講演レポート:第84回 インダストリー4.0から見る日本企業が執るべき戦略|Prowise Business Forum in Tokyo|システム構築やトータルソリューションをお探しなら、日立ソリューションズをご利用ください。

株式会社 日立ソリューションズ

Prowise Business Forum in Tokyo 第84回

インダストリー4.0から見る日本企業が執るべき戦略
~日本的「つながる工場」とは何か。その示唆を探る~

 インダストリー4.0はIoT活用により、あらゆるモノやサービスを連携させることで、新しい価値やビジネスモデルを創出するものとして期待されています。ドイツが国策として取り組んでいますが、キーコンセプトは「つながる工場」と言われており、その本質はオープン・イノベーションによる競争力の維持・強化にあります。日本でも対応が迫られていますが、製造拠点を海外へ移す国際分業化が進んでおり、実現するためには無数の壁が存在します。そのような環境の中で、如何にして日本企業が「つながる工場」を実現して新たな価値を創出するか、その示唆を探ろうと考えました。
 本フォーラムでは、ドイツ、米国の戦略と活動内容の分析結果から日本企業が取り組むべき要件を考察し、実現へ重要な鍵となるICTのあり方を提案しました。

開催概要

日時 2015年8月20日(木) 13:30~17:20 (13:00 受付開始)
会場 東京都港区港南2-18-1
JR品川イーストビル20F セミナーホール
主催 株式会社日立ソリューションズ

【基調講演】
ドイツと米国が仕掛ける製造業のルール変更、日本の製造業はインダストリー4.0にどう対処すべきか
~ドイツ、米国の戦略を比較分析し、日本の動向と取り組みを見定める~

鍋野 敬一郎 氏

株式会社フロンティアワン
代表取締役 鍋野 敬一郎 氏

【鍋野 敬一郎 氏プロフィール】

株式会社フロンティアワン 代表取締役。ERP研究推進フォーラム講師。
1989年 同志社大学工学部化学工学科(生化学研究室)卒業。
1989年 米国大手総合化学会社デュポン社の日本法人へ入社。農業用製品事業部に所属し事業部のマーケティング・広報を担当。

1998年 ERPベンダー最大手SAP社の日本法人SAPジャパンに転職し、マーケティング担当、広報担当、プリセールスコンサルタントを経験。アライアンス本部にて戦略担当マネージャーとしてSAP Business All-in-One(ERP導入テンプレート)立ち上げを行った。 2003年 SAPジャパンを退社し、コンサルタントとしてERPの導入支援・提案活動に従事。

2005年 独立し株式会社フロンティアワン設立。ERPやクラウドなど、エンタープライズ系システムや製造業の業務コンサルティングなどを行う。
2015年 日本版インダストリー4.0への取り組みを掲げて設立されたインダストリアル・バリューチェーン・イニシアチブ(IVI、http://www.iv-i.org)の会員となる。

 ドイツが産官学プロジェクトとして取り組む「インダストリー4.0」が、新しい産業革命を目指す取り組みとして全世界の製造業界にインパクトを与えている。基調講演1では、日本企業はどのように取り組むべきなのか、何をどこから始めればいいのか、計画策定・目標・ゴールを具体化するにはどうすればいいのかについて論じた。

講演動画

再生時間: 1時間2分

"ものづくりを製品(モノ)+サービス(コト)"で新しい付加価値を生み収益につなげる

 冒頭、鍋野氏は、インダストリー4.0への取り組みのポイントについて、「現状を正しく整理、理解したうえで拙速に取り組むのではなく、中長期的な視点で取り組むべきである」と提言する。具体的には、「先行している企業や事例より、真似しやすいことはこれを見習い、真似が難しいことはこれを突き詰めて腰を据えた取り組みをすべき」と説明する。うわべだけの見える化やビッグデータでは一過性の効果しか期待できないため、中長期的な競争力を得るための計画策定が重要だと説く。

 インダストリー4.0を包含するIoT(Internet of Things)は、"モノのインターネット"と呼ばれ、私たちの身の回りにあるモノ(機械、機器、車両、工場など)にセンサーや制御機器を組み込んで識別可能にし、これらをインターネットにつなぐことでデバイス同士がお互いにデータ通信しネットワーク化する仕組みを産業や生活に活用することと解釈されている。調査会社の調査では、ネットにつながる機械やデバイスの数は2015年時点では50億台だが、2020年には500億台に達するなど、その経済価値は19兆ドル(約250億円)に急成長すると予測されている。

 インダストリー4.0は製造業に特化したIoT戦略として、ドイツが2011年に発表した取り組みであるがこれは欧州経済が停滞するなか、日本や米国の製造業における攻勢に対抗する施策として打ち出したものである。これを主導しているのは、ドイツ工学アカデミーという組織で、産業界と学術界が一体となった組織である。産業界からは、ドイツ最大のIT企業であるSAP社の元CEOであるヘニング・カガーマン博士が理事となっている。2015年現在で、ドイツ政府は既に100億ユーロ(約1兆3,000億円)の予算を投入して実証試験を進めている。

 米国においては、産業界がインダストリアル・インターネットというコンセプトを掲げて、IoTを製造業、ヘルスケア、インフラ、運輸、エネルギー(電力・ガス・石油)といったより幅広い産業へ展開する動きが始まっている。ゼネラルエレクトリック(GE)社、インテル社、シスコシステムズ社、AT&T社、IBM社の5社が創設メンバーとなって、インダストリアル・インターネット・コンソーシアム(IIC)を設立(2014年3月)し国内外に幅広く参加を募っている。2015年8月現在では、その会員社数は187社にもおよび日本企業でも日立製作所、三菱電機、トヨタ自動車などもこれに参加している。(ちなみに、ドイツのSAP社、シーメンス社、ボッシュ社なども参画)米国政府は、IoTへの取り組みについて、2億ドルの予算を組んでこれを支援している。

