講演レポート:第87回 ケイパビリティを高める鍵はコラボレーションだ!|Prowise Business Forum in Tokyo|システム構築やトータルソリューションをお探しなら、日立ソリューションズをご利用ください。

株式会社 日立ソリューションズ

Prowise Business Forum in TOKYO 第87回

ケイパビリティを高める鍵はコラボレーションだ!
~無数の障壁を取り払う次世代コミュニケーション~

 企業活動において、社内外のメンバーとのコラボレーションが不可欠です。コラボレーションにおいて重要なファクターとなるのが、コミュニケーションです。どんなに優れた戦略でも、メンバーを結ぶ歯車であるコミュニケーションなくして成果が出ることはありません。コミュニケーションの手段として電子メール、電話、会議等がありますが、場所や時間、意思の疎通など無数の壁が存在します。これらの壁を取り払うことができたとき、注目されるオープンイノベーションが加速度的に進み、結果ケイパビリティを高めることにつながるのではないでしょうか。著しい成長を遂げている企業に着目すると、新しい技術や仕組みをいち早く活用し、これまでの常識を覆すようなコミュニケーション手法を取り入れています。本フォーラムでは、ケイパビリティを高めるための要件を整理し、新たなITをコミュニケーションに活かすことで起こる変革の可能性について事例を踏まえて考察いたしました。

開催概要

日時 2016年6月9日(木) 14:00~17:30 (13:30 受付開始)
会場 東京都港区港南2-18-1
JR品川イーストビル20F セミナーホール
主催 株式会社日立ソリューションズ

【日立ソリューションズセッション】
ケイパビリティを高めるための、処方箋とは

松本 匡孝
株式会社日立ソリューションズ
ハイブリッドインテグレーションセンタ
ソリューションマーケティング部
部長代理 松本 匡孝

 日立ソリューションズセッションでは、企業固有の組織的能力を最大限に活用した競争戦略「ケイパビリティ・ベースド・ストラテジー」実現の課題と、その実現に不可欠なITに求められる要件について考察した。

日本は「守りのIT投資」で米国は「攻めのIT投資」を行う実態が浮き彫りに

 冒頭で、ITの方向性について触れた松本は、ドイツ政府が国策として産官学一体となって進めている「Industrie 4.0」と米GE社が提唱する「Industrial Internet」を比較し、そのキーテクノロジーが共通であることを指摘した。

「全ての状態を数値化して分析し、そこから知見を見出す手法は共通。ただ異なるのは、ドイツのIndustrie 4.0が世界中の機器をつなげて生産効率を上げるような“賢く作る”ことを目標にしているのに対して、米国のIndustrial Internetは例えば航空エンジンの稼働状況や燃料の消費量を常に監視・分析し最適な運航方法を見出していくといった“賢く使う”ことをめざしている」と松本は違いに言及した。

 業種によってビジネス上の課題は異なる。自動車・部品業界ではグローバルリアルタイム経営や設計・製品品質の格差、電気・精密業界は熟練技術者不足や技術継承・多様な労働力活用、食品・飲料業界は人手作業の自動化やフードセキュリティ、流通・小売業界は「個客」マーケティングやオムニチャネルでの経験価値提供といった具合だ。

 それらをどのようにITで解決していくのかが問われると松本はいう。IT投資用途の日米企業の相違を見てみると、日本は業務効率化やコスト削減などの「守りのIT投資」に向けられているのに対し、米国では製品・サービス開発強化やビジネスモデル変革などの「攻めのIT投資」であることがわかる。

「日本企業も攻めのIT投資の必要性を感じているものの、社内にITと業務を結ぶ人材がいない、情報システム部門による提案力不足、投資対効果が分からないなどの課題を抱えている」と述べる松本は、日本は過去20年間効率経営に偏り人材不足や組織の問題、組織の壁、経営幹部の認識不足、保守的な文化などに直面していると分析する。

活文MIEはナレッジ共有・業務効率化・セキュリティを満たす情報共有基盤

 次に松本は、トランザクティブ・メモリーについて話題を向けた。トランザクティブ・メモリーとは、組織の記憶力(経験によって学習した情報の蓄積)において重要なのは組織全体が同じ知識を記憶することではなく、組織内で“誰が何を知っているか”を把握することという考え方。その最大の障害は組織の壁である。したがって、組織内のコミュニケーションを太くし、インデックスカード(誰が何を知っているかを可視化できる環境)を活用して仕事の中から“Who knows what”を実現することが重要となる。

