講演レポート:第90回 IoT時代の成否を決めるのは「機械学習」だ!|Prowise Business Forum|株式会社日立ソリューションズ

株式会社 日立ソリューションズ

Prowise Business Forum in TOKYO 第90回

IoT時代の成否を決めるのは「機械学習」だ!
~人知を超える予測分析を取り入れるための勘所~

 「IoT」という言葉がトレンドワードとして取り上げられるようになってから数年が経ち、毎日のように新聞やインターネットで目にします。機器の稼働状況や施設内の環境情報、人の行動履歴や位置情報など、収集できるデータは多岐にわたります。これらのデータを使いこなすことが今後のビジネスの成否を決めることは言うまでもなく、その重要なファクターとなるのが「機械学習」です。国としても個人情報保護法の改正によりその背中を押しており、もはやデータ活用で「何をすればいいのか分からない」とは言えない時期になりました。
 本フォーラムでは、機械学習の手法をベースにしたデータ分析・活用のメソッドを事例を交えながらご紹介し、さらに、データ活用の幅を広げるべく、パーソナルデータ(※)を安全に利用するための技術をご提案しました。また、基調講演では、IoTの未来について、東京大学大学院 情報学環 教授の暦本純一氏に語っていただきました。

※パーソナルデータとは
個人に関するデータであり、氏名等の個人を特定できる情報だけでなく位置情報や購買履歴といった、個人の行動や状態に関する情報も含まれるデータ。

開催概要

日時 2016年12月8日(木) 14:00~17:30 (13:30 受付開始)
会場 〒140-0002 東京都品川区東品川4-12-7
日立ソリューションズタワーA 4F 講堂
主催 株式会社日立ソリューションズ

【セッション1】
自動分析ツールがもたらすデータ分析の日常化

奥沢 浩
株式会社日立ソリューションズ
ビジネス・アプリケーション本部
担当部長 奥沢 浩

 セッション1では、統計解析の専門知識がない人でも簡単にデータの傾向を把握し、結果に影響を与えている因子を突き止めることが可能な自動分析ツールが紹介された。

データ分析の障害は人間のリテラシーで解決すべきというが…

 データ分析の理想的な流れとは、まずデータを収集し、それを機械学習かAIなど何らかの方法を活用して分析して、原因を把握し、改善活動を行っていくというPDCAサイクルを回すことになるが、実際はこう上手くはいかないと奥沢はいう。

 データ分析を始めた当初は、(製造業の例で説明すると)生産設備などから生成される膨大で未整理なデータを分析者(統計は詳しいが業務を知らない数学者)に渡せば、何か大きな発見が生まれるのではないかという期待があった。しかし現実では、分析者から意味不明な数学的な解析結果だけが報告され、それを見た意志決定者は判断できず、統計学やITに弱い業務担当者に曖昧な指示を出すことで、業務担当者と分析者では会話が噛み合わなくなり、結局現場任せで何も改善されないままになっているケースが多い。

 そうした失敗ケースに対して、今までは人間のリテラシーで解決すべきといわれてきた。分析者には業務も統計学にも精通したデータマイスターを選任し、業務に即した的確な報告を上げれば、意志決定者は明確な判断ができ、同時にITリテラシーの高い(統計学にも強い)業務担当者がいれば分析者とも整合性のとれた意思疎通も可能になり、現場に対しても数字に裏付けられた的確な改善策を示すことができる…。「しかし、そんな都合のよい人材が簡単に確保できるのだろうか。仮に確保できたとしても、極めて高額な人件費が必要になるのではないか」と奥沢は疑問を投げかける。

大量変数を自動で生成し分析準備も全て自動化する予測分析ツール

 ではどうしたらいいのか。人件費の高い専門人材を雇うよりも、業務部門の人が自分で分析できるような簡単な分析ツールを活用すればいいというのが奥沢の答えだ。数学や統計学に詳しくなくても、業務データさえあれば必要な値に近い答えが見出せる分析ツールがある。それがSAP社の「PA」(プレディクティブ・アナリティクス:予測分析)と呼ばれる製品だ。