「これらに共通する考えは、"ものづくりを製品(モノ)+サービス(コト)"で新しい付加価値を生み、製造業のこれからの活動はモノを作るだけではなく、ユーザー目線でサービス(コト)をプラスして収益につなげることにある。従来のシステム利用はコストダウンや効率化といったユーザーに直接つながるものではなかったが、インダストリー4.0やIICのめざすIoTはモノ(製品)とコト(サービス)を融合(FUSION)してユーザーの利便性を高め、システムが売上に直接貢献する仕組みを提供するところに違いがある」と鍋野氏は説明する。

標準化で実現するスマートファクトリー、FAのイニシアティブを握ろうとするドイツ勢

 これまでの製造業では、設計から製造、販売からアフターサービス(PLM/SCM/SLM) といった組織間、企業間のヨコに跨る水平連携と、事業計画から生産計画、工場の操業管理から製造設備・機器の稼働管理といった経営層から事業部、製造ライン(生産現場)、製造設備・機器類(センサー群)といった企業内(ERP/MES/SCADA/PLC)におけるタテの垂直連携があった。このタテとヨコ十字に交わる中心に位置するのが工場である。ヨコの連携についてはPLMやSCMなど組織間・企業間の連携は進んでいるが、タテの連携は同じ企業内でも工場間・製造ライン間で仕様や規格がバラバラでほとんど連携できていない。連携するためには、標準化が必須となるためドイツがここから取り組んでいるのである。ドイツ企業勢でファクトリーオートメーションの標準規格(ISA-95)のイニシアティブを握る戦略。ものづくりの標準化をドイツが主導すれば、世界標準はドイツ仕様となる。これが、ドイツ政府が思い描く世界戦略の狙いなのである。インダストリー4.0の中心にあるのは、スマートファクトリー(つながる工場)であり、その生産方式は日本のTPS(トヨタ生産方式)や米国のリーン生産方式ではなく、ドイツが提案するダイナミックセル生産方式にあるとうのが、この戦略のポイントである。

 鍋野氏は、「日本でも2~3年前にようやくインダストリー4.0に注目し始め、学会や産業界をまたがった研究活動が今年始まったばかり。欧米に大きく遅れをとっている」と打ち明ける。

 スマートファクトリー(つながる工場)の具体的な例は、既に先行企業が成果として公開している。例えば、ドイツのシーメンス社では、1)製造プロセス(工程管理)、2)装置・機器(製造装置)、3)エンジニアリング、4)ソフトウェアの4つでスマートファクトリーのデファクトスタンダードを狙っていて、その具体的なイメージを2015年に開催されたハノーバーメッセで幅広く公開している。これは香水の製造ラインで、顧客1つ1つ異なるオーダーを、完全自動の製造ラインで1つ1つ作り分けるというものである。この根幹となるのがICTだが、シーメンス社が強みを持つMES/PLM、SAP社が強みを持つERP/SCMである。さらに、膨大なデータを統合管理する基盤システムには、SAP社が新しく開発した超高速大容量データに対応するSAP HANA Cloud Platformを全面的に採用、ICT技術を独占している米国との対決姿勢を明確にしている。

「ドイツのスマートファクトリー(つながる工場)では標準化を進め、異なる国、異なる企業の複数工場の工程をつなぎ、あたかもひとつの工場のようにものづくりを可能にしようとしている。これを世界標準の製造業モデルとして実現されてしまうと、恐らく日本の製造業は太刀打ちできないだろう」と鍋野氏は危機感を滲ませる。

コンソーシアム(IIC)と産業特化基盤ソフトウェアで覇権を狙うGE社の野望

 ドイツのインダストリー4.0の動きと並行する形で、次第にその存在感を増しているのが米国超大手製造メーカーのゼネラルエレクトリック(GE)社が主導する「インダストリアル・インターネット・コンソーシアム(IIC)」でる。その活動は2014年3月設立と、日は浅いが創設当初5社だったメンバー企業は、2015年8月には187社へと急拡大して一大勢力となっている。IICには多くの日本企業も参加しており、日立製作所や三菱電機、富士通、NEC、東芝、トヨタ自動車、富士フイルムなどが名を連ねる。地域や国、業種ごとに作業部会を設置して、産業で使われるあらゆるデバイス(機器類、エンジン類、輸送機など)の監視、保守、制御ついての情報共有と新しい産業革命(インダストリー4.0と微妙に異なる)を提唱している。GE社とIICが目指しているのは、産業界の新しいデファクト・スタンダードを生み出すことである。

 IICを主導するGE社は、インダストリアル・インターネット戦略を、次の4つの領域にフォーカスして取り組んでいる「IoT、インテリジェントマシン、ビッグデータ、分析技術」。そして、そのターゲットとして、運輸業界、アビエーション(航空機関連)、ヘルスケア、エネルギー(電力、石油・ガスなど)にビジネス展開を行っている。例えば、世界の航空機用エンジン市場は約8兆円の規模があり、その4分の1のシェアを持つのはGEアビエーション事業で、これに英国ロールス・ロイス社、英国プラット・アンド・ホイットニー社が続く。GE社は、航空機エンジンに搭載されているセンサーのデータを集計解析して燃費改善や最適な航路を顧客企業へ提案している。「1%の効率化に継続的に取り組めば、大きな収益効果が出せる」というのがGE社の主張だが、公開されたデータでは2%の効率化に成功している。同様に発電所の発電効率向上などを分析・可視化する新たな従量課金モデルを作って、これを風力発電所や火力発電所などGE社の発電用タービンが設置されている顧客へ提案している。その技術がインダストリアル・インターネットのためのソフトウェアプラットフォーム「Predix」(プレディクス)なのである。