 但し、縦割りの組織や保守的な文化を持つ企業は多く、このような環境を実現することは困難といえるが、結果的にITを活用してトランザクティブ・メモリーを実現した事例を紹介した。

 ある損害保険会社では、お客様のニーズに対応した商品開発/サービスの開発を行うため、お客様接点情報を持つ代理店と情報を共有するためのコミュニケーション環境を構築した。ただ、その環境を積極的に利用してもらうためには損害保険会社が代理店に頼られる情報力やノウハウを持つ必要があり、コミュニケーションデータを収集・分析する情報戦略として「活文 Managed Information Exchange」(活文MIE)を導入。代理店ごとのコミュニティを作り、検索や商品情報の提供、契約書の送付、アドバイスなどを活発化するとともに、コールセンターやCRM、コミュニケーションデータなどのデータベースからテキストマイニングをかけ、商品別回答パターンや支払対応基準、消費者ニーズ、生活スタイル予測などを分析していく過程で、副次的に各分野に詳しい人を抽出した。

「活文MIEは、ナレッジ共有、業務効率化、セキュリティの3つの要件を満たす情報共有基盤で、コミュニケーション記録、コンテンツ管理、高速転送、セキュリティの各機能を備える」と松本は説明する。

 また、分析オプション「活文Social Market Manager」(活文SMM)も紹介。活文のデータのみならず既存データ(メール、CRM、コールセンターシステムなど)の情報を活文に取り込み分析する。ユーザーの利用頻度の高いキーワードを抽出し「ワードクラウド」で表示したり、指定したキーワードを最も多く発信している人およびチームを表示したりすることもできる。

 さらに、活文MIEとビデオ会議システム「Vidyo」を連携させることも可能で、活文MIEを活用したテキストベースのコミュニケーションでは解決が難しい緊急時は海外の社外パートナー企業などとFace to Faceのコミュニケーションを行い、ビデオ会議記録とコミュニケーション記録を動画として保存するとともに、コンテンツ管理機能で保存した動画をその場で高速転送して共有することもできる。今後は、動画情報からテキスト情報を抽出して活文でテキスト検索が可能な機能の開発を検討中だという。

情報共有の投資対効果は年間最大で7000万円にもなる試算

 ある金融会社の事例では、営業活動においてお客様からの質問や要望にワンストップで回答することが課題となっていた。社内のさまざまな分野の有識者を知る手段がなく、従業員データベースを構築するも真のスキルをデータベースに反映することが困難で、結局は営業担当者個人の経験やスキルに依存した形になっていたという。そこで同社は、活文MIE+Vidyo+活文SMM+αを活用することで、メールシステムやCRM、社内SNSなどから既存データの収集・分析可能な環境を構築し、キーワードから有識者を表示するシステムを実現。また、動画データの音声をテキストデータに変換してその分析も行っている。社内の有識者に簡単にアクセスできる手段を作ることでワンストップでの回答が可能になったほか、ビデオ会議システムを通じて有識者が直接お客様に商品の特徴やメリットを的確に伝えることも可能にしたという。

 こうした情報共有の投資対効果を試算した結果もある。日経BPコンサルティングが2015年3月に行った大手~中堅製造業の設計・開発、生産部門の勤務者を対象とした「情報共有の現状と課題」をテーマにしたアンケート調査では、他の拠点との情報交換手段は96.1%が電子メールと答え、大容量ファイルの送信やセキュリティを約9割の人が手間と考えている。電子メールの誤送信も約4割が経験。大容量ファイルの送信や電子メールの利用で無駄にしている金額は月に2万円に達し、電子化で代用できる出張交通費・宿泊費は月に3.8万円にもなるという。

 最後に松本は、「1人あたり月に5.8万円の無駄があり、従業員100名で取り組めば年間で最大7000万円のコストを削減できる」とメリットを強調し、セッションを終了した。

