「時間軸」というのは、なにかと重要な座標軸です。「時間」は過去から未来へと一方的に流れます。逆転はありません。ですから、時間的な幅のある出来事について説明するときは、できるだけ時間の前後関係を崩さないように説明したほうがよいのです。
たとえば、同じ出来事について書いた以下の2つの文を比べてみてください。
- (A)台風14号が上陸した。農作物が被害を受けた。
- (B)農作物が被害を受けた。台風14号の上陸によるものだった。
Aは古い情報から新しい情報へという順序で書かれているので問題ありませんが、Bはそれが逆になっています。このように順序が逆だと、読み手を混乱させることがあります。といっても、もちろん「時間的な順序」を無条件に守らなければいけないということではありません。人間は、ある現象に対して「これが起きるのはどうしてだろう?」と原因を探る考え方をすることがあります。原因を探ろうとすると、当然、時間軸を過去へとさかのぼります。そんなケースでは、「新しい情報から古い情報へ」という順序のほうが自然に読めることもあります。そういった例もあるので絶対的な基準にはなりませんが、ひとつの目安として「時間軸の流れに逆らわないこと」を意識したほうがよいでしょう。
実はこの「時間」というものを、多くの方がとても大雑把に捉えています。「一連の出来事の厳密な順序関係」を考える習慣がないため順序関係の狂いに気がつかず、その結果、読者にはわかりにくい説明文を書いてしまうことが多いのです。そんな実例を見てみましょう。
以下の例文は、個人情報の漏洩事故が起きた場合への対策が必要だ、ということを説明している文書の一部です。この文の太字部分(「そのため事故発生時に」から、最後まで)にどんな「順序」があるかを極力細分化して考えてみてください。
個人情報の漏洩事故に対する備えはすべての企業に必要である。「個人情報の漏洩があった、もしくはその疑いがある」ことが判明した直後の数時間~数日間の対応ですべては決まる。その対応がよければ会社は信用を維持できるし、悪ければ信用失墜を招く。戦争にも似た一種の非常時なのだから、非常時らしく通常の業務体制を一時停止し、危機管理体制で動かなければならない。
そのため事故発生時に危機管理体制を発動する手続きを決めておき、訓練もしなければならない。
また、危機管理体制で重要なのは、発生時に原因究明できるように証拠保全措置を取っておくことである。
たとえば、「事故発生時」と「手続きを決めておく」のは同時ではありませんね。ということは、どちらかが先でどちらかが後です。「事故発生時」のほうには「時」という文字が入っているので、それがあるタイミングを表すことがわかりやすいのですが、「手続きを決めておく」のほうには「時」の文字がないのでそれがわかりにくく、一見気がつきません。このような表現は、書くときも読むときも意識せずに素通りしてしまいがちです。
しかし、「手続きを決めておく」のは当然、「事故発生」の前でなければなりません。1つの文の中だけでもこうした異なる「時」があるものなのです。こうした観点で、太字部分の「時」を分解してみてください。