講演レポート:今、企業に必要なこととは ~事業継続への危機管理、成長へのインテリジェンス~|Prowise Business Forum in Nagoya 第10回|株式会社日立ソリューションズ

株式会社 日立ソリューションズ

Prowise Business Forum in NAGOYA 第10回開催記念イベント 今、企業に必要なこととは ~事業継続への危機管理、成長へのインテリジェンス~2014.8.1(Fri) 14:00~17:00

講演レポート

 Prowise Business Forum in NAGOYAは2007年7月より開催し第10回を迎えました。今回は、企業が存続し続けるために必要なことについて改めて考える場として開催しました。
 企業が存続するためには、事業を継続し、成長し続けなければなりません。しかし、企業はその過程で幾多もの試練に直面します。リーダーは試練を乗り越えるために脅威に対する能力、そして正しい意思決定をするため、情報(事実)をインテリジェンス(判断、行動材料)に昇華させる能力が求められるのではないでしょうか。

 本フォーラムでは、基調講演1に、危機管理の第一人者である防災システム研究所 所長 山村武彦氏をお招きし、個人・組織がとるべき危機管理対策についてご講演いただきました。また、基調講演2では、統計的な見地から客観的に野球を分析する手法「セイバーメトリクス」の専門家である岡田友輔氏よりご講演いただき、データ分析が加速しているプロ野球を例に、情報をインテリジェンスに昇華させる道筋を探っていただきました。
 そして日立ソリューションズからは、インシデント発生時に機能する、重要業務継続に必要な仕組み作りについてご提案いたしました。

セミナー風景

開催概要

日時 2014年8月1日(金) 14:00~17:00 (13:30 受付開始)
会場 〒460-0008 愛知県名古屋市中区栄1-3-3
ヒルトン名古屋 4階(竹の間)
主催 株式会社日立ソリューションズ

【基調講演 1】
これからの防災・危機管理 ~個人の備えと組織の対応~

所長 山村 武彦 氏

防災システム研究所
所長 山村 武彦 氏

講師プロフィール

学生時代に遭遇した新潟地震(1964)でのボランティア活動を契機に防災アドバイザーを志す。地震、津波、噴火、土砂災害、テロ、事故など200か所以上の災害現地調査実施。阪神・淡路大震災時は、2時間後に現地入りし救助・調査活動にあたる。企業・自治体の危機管理アドバイス、講演執筆等を通じ、防災対策、安全・安心まちづくり等の意識啓発に活躍中。

 危機管理の専門家である山村氏は、「ビジネスの危機管理はチャンスとリスクが表裏一体で常に何らかの判断を毎日行っている。リスクがあるからビジネスであり、それをどうやってコントロールするかが危機管理になる。防災と危機管理は毎日を生きるスタンスである」と語る。

BCPはフレームワークのみならず社員のフットワークの視点でも防災を考える

 東日本大震災から3年4ヶ月が過ぎたが、人類初の広域複合大災害を日本は経験したことになる。2004年12月26日に発生したスマトラ島沖地震はマグニチュード9.1ではあるが、被害のほとんどが津波によるものだった。東日本大震災は地震被害、津波被害、原発事故、電力不安、風評被害などさまざまな災害が同時多発的に広域で発生した、世界でも類を見ないケースとなった。
「震災前の陸前高田の松原の中にはチリ地震津波(4m)の高さを示した柱が立っており、『津波時は市民体育館にすぐ非難』と書かれていた。近くの市民は繰り返し避難訓練を行っていたが、東日本大震災では15.8mの津波が押し寄せ、市民体育館に逃げ込んだ80名の中で生き残ったのはわずか3名のみで多くの人命が失われた。過去の事例や国・役所が発表した被害想定では対応できなかったことを物語っている」と村山氏はいう。

