講演レポート:第88回 AIで挑む新たな情報セキュリティ戦略|Prowise Business Forum in Tokyo|システム構築やトータルソリューションをお探しなら、日立ソリューションズをご利用ください。

株式会社 日立ソリューションズ

Prowise Business Forum in TOKYO 第88回

AIで挑む新たな情報セキュリティ戦略
~未知のサイバー攻撃への対策の真髄~

 セキュリティ犯行の手口は、日々高度化しており、新しいタイプの攻撃が後を絶ちません。攻撃側と守る側は同じ応酬の繰り返しになっているのが情報セキュリティの実情です。新しい手口への対策が後手になりがちな守る側にとっては、“未知”の脅威への対策こそが、情報セキュリティ戦略の真髄であると考えます。未知の脅威への対応はさまざまな手段がありますが、私たちはAI(人工知能)に着目しました。AIの本質はディープラーニングによるパターン認識であり、情報セキュリティの分野に応用することで未知の脅威を抑止し、真の安全・安心なビジネスの環境をもたらすことができると期待されています。
 本フォーラムでは、情報セキュリティを取り巻く現状を整理し、AIによる対策の展望を考察しました。

開催概要

日時 2016年7月14日(木) 14:00~17:30 (13:30 受付開始)
会場 東京都港区港南2-18-1
JR品川イーストビル20F セミナーホール
主催 株式会社日立ソリューションズ

【日立ソリューションズセッション1】
最新のサイバーセキュリティ動向と取るべき対策について
~ホワイトハッカーの視点から~

池内 丈人
株式会社日立ソリューションズ
セキュリティソリューション本部
トータルセキュリティソリューション部
技師 池内 丈人

 日立ソリューションズセッション1では、標的型攻撃やランサムウェアなどのサイバー攻撃の脅威に対して、私たちはどのように安全・安心な未来に向けて対策していくべきなのかについて、AI(人工知能)の活用など最新の事例を交えて考察した。

ホワイトハッカーが注目するサイバー攻撃リスクの概念

 始めに、池内は自身の所属する「セキュリティエキスパートグループ」について説明した。セキュリティエキスパートとは、セキュリティソリューション本部の組織の中の「セキュリティスペシャリスト」をベースとした「高度なセキュリティ技術者」よりもさらに高度な「ホワイトハッカー」というカテゴリに属する人材を意味し、「“プロに頼られるプロ”として社会に貢献するミッションを負っている」と池内は紹介する。そのため、今回のセッションでは、池内がホワイトハッカーの視点でセキュリティの動向と対策についてさまざまに語る方式で進められた。

 サイバー攻撃のリスクがどのレベルで認識されているのかについて、池内は世界経済フォーラム(World Economic Forum)が発表した「The Global Risks landscape 2016」というチャートを引用した。それによると、サイバー攻撃が発生する可能性は水資源の危機と同等で、そのインパクトは食糧危機と同じ程度の影響度だと評価されている。また、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が2016年4月に公開した「情報セキュリティ10大脅威 2016」では、個人に対する脅威の上位に、「インターネットバンキング情報の不正利用」や「ランサムウェアを使った詐欺・恐喝」などが挙げられたが、池内は、「これらは個人の意識・知識の増強により、ある程度は防げるものだと思う」と冷静な見方を示す。

 さらに、池内は今年発生したセキュリティインシデントを紹介した。まず海外においては、各種アカウントの大量流出、ランサムウェアへの感染、ATMマルウェア、銀行間の不正送金、医療用システムの脆弱性などが報道で注目された。一方、国内ではアカウント流出やランサムウェアなどは海外事例と共通だが、特定の企業・業種への標的型メール攻撃、CMS用プラグインからの情報漏えい、サーバーへの侵入による顧客情報の大量流出、教育情報システムへの不正アクセスなどがメディアなどで大きく取り上げられた。