 この製品の最大の特徴は、分析を自動化できることにあるという。一般的なマイニングツールでは、分析データをマニュアルで作成(変数ごとの個別開発、合成変数の作成、不要変数の削除など)をし、分析準備ではアルゴリズムごとに最適なテクニックを駆使して、モデル開発ではアルゴリズム単位での変数指定と実行/評価するなど、属人性の高い作業を繰り返すことが必要となる。

 一方、PAではETL(データウエアハウスからデータを抽出し変換・加工して取り込む機能)を持っており、分析対象データを簡単に加工することができる。また、簡単な設定を行うだけで、大量に変数を自動で生成し、分析準備を自動的に行うことも可能である。モデル開発では、目的別のメニューから選択するだけで、モデル生成とモデル評価が自動的に行われる。データモデルの作成においてはデータ全体を4つに分割し、1つは検証用に残しておき、後の3つを使って解析することで最も適合するデータモデルを探し出し、その結果が正しいかどうかを残しておいた1つと付き合わせて検証する。

 その評価にはKI(予測力)とKR(予測信頼度)という2つの指標を使って判断する。KIはモデルの分析精度(質)を表し、値が1に近いほどそのモデルが分析用データを上手く解析していることになる。また、KRはモデルの(頑健性)を表し、これも値が1に近いほど他のデータに対する適合度合いが高まっていることを示す。そこで奥沢は、あるクレジットカード会社のカード利用顧客における新規キャンペーン施策を例に、キャンペーンに反応した顧客情報を分析することでどのような顧客が商品を買ってくれるかを予測する分類回帰モデルを自動で作るデモを披露した。

自動分析ツールといえどもオールマイティではない

 また、IoTをテーマに企業向けプリンターの稼働保守をしている企業を例に、設備の故障率を予測するデモも行った。この例では、各種センサーが過去の故障発生時にどれくらいの影響を与えているかが重要な指標となる。そのログデータを分析していくと、「センサーB」という部品の温度上昇が最もプリンターの故障原因に影響を及ぼしていることが分かった。しかし、そのセンサーBに対して連続して温度上昇をかけても故障率は一定にならなかったため、温度が高くなることが故障率を高めているという証明にならず、KR値は97%に対してKI値が62%という予想よりも低い結果となっていた。それが故障統計や故障分析の難しいところだと奥沢はいう。

 そこで、良く壊れる製品群とほとんど壊れない製品群の偏差を、センサーBの温度別故障率グラフにオーバーレイさせると明らかに温度上昇が製品の故障率に影響していることがわかり、製品内部のサーモスタットやセンサーが働いて早めにファンを回し、温度上昇を制御できるか否かが故障率に影響していると予測できたという。このことから、別のファクターを当てはめてみるとより深い分析が可能になった。

「PAは、どのマシンが今の状態では何%故障するかを予測してくれるので、壊れやすいマシンから先行保守を行っていくことで大きなトラブルも未然に防ぐことができるかもしれない、という使い方をするツールだ」と奥沢は説明する。

 ただ、どんなデータを用意して分析すべきかについては、そのログデータから平均値か最大値かを集計してマシン番号ごとの編集しやすいデータに作り直さなければならない。それがETLであり、データをそのまま人工知能に投入しても的確な答えは導くことは難しい。そのため、商品を売る、故障率を検知するといったファクターや要素などに対してデータを集約させることが重要になるという。

 また、製造業に関しては、工場は複数の工程で稼働しており、1つ目の工程で段取りミスが生じ最終的に不良を発生した場合、最終工程のデータだけを懸命に集めて分析しても原因が分からないまま“突発異常”という結果に終わってしまう。そのため、ロット番号や製品番号で串刺しにできるキーを用い、それで全部の工程のデータを収集すれば原因を追及できる。