 岩手県宮古市の田老地区には高さ10mの堤防が備えられ、街は人々が逃げやすいよう碁盤の目のように道が走っていた。東日本大震災の時には堤防を越えて津波が押し寄せたことから、マスコミは堤防の無意味さを非難した。しかし、田老は昔から幾度も津波被害にあっており、明治時代には15mクラスの津波が押し寄せ、犠牲者数1859名を出し、昭和になっても10m級の津波が発生して911名が命を失った。東日本大震災では18mの津波で180名の犠牲者が出たが、間違いなく犠牲者数は減少しており、堤防は人々が逃げるための時間を稼ぐためにその役割を果たしたという。
「どんなに高い堤防を築いてもそれを乗り越える津波は必ず発生する。堤防というハードだけに頼らずに一人ひとりの"心の堤防"をどう高くするかが重要だ。企業においても同様で、BCP(事業継続計画)というフレームワークばかり作るのではなく、社員のフットワークの視点で防災を考えなければならない」

 山村氏は、津波・防災の3箇条を挙げる。1、津波・洪水逃げるが勝ち。2、要援護者は車で、健常者は駆け足で。3、遠くより高く、避難後は戻らない。こうした心構えを市民や社員に伝え"心の堤防"を高くしておく必要があるという。

 また、今後の防災・危機管理のポイントについて、仮説や想定リスクにとらわれず、普遍性のある最大公約数の災害リスクに備えるべきであり、BCPは理念や目標ではなく結果の事象対策を優先すべきであると説く。
「普遍性のある最大公約数の災害リスクとは、いつでも・どこでも震度6強の地震や、外海なら15m、内海なら10mの津波、長周期・短周期地震動による建物の損壊、液状化による地盤沈下などをいう。こうした災害の発生とともに、複合災害としては強毒インフルエンザの蔓延も想定し、共有備蓄品としてマスクなどを用意する」

安全行動マニュアルには揺れたら直ちに安全ゾーンに退避することを決めておく

 さらに、流通在庫備蓄の重要性も指摘する。自治体が地元の流通業者に対して、ガソリンやブルーシート、土嚢袋などの災害時に必要な物資を一部買い上げ、非常時に優先的に利用できるようにする。

 加えて、安全行動マニュアルは認知心理バイアスを勘案することが大事だという。「異常事態を認知できない『正常性バイアス』や、過去の経験が避難を遅らせる『経験の逆機能』、他人と同じ行動を取ることが安全だと考えてしまう『同調性バイアス』、事故や災害のエキスパートといわれる安全管理者たちが犯す『エキスパートエラー』などが起こり得るため、定期的に自問自省することが有効」と山村氏。

 また、適切な訓練を経ていないと突然の災害時には「凍り付き症候群」が発生して避難が遅れる可能性や、机の下で身を隠す行動も閉じ込められる原因になる。そのため、安全行動マニュアルには、揺れたら直ちに安全ゾーン(転倒・落下物の少ない、閉じ込められない場所)に退避することを決めておく必要があると山村氏は強調する。
「自宅や会社で安全ソーンを決めてほしい。地震時の退避行動は場所によって異なる。避難誘導もできない。自分で安全ゾーンに逃げるために場所や状況ごとの行動選択訓練を今のうちに行っておいてほしい。優先すべきは『結果の重大性』。取り返しのつかない命や時間を先に考えるマニュアルをぜひ作ってほしい」

 緊急地震速報がある度に、安全行動マニュアルに沿った避難訓練を行う。100回空振りでも101回目も避難訓練を行う。そうすれば凍り付き症候群にはならないという。

 東日本大震災では、地震火災が6割、津波火災4割といわれ、約20万本のLPガスボンベが津波で流され大規模な火災につながった。そのため、ガス放出防止弁付きのガスボンベを普及させることも重要だという。

 また、ある企業では車の燃料タンクが2分の1になったら給油するルールにして、社有車の半数をガス仕様にした。これがフットワークだと山村氏はいう。フレームワークや理念よりも、具体的な施策を進めていくことが大事だと繰り返し述べる。
「火災が発生したら、人はパニックで何もできないことが多い。その際は『火事だ!』と叫ぶことで、火災が発生した事実と、消防への通報、初期消火、救助、避難が必要だということを周囲に知らせることが大切。危機管理は、クレームもトラブルも事故も事件も、全て『知らせる』ことから始まるということを、徹底して訓練させるべき」