【特別講演】
オープンイノベーションを実現したユニファイド・コミュニケーション&コラボレーションの事例紹介

加藤 篤史 氏
丸紅情報システムズ株式会社
金融・情報サービス事業本部
Vidyoソリューション室
副室長 加藤 篤史 氏

 特別講演では、丸紅情報システムズ株式会社(以下、MSYS)の加藤氏が登壇し、これまでの概念を覆す新たなユニファイド・コミュニケーション&コラボレーションを先進的に導入した取り組み事例を紹介した。

社内に経験や人材がいない場合は企業間ワーキングチームの創設が有効

 最初に加藤氏は、今回のメインテーマであるオープンイノベーションの背景について説明した。オープンイノベーションとは、他社や大学などが持つ技術やアイデア、サービスなどを組み合わせて、革新的な製品開発やサービス開発につなげるイノベーションの方法論のこと。この言葉が注目されている理由には、これから日本が直面する超高齢化社会における労働人口の激減に対する危機感がある。現在の労働人口6500万人が2030年には333万人ほど減少する予測もあり、従来の正社員を中心とした長時間勤務ではもう労働力を支えきれないという意見もある。また、あるITアナリストは、ITを戦略的に活用(投資)できない企業は10年後に約4割が姿を消すと予想しているという。

「最近は同じ業種の会社が多いと感じるし、儲かる商材には各社が群がるので厳しい競争状態になっている」と加藤氏は話す。そこで同氏は歴史を振り返ってオープンイノベーションを取り入れた戦略の事例を紹介した。天正3年5月21日(1575年6月29日)の長篠の戦いでは、種子島(火縄銃)を採用する織田信長と、旧来の騎馬隊を編成する武田勝頼が戦い、織田側は鉄砲3000丁による新戦法三段撃ち(オランダ総督、オラニエ公が編み出した戦術)を導入し、武田側は従来通りの騎馬隊で応戦。結果は(諸説あるが)織田側の損害60人未満に対して武田側の損害は1万人以上となり、この敗戦を境に武田家は滅亡に向かった。外国の武将が編み出した三段撃ちを柔軟に取り入れて革新的な戦いを実践した織田信長は、まさに日本におけるオープンイノベーションの先駆者といえるだろう。

 そこで加藤氏は、改めてイノベーションという言葉の定義について考察した。企業イノベーションとは革新的技術や製品、ビジネスを生み出すことで、それを知っている人と人とのチームで創出される。オーストリア=ハンガリー帝国の経済学者ヨーゼフ・アロイス・シュンペーター氏(1883年~1950年)は「新しい製品、ビジネスを作ることは新しい組み合わせを行うこと以外にない」と述べている。では、組織として“知っている”ということは実現可能なのか。経験の蓄積と生産性・合理化を軸としたラーニングカーブで見ると、組織は過去の経験から学習するのではなく、個人の経験から組織学習していくということが分かる。しかし、経験を蓄積させるまでの時間はあるか? 社内の学習済みの人材を活用できるか? という課題に直面するのだが、今後急速に勤労人口が減少し、縦割り組織の日本では難しいのが現実だ。加藤氏は、「それが無理ならば、企業間でのワーキングチームを作っていく方法がある」と教える。

オープンイノベーション実現にはユニファイドコラボレーションが鍵

 一旦話題は、ITを戦略的に活用している企業の実態に移った。経済産業省発表の「平成26年情報処理実態調査」によると、ITを活用していない企業(42.7%)、一部の事業部門に止まる企業(34.4%)を合わせて77.1%の企業が“攻めのIT経営に”取り組めていない実態が明らかとなった。反対に取り組んでいる企業は22.8%に止まる。攻めのIT投資の中身については、1位:IT人材育成、2位:クラウドの利用、3位:スマートデバイスの業務利用という結果になった。

 では、なぜ攻めのIT投資が必要なのだろうか。加藤氏は、1)顧客ニーズの多様化、2)製品ライフサイクルの短縮化、3)グローバル化による競争構造の変化の3つの要因を挙げる。これらを実現するには社内のスタッフでは実現困難であり、社内外のスペシャリストを擁立して、即断即決で新規ビジネスを創出することが重要だと指摘する。それを可能にするのがオープンイノベーションだが、企業間で実現するにはコミュニケーション不足、プロセス管理、セキュリティ強化などが課題になる。したがって、コミュニケーション不足にはビデオ会議システムを活用して強化し、プロセス管理にはチャットと情報管理システムの活用、セキュリティについてはなりすましを防ぐためにシングルサインオンやワンタイムパスワードなどを実装していけばいいと加藤氏はいう。しかし、これらを一元的に実現するITソリューションは少ないため、ユニファイドコラボレーションが鍵となる。