 奥沢は、「自動分析ツールといえどもオールマイティではなく、関係する全てのデータを集めることと、事象に対してそれらを編集し分析ツールに与えることが前提になる」と述べる。

業務課題を認識している現場の担当者が分析する方が現実的

 次に、時間軸を使った需要予測の事例を紹介した。ある自動車部品メーカーは、過去1年間の「部品運搬用BOX」の搬出実績を元に、今後60日先までの搬出数を予測して部品運搬用BOXのほぼ正確なストック数を把握しようと考えた。そこで、PAの時系列予測機能を活用し、1)分析対象のデータ項目:部品運搬用BOXの総搬出数(工場から搬出された総数)、2)影響を与える可能性のある要因データ:工場で生産されるエンジン用パーツの生産量、海外組み立て工場の自動車生産数、部品運搬用BOXを利用する各部署の日別使用量、船積港付近の気象情報、各国間の為替レート、船便の発送日などのデータを集め、自動分析を行った。

 時系列分析の場合、一般的には長期的な変動を整形するトレンド除去、変動に影響を与える細かな変動だけを残す周期性除去、個別変動分析という3段階の解析手順がある。それを適用し変数別の貢献度や変数の重みを調べた結果、部品Aの生産量が増えると部品運搬用BOXの搬出量が増え、部品Bが減るとその逆になるとか、国内生産量が増えると搬出量が増え、海外生産量が増えると減るといった影響度が判明し、部品運搬用BOXを10%削減してコストを抑制できたという。

 また、あるポイントカード運営企業では、カードの利用状況分析と販促企画でPAを活用している。データは4,800万会員の利用データで、分析変数は約2,000個を活用。一般的なマイニングツールでは2,000個の変数を組み合わせてデータ分析を行うことが不可能だったが、PAを導入した結果、自動分析機能により多角的に利用状況を分析することが可能になり、マーケティング精度が向上したという。

「PAは極めて簡単な操作で答えを出すことができる半面、構造解析や強度計算などの精緻な計算結果を要求される医学やエンジニアリング用途には向かない場合がある。厳密な精度よりもスピードが要求される分析に最適」と奥沢は説明する。

 PAには小規模用(Edge版)と大規模用(Suite版)があり、小規模用は1種類のデータソースに対応し、容量は最大128GBまで。大規模用は複数のデータソースに接続することができる。

 最後に奥沢は、「自動データ分析ツールは遠い未来の話ではなく、皆さんの身近にあり、誰でも使える日常化した手段になった。高度な数学者や統計学者を雇ったり専門会社を活用したりして重厚長大に全社規模で分析することもひとつの手段だが、PAのようなGUIベースの機械学習ツールを現場に置き、業務課題を認識している担当者がスピーディに自分で仮説を立て、分析する方がより現実的で効率的ではないだろうか」と提案し、セッションのまとめとした。

【セッション2】
改正個人情報保護法と匿名加工情報

森本 絵美 氏
株式会社日立コンサルティング
公共コンサルティング本部
シニアコンサルタント 森本 絵美 氏

 セッション2では、2017年施行予定である改正個人情報保護法の最新動向と、それを踏まえ、情報資産に含まれるパーソナルデータの安全な活用を支援するソリューションが紹介された。前半では日立コンサルティングの森本氏が登壇。改正個人情報保護法と新設された匿名加工情報について解説した。

IoT時代で問われるパーソナルデータ利活用時のプライバシー保護

「ビッグデータビジネスやIoTが活況する中、収集されるデータには大量のパーソナルデータが含まれており、その利活用には多くの課題がある」と森本氏はいう。例えば、日本のある法人が駅構内にカメラを設置して顔認証による人流測定実験を行なおうとしたところ、市民からプライバシーの侵害だと非難され、顔認証データは個人を特定するものではないと反論したものの、世論に押されてこの実験は延期せざるを得なかったという。国内外を問わず、パーソナルデータを利活用する際には常にプライバシーの問題が立ちはだかる。