 GE社は基本ソフトウェアの「Predix」(GEソフト社開発)と膨大なデータをストレージする「DataLake」(Pivotal社開発:GEとEMCが出資)を基盤に、IICメンバー各社へこのアプリケーション基盤を提供している。日本および中国・アジア地域では、GE社と戦略的アライアンスを提携しているソフトバンクグループがこれを提供する予定だ。

日本流インダストリー4.0成功の鍵はアナログとデジタルの摺り合わせ

 次に、鍋野氏は、日本のものづくりが勝ち残る選択肢について論考した。「日本の製造業界には日本発や日本標準の基盤ソフトウェアは存在しない。世界標準を狙える企業は見当たらず、これから開発するというのもありえない。そのため、ソフトウェアの領域ではドイツのインダストリー4.0やアメリカのIICのどちらか、あるいは両方に対応せざるを得ないだろう」と語る。

 経済産業省ではインダストリー4.0のベースとなる「サイバー・フィジカル・システム:CPS」(Cyber Physical Systems)によるデータ駆動型社会の実現をめざしている。CPSとは、コンピュータ側のサイバー世界と現実世界(フィジカル)とを融合させて、両者をリアルタイムに連携させる仕組みのことである。これまでは、自動車や機械、デバイス類のデータは、少しのタイムラグを経てネットワーク経由で集めていた。このデータはデバイスを『監視』(モニタリング)することで得られ、このデータを収集分析する技術をビッグデータと呼ぶ。この解析データを活用すれば、機械が故障する予兆を予測することができたり、消耗した部品やサプライ品を予め準備してダウンタイムをゼロに近づけることができる。『保守』(メンテナンス&サービス)に高い効果を上げることができる。CPSは、これをさらに進めて、フィジカル(モノ)とサイバー(コト)がリアルタイムに同期すれば、コンピュータでサイバーを操作すればその変更がフィジカルに即時に反映できる。つまり、『制御』(コントロール)することが出来る。既に小松製作所が2015年1月に発表した"スマート・コンストラクション"では、遠隔操作による建設機械の精密制御技術が実用化レベルにあることが分かる。これが、CPSで実現される世界であり、経産省はその中核技術としてロボットとAI(人工知能)を日本の強みとして掲げている。

 しかし、鍋野氏は、CPSは今後は欧米が先行すると予想している。その理由は日本企業の閉鎖性にある。確かに、小松製作所など日本には世界に先行するロボットやAIなど優れた技術を持つ企業が複数存在している。しかし、問題はこれら企業はその技術や情報を一切開示していない。現時点では、後塵を拝する欧米企業だがIICの取り組みのようにアライアンス(協業)モデルでメンバー企業が互いに切磋琢磨し合えばこうした優位性は一瞬で崩れるのだ。こうした手法をオープン・イノベーションと呼び、短時間で一気に技術レベルを高めることができる。この手法のポイントは、情報共有と情報のデジタル化にあり、デジタル化したデータを公開することで誰でも容易にコピーして、より良いモデルを生み出すことができる。さらに、参入者が増えて競争することで市場が一気に拡大するのだ。日本の大企業や先行企業は、既にこうした技術を持っているがノウハウを公開することで自社の優位性が崩れるリスクを懸念している。この非開示戦略の失敗が、携帯電話や家電などで言われるガラパゴス化である。日本が得意とするAI(人口知能)やロボット技術、センサー技術などを全面に押し出し、高品質と耐久性といった日本の強みを独自技術で新たなサービスや製品に反映させるべきだという。「恐らく日本としては、インダストリー4.0も、IICにも両方互換性を持ちつつ、自前主義の上で自社の強みを圧倒的な強さで製品とサービスで実現するというのが正解だろう」鍋野氏は言う。

 ここで間違わないで頂きたいのが日本流インダストリー4.0で目指す"自前主義"とは、従来のガラパゴス化ではないということである。IoT戦略の基本はデジタル化にあり、モノのあらゆるデータをデジタル化して、これをサービス(コト)としてユーザーに目に見える価値として提供するのがその目的である。しかし、全てをデジタル化してしまうと日本でものづくりをする必然性が無くなる。日本が長年蓄積して来た技術やノウハウが、デジタル化することで簡単にコピーされ、他の人件費の安い国に取って代わられることとなるのだ。つまり、ここで言う"自前主義"とは、デジタル化できない(デジタル化が難しい)アナログのノウハウや経験を守る手段として取り組むべきテーマなのである。

 さて、現在日本ではインダストリー4.0に取り組む組織が2つ存在する。1つは、産業界(日本機械工業連合会)が主導する「ロボット革命イニシアティブ協議会」である。2015年5月に設立され、日本政府が支援している。(設立総会の挨拶は、安倍総理大臣)

 そしてもう1つが、「インダストリアル・バリューチェーン・イニシアチブ:IVI」(Industrial Value Chain Initiative)である。IVIは、IoTを活用して企業の壁を越えた"ゆるやかな標準"による連携実現を目的に、学術系の日本機械学会 生産システム部門「つながる工場」分科会が母体となって設立された。日立製作所、富士通、東芝、NEC、三菱電機、マツダ、IHI、オムロン、川崎重工業、パナソニックなど50社以上150名以上の企業や個人が参加している。