「MSYSのソリューションには、『活文MIE』を筆頭に、チャットコミュニケーションツール、シングルサインオン、仮想プラットフォーム、エンタープライズストレージ、クラウドなどがある」と紹介する加藤氏は、その中で、ビデオ会議システム「Vidyo」を詳しく解説した。Vidyoは、未上場のベンチャーながら米国防総省を含め4,000社以上に導入実績を持ち、数多くの特許技術を有する。インターネットでの多地点HD接続を世界で最初に実現したのも同社だ。Vidyoの映像インタラクティブ技術はGoogle社のSNS「Google ハングアウト」や任天堂の「Wii U」などにも採用されている。インドのIndusInd Bankは、組み込み型の「VidyoWorks」を活用することでオンラインバンキングシステムをわずか45日間で開発。1日あたり400人がアクセスし、リピート率も65%に達しているという。こうしたVidyoを活用したエンゲージメント事例は加速しており、Barclays PLCのビデオバンキングやAmazon社のカスタマーサポート「Mayday」、Salesforce.comのQ&Aサービスなどにも広がっている。

端末やネットワーク環境を把握し動的に映像品質を最適化するVidyoの特許技術

 Vidyoは、特許技術によりインターネットでつなぐ先の回線状況を監視して最適な画質・音声を維持するほか、既存のインフラのままで4K画質(現在5K)にも対応し、各ストリームを等倍の解像度で表示する強みを持っている。特に医療業界で遠隔診断などに活用されている例も多いという。構築も簡単で、VMwareの仮想基盤の上にソフトウェアをインストールするだけ。スマホやタブレットの内蔵カメラでも利用でき、オプションのゲートウェイソフトを導入すれば他社のビデオ会議システムと連動することも可能だ。

 Vidyoが高画質を実現している背景には最新の映像符号化標準「H.264 SVC」(Scalable Video Coding)への対応がある。H.264 SVCは、複数のストリームを生成する階層符号化を行いビットレートに応じて異なる品質の映像を再現するため、ゆらぎの極めて少ない映像の継続的な送受信が可能となっている。

「他社の従来型ビデオ会議システムでは、多地点接続時の処理における遅延や品質劣化が避けられず、専用ネットワークと高価なハードウェアで構築しなければならないが、映像数や端末数が増えると拡張時に追加のコストがかかる。Vidyoはエンコード(圧縮)とデコード(解凍)をデバイス側で処理させるため、低遅延で高画質な多地点会議を実現でき、ハードウェアやネットワークの初期コストを削減することができるメリットがある」と加藤氏は強調する。

 Vidyoの特許技術についても紹介された。「Adaptive Video layering」という技術は、各端末の性能や接続しているネットワーク環境を常に把握し、動的に映像品質を最適化するため、さまざまな端末・環境が混在しても他に影響を与えず高品質な通信を実現するという。

 その他、各種オプション機能も豊富だ。「VidyoRoom」はエンコードとデコードを行う専用のアプライアンスで、ワンクリックで多地点接続を開始できる4K対応製品。「VidyoPanorama 600」はインターネットで高画質のマルチスクリーンテレビ会議を可能にするシステム。「VidyoReplay」は録画やWebストリーミング配信を可能にし、研修やセミナーに利用できるソリューションとなっている。

活文とVidyoの連携でB2Cアプリや音声・画像認識機能の開発を計画

 さらに、Vidyoは活文MIEとの連携も得意としている。Microsoft Outlook側や活文側からVidyo会議を招集することが可能で、チャット機能で会議内容をメモしたり、活文の画面を共有したり、チャット内容を振り分けて議事録を作成したりすることもできる。例えば、Vidyoの議事録アプリで記録した会議内容を保存時に活文の記事本文としてアップロードし、録画URLも併記するという使い方だ。これらを支えるストレージには、MSYSは信頼性とコストパフォーマンスのバランスのいい「NetApp E2700」(2.2TB、HD録画約2500時間)を推奨しているという。