結果の重大性、想定災害、タイムラインを組み合わせた実践的な防災訓練

 山村氏は、マニュアルで決めるより原則で決めることをルール化している企業もあるという。悪いニュースを先に知らせる「凶報優先の原則」や、小事に囚われずルールの本流を見失わない「呑舟の魚の原則」、ない物を数えず今あるものを有効に利活用する「現物活用の原則」、かけた情けは水に流して受けた恩は石に刻む「恩刻懸流の原則」などの風土をどうやって作るかがリーダーや管理職の役割だという。
「こうした原則(principle)も重要だが、未来から現在の物事を考える(back casting)的な思考も重要だ」

 その例として、山村氏は、気象庁が8月7日から稼働開始した「高解像度降水ナウキャスト」を挙げる。短時間の降水予報を250mメッシュで表示し、スマホや携帯電話などからでも確認することができるため、今後はゲリラ豪雨やスーパー台風のリスクに備えるのに有効となる。
「こうした、自然災害の発生時点から逆算して備えるタイムラインを活用することで、自治体のみならず企業単位でも、社員の帰宅指示に利用するなど、リスクを軽減するための判断材料として活用できるようになり、仮に正常化バイアスに捕らわれていても避難のスイッチが入る。BCPの安全行動マニュアルにぜひ加えてほしい」

 結果の重大性、想定災害、タイムラインなどを組み合わせた実践的な防災訓練を山村氏は推奨する。

 阪神・淡路大震災の時は、自治体の要請でスーパーやコンビニが無理を押して開店したため、結果的に略奪や暴動が少なかった。一方、東日本大震災の際は津波で壊滅的被害が発生したため流通業の多くが機能不全になり、ATM荒らしなどが発生してしまった。店を開けることも治安上重要なファクターとなるという。
「従来は自助・共助・公助といわれたが、これからは近助も必要。東京都では『防災隣組』が発足して既に143団体に増えた。企業が連携して帰宅困難者を助ける活動も行われている。被害者にならず傍観者にもならない。災害発生時に企業がどのような行動を行ったかが問われる時代だからこそ、今後は災害時CSR計画もBCPに加えるべきだと思う」

 そして最後に、山村氏は、「自社のサプライチェーンだけでBCPを構成するのではなく、これからは企業と行政、地域が連携する『コミュニティ・コンティニュイティ・プラン』(CCP)の考え方に切替えるべきだろう」と提案し、基調講演1を終了した。

【日立ソリューションズセッション】
組織の対応としてのIT-BCPの勘所 ~クラウドを活用した仕組み作り~

部長代理 上原 勝也

株式会社日立ソリューションズ
ハイブリッドインテグレーションセンタ マーケティング部
部長代理 上原 勝也

 日立ソリューションズセッションでは、クラウドを利用する業務重要度に応じたDRの仕組み作りについて説明した。

重要業務に関連するITリソースごとに復旧レベルを決めるDR

 冒頭、上原はDR(Disaster Recovery)の定義について改めて確認する。DRの目的はシステム停止による利益の損失を最小限に抑えることであり、自然災害などで被害を受けたシステムを復旧・修復するための備えとなる機器やシステム、体制のことをいう。

 また、システムを災害から守るためだけではなく、各種の障害は必ず起こるものと想定し、いかに効率良く、かつ迅速に復旧するかという点から災害対策を捉える。DRは、災害やテロ、システム障害、セキュリティインシデント、情報漏えい、データ改ざんなどを対象としている。
「DRの導入検討企業の89%が年商100億円以上の企業であり、50%以上の企業が10TB以上のデータの遠隔バックアップを検討するなど、DR対象データは年々規模が拡大している。また、最近は業務システム単体でのDRだけではなく、帳票やメールなど複数のサブシステムをまとめてDRする『統合DR』の要件が増加しており、DR対象とするITシステムの絞り込みがポイントとなっている」

 その絞り込みのポイントについて上原は、災害発生時後に継続すべき業務を明確にした上で、関連するリソース(ITサービス、システム、スキル、拠点など)とその関連性を見える化することだとしている。これにより、実効性を考慮したDRの仕組みが出来ると説明する。
「一般的なDRは、基幹システムや周辺システム、部門システムといったシステム重要度に応じたレベル分けを行っている。これに対して業務重要度に応じたDRは、業務の重要度に応じて、DR対策のレベルを決めていく。これをリソースベースBCPとも呼んでいる」