 加えて池内は、サイバーセキュリティに関して米国大統領の特別顧問を務めたRichard A. Clarke氏が2011年に提唱した “CHEW”(チュー)という概念にも言及した。CHEWとは、C(Crime:金銭を主目的とした犯罪)、H(Hacktivism:ハクティビズム。信条などに基づいてハッキングを行う活動。Activism(積極行動主義)とhack(ハック)を組み合わせた造語)、E(Espionage:スパイ・国家や企業を標的として重要情報を窃取する諜報活動)、W(War:軍事施設や重要インフラなどの物理的破壊をもたらす戦争)の4つの概念でサイバー攻撃リスクの起源を分類・説明したもので、池内は「2016年の今でも十分に通用する概念だと思う」と評価する。

セキュリティの最大の弱点は人間

 池内によるホワイトハッカーの視点は続く。次はサイバー攻撃の目的について。その一番多いのは金銭目的だという。ランサムウェアや、銀行間決済インフラを提供する国際銀行間通信協会(SWIFT)の銀行間通信の悪用などの直接的なものや、ブラックマーケットでの情報売買やATM・決済端末のスキミングなどの間接的なものも存在する。

 金銭の次に多いのが機密情報の窃取だ。サーバーへの侵入、物理的な侵入、長期間在籍のスパイによる情報窃取などの直接攻撃のほか、標的型メール攻撃、ソーシャルエンジニアリングなどの標的型攻撃によるものなどがある。

 標的型攻撃の手口としては“Attack Surface”(攻撃され得る界面)という言葉を池内は示し、「最大の弱点は『人間』であり、人をターゲットとすることで重要情報へアクセスが可能になり、言われた通りに動かない、あるいは動けない、騙されやすい、いつも同じには動けないといった弱みがある」と指摘する。人は、業務上どうしても内容確認が必要な書類や、問い合わせ窓口とのやり取り、名刺交換後のスケジュール確認などでファイルが送られて来ると無警戒に開いてしまうという曖昧さがある。

「しかし、知識や知能を持ち、考えて動けるのも人であり、直感を働かせることができるのも人。希望はある」と池内は期待する。脅威に対応していくためには、今そこにある脅威を「知り」、脅威・攻撃に「備え」、攻撃されたことを「見つけ」、適切に「動く」ことが大事だという。それらについて、池内は詳しく解説した。

 まず「知る」とは、OS・プラグインは適切にアップデートしているか、不用意に公開しているサーバー・アプリケーションはないか、正当に公開しているサーバーは安全か、運用規則を定めているかなど、システムの現状(弱点)を把握すること。そのためにはセキュリティ監査やセキュリティ診断を受けたり、公開情報(インターネットに接続されている機器やサーバーの検索エンジンの「SHODAN」など)を活用したりすることも有効だ。

 また、IPAや警察庁、JPCERT/CCなどの公的機関からの公開情報、各種セキュリティ関連ブログ、セキュリティ以外の政治経済情勢、イベント、社内・会社間・業界内などのさまざまなソースから情報を収集し、収集した情報から世界や国内で起っていること・傾向(今後の脅威)を噛み砕き、噛み砕いた情報は社内や会社間、業界内に展開していくことが重要だという。

インシデントは起こるものと考え迅速に見つけ適切に動くことが重要

 次の「備える」には、現状の把握結果を反映して攻撃の経路・シナリオを想定し、境界・領域ごとに防御する多層防御という考え方がある。攻撃検知防御や、改ざん検知、ディセプション(おとりで騙す方法)といった方法で、公開サーバー、メール、無線LANアクセスポイント、外部/内部ネットワーク、エンドポイントなどを防御していく。OSやソフトウェア、プラグインなどの定期的なアップデート、緊急アップデートに対応することも必要だ。

 バックアップも備えることのひとつ。3-2-1ルール(別々の場所に3つコピーを取り、そのうち2つは異なる媒体で、少なくとも1つは離れた場所にバックアップする)という方法や、バックアップの手順、リストア手順を整備したり、リストアするまでのリハーサルをしたりすることで運用を確認する。