 日立製作所と博報堂が2016年に共同で発表した「第三回 ビッグデータで取り扱う生活者情報に関する意識調査」によると、企業や公的機関によるパーソナルデータの活用に関して「不安が期待より大きい/やや大きい」と回答した生活者が約半数に達し、男性よりも女性の方に不安傾向が強いことが分かった。また、IoTや人工知能の技術に関しても約半数が不安と答え、情報漏えいリスクや気付かずにデータが収集され続けることを不安視していることが判明した。

 さらに、2017年9月に施行される改正個人情報保護法については、個人情報の保護の強化はもちろんのこと、その第一の目的は緩やかな規律の下での自由なデータの流通・利活用の促進にあり、取扱い是正への請求権やデータベース提供罪の施設、匿名加工情報の取扱いに関する取り決めなどが新設されたことで、「適正な利活用につながる」、「安全性が高まる」など一定の評価が寄せられているという。

匿名加工情報の作成や利用における課題

 改正個人情報保護法において新設されたその中の匿名加工情報とは、特定の個人を識別することができないように個人情報を加工した情報で、当該個人情報を復元できないようにしたものとされる。匿名加工情報を取り扱う事業者に対しては、「作成する場合」「第三者に提供する場合」「第三者から提供される場合」という3つにおいて、適正な加工や、情報漏えいを防止するための安全管理措置、含まれる情報項目と提供方法の公表、本人特定の禁止などが法律で定められており、苦情の処理も努力義務として盛り込まれている。

 しかし、一般的に匿名化データの取扱いは難しくについては、過去に(主に海外で)、十分に加工せず公開した匿名データ個人情報が、別の公開情報と突き合わせることで個人が特定されてしまったケースがあり、データ項目及び目的に応じて適切に加工することが重要となる。相次いだことが、こうした細かいルールを決めた背景にある。

 一方、日本の改正個人情報保護法における しかし、日本では匿名加工情報の具体的な基準については、加工方法は個人情報保護法委員会の規則で定められているものの、一般的な加工方法しか規定されておらず、詳細な加工方法はガイドラインにも示されず、認定個人情報保護法団体などによる個人情報保護法指針に委ねられているのが現実だ。

「認定個人情報保護法団体などが定めるの個人情報保護法指針についても個別具体的な事案に対応した詳細な加工方法は規定されないと考えられるため、匿名加工情報の作成や利用を検討している事業者はそれぞれで加工方法を検討する必要がある」と森本氏は指摘する。またそのため、個人情報保護法を遵守するとともに、プラスアルファの対策としてプライバシー保護対策も実施することも重要であるにも留意すべきだと述べた。

IoTによって蓄積した情報資産を安全に利活用するために
~パーソナルデータの積極活用に向けて~

岩永 匡希
株式会社日立ソリューションズ
システム基盤本部 第2部
技師 岩永 匡希

 セッション2の後半では、日立ソリューションズの岩永が、パーソナルデータの安全な活用を支援する「プライバシー情報匿名化ソリューション」を紹介した。

個人を識別できないデータに加工して匿名加工情報にできるk-匿名化技術

 改正個人情報保護法のポイントとしては、改正前は収集したデータについて、通知した利用目的を超えた利活用には本人の同意が必要だったが、改正後は匿名加工情報に加工すればデータ提供者の同意を得ていない範囲でもデータを利活用できるようになるため、データ利活用の幅が広がると大きく注目されている。携帯キャリアが持っているユーザーの端末利用状況や、電子マネー業者の購買履歴、ヘルスケア業者の生体データ、ECサイト業者の購買履歴などが、タクシー業者の配車計画やコンビニの出店計画、フィットネス事業者のサービス戦略、小売業の商品戦略などに活用されるイメージだ。