 鍋野氏は、「どちらも日本流インダストリー4.0を目指して新しいビジネスモデルを産官学で作り出すことを目的としている。日本の強みであるアナログとデジタルの摺り合わせを活かしたモデルの実現を指向していくのではないか」と述べる。

日本流インダストリー4.0の成功とは、IoT企業となることで継続的に競争力を得ること

 では、今後インダストリー4.0で何が変わるのだろうか。鍋野氏は、まず工場のオペレーションは標準化や自動化が進んで、ヒトが直接作業や点検を行う業務から解放されて、トラブル対処の判断や企画開発業務にウェイトを置いた業務へと、その役割が変わると予測する。ちょっとした不具合やトラブルなどは、ロボットやAI(人工知能)が即時に解決して、その再発防止や原因の究明がヒトの役割となる。

 さらに、IoT企業に取り組むフォーカスポイントとしては、モニタリング(監視)、メンテナンス(保守)、コントロール(制御)の3つだと指摘し、拙速に動くのではなく、5~10年といった中長期的なスパンで知見を蓄積していく必要があるという。「目的は新しい産業を生み出し、新しい顧客と市場を獲得して、既存の産業を蘇らせることにある。日本の強みとは何かについて顧客と向き合い、新しいサービスやビジネスモデルを創り、それを永続的に"勝ち逃げ"できるかどうかが勝負となる」と鍋野氏は断言する。

 そして最後に、「日本のものづくりが今後生き残っていくためには、ドイツやアメリカの先行事例をしっかり見ることが重要だ。ただ、同じことをしても他国を超えることはできないため、収益が上げられるサービスやビジネスモデルを確立することができるか否かが大きなポイントになる」と指摘して、講演を終了した。

【日立ソリューションズセッション1】
現場がつながることで新たな価値を創造するものづくりITソリューション

野田
株式会社日立ソリューションズ
ハイブリッドインテグレーションセンタ
部長 野田 勝義

 日立ソリューションズセッション1では、インダストリー4.0の「つながる工場」実現のカギとなる「フロー型情報モデル」などのものづくりを支援するITソリューションを紹介した。

講演動画

再生時間: 33分58秒

従来のストック型アーキテクチャからフロー型の新アーキテクチャへと転換

 登壇した野田は、製造業の抱える経営課題に、1)市場と製品の多様化、2)生産拠点の分散化・多国籍化、3)サプライチェーンの拡大と複雑化などがあるとした上で「グローバルサプライチェーンへの期待の半面、新興国など成長市場のニーズや価格対応の製品、ものづくり強化の一方で、需要の変動に応じた生産調整、製品新種の絞り込み、製品・部材の過剰在庫の抑制なども必要とされるなど難しい環境になっている」と語る。

 製造現場では、生産性、品質・QA、生産実績、設備、トラブル、保守などのデータが週次、月次で報告され、それらを改善活動に活用したいところだが、個別化されたサイロ型のシステムによってデータがばらばらになることで、QCDに活用できない、海外の生産進捗がわからず製品の納期が遅れる、突発対応のライン変更に対応できない、営業が納期回答できない、ノウハウが人依存になり技術の伝承ができないなどのボトルネックが問題となっている。そのため、データをストックして一括処理するアーキテクチャから、データ発生時にリアルタイムに処理するフロー型の新アーキテクチャへと転換する必要があるという。

生データに背景や説明が加わることで価値を持った情報に変化

 野田は、「製造現場で発生した生データに、背景データや説明データを加えて意味が分かるよう情報化し、生成・配信してリアルタイムに情報がつながっている状態にする。そうすれば、蓄積した情報をExcelなどで容易に分析したり、トレーサビリティに活用したりすることができる」と説明する。

 それを野田は、フロー型情報モデル(Flow Oriented Approach;FOA)と紹介し、ひとつの工場に閉じるのではなく、全世界に分散する工場がつながった状態でマネジメントを実行できるという。国内工場で優れた取り組みが開発されれば、それをすぐさま海外の工場へと展開することも可能になる。

 背景データとは、誰が(班、作業者)、どこで(装置名、部位)、何がどうした(設備状態、運転条件、作業環境、トラブル状況、使用材料・原料など)といった情報をいう。また、説明データとは、設計情報(設計図、品質規格)、製造情報(精度点検、図面、定期整備)、営業情報(生産指示・計画・条件・制約)、経営情報(コスト、指標、指針など)の情報のこと。

「生データもしくはイベントに背景データや説明データが加わることで、データが価値を持った情報に変わり、次のアクションにつなげることができる。現場で重要なイベントは何かを決め、そのイベントがどこで発生するかを概略フロー図上にマッピングする。そうすることで、製造現場で発生するさまざまな情報に因果関係を持たせることが可能になる」と野田は話す。その結果、それぞれに製造現場で収集した生産実績や生産性分析、ロット別良品/不良品分析、組立工程別稼働率分析などをリアルタイムに可視化することでデータがリンクし、サプライチェーントレースが実現。それを全世界の工場で共有するという形だ。

サプライチェーントレースは小さく始めてグローバルに拡大するのが基本

 では、それをどのように進めたらいいのだろうか。野田は「いきなり大きなシステムで仕組みを作るのは望ましくない」とアドバイスする。特定のラインを決め、小さく生産ラインの見える化を行ってから、工場全体の見える化へと展開する。それが成功すれば、グローバル規模で可視化を進め、経営コックピットを実現していくという。