 ほかにも、ログ取得(取得対象、保存期間を考慮)やログの解析(攻撃兆候の監視)、インシデント対応態勢の整備・教育・演習なども行うべきだと池内はいう。

 さらに「見つける」・「動く」とは、インシデントは起こるものと考え、いかに迅速に見つけることができるか、またいかに適切に動くことができるかを考えること。インシデントは、検知・通信・サービス・監査の各種ログやUEBA(User Entity Behavior Analytics:ユーザーの振る舞いに加えエンドポイントやネットワーク、アプリケーションなどのエンティティの挙動も分析し、その相関関係で分析結果の精度を高める方法)などから検知するほか、運用業者やサービス事業者などからの通報(連絡)でも検知することができる。

「UEBAなどの分野は人工知能や機械学習などが効果を発揮するため、それらを活用した製品が続々と登場している」という池内は、AIの可能性に期待する。

 また「動く」では、インシデント対応のフェーズも大事な要件だという。初動フェーズ(被害拡大の抑止、証拠の保全、社外へのアナウンス)、分析・復旧フェーズ(業界によっては機密性や完全性よりも可用性を最優先する)、後処理フェーズ(事例として社内外に情報を展開する)などの対応を推奨する。

 最後に池内は、「全ての人が安心して暮らせる世の中や、私のような者が早く帰宅できる世の中になることが一番幸せな状態だと思う。それに向けて今後も鋭意取り組んでいきたい」と抱負を語り、セッションを終了した。

【日立ソリューションズセッション2】
AI(人工知能)で実現する情報セキュリティ対策の全容

真島 秀一
株式会社日立ソリューションズ
セキュリティソリューション本部
先端セキュリティ開発部
グループマネージャ 真島 秀一

 日立ソリューションズセッション2では、AI(人工知能)を利用した独自のアルゴリズムにより画期的なアプローチで実現するマルウェア対策ソリューションが紹介された。

マルウェアは「未知」も「既知」もセキュリティリスクは同じ

 標的型攻撃やゼロディ攻撃、ランサムウェア、水飲み場攻撃、ドライブ・バイ・ダウンロードといったサイバー攻撃はさまざまな手法が登場しているが、その多くがマルウェアを攻撃の基本としている。マルウェアはサイバー攻撃の最初のきっかけであり、情報を送り出したりバックドアを仕掛けたりして機密情報を窃取する危険なツールではあるが、逆に考えれば、攻撃者はマルウェアの侵入なくしては何もできないといえる。

 マルウェア対策は、ファイアウォールやIPS(侵入防止システム)/IDS(侵入検知システム)、URLフィルタリング、プロキシといったセキュリティゲートウェイ製品を導入して多層防御することが一般的ではあるが、メールやファイルのやり取りは日常業務で欠かせないため、それらがゲートウェイを通る「穴」を狙ってマルウェアが侵入してしまう。

「従来型のネットワークセキュリティ対策およびパターンマッチング方式にて多層防御を実現しても、未知のマルウェアは防ぐことは困難。侵入を前提とした対策を基本とし、マルウェアの実行を防止することで情報を流出させない対策が必要」と真島は語る。

 また、マルウェア感染リスクへの対処はエンドポイントでの対策が重要だという。現在のセキュリティトレンドはエンドポイントセキュリティに注目も投資も集まっている状態だと真島は打ち明ける。

 さらに、マルウェアは「未知」も「既知」も同じセキュリティリスクがあり、その枕詞に引っ張られてはならないという。

「既知のマルウェアは一握りで、世の中の大部分のマルウェアは未知もしくは亜種である。既知のマルウェアという表現も誰にとっての既知なのかも曖昧だ。既知も未知も亜種も同じマルウェアなら、1つの製品で全てを対策できた方が便利で効率的ではないだろうか」と真島は問いかける。