 Vidyoを活用した事例には、地方のクリニックが患者の診察状況映像を病院の専門医師と共有して診断のアドバイスを仰ぐ遠隔診断支援システムや、損害保険会社が保険申請のワークフローにVidyoを統合したシステム、聴覚障がい者向けに手話サービスを行う手話通訳システムなどがある。

 誰が、何を知っているのかの情報を一元管理する活文MIEと、高精細度化をソフトウェアによるスケールアウト方式で解決するVidyoを連携活用することで、今後、B2C(コンシューマ向け)のアプリケーション開発や、Vidyo+活文MIEのクラウドでの利用、音声・画像認識、グローバル展開などを計画しているという。

 最後に、加藤氏は本フォーラムのテーマでもある“ケイパビリティ”というキーワードを示し、「ケイパビリティとは組織的能力のこと。誰が、何を知っているのかを知ることであり、社内で知っている人がいなければ社外で探すことも必要で、分かった情報をしっかりと管理し、それを組織で共有することが重要だと考えている」と語り、特別講演のまとめとした。

【基調講演】
グローバル市場で戦う企業のコミュニケーション情報共有
~韓国企業の多言語、多文化コミュニケーション~

趙 章恩 氏
株式会社KDDI総研
特別研究員、ITジャーナリスト
趙 章恩 氏
【講師プロフィール】

韓国ソウル生まれ。韓国梨花子大学卒業。東京大学大学院学際情報学修士、東京大学大学院学際情報学府博士課程。KDDI総研特別研究員。韓日政府機関の情報通信分野委託調査や韓国IT視察コーディネートを行っている「J&J NETWORK」の共同代表。
韓国IT情報専門家として、数々の講演やセミナー、フォーラムに講師として参加。日刊紙や雑誌の寄稿も多く、「日経ビジネス」、「日経パソコン(日経BP)」、「日経Robotics」、「日経デジタルヘルス」、「ダイヤモンドオンライン」、「ニューズウィーク日本版WEBコラム」、「月刊ニューメディア」、「週刊エコノミスト」、「リセマム」等に連載中。朝日新聞「月刊ジャーナリズム」、「日本デジタルコンテンツ白書」等にも寄稿。韓国・アジアのIT事情を、日本と比較しながら分かりやすく提供している。

 基調講演では、KDDI総研の特別研究員でITジャーナリストの趙氏が、グローバル市場で戦う企業が社内外とのコミュニケーションをより良くするための参考となる韓国のIT事情や、韓国の多言語・他文化を受け入れるコミュニケーションなどについて解説した。

国民の85%以上に普及したスマートフォンが社会のスマート化を加速

 冒頭で趙氏は、韓国の最新IT動向を紹介した。韓国では今、AI(人工知能)開発のムーブメントが起きておりAIを搭載したロボットやデジタル秘書などのAI関連研究予算に投資する事例が増えているという。また、2018年の平昌五輪を「ICTオリンピック」とすべく、世界初の5G通信やホログラム中継などの商用化をめざしている。

 さらに、京畿道龍仁市のテーマパーク「エバーランド」では、サムスンのVR(仮想現実)技術を活用したアトラクションが人気で、多くの若者の関心を呼んでいるという。加えて、IPTVやVoD(ビデオ・オン・デマンド)の普及が進み、5チャンネル同時表示が可能なSTB(セット・トップ・ボックス)も登場。今年からはIoTが実用化し始め、スマホと連動したカメラ付きスマート冷蔵庫などが巷の話題を集めている。

 一方、産業界ではスマート工場が拡大し、サムスンが社会貢献の一環で中小企業にもその技術を分け与えようとしているほか、大型ディスプレイで髪型やファッションを合成するVR・デジタルサイネージの普及、スマホによる電磁式のクレジットカード決済の普遍化などが紹介された。

「こうしたスマート技術やサービスが登場しているのも、スマートフォンの高い普及率がベースにある。今は国民の85%以上がスマートフォンを所有しており、高齢者もSNSを普通に利用している」と趙氏は話す。MVNO(仮想移動体通信事業者)の格安SIMや中国製の格安スマホ、中古スマホの再販などが普及を後押ししているという。

 教育分野では、将来の大学受験に向けた児童向けタブレット端末が開発されるなどスマート教育に熱を上げる。また、外国人労働者の流入や国際結婚の増加によって学校での多文化教育も充実させており、多言語対応のデジタル教科書・参考書や補助教材が開発されているという。