 取り組み事例では、産業制御装置のプリント基板製造の例が示された。同工場ではグローバル化推進による製造拠点の海外シフトが加速し、新製品投入や製造拠点のグローバルスイングへの対応、現場力の底上げ、生産性改善を実現するため、FOAをRFIDと組み合わせて生産改革のPDCAを自動的に進めていく取り組みを行っている。全ての情報がRFIDタグ上のリライタブルシートに書き込まれ、それを作業指示票や製作指示票などに添付。作業進捗の細かい情報をダイアグラムチャートの活用で、現場のムダを「見える化」し、気づきを与え、生産改革PDCAサイクルを加速に役立てている。

月次管理で見えてこなかった問題在庫を日次管理で可視化

 次に、グローバルレベルでの在庫可視化と需給関係について説明が行われた。拠点ごとの在庫状況を定期的に収集しているものの、実際には数値情報や月次レベルの推移データだけなので問題在庫を発見できず、グローバルレベルでの需給調整ができないという課題を多くの企業が抱えているという。

 野田は、「グローバルレベルのPSI (生産・販売計画・在庫)を見える化することが参考になる」という。製品別、拠点別の在庫を全て日次レベルでデータをつなぎ、見える化することで、月次単位で見えなかった問題在庫(過少、滞留)を可視化。それを営業会議や調達会議に用いることで、拠点間の輸送手段の変更や海外販社の在庫基準の見直し、生産地の変更などの経営判断が可能になる。

 日立ソリューションズ東日本では、生販在調整・在庫可視化ソリューション「SynCAS PSI Visualizer」を提供。在庫の可視化、問題在庫の早期発見、在庫適正化の進み具合の見える化などを支援している。

グローバルサプライヤーとの設計情報の共有に有効な企業間コミュニケーション基盤

 続いて、グローバル化する製品開発と海外拠点におけるサプライヤーとの設計情報の共有について言及した。野田は「現在、市場ニーズに合わせた製品開発パターンが必要になっており、それに伴う海外拠点やサプライヤー連携も不可欠となっている」と述べる。

 製品開発パターンとしては、日本国内ベースの設計を仕向け地用にローカライズする、中国国内モデルを新興国向けにローカライズする、中国国内向け低価格モデルを日本向けに逆輸入するといったケースが考えられる。そうした場合、本社側で作成した図面を海外サプライヤーへ展開する際に、図面情報などのやりとりが個別対応になるため極めてつながりにくい状況が発生する。

 そこで野田が提案するのは、企業間コミュニケーション基盤の構築だ。「大容量高速転送機能や企業間アクセス制御、技術情報漏えい対策を実現する」。具体的には、SNSサイトに似た仕組みを利用し、会話形式でメッセージとファイルを紐付けて管理。コミュニケーション履歴を時系列で一元管理するほか、自動でコンテンツ管理とバージョン管理も行う。また、複数のサプライヤーが同一の仕組みを活用しつつ、必要に応じて設計情報へのアクセスも制御する。さらに、多重化通信技術を活用して海外拠点に対し大容量図面ファイルの高速転送も実現。通信が途切れた場合でも自動で再送信が行われるようになっているという。

 その用途に対し、日立ソリューションズでは、企業間情報共有システム「活文 Managed Information Exchange」を推奨している。

 野田は、「生産現場の問題発見とグローバル拠点の連携、グローバルレベルでの需給調整、サプライヤーとの設計情報の共有の実現に、日立ソリューションズグループの製品をぜひご活用いただきたい」と語り、自身のセッションを終了した。

【日立ソリューションズセッション2】
国際分業時代の経営情報可視化ソリューション
~SAP BusinessObjectsが実現するグローバルダッシュボード~

奥沢
株式会社日立ソリューションズ
ビジネス・アプリケーション本部
担当部長 奥沢 浩

 日立ソリューションズセッション2では、海外の工場から現地通貨で原価情報を集め、BIツールによって利益構造の可視化とシミュレーションを実現するソリューションを紹介した。

講演動画

再生時間: 41分02秒

各国個別最適のシステムを再び連携させることがグローバル製造業の最大の課題

 登壇した奥沢は、製造業のグローバル化の発展段階と機能配置の経緯について、輸出型(本国で生産し輸出する形態)から、多国籍型(各国に現地法人を設立し、地産・地消で多国籍展開する段階)へと移行し、現在はグローバル統合型(本国の世界戦略に基づき各国の法人が全体最適のために国際分業で役割を担う形態)という3段階に変化してきたと説明する。その上で、「現代の製造業における生産活動は、1社もしくは1国により完結するものは少なく、国際分業化が進んでいるため、収益の最大化を実現するためには、為替レートや物流費を考慮した最適地・最適量生産が重要なポイントになる」と語る。

 また、ITシステムについて、各国に拠点を作り、権限を委譲して、各国に最適化したシステムを作ることは個別には最適化されつつもグループ全体のガバナンスは脆弱化するという。それを再び国際化するために、ばらばらになったシステムを再び連携させることは極めて難しく、グローバル製造業におけるITの課題だと指摘する。

 「ITベンダーやコンサルティングファームは、世界中のアプリケーションをERPで統合するグローバル・シングル・インスタンスモデルを推奨するが、国によって商習慣や文化が異なるため、そう簡単に業務オペレーションは連携できない」と奥沢は提言する。コードは統一できても、国別で管理していたマスタの統合は難しい場合がある。最初は分散管理でスタートし、最終的には本社で統合マスタを作り、時間をかけて統合管理していくことになるという。