 また上原は、BCPを考慮したITを構築する際に必要な要素が3つあるという。1つはバックアップの頻度を表すRPO(Recovery Point Objective:目標復旧時点)。2つ目は復旧するまでに許容される時間のPTO(Recovery Time Objective:目標復旧時間)。3つ目は重要業務の絞り込みに該当するRLO(Recovery Level Objective:目標復旧レベル)だ。

 日立ソリューションズグループの仙台拠点も2011年3月11日の東日本大震災で被災し、交通、通信のマヒと停電によって業務が停止した。その後、3月13日に電力供給が復活し、2重化していた基幹システムのみが復旧したものの、文書保管システムやメールシステムなどの周辺システムがDR対応していなかったため、3月22日の業務暫定再開まで10日近く時間がかかってしまったという。
「周辺システムも2重化しないと一連の業務が遂行できないことを経験し、業務重要度に応じたDRへの見直しのきっかけとなった」

プライベートクラウドとパブリッククラウドを活用した最新DRの考え方

 次に、DRの仕組み作りについて説明した。DR構築における検討要素として、データのバックアップ、データセンター、運用の3つがあり、検討結果に応じて、プライベートクラウドかパブリッククラウドを活用することが有効だという。その2つのクラウドの使い分けとして、パブリッククラウドは専用システム構成が不要な定型業務やサイジングが困難な新規ビジネス向けで、プライベートクラウドは独自業務や顧客管理などのデータを社外に持ち出せない重要業務向きとなる。

 日立ソリューションズでは両方のクラウドに向けたDRソリューションを提供している。主に重要業務に適用するプライベートクラウド向けには「FalconStor CDP」。2台構成とすることで統合DRを実現し、高頻度のバックアップ、短時間復旧、災害訓練実施などを実現する。

 一方、定型業務に適用するパブリッククラウド向けには、地震が少なく電力が安定している沖縄のデータセンターを利用するBCP向けバックアップソリューション「ちゅらうど」がある。また容量の多いファイルサーバ向けとして、「活文 Hybrid Storage Manager」を活用し、利用頻度の低いファイルを通常時からAmazonのクラウドストレージに自動的に移動しておくことで、DR対象データの絞り込みを実現する。

 上原は、「DRはシステムの重要度ではなく、業務の重要度に応じたITシステムのくくり方でDRのレベルを決めるべきであり、重要業務のDRはプライベートクラウドを活用してレベルを高くする一方で、それ以外の関連するITリソースに関してはレベルを少々落としてパブリッククラウドで活用する、使い分けの考え方をおすすめする」と語る。

【基調講演 2】
データが切りひらくビジネスの未来 ~野球界のデータ活用~

代表 岡田 友輔 氏

合同会社 DELTA
代表 岡田 友輔 氏

講師プロフィール

成蹊大学法学部を経て2002年から日本テレビ放送網株式会社でプロ野球中継を担当。データ配信会社を経て、2011年にスポーツデータの分析を手掛ける合同会社DELTAを設立。統計的な見地から選手の評価や戦略を分析する「セイバーメトリクス」を専門に活動。著書として『プロ野球を統計学と客観分析で考えるセイバーメトリクス・リポート1~3』(水曜社)『日本ハムに学ぶ勝てる組織作りの教科書』(講談社)『セイバーメトリクス・マガジン1~2』(デルタクリエイティブ)などがある。

 基調講演2では、スポーツデータの分析を手掛ける合同会社DELTAの岡田氏が、インプット(ビッグデータ化)とアウトプット(セイバーメトリクス)の技術革新が野球の球団経営に大きな影響を与えている現状を紹介した。

セイバーメトリクスの目的は野球に勝つことの構造的な理解にある

 「セイバーメトリクスの登場によってメジャーリーグのデータ分析状況は大きく変わった。現在では、MLBのほぼ全ての30球団がセイバーメトリクスを何らかの形で取り入れている」と岡田氏は語る。

