講演レポート:第83回 データ分析なくして企業戦略はなし!|Prowise Business Forum in Tokyo|システム構築やトータルソリューションをお探しなら、日立ソリューションズをご利用ください。

株式会社 日立ソリューションズ

Prowise Business Forum in Tokyo 第83回

データ分析なくして企業戦略はなし!
~明日からビジネスプロセスに取り入れるデータサイエンス~

 データ分析を「何のために、どのように活用すればいいのか」という声を多く耳にします。活用事例を分析すると、会社、組織、個人により実施していることは千差万別ですが、共通点があります。それは、勝機を見出せる部分に自社のリソースを集中させる、「選択と集中」のための統計指標を作成していることです。どのお客様が商品を購入するのか、お客様が真に求めていることは何か、ヒトの勘や経験ではなくデータから客観的に捉え、リソースの「選択と集中」を行うことが企業戦略の実行を加速させるドライバーになるのではないでしょうか。その裏付けとして、プロ野球の世界ではこの動きが加速度的に発達しており、評価基準の構造が大きく変化しています。
本フォーラムでは、プロ野球からデータ分析の考え方を学び、明日からビジネスプロセスに取り入れられるデータサイエンス手法をご提案いたしました。

開催概要

日時 2015年7月23日(木) 14:00~17:30 (13:30 受付開始)
会場 東京都港区港南2-18-1
JR品川イーストビル20F セミナーホール
主催 株式会社日立ソリューションズ

【日立ソリューションズセッション1】
過去のデータから将来を予測
~予測分析で営業効率を高めるリードスコアリングサービス~

株式会社日立ソリューションズ
ビジネス・アプリケーション本部
ビッグデータ・ソリューション部
グループマネージャ 松村 幸治

 このセッションでは、有用なパターンや判断基準を抽出・発見するロジックを活用し、過去のデータから購入する確立の高い顧客を予測して営業効率を高める予測分析サービス「機械学習リードスコアリングサービス」と、その活用事例について紹介した。

見込み顧客数を絞り込み営業活動を効率化するリードスコアリング

 最初に、日立ソリューションズが独自に行ったアンケート調査が紹介された。その1つ、「どのような情報を利用して購買意欲の高い見込み顧客を抽出しているか」という質問に対しては、「過去の購買履歴」(77.2%)という回答が最も多く、次いで「調査会社等の企業情報データベース」(42.6%)となり、それ以下は「展示会での接触履歴」(28.4%)、「名刺情報」(27.9%)、「自社サイトの訪問履歴」(27.9%)がほぼ同列に並ぶ結果となった。
 また、同じ調査で、「購買意欲の高い見込み顧客へのアプローチ方法」という問いついては、「直接訪問」(87.3%)が圧倒的に多く、「内勤によるテレアポ」(27.4%)、「メール(マガジン)」(21.3%)、「ダイレクトメール」(21.3%)と続いた。

 これらの結果について松村は、「新規顧客開拓は進んでいないことが見て取れる」とし、「成約の確率を上げていくことが営業効率のアップには必ず必要になる」と述べる。
 そこで松村はリードスコアリングという概念を紹介した。リードスコアリングとは、近い将来、商品を購入する確率の高い顧客を予測する手法のことで、リード(顧客の候補)の意欲を数値化することでマーケティングと営業活動の高効率化を促進するという。

「従来型の営業アプローチでは、多数の顧客と総当たり的に商談を重ねていくことで最終的に受注をめざすが、長い時間と多大な労力をかけても一般的に受注確率は全リードに対して20%程度だといわれている。一方、リードスコアリングを利用した場合は、事前に顧客をスコアリング、つまりふるいにかけることでアタックする見込み顧客数を大幅に絞り込み、その後の営業活動を効率化することで受注までの時間が短縮し、受注率も大幅に向上する」と松村は説明する。