「しかし、収集されるデータには個人情報保護法の行動や状態などに関するパーソナルデータが含まれるため、データの利活用にはプライバシーへの配慮が絶対に必要になる」と岩永はいう。

 日立ソリューションズでは、安全なデータの利活用を支援する「プライバシー情報匿名化ソリューション」を開発した。日立の独自技術に基づく「k-匿名化」や分散処理技術による高速処理などの特徴を備えたデータ匿名化ソフトウェアに加え、プライバシーリスク評価やデータ匿名化方法、運用方法の立案、導入前の実証実験対応などの支援サービスを組み合わせている。

 中でもk-匿名化は、個人情報を含むデータを特定の個人の識別が困難になるようデータ加工し、匿名加工情報にできる有望な技術のひとつとして注目されている。具体的には、対象となるデータ内に、同じ属性値を持つデータが“k件”以上存在するようにデータを変換することで、個人が特定される確率をk分の1以下に低減させることができる。

 例えば、「住所:渋谷区代々木2-10-1、年齢:15歳、性別:男性」では個人が特定されてしまう可能性が高いので、それをk=2でk-匿名化し「住所:渋谷区代々木2丁目、年齢:10代、性別:男性」の同じ属性値を持つデータが2件以上存在するように変換することで特定の個人の識別を困難にする。氏名や電話番号などの識別子(単独で個人を特定できる情報)を削除するだけでなく、さらに、住所や年齢、性別などの準識別子(データの組み合わせで個人の特定につながってしまう可能性のある情報)に対してk-匿名化処理を行うことで、より特定の個人を識別できない安全なデータへ加工することがポイントとなる。

匿名性と有用性を両立したデータ匿名化ソフトウェアを提供

「では、特定の個人を識別できない安全なデータへ単純に加工すればいいのか、といえば、そうではない。せっかくの匿名加工情報も過剰な匿名化によって抽象度が高まり、利用価値の低下や、分析に利用しづらいデータに加工されてしまったりする問題がある。一般的に匿名性と有用性はトレードオフの関係にあり、それらのバランスをとって匿名加工情報に加工することが重要であるといえる」と岩永は指摘する。

 日立のk-匿名化技術は、データの出現頻度に基づいてデータ加工する箇所を少なくすることでデータの利用価値を確保できるk-匿名化を実現している。また、k-匿名化実行時に匿名化ポリシーを与えることで、匿名化後データを分析などに利用しやすいよう、匿名化後データの利用目的に応じたk-匿名化をおこなえる工夫をしている。例えば、ポリシーなしの場合は「5歳:4人、12歳:2人、18歳:4人」を「5~12歳:6人、18歳:4人」と年代を跨いで丸めてしまうが、ポリシー指定により「5歳:4人、12~18歳:6人」にすることで年代別に匿名化するようにできる。

 さらに、準識別子の追加に伴い指数関数的に増える膨大な計算量の問題についても分散処理技術「Hadoop」を採用することで、計算量や処理量の増加に応じてノードを柔軟にスケールアウトすることが可能となっている。

 日立ソリューションズでは、このk-匿名化技術を実装した製品として、データ匿名化ソフトウェア「Privacy Data Anonymizing Platform」を提供している。

改正個人情報保護法は大きなチャンスだがリスクもある

 その導入支援サービスも紹介した。日立コンサルティングと連携し、「匿名化支援コンサルティング」を提供している。これは、事業のプライバシーリスク評価とデータの個人識別リスク評価でリスクを把握し、データの匿名化方法の検証と安全なデータ利活用に向けた運用方法の検討でリスク対策のコンサルティングを行うもの。データ利活用の実運用前の実証実験にも対応している。その他、データ匿名化ソフトウェアのパラメータ設計やセットアップ、チューニングなどを行う環境構築サービス、既存システムとのインターフェース部分などの個別要件に応じた設計・開発サービス、稼働後のサポートサービスなども提供している。