 映画『マネーボール』でもセイバーメトリクスが重要な役割を果たしている。映画の中でブラット・ピッドが演じるオークランドアスレチックスのGMのビリー・ビーン氏は、これまでのベースボールの慣習に疑問を持ち、新たな評価基準を設けて弱小球団だったアスレチックスを強豪球団に変革していく。その評価の基準として参考にしたのがセイバーメトリクスだ。

 セイバーメトリクスは、ボストンレッドソックスのシニア・アドバイザーのビル・ジェイムズ氏が考案した、野球の構造をデータから突き詰める分析手法だ。1977年に自ら出版したデータ分析集『Baseball Abstruct』が注目され、データから野球の構造を考察していく取り組みを「SABRmetrics」(セイバーメトリクス)として命名し、体系化に成功した。

 映画のハイライトシーンで、インディアンズのピーター・ブランドが語る「球団は金で"選手"ではなく、"勝利"を買うべきだ」というセリフは、セイバーメトリクスによって勝利に貢献するとはどんな意味があるのか理解できたことに他ならない。まさに、勝つための設計図を示すものだという。
「セイバーメトリクスの目的は、野球に勝つことの構造的な理解にある。勝敗は得点と失点の関係により成立するため、得点・失点・勝率に強い相関があることをジェイムズ氏は発見した」と説明する岡田氏。その最大の発見が、得点のn乗と失点のn乗の合計を得点のn乗で割るとチームの勝率が導き出されるというモデルだ。

 チームが勝利を得るためには得失点差を大きくすることが基本で、得点・失点に関係が強い指標で選手を評価すれば、その選手が勝利にどれだけ貢献したかが正確に分かるという。

 ジェイムズ氏は、A:出塁要素(安打+四球)×B:進塁要素(塁打数)をC:機会数(打数+四球)で割ると、おおよそチームの得点を割り出せるという得点モデルのRC(Runs Created)を(A×B)/Cで説明。岡田氏は、「出塁と進塁をさせる力の2つの要素が得点を上げる原動力というジェイムズ氏の理論は、日本のプロ野球にも当てはまり、チームの得点の約9割をこのモデルで説明できる」と話す。

MLBはデータ分析による意思決定を最も取り入れている業界

 また、ディフェンス面でも同様にモデル化が進んでおり、失点を防ぐ働きとは投手、守備のどちらからももたらされ、その能力が信頼できるかを把握することが重要となる。投手の責任とは奪三振、フォアボール、デットボール、ホームランと区分される。それ以外のインプレーでゴロ、ライナー、フライによるアウトかヒットかの分類については守備の要因が強い。
「このような過程を踏まえ、セイバーメトリクスは攻撃や投球の構造を少しずつ明らかにしてきた歴史がある。現在のMLBは他のどの業界よりもデータ分析による意思決定が取り入れられている」

 特に、オーナーやゼネラルマネジャーはこうした分析手法を非常に好み、アナリストを大量に球団が抱え、新たな知見を探ろうと躍起になっているという。

 現在のセイバーメトリクスは主に3つの分野で活用されていると岡田氏は指摘する。1つ目は勝利の構造を解明する分析。勝利を得るために必要な要素を分析し、それに適した評価をする。2つ目は選手の価値評価(リスク・経営管理)。選手の正確な価値を把握することで、リスクや経営管理に役立て、選手の得失点とチームの勝利を評価する。3つ目は選手の将来予測(予測モデル化)。それを長期契約の判断材料にしている。選手は投資対象としては非常にリスキーであり、優れた予測モデルを作って安定した成績を残すことは球団経営にとって欠かすことのできないものになっている。

データ分析の結果から分からない部分の把握も成功する上での欠かせない視点

 以上を踏まえ、岡田氏はニューヨークヤンキースの田中将大投手の契約を分析した。7年で155億円の契約を結び、全球団に対してトレード拒否権を持っている田中選手は、さらに一定の期間で成績を残した場合は4年後にFAになる権利も有する。ここまで球団が彼に投資した理由は、田中投手がヤンキースの勝利に貢献できる選手であることをフロントが判断したからに他ならないという。