 これを、アタックする顧客数に対して受注した件数を比較したゲインチャートで考えてみると、従来型のランダムな総当たりでは500社と商談して50社受注できるとした場合、100社と商談した時点では10社程度の受注率だが、リードスコアリングを利用すると受注確率の高い顧客にアタックすることで100社と商談した時点で受注件数は35社まで伸びる。従来型の営業方法では35社受注するまでに350社と商談しなければならない計算だ。
 松村は、「消費者の購買行動プロセスにAIDMA(※1)の法則やAISAS(※2)の法則にあるように、顧客が購入に至るまでの行動プロセスがパターン化されているのならば、反対に、顧客の行動から購入の確度が分かるのではないかと仮説を立てたのがリードスコアリングの基本的な考え」と述べる。

※1 AIDMA:Attention(注目)→ Interest(興味)→ Desire(欲求)→ Memory(記憶)→ Action(購入)の頭文字を列挙したもので、1920年代に米国のサミュエル・ローランド・ホール氏によって提唱された広告宣伝に対する消費者の購買行動プロセスのひとつ。

※2 AISAS:消費者の心理や気持ちを説明するAIDMAモデルに対し、近年のインターネットによる影響を反映し、実際の消費行動を説明した消費者の購買行動プロセスとして、Attention(注目)→Interest(興味)→ Search(検索)→ Action(購入) → Share(共有)と一部を変更。AISASは提唱者である株式会社電通の登録商標となっている。

早く・安く・簡単に購買確率の高い顧客を見つけることができるサービス

 では、どのようにリードをスコアリングしていくのか。ベースとなる情報は主に2つある。1つは顧客の行動情報。過去の購買履歴や店舗訪問履歴、Webの閲覧履歴など。もう1つは顧客の属性情報(デモグラ)。年収/売上高、家族構成/授業員数、住所など。これらを基に購入確度をスコアリングしていくという。
 しかし、昔からリードスコアリングの概念は存在していたものの、あまり活用されてこなかったのが実情だと松村は打ち明ける。「リードスコアリングを実施するには、マーケティング・オートメーション(MA)などスコアリングするためのツールが不可欠で、人手でのスコアリングルールの設定も行わなければならず、分析やチューニングなど継続的なメンテナンスが必要だったことも活用を阻害していた要因だと思われる」

 使いこなすには、マーケターが自社のビジネスとスコアリングの考え方に精通し、自らが自社のスコアリングエキスパートとなるか、もしくは外部コンサルティング会社へ業務委託するしか活用の方法はなかったという。

 日立ソリューションズでは、これをどうにか解決する方法はないかと模索し、「機械学習リードスコアリングサービス」を開発した。
 機械学習リードスコアリングサービスは、Webアクセスログなど既存の実績情報に基づき自ら分析・予測し、自動的にスコアリング計算を実施する機械学習ロジックによって自動スコアリングを実現。早く・安く・簡単に購買確率の高い顧客を見つけることができるサービスとなっている。企業側で蓄積している行動情報、属性情報、購入実績の各データベースを日立ソリューションズの機械学習リードスコアリングサービスに提供することで、自動的に解析・予測し、IPアドレス/企業名に対応したスコアリングリストを作成。これによって効率的な営業活動に活用することが可能になる。

 特徴としては3つある。1つ目は機械学習によるスコアリングの自動化。機械学習とは実績データから有用なパターンや判断基準を抽出・発見する技術のことで、従来の人手によるスコアリングルールの設定やチューニングを不要とし、実績データを機械学習処理にて解析することにより、スコアリングルールの設定、チューニングを自動化して安定的なスコアリングが維持できる。
 2つ目は社内の既存データを活用する簡単スタートの実現。Webサイトの閲覧履歴には潜在顧客のニーズや興味・関心の度合いを示すヒントが多く含まれている。既存のWebアクセス履歴(Webログ)と購買実績データさえあればすぐにスコアリングの実施が可能だ。
 3つ目は未知の顧客の発見。IPアドレスからWebサイトにアクセスのあった企業を抽出することにより、これまで見逃していたリードを発見するとともに新しいリードの創出にも貢献する。

「営業部門は潜在顧客の発掘や受注効率の大幅な改善、既存顧客の潜在ニーズの発掘などが可能になり、マーケティング部門にとっては機械学習による運用負担の軽減、効果的マーケティングオペレーションの実施、イベント・セミナー企画への有用な情報の提供など多くのメリットが実現できる」と松村は強調する。