 最後に岩永は、「改正個人情報保護法がいよいよ2017年に施行される。大きなチャンスではあるがリスクもある。業務で蓄積したデータをプライバシー保護しながら利活用するには、まずは実証実験から始めてみることもひとつの方法だ。弊社は皆さまのデータ利活用をしっかりと支援する用意ができている」と語りかけ、セッション2を終了した。

【基調講演】
IoTからIoA(Internet of Abilities)へ:人間の能力を拡張するテクノロジー

暦本 純一 氏
東京大学大学院
情報学環
教授 暦本 純一 氏
【講師プロフィール】

東京大学情報学環教授、ソニーコンピュータサイエンス研究所副所長。ヒューマンコンピュータインタラクション研究者・発明家。世界初のモバイルAR(拡張現実)システムNaviCamを1990年代に試作、2001年にはマルチタッチの基礎研究を世界に先駆けて行うなど常に時代を先導する研究活動を展開している。最近ではHuman Augmentation(人間拡張)、IoTの次の潮流としてのIoA(Internet of Abilities)を提唱している。日本文化デザイン賞、グッドデザイン賞best100、日本ソフトウェア科学会基礎科学賞、ACM UIST Lasting Impact Awardなど受賞多数。2007年にACM SIGCHI Academyに選出される。

 基調講演では、東京大学情報学環教授でソニーコンピュータサイエンス研究所副所長の暦本氏が、人々や機械が持つ多種多様な能力をネットワークで結びつけることで人類にできることを拡張するIoA(Internet of Abilities)の可能性について語った。

情報を追加するのではなく調整することがIoTの目標

 一般に、IoT(モノのインターネット)とはさまざまな物や場所にコンピュータが埋め込まれているというイメージがあるが、何をしたいのかが今ひとつ分からないという声も多い。「例えば、未来の生活風景などで表現される、ガラス窓に情報を映し出す“Ambient display”のような世界を想像してみる」と暦本氏はいう。しかし、窓が情報ディスプレイの機能を兼ね備えるだけではなく、それを違う立場で物事を見ると新しい展開が生まれる。たとえば、モザイク状にガラスが半透明になって人や家具だけが部分的に見えなくなったり、局所的に日照を制御するような、“プログラムできる影”(Programmable Shadows)が実現し、プライバシーと開放性の両立が可能になる。

「IoTとは、さまざまな物にコンピュータが存在するという“材料”にばかり関心が持たれがちだが、もっと日常的な基本欲求に立ち戻ると、生活の利便性や暮らしやすさの追求など、コロンブスの卵的な発想の広がりが可能になる」と暦本氏は語る。ITが日常生活に組み込まれることが目的なのではなく、それにより我々の生活をより豊にすることがIoTの裏にある考え方だという。

 「ユビキタスコンピューティングの父」と呼ばれたマーク・ワイザー氏は、1988年にユビキタスコンピューティングの概念を提唱し、パーソナルコンピュータが消滅し日常世界の中に組み込まれた多数の見えないコンピュータが我々の生活を助ける時代の到来を予感した。しかし、いつしか世間はユビキタスコンピューティングのことを冷蔵庫にインターネットとディスプレイがついたようなコンピュータに溢れた世界を想像してしまった。

 ワイザー氏は、持論の「静かな技術」(Calm Technology)という概念で述べたのは、「最も深い技術は見えなくなるものである。日々の生活と区別がつかなくなるまでその中に編み込まれている」という考えであり、それを引用して暦本氏は、「コンピュータやITを忘れるほど意識しなくなった時にこそ、本当の意味でユビキタスコンピューティングが浸透することになる」と解説した。

 また、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)をMediated Reality(調整現実)と呼び、「単に情報を現実世界に“追加”するのではなく、現実世界が快適になるように“調整”する方向に進むことがユビキタスコンピューティングとIoTの目標になる」と同氏は述べる。