機械学習による先進的な検出エンジンを採用し平均99%以上の検出率を達成

 そこで真島が推奨したのは、機械学習による検出エンジンを搭載し、エンドポイントで未知マルウェアの脅威を抑止する次世代マルウェア対策サービス「CylancePROTECT」(サイランスプロテクト)だ。CylancePROTECTは、人工知能(AI)技術を利用した独自のアルゴリズムで非常に高い検知率を実現し、パターンファイルを必要としない方式とクラウド環境による集中管理で運用負荷を軽減するのが特徴のクラウド利用型サービスである。

 2012年創業のCylance社は、米国カリフォルニア州アーバインに本社を置き、北米を中心として1,000以上の顧客に450万以上のライセンスを販売する実績を持っている。2016年4月に、日立ソリューションズと日本初の代理店契約を結んだ。

 従来のマルウェア対策製品の課題には、未知のマルウェアに対応できないため情報漏えいのリスクがあり、パターンファイルは日々配信されるものの管理者がチェックする負担が大きい。また、別途管理サーバーを設置する必要があるので維持管理コストがかかる上に、端末内スキャン時に負荷がかかるため、PCの動作が重くなり業務への影響も少なくない。

 一方、CylancePROTECTは、機械学習によるモデルを活用した検出エンジンにより、マルウェアの共通的な特徴から既知か未知かを意識せず高精度な検知が可能なためセキュリティリスクを低減でき、パターンファイルも不要なので管理者の負担は大幅に減少する。また、クラウド型サービスのため初期投資や維持管理コストは極力少なくできる上に、軽量なスキャンを実現したことで業務への影響は非常に小さいというメリットがある。

 真島はCylancePROTECTの特徴をさらに詳しく述べた。第1の特徴は、機械学習による先進的な検出エンジンの優秀さだ。収集した10億以上におよぶ大量のファイルから約700万の特徴を抽出し、AIを活用してマルウェアと判断するルールを学習する。その後、学習したルールに則って新しいファイルの特徴を数ミリ秒単位で多次元空間モデルをマッピングし、マルウェアを高精度かつ高速に予測し検知する。ファイルを動かす前にファイルの構造(バイナリデータの特徴)から予測するため、見逃してしまう可能性はゼロに近いと真島はいう。

 Cylance社が全米各地で公開実施しているデモの検証結果によると、24時間以内に作られたマルウェアの検出率は平均99%以上を達成したという。

マルウェア作成直後からタイムラグなく未知のマルウェアを検知

 第2の特徴はパターンファイルに頼らない検知方法。パターンマッチング方式製品のようにパターンファイル配信のタイムラグがなく、マルウェア作成直後から未知のマルウェアが検知できるほか、パターンファイルの更新が不要なためオフライン環境でも動作し、海外出張中の業務やモバイルワークなどを安全に実施することができる。

 第3はクラウド環境による運用管理コストの低減。CylancePROTECTの管理コンソールは全てクラウドで管理されているため、分散拠点でエンドポイントがばらばらに存在していても本社から各種情報(マルウェアの感染状況、ホワイトリストの配布状況、端末の状態など)を一元管理が可能なほか、クラウド利用型なので社内ネットワークから離れた出張先でも安定して動作するのが大きな強みとなる。

 第4は軽量な動作。従来のマルウェア対策製品は定期的なディスクスキャンやファイル保存時のリアルタイムスキャンなどを一斉に実行するため、端末のCPU使用率を占有し、動作が遅くなって業務を阻害してしまう。CylancePROTECTはファイルをダウンロードする際にスキャンを行うが、スケジュールに基づいて順次実行するため、負荷が分散されてCPU使用率も占有せず、端末への影響は極力少なくできる。

45分以内に30以上のマルウェアを検出したCylancePROTECTの事例

 次に、CylancePROTECTを活用した事例がいくつか紹介された。全米に400拠点、1万台の端末を保有するヘルスケアサービス会社では、マルウェア検知後の対応業務が増え続け、十分なリスク低減ができない状態となっていたが、従来のマルウェア対策製品をCylancePROTECTに入れ替え、事後対応によるアプローチからマルウェア感染を防御する事前対応に方針を転換したところ、全ての端末のマルウェア対策が強化できたという。