見込み顧客の抽出とDMのヒット率を向上させ約3倍の契約件数を獲得

 次に、松村はいくつかの導入事例を紹介した。日立ソリューションズでは自社で機械学習リードスコアリングサービスを活用している。情報漏洩防止ソリューション「秘文」の拡販において、スコアリングリストを活用して営業活動を実施したところ、スコア上位20%の顧客で全体受注の57%を獲得したという。
 また、あるメーカーではMAを導入していたが、取得したデータを十分に活用できず付属のリードスコアリングの機能を使いこなせていなかった。機械学習リードスコアリングサービスを活用することで、スコアリングによる営業活動が実現し、リードスコアを契機としたMA活用が拡大。スコア上位20%の顧客で全体受注の47%を獲得した。
 さらに、ある金融機関は、DWH(データウェアハウス)に蓄積している顧客の行動・属性データを活用して金融商品(投資信託)のセールス効率向上をめざした。機械学習リードスコアリングサービスで見込み顧客の抽出とダイレクトメールのヒット率を向上させた結果、従来ルールでの顧客の選定と比較して約3倍の契約件数を獲得したという。

 機械学習リードスコアリングサービスは、事前準備(データの確認・加工、スコアリングモデルの作成、過去データによるスコアリング、結果検証/実施判断)が通常1~2週間以内に完了し、その後は週次/月次/四半期ごとなど自由な頻度でスコアリングを実行していくことが可能だ。

最後に松村は、「これに関連する見える化や各種相関分析、マイニングなど、データ利活用をコンサルからシステム開発、運用支援までトータルにサポートするサービスも用意している。ぜひお気軽にお問い合わせいただきたい」と語り、セッションを終了した。

【日立ソリューションズセッション2】
お客様の真意は「行動」に現れる
~行動分析データの威力~

株式会社日立ソリューションズ
ビジネス・アプリケーション本部
ビッグデータ・ソリューション部
主任技師 日高 恵司

 このセッションでは、買い物客の動きをデータ化し、魅力的な店舗や商品開発に成功した最新事例から行動分析データの活用方法を紹介した。

カメラで来店顧客の属性を把握しレーザーで顧客の回遊状態を可視化

 冒頭、日高は、魚釣りの例え話から始めた。「釣りは長年、勘と経験と度胸に頼ってきたことでその釣果には個人差が大きかった。しかし、魚群探知機の発明によって魚種や回遊パターン、潮目を定量的に知ることができるようになり、初心者には予想もしなかった釣果が、経験者にとっては予想していなかった漁場であることが分かるようになった」
 日高は、その例えを小売店舗に置き換えて、「お客様の店舗内での行動が計測できれば、真の客層、機会ロス、商品の良し悪し、販促施策を企画できる事象を発見することができる」と断言する。
 具体的には、店舗への来店者数・来店率、来店した顧客の性別・年齢別の時間的推移、特定時間帯の年齢・性別別による買い物ルートと購入品、サービス利用前後の顧客の動線傾向と購入品、買わずに退店した顧客の動線傾向などが分かれば、適正在庫やスタッフの配置・提案、陳列・品揃えなど戦略的な店舗作りや製品開発に活用できるという。

「来店から購入までの消費行動プロセスを可視化することをパイプラインマネジメントという」と日高は語る。これまでは、POSデータによる購入品目や併売品目の分析はもちろん、ポイントカードデータなどを組み合わせることで来店頻度や優良顧客の洗い出しは盛んに行われてきたが、さらに売上を伸ばすためには来店顧客を増やす、購入品目を増やす、購入金額を増やすことが必要とされた。しかし、買わなかった顧客の行動は知ることができなかった。どうしても知りたければリサーチ会社に依頼し、顧客一人ひとりに密着して購買行動を観察する方法しかなかったのである。