究極の技術は人間を置き換えるのではなく人間を拡張するもの

 次に、暦本氏は、「Human Augmentation」(人間拡張)に関する考え方に言及した。今年はAIやディープラーニングの話題が豊富な年だった。Google翻訳の精度が格段に向上し、囲碁の世界ではGoogle DeepMindによって開発されたコンピュータ囲碁プログラム「AlphaGo」が韓国の李セドル九段を打ち負かした。また、一般のニュースでも、将来47%の知的職業がAIあるいは機械学習によって高い確率で置き換えられるという予測を伝えている。

「しかし、もっと発展的な側面を見てみよう」と暦本氏は提案する。今年、囲碁の名人がコンピュータに負けたが、20年前にもチェス界のチャンピオンがIBMのコンピュータ「ディープ・ブルー」に負けている。その当人であるガルリ・キーモヴィチ・カスパロフ氏が、人間とコンピュータが協力し合えばコンピュータよりも強くなる可能性があるとして「サイボーグチェス」を提唱している。「人間とコンピュータが共生することで、社会をより良くする大きな可能性が秘められている」と暦本氏は補足する。

 暦本氏は、1994年当時、まだ携帯電話にカメラもついていない頃から拡張現実のデモストレーション実験を開始し、2002年には現在のスマートデバイスの操作を彷彿とさせるマルチタッチ・インターフェースを開発するなど人間の感覚や能力を拡張する試みを始めていた。そうした経験から、「究極の技術は人間を置き換えるのではなく人間を拡張するもの」と考えるようになったという。マウスの原型を考案し、ネットワークコンピュータやグラフィカルユーザインタフェースの先駆けとなるものを開発したダグラス・エンゲルバート氏も、「マウスは“人間の知力拡張”という、より大きな目標のための要素にすぎない」と話していることから、AIやIoTも人間の能力を高める手段とになるものと暦本氏は考えているという。

IoTからIoAへと移行することでコミュニケーション方法が大きく変化

 続いて、暦本氏はいくつかの実験を紹介した。まず、ドローン(小型無人航空機)に搭載したカメラと人間に装着したヘッドマウントディスプレイにつなぐ実験だ。人間とドローンがJack-in(異なる能力との全感覚結合)することで、あたかも人間がドローンに乗り移ったかのように操縦する身体感覚が実現する。遠隔から操縦するよりも細かい動きが可能になるので、人間と機械が能力を補い合えればより高い相乗効果が生まれるという。

 その変化版として、JackOut(体外離脱視点)もある。つまり、自分の視点が自分の体から離れて幽体離脱のように俯瞰的に見ることによって、スポーツ選手などが自分のフォームの改善に役立てられる。また、人間が人間にJack-inする方法もある。他人の体験を自分が体験しているように感じたり、他人が自分の体験を共有したりすることで、スポーツや料理などの習得に役立つ可能性があるという。

 その体験のためには、360度の視界をカバーするカメラがついたJack-in用のヘッドギアを用いるが、激しい動きなど他人がそのままの映像を見ているとVR酔いのような症状が表れることがある。その対策のため、Stabilization(画面揺れの抑制)技術を活用することで、現場への没入感を損なわず、VR酔いを抑制する研究も行われている。

 その応用で、Jack-inヘッドギアをつけた特定の人の視点だけではなく、空間全体をリアルタイムに3D画像化し、俯瞰することで、必要に応じて別のJack-inヘッドギアをつけた人の視点にシームレスに乗り移るといったことも可能になり、遠隔地から視点の移動という制約からも解放され、コミュニケーションやコラボレーションにも影響を与えることになるという。

 こうした、人々や機械が持つ多種多様な能力をネットワークで結びつけることで、IoTの先には、人間の行動がネットワークにつながるIoA(Internet of Abilities)時代へと移行し、コミュニケーションや教育、仕事の方法を大きく変えていくだろうと暦本氏はいう。