製品別の利益構造を可視化して経営計画をシミュレーションするソリューション

 また、グローバル活用の進展によって、従来と異なるタイプの経営課題も生まれるという。第1に生産拠点の分散化・多国籍化。生産拠点ごとに異なる製造原価、投資や費用の原価への配賦などが課題となる。第2にサプライチェーンの拡大と複雑化。物流・販売コストの増加や、為替変動、資源価格の上昇などが見えづらいという問題がある。第3に市場と製品の多様化。販売市場の分散化と販売単価の差異、製品ライフサイクルパターンの違いなどが障害となる。

 さらに、グローバル統合型の現代では、製品を作り、顧客に引き渡すまでに多くの会社が複雑に絡むため、製品ごとの真のコストや利益が見えづらくなっている点もある。

 奥沢は、「製造業はものづくりが最大の目的であるため、海外進出の際に製造ラインの構築が優先し、ITシステムの構築や収益管理の仕組み作りは後回しになりがちだ」と述べる。

 そこで奥沢は、市場データと生産拠点データ、販売拠点データなどを収集・蓄積することにより、製品別の利益構造を可視化し、経営計画のシミュレーションを可能にするソリューションの紹介を行った。

 概要は、生産拠点の労務費・開発費・材料費・外注費などのデータと、販売拠点の販売数量・売価・営業経費・物流経費などのデータをコスト統合データベースに収集して原価を割り出す一方で、需要予測・台数・シェアなどのマーケット情報を取り込み、市場予測した上で製品の採算をシミュレートする。各国に展開する製造や物流、販売の拠点から EAI (Enterprise Application Integration)やETL (Extract/Transform/Load)で生データを集め、仮想の連結原価計算(実際単位原価積み上げ方式)を行って1品当たりの原価を割り出し、BIツールで経営ダッシュボードを実現するという仕組みだ。

 そこで使われる製品は、製品別・顧客別収益管理パッケージ「ProfitNavi」。原価構成要素の粒度でコスト改善計画を反映した製品コストと利益を試算し、BIによる経営ダッシュボードや分析によってマクロ的視点から製品および市場ごとの貢献利益レベルの損益を可視化することができるという。

現地法人の業績管理に役立つ情報を提供してデータ送付に協力してもらう

 次に奥沢は、実際のシステム構築事例を紹介した。化学薬品製造卸企業A社は、海外8ヶ国、16社の拠点を抱えている。一時はERPの全世界ロールアウトを計画したが断念し、各国のシステムはばらばらの状態で運用されていた。そのため、グローバル視点で事業部別・製品別の原価と貢献利益を把握するとともに、顧客セグメント別の利益を把握したいと考えたという。

 A社のような企業の場合、データ収集の問題点として、1)現地法人のシステムは日本側のシステムとは異なる。2)小規模拠点にはITスタッフがほとんどいない。3)現地法人にメリットがないとデータ送付に協力してもらえない、といった課題がある。そのため奥沢は、a)事前に現地法人のシステムを十分に調査する。b)基本的には日本側でデータ変換することを前提に考える。c)現地法人の業績管理に役立つ情報提供を約束する、といった対応方法が必要だという。

 そこでA社では、紙(FAX)やCSV、Excelなどが混在していた帳票をExcelに一本化し、メールの添付データの自動集約システムを活用してデータ登録と集約作業を効率化させた。また、さまざまなフォーマット、通貨、度量衡の変換は日本の本社側でETLを使って集約することにした。一方、マスタについては、拠点ごとに異なる製品マスタが存在するため、本社にデータを集めて統合しようとしたがマッチングエラーが続き、コードを変更すると拠点側や取引先への影響が大きいため断念。そこで変換マスタを作り、拠点への影響を与えないようにした。マスタのメンテナンスは本社が行うこととなったが負担が大きいため、将来的には完全なマスタ統合をめざしているという。

 導入後、各種連結の貢献利益が半期から月次、週次で可視化することが可能になり、全拠点集積数値の一元化も実現したという。

製品単位の売上・在庫・収益などを横串で把握する全体最適システムが必要

 さらに、もうひとつ事例を紹介した。大手機械製造B社は、従業員5万人を抱え、海外拠点も100社におよぶ。同社もグローバル視点で、製品モデル別の原価・粗利を把握したい、製品モデルごとの売れ行き・需要見通しを知りたい、複数シナリオ(人口やGDPの変動を踏まえた需要予測、人件費や為替などを踏まえた生産地選択)でシミュレーションをしたい、という要望があったという。

 新システムの構成は大きく2つとなった。1つ目は市場予測。国別総需要予測とメーカー/カテゴリ/エリア別需要設定で市場データを元にした複数の需要予測結果の組み合わせを行う。2つ目はモデル別採算システム(製品コストデータ基盤)。製品コスト構造の分析および製品採算シミュレーションを可能とするデータ基盤を構築した。

 しかし奥沢は、「B社のようなグローバル企業が社内で経営可視化システムの合意を得ることは容易なことではない」と指摘する。B社の場合、まず中心的製品群を選抜して過去データからプロトタイプを作成し、システムの出来上がりを関係者に評価してもらった上で、本格的にグローバルダッシュボードに取り組むという段階を踏んでいったという。

 事例に続いて、奥沢はSAP BusinessObjectsで作成した連結原価シミュレーションのデモストレーションを披露した。

 最後に奥沢は、「現代のグローバル製造業では付加価値ネットワークを通じた水平統合が重要であり、グローバル視点で最適な経営をするためには各現地法人にまたがる製品単位の売上・在庫・収益などを横串で把握する全体最適システムが必要となる。ERPのロールアウトが理想だが、安く、早く、経営情報を可視化するシステムを実現するためには現地のシステムを変えず、本社側でデータを収集・案分・再配賦を工夫することが現実的だ」と語り、セッションのまとめとした。