 それを可能にしたのが、日立ソリューションズの「店舗動線分析ソリューション」だ。それは大きく2つのシステムで構成されている。1つは「来店者属性測定システム」。WebカメラもしくはIPカメラで撮影したデータから、店舗(フロア、通路)にはどのような人(デモグラ情報)が、いつ、何人くらい来ているのかを可視化する。映像中の人の顔から属性(年齢・性別)を推定し時間軸とともに集計。調査箇所や時間帯での比較、傾向の把握を行う。またプライバシーにも配慮し、映像記録の機能は持たず瞬時にデータ化することで、利用者の個人情報は保持しない設計になっている。
 もう1つは「人流分析システム」。店舗を何人が、どのように動いて、どこに・どれだけ滞留したのかを見える化するシステム。人体に無害な測域レーザーセンサーを店舗内に複数配置し、データをリアルタイムに座標化することで人物の動きを詳細に可視化。POSデータのタイムスタンプと人流分析システムのイベントを突合し、顧客が来店からどのような商品棚を回遊し、最終的には何を購入したのかが分析できる。また、店舗動線分析ソリューションと連携させることも可能で、属性と滞在時間も把握できるようになる。

カード利用履歴による顧客属性と実際に来店している顧客とに大きなギャップ

 ここで日高は、来店者属性分析の事例を紹介した。ある店舗の事例では、ある日のハウスカードを提示した20歳代の顧客は10%未満だったが、来店者属性測定システムのカメラで測定してみると実際には30%以上も来店しており、カード利用履歴による顧客属性と実際に来店している顧客とに大きなギャップがあったという。その店舗では30~50歳代をターゲットとした品揃えをしていたが、実際には20~30歳代の顧客が多く、商品にアンマッチが発生していたことになる。

 次に、行動可視化事例を紹介した。ある食品小売業では人流分析システムを活用し、顧客の立ち止まった場所、時間を分析することで停留スポット(ヒートマップ)を作成。キャンペーン企画コーナーの人気度やキャンペーン商品を実際に購入した顧客、立ち寄ったが購入に至らなかった顧客を可視化した。
 別の小売業では、人流分析システムで来店客の滞在時間と顧客単価の関係を可視化。9割の顧客は20分以内に買い物を済ませ(もしくは購入せず退店し)、滞在時間が長くなるほど顧客単価は上がるものの、15分を過ぎたあたりからあまり変化はないことが分かったという。
 また、別の小売業では、即退店者数と最初に立ち寄った場所を可視化した。非購買者の行動を見ると日用品の棚に立ち寄った来店者が多く、目当ての商品があって来店したが商品が棚になく即退店していることが判明。品揃えか在庫切れが原因だと推定された。
 さらに、生活雑貨店の事例では、清算後の行動分析から20%以上の顧客が再度買い回りしていることがわかった。そこで、2度目の買い回りが多かった商品を特定し、レジ近くに置いたところ、当該商品の売り上げが10倍に増加したという。

 最後に、日高は、製造業でも店舗動線分析ソリューションは有効に活用できると提案した。生産性の高い作業員の動きと生産性の低い作業員の動きを見える化し、比較することで、無駄な行動を削減して作業効率を図り、事故などのリスクも低減することができるという。
「さまざまな場面で人の動きを見える化することで、今までできなかった多くのことが可能になる時代が来ている。皆さんの会社でも挑戦していただきたい」と日高は訴えかけ、セッションを終了した。

【基調講演】
データ分析で変化する野球の評価基準
~メジャー球団のデータによるマネジメント~


合同会社DELTA
代表社員 岡田 友輔 氏

【岡田 友輔 氏プロフィール】

2002~2005年まで日本テレビのプロ野球中継でデータ部門を担当。その後スポーツデータ配信会社を経て、2011年にスポーツデータの分析を手掛けるDELTA社を設立。統計的な見地から野球の構造・戦略を分析するセイバーメトリクスを専門に活動を続ける。
著書として「日本ハムに学ぶ勝てる組織作りの教科書」(講談社)「プロ野球を統計学と客観分析で考えるセイバーメトリクス・リポート 1~4」(水曜社)「セイバーメトリクス・マガジン1~2」(DELTA)などがある。

 近年のメジャーリーグ(MLB)のチーム運営は、高度なデータ分析手法を導入したことで選手の評価基準も大きな変更を迫られ、よりシビアに選手の価値が吟味される時代となっている。基調講演では、スポーツデータの分析を手掛ける合同会社DELTAの岡田氏が、データ分析による変化が起きたMLB・日本球界の事例や分析の結果を最大限に活かす球団の取り組みなどを紹介した。