VRをコミュニケーションに役立てる動きが活発化

 その流れの一環で、米国ではしばらく前から「テレプレゼンスロボット」が普及しているという。タブレット型のモニタとカメラ、マイク・スピーカー、そして車輪などが一体化した一種の遠隔操作ロボットで、別名“動くビデオ会議システム”ともいわれる。遠隔操作によって移動させながら、その場にいる人たちとコミュニケーションを取ることができるため、学会やセミナーなどで活用され始めているという。ただし、今はまだロボットが階段を登ったりエレベーターに乗ったりすることが難しいため、暦本氏の研究室では、リアルな人間に顔の部分だけタブレット端末を取り付け、そこに別人の顔を表示させる“カメレオンマスク”を活用したHuman Surrogate(仮想代理人)の実験を行っている。

 暦本氏は、「やってみると相当インパクトがあり、人間の体に別人の顔があるとテレビ会議システムとは比べものにならないほどリアリティや実在感がある。私たちが人と接している感覚は、この程度のギミックで変化するほど影響を受けやすいので、精密なヒューマノイド型ロボットを作らなくても高度な遠隔コミュニケーションが可能になる」と展望を述べる。

 さらに、平面ディスプレイの代わりに3Dで顔の立体像を作り、それに顔の表情を映像化することで、アイコンタクトが成立することになり、テレビ会議で問題となるモナリザ効果(カメラ目線が固定されて誰と話しているのかが曖昧になる問題)の解消にも役立つという。

 そして現在、VRをコミュニケーションに役立てる動きが活発化しているという。FacebookがSocial VRというキーワードで宣伝し始めており、仮想空間に入るだけではなく、その空間に多くの人たちが参加してコミュニケーションを成立させようとしている。

「空間の制約は、こうした多様な要素技術を組み合わせることによって乗り越えられる」と暦本氏は期待する。

生活にチャレンジ要素が含まれることで大きなベネフィットが生まれる

 終盤、暦本氏は、「技術によって我々は幸せになれるか」というテーマについて考察した。人は便利になることで快適になれる。つまり上位概念は「快適」や「幸せ」があり、その手段として「利便性」や「効率性」があると考える。それを前提に、ダイレクトにハピネスになれるかを研究したという。アメリカの哲学者・心理学者で身体心理学を研究したウイリアム・ジェイムズ氏は、表情フィードバック仮説を唱え、「我々は幸福なゆえに笑うのではなく、笑うから幸福なのである」と語った。同様に、私たちがお笑い番組を見て笑うことで、いつの間にか嬉しくなるのは、表情筋の動きから脳が嬉しいに違いないと解釈しているからだという。

 笑顔を認識すると笑顔マークが表示される鏡や、笑顔をセンサーが認識しないとドアが開かない冷蔵庫などを毎日利用することでテンションが高まる実験が紹介された。このことから、笑顔をエクササイズとして習慣化することで、コミュニケーションやイノベーションなどに大きな効果が生まれる可能性があるという。

「これらは便利か不便かといえば不便。しかし、不便さが重要で、生活にチャレンジ要素が含まれることで大きなベネフィットが生まれる」と暦本氏は断言する。

 パーキンソン病を患う人にとって、介護は尊厳が失われてしまうデメリットの面もある。そこで、手が震えても自分で食事ができる特殊なスプーンを用いることで尊厳が保たれる。それも重要な人間拡張のひとつだという。

 最後に、暦本氏は、「AIが発達することで、機械に任せる方が利便性や効率性が高まる仕事もある一方で、自分が行う方が満足感やモチベーション、達成感、尊厳、幸福感などが高まることもある。この2つは両立する。“マズローの欲求5段階説“にもあるように、尊厳欲求が充たされるとメンタルの最上位にある自己実現欲求も生まれる。ITもこの部分をより拡張するような方向に進めば、高い満足が得られるような社会になるのではないか」と展望し、基調講演を終了した。

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