 また、全世界に200拠点の店舗と5,000台の端末を抱える小売業では、POS決済サーバーにマルウェアが侵入して数百万のクレジットカード情報が盗難されたことをきっかけにCylancePROTECTを導入。既にPOS端末に侵入していたマルウェアも検知するなどの効果が得られた。

 さらに、ニューヨーク証券取引所に上場している保険会社は、社内の多数の端末にマルウェアが感染。他社マルウェア対策製品が導入された環境にCylancePROTECTを入れて比較したところ、45分以内に30以上のマルウェアを検出し、CylancePROTECTの本格導入が確定した。

 加えて、7,500名の学生を抱える大学では、パターンマッチング型のセキュリティ製品を導入していたが、校内の端末がメール経由でランサムウェアに感染し被害が拡大。CylancePROTECTを評価導入したところ4週間で約30台の端末に未発見のマルウェアを発見し、その機能の高さが評価され、全面的にCylancePROTECTの導入が決定したという。

既存製品とCylancePROTECTを比較できる無償の診断サービスも実施

 その後、真島はCylancePROTECTの機能詳細を紹介した。中でも、簡単に早く導入できることがユニークだと強調した。インストールは3~4クリックするだけのわずか数分で完了し、管理者がサイレントインストールすることも可能だという。エンドポイントをインターネットに接続すればポリシーが自動的に適用されるので、5~10分程度で利用可能になる。また、Cylance社が運営するクラウドサービスとして提供されるため、自社にサーバーを構築する必要はなく、構築やメンテナンスは不要。あまり知識のない管理者でも負担なく運用することが大きなポイントだという。

 さらに、既存のマルウェア対策製品とCylancePROTECTとを比較できるようにするため、日立ソリューションズではお客様環境で実施する30日間の無償セキュリティ診断サービスを実施していることも紹介された。未知・既知のマルウェアが潜んでいないかをチェックする脅威の検知や、検知したマルウェアの詳細や特性を解説してセキュリティ対策の指標にできる評価レポートの発行、本番導入に向けた移行サービスなどが利用できる。

 真島は最後に、「現状のセキュリティ対策に不安を感じたり、ウイルスソフトの有効性に疑問を感じたりした場合には、ぜひCylancePROTECTをお試しいただきたい」と語りかけ、自身のセッションを終了した。

【基調講演】
AI(人工知能)の現状と展望

小林 雅一 氏
株式会社KDDI総研
リサーチフェロー
小林 雅一 氏
【講師プロフィール】

1963年、群馬県生まれ。情報セキュリティ大学院大学客員准教授。東京大学理学部物理学科卒業、同大学院理学系研究科を修了後、雑誌記者などを経てボストン大学に留学、マスコミ論を専攻。ニューヨークで新聞社勤務、慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所などで教鞭をとった後、現職。著書に「AIの衝撃 人工知能は人類の敵か」(講談社現代新書、2015年)「クラウドからAIへ アップル、グーグル、フェイスブックの次なる主戦場」 (朝日新書、2013年)など多数。

 1950年代に世界的な研究開発が始まったAI(人工知能)は、今、第3の波を迎えつつある。基調講演では、KDDI総研の小林氏が、生まれ変わった最先端AIの基本的な仕組みを解説し、それが自動車やロボットなどの産業界にどんな影響を及ぼすかについて考察した。

脳科学の成果が本格的に導入されていくAI研究

 AI(Artificial Intelligence)とは、さまざまな知覚、思考、推論、記憶など、人間の知的能力をコンピュータや各種マシンによって代替する技術のことで、具体的にはそれらに搭載される高度なソフトウェアを指すことが多い。