選手の価値を把握する上での基礎となるセイバーメトリクス

 野球界のデータ分析において、2003年に出版された小説『マネーボール』(原題;『Moneyball: The Art of Winning An Unfair Game』)が大きな注目を集めた。それからMLBにおけるデータ分析は大きく変化し、今ではほぼ全ての球団が何らかの形でデータ分析手法を取り入れているという。
 岡田氏は次のように語る。「このマネーボールの中で野球界のデータ分析状況をよく表しているのが、作中でクリーブランド・インディアンスのピーター・ブランドが語る『球団は金で選手を買おうと思っている。だが本当は選手ではなく"勝利"を買うべきだ』という言葉だ。データ分析によって野球界で勝利を得ることはどういうことか理解できなければこうした言葉は出てこない。まさに勝つための設計図をデータ分析が担っているといえる」

 そこで岡田氏は、MLBが田中将大投手をどのように評価したのかについて言及する。2013年のオフに最も注目されたのは田中投手のMLBへの移籍だ。最終的にニューヨーク・ヤンキーズと田中投手は7年で1億5500万ドルの契約を結び、楽天球団にはポスティングフィーとして2000万ドルを支払い、さらには付帯条件(通訳、住宅手当、ファーストクラスの航空券など)も提供され非常に恵まれた契約となった。

 ではなぜ、ヤンキーズがこれほどの金額を田中投手に提示できたのだろうか。「それを理解するにはMLBのフロントがどのような考え方でチームを作っているのかを知らなければならない」と岡田氏はいう。そこに登場するのが「セイバーメトリクス」だ。セイバーメトリクスはビル・ジェイムズ氏が考案した野球の構造をデータから突き詰める分析手法だ。当時ベースボールマニアだったジェイムズ氏は、1977年に出版したデータ分析集『Baseball Abstract』で、野球の構造をデータから考察する取り組みを「SABRmetrics」として体系化した。
 ジェイムズ氏が2003年にボストン・レッドソックスのシニア・アドバイザーに就任すると、それまで86年間優勝から遠ざかっていたレッドソックスは、以後11年間で3度もワールドチャンピオンに輝いた。現在の野球界で選手の価値を把握する上での基礎になっているのがこのセイバーメトリクスだと岡田氏はいう。

球団の投資が合理的かを判断する基準となるピタゴラス勝率

 チームが勝つためには統計的手法の導入が必要と考えたジェイムズ氏は、勝敗は得点と失点の関係により成立する点に注目し、得点/失点と勝率には強い相関関係があるという。つまり、チームの年間勝率は、得点のn乗/(得点のn乗+失点のn乗)という「ピタゴラス勝率」で表すことができ、チームが勝利を得るためには、1)得点を多く奪うか、2)失点を抑制するかのどちらかしかないと分析する。攻撃の場面ではバッターが出塁してより多く得点を上げ、守備の場面ではピッチャーと野手が協力して失点を極限まで押さえ込むことが重要になる。

 このピタゴラス勝率が、チームの状況を把握してどこにどれだけ投資するのか、あるいはこの投資が合理的なのかを判断する基準になるという。同時に、ジェイムズ氏は得点が生み出されるモデルも作っていた。それがA:出塁要素(安打+四球)、B:進塁要素(塁打数)、C:機会数(打数+四球)による(A×B)/C+調整値という得点モデルの「RC」(Runs Created)だ。これでチームの年間得点が導き出されるという。

 岡田氏は「出塁と進塁させる力の2つの要素が得点を上げる原動力というジェイムズ氏の理論は、その後幾度も改良されるが、基本コンセプトは継承され続け、得点の構造を説明する最も一般的な考え方となっている」と説明する。

失点を防ぐ働きが投手と守備のどちらかからもたらされるのかを把握する

 一方、投手の能力はどのように評価していくのだろうか。一般的には勝利数、防御率、先発ならば勝率などで判断されている。だが、これまで使ってきた指標はピッチャーの能力を表しているのかという疑問から、最近はセイバーメトリクスが活用されているという。

