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平成の世にサムライを探して 

【第九十九回】ノンフィクション作家 中村安希「自分でつかんだ『手応え』を書き続ける」

2年間で47カ国を旅し、その過程を書いた『インパラの朝』でノンフィクション作家としてデビューした中村安希氏。現在も旅を続けながら文章を書き続ける彼女を動かす情熱に迫る。

「焦り」が旅の原動力だった

中村安希(なかむらあき)プロフィール
1979年京都府生まれ。
2003年カリフォルニア大学アーバイン校卒業。
日米での3年間の社会人生活を経て、684日に及ぶ世界旅行を敢行する。
その過程を書いた『インパラの朝』で第7回開高健ノンフィクション賞を受賞。
ほかに『Beフラット』『食べる。』の著書がある。

初めに背中を押したのは、「焦り」だった。1990年代の半ば、高校の研修旅行でマレーシアを訪ねた。初めての海外だった。グローバリゼーションが声高に唱えられ始めた頃である。日本で耳にしていたその言葉が、マレーシアに行って初めて現実のものとしてまざまざと感じられた。そのときのショックを中村安希氏はこう振り返る。

「マレーシアは多民族国家で、高校生が2カ国語、3カ国語を話すのは当たり前でした。国全体が、日本や欧米に追いついて追い越すことを目標に掲げて、活気に満ち溢れていました。片や日本の私たちは、英語もほとんど話せず、ただ、たじたじとなっているだけでした」

彼女が見たのは、早晩日本にも訪れると言われていたグローバル社会の姿だった。日本社会がどんどん国際化していった時、自分はそれについていけるのか。国際人として生きていく基礎など何もできていないのに──。そんな焦燥感に追い立てられた。その焦りが、その後長く続く旅の、最初の動力となった。

マイノリティーの立場に自分を突き落とす

高校卒業後にカリフォルニアの大学に進学したのは、映画の勉強をしたいと考えたからだ。実際に勉強したのは、映画ではなく舞台芸術だったが、ハリウッドに近い西海岸の大学で4年間を過ごした。海外で彼女に訪れた大きな変化は、「日本をホームと考えなくなったこと」だった。中村氏は話す。

中村氏「最初の2年間はいつも、家族や日本の友達のことを思い出したり、日本は今何時だろうと考えたりしていました。でも、3年目くらいから、自分がいるところがホームだと思えるようになったんです。じたばたしても仕方がない。今いる場所に足をつけて生きようって」

大学卒業後にサンフランシスコのショッピングセンターで1年間働いて、日本に帰国した。しかし、日本で働いていても、再び外に出たいという思いは絶えなかった。彼女の中でうごめいていたのは、アメリカで体験した9・11後の感覚、そして日本社会への違和感だった。

「あのテロ事件があった後、アメリカは明らかにそれまでとは異なる状態になりました。メディアの報道もエスカレートしていて、アメリカでは私はマイノリティーでしたから、その状態がよく分かりました。2004年に日本に帰ってからは、日本もこれまでとは違うと感じました。ちょうど、イラクで誘拐された若者がバッシングに遭っていた頃です。弱い人たちや若い人たちをみんなが一丸になって攻撃しているように見えました。でも、しばらく日本で暮らしているうちに、だんだんそんな風潮にも慣れてしまったんです。自分もマジョリティーになっている。ある時そう感じて、愕然としました」

海外を旅することは、中村氏にとって、自分をもう一度マイノリティーに突き落とす作業だった。自分を不安定なところに置いて、弱い人の気持ちを常に理解できるようでありたい。マジョリティーの中で安穏と生きていたのでは、感覚が麻痺してしまう。ほかの国のこともよく知らないのに、すべてを知っているという錯覚に陥ってしまう──。そんな気持ちが彼女を捉えて離さなかった。

中村氏の著書『インパラの朝』と『食べる。』初めは1年半くらいの旅にしようと考えていたが、最終的には684日に及ぶ長旅となった。旅の途中からブログに書き続けた文章は、後に一冊の本となり、高い評価を得た。開高健ノンフィクション賞を受賞した『インパラの朝』である。

その本を読むと、中村氏にとっての旅とはすなわち「人との出会い」であることがよく分かる。行く先々で多くの人々と知り合い、心のこもった言葉を交わし、家に招かれ、宿と食事を提供され、寂しい別れを経験して、また次の場所を目指す。それが彼女の旅のスタイルだ。

「最初は、文化遺産を追い掛けていたのですが、つまらなくてすぐにやめてしまいました。文化遺産といっても、要するに観光地でただの石だったり水だったり。それよりずっと楽しかったのが、いろいろな人たちとの交流でした。ブログに文章を書くにしても、観光地のことを書くより、個人的に出会った人のことを書いた方が絶対に面白いと思いました」

現地の人と出会うコツは二つあると中村氏は言う。

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