 小林氏は「高速計算や大量データ処理などコンピュータの長所と、人間の柔軟な知能を合わせることができれば、きっとすごいものが生まれるのではないかという考えからAIの開発は始まった」と説明する。1950年代にアメリカで研究開発が開始され、当初はルールベースや記号処理型のAIが研究されたが、それが期待外れに終わると、長期に渡ってAIの研究は中断する。それが「AIの冬」と呼ばれる時代だ。1980年代にAIは再び盛り上がったが、これもやがて廃れた。

 その後1990年代の後半に統計・確率的なAIが登場して、「ベイジアン・ネット」「隠れマルコフモデル」「サポート・ベクター・マシン(SVM)」などの解析手法が開発され、ビッグデータを統計的に処理することで人間の知的な情報処理に近い形を擬似的に実現できるようになった。その流れが現在に続いている。昨今、世界的なブームを巻き起こしている自動運転車などはその一例だ。ただし、そこに搭載されているAIは、人間が考える方法とは全く別のやり方で考えるため、その限界も指摘されている。「今後は脳科学の成果が本格的に導入されていくだろう」と小林氏は予測する。

AIは既存の成熟化した産業を再び活性化する切り札になるか

 AI技術の具体例としては、音声認識(人間の話し言葉を文字に変換する技術)や、画像認識(画像を認識して人物や物体など対象物を特定する技術)、自然言語処理(音声操作、音声検索、機械翻訳、セマンティック検索など)のほか、マシン・ビジョン(ロボットや各種マシンに工学的な視力を持たせる技術)、機械学習(コンピュータや各種マシンがビッグデータなどを解析して学習する技術)、確率的推論(機械学習などの成果を使って物事の相関性や因果関係を確率的に推論すること)などが要素技術と挙げられる。

 今後、AIの応用が期待されている産業としては、家電(掃除ロボット、スマートTV)、自動車(ドライバー支援システム、自動運転車)、軍事(無人航空機、兵士支援ロボット)、医療・介護(代理ロボット、介護ロボット、医師支援システム、院内搬送ロボット)、金融・投資(HFT:コンピュータを使った金融市場での高速売買などの自動取引やヘッジファンドの資金運用システム)、法律(証拠文書の解析ソフト)、農業(スマート・アグリ、農作業支援ロボット)、教育(小論文の自動採点など教師支援システム)など多岐にわたる。

「ここ数年で、AIやAIを搭載したロボットが人間の仕事を奪うのではないかといったネガティブな見方が多かったが、逆にポジティブに捉えればAIが既存の成熟化した産業を再び活性化して、全く新しい産業に生まれ変わらせるということも考えられる」と小林氏は述べる。

 中でも自動運転車は最も注目を集めているAI応用製品のひとつで、成果が関連産業を広く潤す意味でも非常に大きな期待感がある。自動運転車の基本的な仕組みは、多彩なセンサーから集めたデータをAIで処理することが基本となるため、AI(ソフトウェア)自体が製品差別化のポイントとなる。車載AIは、自分の行動計画を立て、今いる場所を特定し、周りにいる歩行者や障害物、他のクルマの場所を把握して、自分の動きをコントロールすることが主な仕事であり、それらの機能は主に「ベイズ定理」と呼ばれる条件付き確率理論を基に定義される。

 ベイズ定理は一般的に、事後確率=実験・測定・観測などの結果×事前確率(主観確率)で導き出される。特に自動運転車の場合、その車載センサーで捉えた計測結果を正規分布曲線で表し、移動体の場所を確率的に把握する時にベイズ定理が利用される。これは「カルマン・フィルター」と呼ばれる技術だ。具体的には、センサーによる位置計測とベイズ定理の適用を1秒間に何百万回も繰り返すことで誤差(標準偏差)を徐々に収束させ、移動体(クルマの周囲にいる歩行者など)の位置を正確に把握する。