 岡田氏は「投手を評価する指標は投球の結果から導き出されているため、投手の能力を正しく表していると考えがちだが、その指標が投手の能力とは限らない。投球の結果は投手の能力に加え、巡り合わせ(偏り)や運などが重なり合うため、本当の能力に比べて防御率が良くなった、あるいは悪くなったと判断してしまう可能性を孕んでいる」と話す。
 ディフェンス面は投手と守備の責任分割であり、失点を防ぐ働きが投手と守備のどちらかからもたらされるのかを把握する必要がある。まず、三振は投手が全ての責任をもっていると考えられる。同様にホームランやフォアボール、デッドボールも投手の責任と区分できるだろう。セイバーメトリクスによる投手指標の年度間相関係数を見ると、三振やフォアボールは比較的再現性が高いものの、ホームランや防御率は再現性が低い。そのため、防御率は投手の能力を測る有効な指標にならないのではないかという議論もあるという。

 では、フィールドの中に打球が飛び、それを処理したか否かでアウトか出塁かで構成されたインプレーを投手はどれだけコントロールできるのか。セイバーメトリクスは打球別年度間相関から再現性の高さを判断した結果、ゴロやフライを打たれる、あるいは打たせる割合の再現性(投手がコントロールできる範囲)は高いと考えた。だが、ゴロやフライをアウトにできるかについて投手は影響力を限定的にしか与えることができないことがわかった。このようなプレーのうち、どんな打球を打たせたかは投手の責任になるものの、打球をどう処理したかについては守備側の要因が大きい。

田中投手を凌ぐ大谷選手への期待

 このように、投手を評価するには、三振を奪う力、ファーボールを出さない力、打球管理能力など再現性のある能力を基に判断するのが一般的になっている。
 移籍前の田中投手は奪三振割合が高く、四死球(フォアボールとデッドボール)が少なく、ゴロも多い投手として求められる全ての要素を備えていた。2014年のMLB移籍後も三振を奪え、フォアボールが少ない非常に優れた投手であることがわかる。

「田中投手がポスティングで高い評価を得たのは、年齢が若く実績を残せる投手が2013年のオフの段階で他に出てこなかったからだともいえるが、実績を見れば彼が勝利に貢献できる選手であることに間違いはないという判断をしたことに他ならない」と岡田氏は見る。

 田中投手が控えの先発投手に比べてどれだけ失点を防ぐ力を持っているかは、セイバーメトリクスの「WAR」(Wins Above Replacement)指標でも顕著に表れている。WARは文字通り、代替可能選手(Replacement)に比べてどれだけ勝利数を上積みしたかを表すもので、田中投手の2014年は控えの投手に比べ30~35点程度の失点を減らし、3.1勝分の勝利を上乗せした。2015年は怪我の影響もありWARは1.2勝分の働きだが、2年トータルで4.2WARの貢献をしたことになる。それを金額で換算すると、現在は1WARあたり最高で760万ドルとなるため、2014~2015年は3220万ドルになる計算だ。ヤンキーズのフロントは日本時代の貢献をベースに田中投手の年齢を考え、年間4~5WARを見込み、1億5500万ドルの契約を結んだと岡田氏は推察する。

 では、日本で注目されている北海道日本ハムファイターズの大谷翔平選手はどうだろうか。2014年の大谷選手は安全にアウトを取る割合(三振+内野フライ)は2013年の田中投手を凌ぐ成績で、今シーズンもさらにその割合を高め、投手では最高の4.7WARとなっている。岡田氏は、「若いということもあり、仮にMLBの市場に出た場合は天井知らずの契約金になる可能性がある」と予想する。

ビッグデータ化で野球の構造理解を強力に推進する新たな技術革新が誕生

 セイバーメトリクスは野球のみならずスポーツゲームにおいてどのような構造が存在し、選手がどれほど勝利に貢献したのかを合理的に考えられることが強みとなっている。一方、セイバーメトリクスでも説明がつかない事象が多いことも事実だ。長年研究してきたジェイムズ氏自身も、"野球で理解したいと思うことの1%も明らかになっていない"と述べているという。

 岡田氏は、「分からないことを数字で把握し構造を解明することは非常に重要だ。そうしなければ次には進めない。データ分析する上では何がどれだけ分からないのかを把握することは、データ構造を理解するのと同じほど大切なことだと理解していただきたい」とアドバイスする。