韓国版マイナンバーはハッキングにより情報が流出し民間利用を厳しく規制

 その半面、趙氏は、「デジタル化やスマート化を進める中で、避けて通れないのがサイバーセキュリティへの対応だった」と話す。スマート冷蔵庫もスマホも、ハッキングの対象となり、特にランサムウェアによる被害届が昨年から30倍にまで増えているという。

 また、北朝鮮側からのハッキングが疑われる攻撃も増えており、銀行への侵入や、韓国軍人が所有するスマホをハッキングして軍のPCから情報を抜き取られるなどの被害も発生している。

 さらに、韓国では1960年代から住民登録番号(全国民が出生時に付与される識別番号)を運用しているが、これもハッキングされ尽くされて、違法なポータルサイトには数えきれないほど多い国民の名前・住所などの個人情報が公開されていた時代もあったという。その情報で身分証明書を偽造し、振り込め詐欺のための口座を作り犯行に利用する。そうしたサイバー犯罪を多数経験したことで韓国国民のセキュリティ意識が高まり、ウイルス対策ツール導入の徹底や怪しいメールは絶対に開かないといったリテラシーも向上しているという。

 趙氏は「日本のマイナンバーとは異なり、現在は住民登録番号の民間利用を厳しく規制する方向にある」と説明する。

外需頼りの経済と超就職難が韓国企業のグローバル化を促進

 次に趙氏は、韓国の企業環境について説明した。日本と最も異なるのは、人口が5000万人強のため内需がほぼ伸びず、輸出に頼った極端なグローバル経済であること。また、4年制大卒の約2割しか正社員になれない超就職難な状況にあり、ほとんどが非正規職で、常にリストラが実施されるため、近年は新卒から海外の企業をめざす学生が増えており、それをあっせんする会社も多いという。就職難の一方で、企業は即戦力を求めており、中途採用が増えたことで社内コミュニケーションの摩擦からトラブルも多発。随時のリストラで社員が頻繁に移動するため、どのように社内コミュニケーションを維持しプロジェクトを遂行させるかが大きな悩みとなっているという。

 企業がグローバル化すると、コスト削減のため韓国人の駐在員よりも現地法人採用の社員が増え、多国籍採用によるグローバル化がさらに進むという状況にもある。

 一方で、韓国政府は地域活性化を進めており、IT企業などが積極的にそれに応じて本社を地方に移転することでスマートワークの仕組みが発達し、同時に女性が男性と平等に働ける環境も整ってきているというメリットもある。

 韓国は、わずか1%の財閥系大手企業が全経済の99%以上を握る歪な経済構造のため、政府が中小企業と一緒に持続できる社会貢献を要求しているが、社内システムを連携して情報共有をする場合の権限設定などが管理上の課題となっている。

 さらに、リストラが常態化しているため、社員に解雇を通告すると産業スパイに変貌してしまう問題も深刻で、その防止のための仕組み作りや30日前の通告を前提とした細かい権限設定も懸案となっている。

グローバル化で多言語・多文化コミュニケーションと世界共通のITを構築

 そこで趙氏は、日立ソリューションズセッションの松本も取り組んでいる、共創プロジェクトの円滑な推進を阻害する3つの壁(組織の壁・管理の壁・国境の壁)を取り除いてビジネス競争力の強化につなげる施策に、韓国企業の事例(傾向)を当てはめて紹介した。

 韓国企業はグローバル人材の採用で、多言語・多文化コミュニケーションが必要となり、90年代から知識経営を実践しつつ、世界共通の社内ITシステムを構築してきた。HR(人事部)も外国人役員が担っている。その結果、社内共用語が英語になったのは強制ではなく自然の流れだったという。社内ITシステムも言語フリーで操作できるようアイコンを表意式にデザインし、特にID統合と標準コードの一貫性・正確性に配慮してどの社員でも理解できるようにした。また、韓国企業は仮想会議やビデオ会議を頻繁に活用し、社内の情報をデジタル掲示することでアイデアを共創している。ただその一方で、飲み会や食事会のようなアナログなオフラインコミュニケーションや、CEO直々による臨時の訓示も重視するという面もあり、組織の壁を乗り越える悩みという点では日本と共通しているという