 現在は肘を痛めて休養中だが、それまでは12勝4敗、129.1イニング、防御率2.51とリーグ内でも屈指の成績だった。しかし、球団が最も重視するのはWAR(Wins Above Replacement)という控え選手に対する勝利貢献を示す指標であり、田中選手は3.2勝もチームに勝利を上乗せしたと評価されている。

 現在のMLBでは、1WARあたり550万ドル(5億5000万円)ほど見込んでいることから、田中投手は現段階で17億円前後も貢献している計算になる。ヤンキースのフロントは選手価値や将来予測として1年ごとに4~5WARの貢献を見込んでいるという。
「セイバーメトリクスは、これまでのデータからベースボールの構造について新たな解釈をしてきた。既存の見方から踏み出したアウトプットの技術革新と言い換えられるだろう」

 岡田氏はそう述べる一方で、セイバーメトリクスでは説明できない部分も多く、既存のデータから更なる構造理解を進めるのは困難な面もあるという。そのため、何がどれだけ分からないのかを把握することはデータ構造を理解するのと同じくらい重要だという。
「データ分析手法を取り入れると、すぐに結論や結果を求めたくなるものだが、データ分析の結果から分からない部分を把握することは成功する上で欠かせない視点であることも覚えていてほしい」

数理的分析が可能な人材マネジメントとデータ分析を最大化する組織作りが重要

 長年研究を重ねたジェイムズ氏も「野球で理解したいと思うことの1%も理解できていない」と語るなど、その分析の余地や新しい解釈も頭打ちの状態になっていた。しかし、野球の構造理解を強力に推し進める技術革新が登場する。それが「トラッキングによるデータ取得」であり、野球界のビッグデータ化につながるものだと岡田氏はいう。
「近年はデータ分析手法に加え、データを取得する上で精度を大幅に向上させるためのカメラ技術とコンピュータによるトラッキング技術などが発展し、球場で起こる全ての事象をデータ化する動きが進んでいる」

 球場内に複数の固定カメラを配置し、そこから投手や打者、守備の客観的データを自動的に取得するようになっており、大量のトラッキングデータからこれまで分からなかったブラックボックスを解析しはじめている。従来は人が球種を判断してデータ化していたものを、今では球速や球の変化、回転数などを自動的に計測しプログラムが球種を評価することで、主観を極力排除できるようになった。
「選手のパフォーマンスを視覚化することで、選手やコーチの理解や情報共有も進み、技術の向上に役立てられている」という岡田氏は、野球を物理的な現象の連続として捉えることで、極めて理に叶った測定基準になると述べる。
「このトラッキングデータは、例えば捕手のキャッチング能力による失点抑止や守備力のデータ化などにより、客観的な評価が困難だった能力の解明にも威力を発揮している。言い換えれば、選手のみならずグラウンドで活動する審判や監督、コーチが最新技術によって容赦の無い評価に曝される厳しい時代になったといえる」

 メジャーリーグ機構ではこのトラッキング技術を率先して導入し、データを全球団に配布。球団が独自で取得するデータを合わせると、膨大な量のデータが蓄積される。セイバーメトリクスによってビッグデータ化の足枷が外れ、新たな領域に踏み込めるようになったことで、新しい知見をいかに得ていくかという戦いがスタートしているという。それに先んじた球団が今アドバンテージを得ている状況が生まれている。

 岡田氏は「数理的な分析が理解できる人材によるマネジメントと、データ分析のアドバンテージを最大化する組織作りを行っている球団が、最も進んだチーム編成を行っている。それは一般の企業でも参考になる」と話す。

 続いて、中日ドラゴンズの現状についてセイバーメトリクスの視点で分析した。前半戦を終了した段階で、セ・リーグ各球団が大きな戦力差がない状況だが、中日ドラゴンズは先発とセンターラインの頑張り次第では上位進出を十分狙える位置にあるという。

 最後に、岡田氏は「皆様の多くがビッグデータ分析でいろいろ思案されていると思うが、今回の内容がその取り組みを推進するためのヒントやきっかけになることを望みます」と語り、基調講演2のまとめとした。

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