ロボットの限界を突破するディープラーニング技術の導入

 しかし、正規分布に従う、このやり方にも限界がある。それが「ファットテール問題」と呼ばれるものだ。正規分布上ではゼロに近い確率の現象も、現実世界ではもっと高い確率で発生するという経験則である。例えば、高速道路を逆走して走ってくるクルマは理論上あり得ないのだが、現実世界では少なからず起きている。カルマン・フィルターも正規分布に従っている以上ファットテールは起きる可能性があり、物体の正確な認識には限界があることを認識しなければならなかった。

「そのため、近年は単に統計的な手法に頼らず、もっと人間の脳の仕組みに近いやり方を導入すれば、より柔軟に対応し、物体の微妙な形状の違いなども区別できるとして、ディープラーニングやディープ・ニューラルネットなどの手法が注目され始めた」と小林氏は解説する。ニューラルネットとは、1950年代に研究開発が始まり、生物の脳を構成する無数のニューロン(神経細胞)とシナプス(接合部)のネットワークを工学的に再現(実際にはソフトウェアで再現)したもので、当初は2層構造の単純なものだったが、3層構造、N層構造へと進化していった。しかし、多層化するとデータ処理に膨大な時間がかかり、音声認識用に開発されたニューラルネットは画像認識には使えない(その逆もしかり)など汎用性に乏しいことが分かると次第に廃れていったという。

 ブレークスルーのきっかけはGPU(画像処理用集積回路)の導入だった。これをニューラルネットに多数個接続すると処理速度が劇的に向上することがわかったという。また、最新の脳・神経科学の成果も導入することで、脳の持つ汎用的な情報処理能力をアルゴリズム化して多層ニューラルネットに導入することで、汎用性が乏しいといった問題も解決した。その成果としては、画像認識や音声認識などのパターン認識や化合物の構造予測などがある。また、今後成果が期待されている領域としては、自然言語処理、医療分野、ロボット工学などへの応用も考えられている。

 その前提として、小林氏は現在のロボットの限界を指摘する。「ロボットは360度撮影できるカメラを搭載し、その画像情報から周囲の障害物をパターン認識した上で行動するが、外界の認識能力が低いため、あまりにも時間がかかり実用化には程遠い状況だ。そこにパターン認識に優れたディープラーニング技術を搭載すれば課題をクリアできるのではないかと期待されている」

AIのマイナス面の進化における警戒も必要

 これまでは、ソフトウェアのプログラム(アルゴリズム)としてニューラルネットを構築してきたが、今後はそれをより高速化するため、専用マイクロプロセッサにワンチップ化(Neuromorphic Chip)する動きも活発化していくと小林氏は見ている。それが成功すれば、ヒューマノイド型ロボットに搭載することも可能になり、本当の意味で人間にとって役立つ各種のサービスロボットが急速に進化すると見られている。

 また、Neuromorphic Chipなどの脳の仕組みを取り入れたAI技術の導入により、ある程度自然言語を認識し、人とコミュニケーションするコンパニオン型ロボットが開発される可能性もあるが、その点について小林氏はやや時期尚早と考えているようだ。それだけ、ディープ・ニューラルネットによる自然言語理解には乗り越えるべき障害が多いという。

 さらに、同時機械通訳にもAIは活用されている。例えば、Microsoftの 「Skype Translator」では、音声認識領域には最先端のディープ・ニューラルネットが活用されているが、自然言語処理の領域はクラシックな統計的手法のベイズ定理が使われているという。

 そして最後に、小林氏は今後AIのマイナス面での警戒も必要だと釘を刺す。そのひとつが軍事応用だ。「米国やイスラエルなどがAIを搭載した自律的兵器の配備を進めていくとされ、LARs (Lethal Autonomous Robots:致死性自律型ロボット)などのキーワードも登場している。今、国連の部会で禁止条約の成立を目指しているが、まだ形にはなっていないようだ。今後はそうした負の面も注視していきながら、AIの有効な活用を探る正しい知見が求められている」と語り、基調講演を終了した。

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