 セイバーメトリクスに手詰まり感がある中で、野球の構造理解を強力に推進する新たな技術革新が生まれている。野球界のビッグデータ化だ。その1つが、従来のカメラではなくレーダーで1秒間に5万回ものデータを取得する方法が急速に一般化している。野球場で起きているプレー全てをデータ化し、野球を物理的な現象として分析するという。

 その一例が、投手の三振率と空振り率の強い相関関係に注目し、空振りを奪える投手の特徴を物理的に解析する手法だ。従来の多くの結果から推察されてきた統計手法に加え、物理的解析で打者と投手の関係を分析することが可能になっているため、投手が投げたボールが物理現象としてどのように打者を抑えているのかを可視化する。具体的には、カーブボールは回転数が上がるほど空振りが増え、ストレートのボールは回転数が上がればフライになる可能性が高くなるが、反対に回転数が下がるとゴロが多くなる、といった分析だ。
 これは打者の評価基準を一変させる可能性を秘めている。通常、打者はヒットや二塁打、三塁打などの結果で評価されているが、得点を奪うというテーマを突き詰めれば打者がバットを振った際にボールにどれだけ強い力を加えたかが重要になるため、今後は打球速度や撃ち出し角度、外野への平均飛距離などで評価されることになる。「これまで日の目を見なかった選手が一躍注目される可能性もある」と岡田氏は期待する。

 また、捕手のキャッチング能力も勝利の要素に重要とされている。ただ、その能力でどれだけの失点を押さえてきたかは分析されていなかった。最近では「フレーミング」という技術でボールをストライクに(またはストライクをボールに)した数が判明し、これまで可視化されていなかったキャッチング能力(ミットを動かさずに捕球する能力)の欠如を失点として評価できるようになった。従来の走者の盗塁阻止よりも影響が大きいと判断されたからだ。
 さらに守備でも新しいデータ分析が進みつつある。打球の速度、打ち上げた角度、落下地点までの距離、滞空時間、野手の反応時間、トップスピードなどを計測し、ボールに最も近づいた野手の守備位置からの最短距離と走ったルートまでも評価して、無駄な動きがないかを確認する。これまで考慮されてこなかったポジショニングや打球の到達時間など、守備をする上で不可欠な客観情報を取得することができ、選手の守備能力を明確にすることが可能になるという。

データ分析によるアドバンテージを最大化する組織作りが進む

 岡田氏は、「データで野球の構造理解が進めば進むほど、データの価値や数理的な分析が理解できる人材の価値が上がり、そうした人材によるマネジメントが強化されている。それはデータ分析によるアドバンテージを最大化する組織作りであり、他業種でも大いに参考になるだろう」と述べる。
 選手よりも、データ分析を現場に落とし込み運用できる人材の方が年俸は圧倒的に安く、その影響力はとてつもなく大きいため、現在は人材への投資や引き抜きが相次いでいるという。

 その一例がピッツバーグ パイレーツだ。パイレーツは20年間も負け越しが続き低迷していたため、市場規模が小さく予算も限りがある中で、既存の戦略や戦術では競争力アップは困難と判断。そこで考えたのがデータ分析手法を活用して失点をできる限り少なくする戦略だった。監督とGMが現場のコーチや選手とアナリストとの関係を改善するためのサポート体制を構築する一方で、守備の優れた選手の獲得や大胆な守備シフトを導入して失点抑止に成功。その結果、パイレーツは2013年と2014年に連続でプレーオフ進出するまでになった。

「従来の勘や経験とは一線を画す経営が可能になり、データ分析が戦略の根幹になりつつある」という岡田氏は、こうした成功事例はどの業界でも同じように可能なはずだと断言する。組織の核心となる明確な目的を設定し、データ分析手法やツールを用いることで、ヒット商品の開発や顧客満足度の向上、競合他社との比較など大きな成果を生み出すことができるという。

 最後に岡田氏は、「会社が抱える問題や仮説、疑問がさまざまに存在している中で、データ分析は非常に有効に働くだろう。社内の資産に対してデータ分析を行うことで、問題の解決策や新たな市場・サービスが見つかる可能性がある。ぜひ、この機会にチャレンジしてみてはいかがだろうか」と提案し、基調講演のまとめとした。

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