【基調講演2】
日本的な「つながる工場」に向けた研究活動及び
サイバーフィジカルシステムに基づく生産システムのシミュレーション技術

日比野 浩典 氏

東京理科大学
理工学部
経営工学科
准教授 日比野 浩典 氏

【日比野 浩典 氏プロフィール】

1994年~2002年 生産システムのモデル化とシミュレーション技術、設備シミュレーション技術、および、新農業生産システムのモデル化とシミュレーション技術の高度化研究に従事。経済産業省IMS国際共同研究プロジェクトに参画し、日米欧で生産システムのモデリングとシミュレーション環境に関する研究を実施。

2006年~2012年 (一財)製造科学技術センターアイデアファクトリー産学連携研究プロジェクトのリーダとして設備シミュレーションの高度化に関する研究などを実施(参加企業:ホンダエンジニアリング、ジェイテクト、清水建設、川崎重工、富士通、日立製作所など)。
2006年~2014年 東京農工大学大学院客員教授。および、大阪大学(2010年)、法政大学(2004年~)などの非常勤講師を兼職。
2014年~ 独立行政法人産業技術総合研究所(AIST)客員研究員。

 日本機械学会では2014年9月より「つながる工場」分科会を立ち上げ、産学官100名以上の参加者が「つながる工場」の実現に向けた具体策を議論する一方で、2015年6月よりIVI (Industrial Value.Chain Initiative)が発足し、より具体的な活動を実施し始めている。基調講演2では、IVIの監事も務める日比野氏からこれらの活動状況について紹介するとともに、生産システムのデジタル化技術として注目されているサイバーフィジカルシステムに基づく、エンジニアリングチェーンの効率化としてのシミュレーション技術も紹介した。

生産システムを取り巻く5つの環境

 冒頭で日比野氏は、生産システムを取り巻く諸環境について説明した。生産システムは、1)社会環境、2)自然環境、3)技術環境、4)労働環境、5)国際環境といった5つの環境の変化を考慮し、最適化されているという。

 社会環境では、ニーズの多様性、個性の表現、及び、価値観の推移といった状況で、変種変量生産、需要同期生産、商品企画から製造ラインまでのエンジニアリングチェーンを短縮する垂直立ち上げなどがキーワードになる。

 自然環境では地球温暖化、資源の制約、及び、エネルギーの限界といった課題からサスティナブル生産システムや省エネルギー生産システムなどを実現することがテーマとなっている。

 技術環境では今回のテーマとなっているインダストリー4.0の要素技術であるIoT、デジタルエンジニアリング、シミュレーション等が開発されており、発達がめざましい。

 労働環境では、日本の総人口の減少、年齢構成の変化、及び、労働時間短縮などの変化から技能継承・自動化・セル生産などが注目されている。

 国際環境は、国際分業化、国際協力、グローバリズム、及び、先進国と開発途上国との調和といった観点でグローバル生産システムやグローバルなSCM(サプライチェーンマネジメント)が鍵となる。

インダストリー4.0のみならず米国のNNMIの動きにも注意すべし

 また、ICT技術によって新たなビジネスサイクルが出現しているという。現場のリアルタイムなデータをIoTやネットワークを使ってセンシングし、蓄積・解析した上でインテリジェンスを付加することで現場に再び反映し、生産性向上や在庫削減を実現して活性化する。日比野氏は、「これは製造業のみならず、今後スマートハウスやモビリティ、健康、医療などさまざまな場面でこうしたサイクルが生み出されていくだろう」と述べる。

 さらに日比野氏は、インダストリー4.0にちなむ第4の産業革命の生産システムにおけるリファレンスモデルにも触れた。「Reference Architecture Model Industrie 4.0」(RAMI4.0)では三次元の立体的なモデルとして定義され、X軸に「Life Cycle & Value Stream」、Z軸に「Hierarchy Levels」を配置して平面を作り、さらに高さ側のY軸に「Layers」を配置している。1990年代前半までの第3の産業革命のリファレンスモデルである「CIM-OSA」では研究者中心の取り組みだったが、IoTが考慮された第4の産業革命では産学官連携+標準化がキーワードになっている。

 加えて、日本が注意すべき動きとして、米国の「NNMI」(National Network for Manufacturing Innovation)にも言及した。NNMIはオバマ大統領の命により2013年より産学官研究推進プロジェクトを発足。20億ドルの予算をかけ、製造業の復活に舵を切っているという。ドイツのフラウンホーファー研究所の産学連携を模擬し、現実の企業での課題をオープン・イノベーションで解決する手法を採用している。そのNNMI の研究所のひとつが「DMDII」(Digital Manufacturing And Design Innovation Institute)だ。DMDIIは、デジタルマニュファクチャリングを対象とし、いくつかの産学連携のテーマを募集・採択してプロジェクト化する。なお、「NIST」(National Institute of Standards and Technology)はDMDIIボードメンバーでマネジメント的なサポートをしているという。

「つながる工場」とは工場の内部がつながり他の工場ともつながること

 次に、日本的な「つながる工場」に向けた研究活動について紹介した。「つながる工場」分科会は、日本機械学会 生産システム部門提案の研究分科会で、インターネットを活用した「つながる工場」における生産技術と生産管理のイノベーション研究分科会で構成されている。2014年9月~2016年2月の19か月に限定された時限的な研究会だ。主査は法政大学の西岡靖之氏が務め、幹事に日比野氏も名を連ねる。大学側からは法政大学、東京理科大学、東京大学、慶応義塾大学、神戸大学、大阪大学などが参加し、産業界からは自動車、電器、情報、設備、金融などの企業が参加している。

