトゥールビヨンがなかった。それが一つの理由です。もう一つの理由は、この仕組み自体の素晴らしさに魅了されたからです。トゥールビヨンは機構として大変美しく、大げさに言えば「宇宙の調和」を表現した仕組みであると僕は思っています。時計の内部で回転しているトゥールビヨンは、それはまるで、太陽の周りを自転しながら回る惑星の動きをそのまま精緻に機械化したようなものです。

現代の私たちが当たり前に使っている「時間」がどうやって決められたかご存じですか? ご承知の通り、地球が一回転する時間が一日です。でもどうやって測ったのでしょうか? それは、ある任意に決めた恒星が、天体望遠鏡の視野の中で通過した瞬間を起点に、また次に通過するまでを測ったのです。天体望遠鏡の視野角は非常に狭いので、星の動きでさえ、一瞬で通過します。

したがって、この方法で非常に正確な24時間が測れるのです。つまり時計学と天文学は表裏一体で、とりわけトゥールビヨンは、星の運動をそのまま時計の中に組み込んだような仕組みと言ってもいい。その動き自体を大変美しいと僕は感じます。最初に自分で作ったトゥールビヨンが回り始めたのを見た時は、ほとんど放心状態になってしまったほどです。

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