 中でも、韓国企業が最も見直しを進めているのがSNSの活用だ。趙氏は、「業務に無料のメッセンジャーを活用し、早朝や深夜でも上司が部下に指示を出すというケースが頻出して大きな問題となった。その反省から、利用規程を見直し、平日夜の10時以降と休日にはSNSによる業務連絡を禁止する処罰規定も設けた企業や、勤務時間外に部下にSNSで業務連絡した上司を処罰する企業も出始めている」と説明する。

韓国はIT企業ほどオフラインコミュニケーションのイベントを重視

 趙氏は、具体的な企業の例を取り上げた。サムスン電子は、社内と社外とでデータを連携させる方法として、社内アイデアをプロジェクト化して結果を判定する「Creative lab」という社内制度と、役職員のアイデア提案を集団討論で発展させていく社内の集団知性システム「MOSAIC」(モザイク)を活用。また、2016年5月に全世界社内システムを旧来の社内イントラネット「My Single」から、モバイル向け業務効率化プラットフォーム「Knox Portal」に変更。スマートデバイス内のデータを自動的にオフィシャル用とプライベート用に分割して保管し、安全に社外からのアクセスも可能にすることで、モバイルベースの業務促進と情報セキュリティ強化を両立。管理の壁を乗り越えようとしている。

 また、サムスン電子は社内放送にも注力している。毎週1回、朝8時からプライベート放送局からコンテンツが放映され、それを全世界の社員が会社で視聴するというスタイルを守っている。CEOの今朝のひとことや、工場での新ラインが稼働開始したといった社員のモチベーションを高揚させるような内容が多いという。

 医薬品受託生産会社のサムスンバイオロジックスでは、社内全体で英語を使用するようにした結果、水平的コミュニケーションの醸成に役立ったという。

 サムスンディスプレイは、オフラインコミュニケーションを重視する傾向があり、社員皆で昼食をとる日や、皆でスポーツする日などを設けている。

 無料メッセンジャーサービスのカカオトークを運用するKAKAOは、2014年にポータルサイトのDAUMと合併した際に苦労しながら社内システムを統合し、役職整理のごたごたを回避するため、社員に英語名のニックネームで呼ぶことを強制した。そのおかげで、水平的コミュニケーションが実現し、合併時のぎくしゃくした雰囲気も解消したという。

「社員同士のコミュニケーションが少ないIT企業ほど、オフラインコミュニケーションのイベントを重視している傾向がある。その活動のためのオンラインコミュニケーションシステムも存在している」と趙氏は指摘する。

 韓国最大の携帯電話事業者のSKTelecomは、社内専門家を探し出してマッチングする社内システムの開発に注力してきた。入社時の適正試験で得た特性データから会計知識のある人材やプログラミング能力のある人材などを社内専門家として登録し、常に評価を継続していくことで、例えば会計管理のシステムを開発する際などにプロジェクトに招待する目的で活用する。同社も社内放送を社内専門家探しの手段として利用しているという。

複雑で変化の速い環境でコミュニケーションを保つ方法を常に模索

 韓国企業は、多言語・多文化の社員が多く、全世界に支店を持ち、人の出入りが激しく、常にリストラがあるなど、複雑で変化の速い環境でどのようにコミュニケーションを保てるのかについて、いつも模索していると趙氏はいう。

 そのため、今後韓国では人間の学習能力と同様の機能をコンピュータで実現する「機械学習」に注目している企業が多い。システムが自動的に社員の動きを感知し、追加開発やメニューの新設などを行ってくれるのを期待している。だが同時に、役員や社員がこのイノベーションに乗れるように社内教育や最新IT技術の習得のほか、他社と協業できるプラットフォームを作っておくことも必要となっている。

 趙氏はまた、検索アルゴリズムの適用や、上司や部下・同僚や仕事上で関連する他部署の人が評価する360度フィードバックの導入、AI秘書、コグニティブシステム(膨大なデータを理解して学習し目的を持って推論するコンピューターシステム)、リアルタイム通訳機能も社内システムに取り入れていくだろうと予測する。

 最後に趙氏は、「イノベーションを創出する基本的な仕組みを作り、時代の変化、技術の変化を貪欲に取り入れていくのが韓国の現状」と語り、基調講演を終了した。

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