 「『つながる工場』とは、工場と工場が、工場全体を単位としてつながるのではなく、より細かな単位でその工場の内部が工程間や担当業務間で柔軟につながり、そして工場という枠を超えてそれぞれの工程や担当業務が、他の工場や他の企業の工程や業務と柔軟につながることをめざしている」と日比野氏は説明する。こうした連携のしくみを、ICT でより多くの製造業に展開することで、ものづくりの生産性、柔軟性、頑強性を高め、グローバルな競争力をさらに強化していくという。

 活動方法は、1)話題提供(90分):最先端な活動事例について専門家の講演とディスカッション。2)ワークショップ(60分)と全体討論(50分):ワークショップでは10名程度のグループ単位で問題を深掘りし、論点・アイデア・展開などを議論する。その後サマリ報告をもとに全体討論を行い、分科会としての方向性を明らかにする。「つながる工場」のメリット、標準化のむずかしさ、実際の製造業の悩みなど、多くの意見が寄せられているという。

 日比野氏は、ワークショップの例として、生産技術&生産管理モデル連携、ビッグデータによる予知保全、人と自動機器とMESの連携、遠隔地の工場の操業監視などの人気テーマのサマリを説明した。

協調領域のユースケースをリファレンスモデルとして整理・共有するIVI

 続いて、IVIの状況について説明が行われた。IVIは、インターネットを活用した「つながる工場」における生産技術と生産管理のイノベーション研究分科会を前身とするフォーラムで、2015年6月に発足。2015年6月18日現在、52社が参加している。

 「IVIはものづくりとITが融合した新しい社会をデザインし、あるべき方向に向かわせるための活動において、それぞれの企業のそれぞれの現場が、それぞれの立場で等しくイニシアティブを取るためのフォーラム」と日比野氏は紹介する。

 協調領域(各企業で共通のやりかた、あるいは共通にすべきやりかた)と、競争領域(各企業の独自技術で競争すべき領域)を切り分け、協調領域のユースケースをリファレンスモデルとして整理・共有することで、各企業の固有の技術が相互につながるしくみを構築可能にするという。これにより、ものづくりがそれぞれの現場、部門、組織、企業の垣根を超え、国や文化の垣根も越えてつながるという。

CPSで蓄積したデータを知的作業に変換する取り組みが加速する

 その後、インダストリー4.0のベースとなる「CPS」(Cyber Physical Systems)に基づく生産システムのシミュレーション技術を紹介した。CPS技術による新生産システムとは、現実世界で在庫削減やオーダーメードを実現し、IoTや機械的センシング、人間的センシングなどを活用しながら情報をデジタル化し、それをサイバー空間で蓄積・解析・制御した後に、再び解析に基づき現実世界へと反映するサイクルを回すことだという。リアルタイム(サプライチェーン)のみならず非リアルタイム(計画系)なデータも含まれる。

 これがさらに進むと、シミュレーション結果をリファレンスモデルとして現実世界に反映し、蓄積したデータを知的作業に変換する取り組みが加速化していくという。日比野氏は、「インダストリー4.0ではこの取り組みが最も重要な技術になるだろう」と語る。

 従来から、商品企画→製品設計→生産準備→工程実装→製造というエンジニアリングチェーンにおけるシミュレーション技術は確立されており、リードタイムは短縮されてきた。力のあるエンジニアならばフロントローディングで次の工程のシミュレーションも行った上で手戻りのないような開発を実施していたという。

 エンジニアチェーンにおけるシミュレーションの中でも、生産システムシミュレーションは、生産準備段階において生産システムをコンピュータ内の仮想空間にモデル化し、仮想工場として物流・情報流を解析する活動となる。生産システム評価や生産ライン評価、生産マネジメント、人員のマネジメントなどが可能だ。

 「これまでは、現実世界とシミュレーションが疎連携になっていたが、インダストリー4.0以後のシミュレーションはサイバーフィジカルの世界で強く連携することができるようになるため、誰もが簡単にできる仕組みが提案される可能性がある。生産準備段階では非リアルタイム系のシミュレーションが、工程実装段階ではリアルタイム系のシミュレーションが活かされ、より効率的になっていくだろう」と日比野氏は予測する。

シミュレーションで消費エネルギー量を評価し無駄を削減する技術の確立が急務

 最後に、インダストリー4.0で重要要件となるISO消費電力測定方法に基づくモデル化の試みについて解説した。

 2014年4月に施行された改正省エネルギー法によって、エネルギーの評価と削減が義務化され、エネルギー消費原単位=エネルギー使用量/生産数量など、年平均1%以上の低減が求められているほか、東日本大震災後の電力使用制限で電力を考慮する工場管理も必要とされ、省エネルギー工場の設計も課題となっている。しかし、シミュレーションで消費エネルギー量を評価する動きは遅れており、消費エネルギー量を知り、無駄を削減する技術の確立が急がれている。

 製造エネルギー原単位を求めるためには、消費エネルギー量とスループット量の情報を同時に算出し情報を取得する必要がある。また、ISO/TC39/WG12でエ作機械などの消費電力測定方法が策定され、各電源オン時の消費電力、クーラントポンプの電源オン時の消費電力、マシニングセンタ全体の消費電力の総和、切削抵抗による総消費電力量などを測定するようなる。日比野氏の研究室では、設備の状態と消費エネルギーの関係性から状態遷移モデルを提案し、エネルギーと生産性の両方をシミュレーション可能にしていくという。

 終わりに日比野氏は、「今後、サプライチェーンとエンジニアリングチェーン間をつなぐリファレンスモデルの開発が重要である」と語り、講演を締めくくった。

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