講演レポート:Prowise Business Forum 第100回開催記念イベント イノベーションへの組織とインテリジェンス|システム構築やトータルソリューションをお探しなら、日立ソリューションズにお問い合わせください。

株式会社 日立ソリューションズ

Prowise Business Forum

Prowise Business Forum 第100回開催記念イベント
イノベーションへの組織とインテリジェンス

 Prowise Business Forum は2003年4月から東京、名古屋、大阪地区で開催し、通算で第100回目を迎えました。節目となる今回は、イノベーションを起こすことのできる、組織とインテリジェンスのあり方をテーマに開催いたしました。

 イノベーションを起こすためには、目的に向かって戦略を実行する組織と、正しい意志決定をするためのインテリジェンスが求められます。これらテーマについては様々な議論が重ねられてきておりますが、最終的な解はあるのでしょうか。本フォーラムでは、科学、歴史、文化など、あらゆる側面から組織とインテリジェンスを考察いたしました。
 基調講演では、ベストセラー「働かないアリに意義がある」の著者の長谷川英祐氏より、生物学的な観点から組織のシステム論についてご講演いただきました。そして、インテリジェンス研究の第一人者である防衛省防衛研究所戦史研究センターの小谷賢氏、野球の統計分析手法「セイバーメトリクス」の専門家である岡田友輔氏より、勝つためにビッグデータからインテリジェンスを如何に創造するかについてご講演いただきました。

日立ソリューションズのビッグデータ関連の商品はこちらからご覧になれます。

開催概要

日時 2014年9月3日(水) 14:00~17:00 (13:30 受付開始)
会場 〒108-0075 東京都港区港南1-9-36 アレア品川
東京コンファレンスセンター・品川 5階 大ホール
主催 株式会社日立ソリューションズ

【基調講演】
働かないアリはなぜ必要なのか?
~システム論の観点から~


北海道大学大学院農学研究院
准教授 長谷川 英祐 氏

【長谷川英祐氏プロフィール】

進化生物学者。北海道大学大学院農学研究院准教授。動物生態学研究室所属。1961年、東京都生まれ。子どもの頃から昆虫学者を夢見る。大学時代から社会性昆虫を研究。卒業後は民間企業に5年間勤務。その後、東京都立大学大学院で生態学を学ぶ。主な研究分野は、社会性の進化や、集団を作る動物の行動など。特に、働かないハタラキアリの研究は大きく注目を集めている。趣味は、映画、クルマ、釣り、読書、マンガ。著書に、ベストセラーとなった「働かないアリに意義がある」(メディアファクトリー新書)、「面白くて眠れなくなる生物学」(PHP)などがある。

 進化生物学者であり動物生態学の研究を進める長谷川氏は、数年前から"働かないハタラキアリ"の存在に注目し、その成果を著書にまとめたところ、経済学や工学の関係者からも大きな注目を集めることになったという。基調講演では、一見無駄に見える働かないアリはなぜ存在するのかをシステムの視点から分析した。

進化とは個体の利益を最大化すること

 最初に、アリやハチなど独自の社会を形成する生物の生態を考える上で、進化とはいったい何かという点に長谷川氏は言及した。そもそも進化という概念は、今から200年ほど前にチャールズ・ダーウィンが、全ての生物種が長い時間をかけて自然選択のプロセスを通して生き残るシステムを明らかにしたことで生まれた。それまでは神が創造した生き物は当初からその形態を保って存在し続けていると信じられてきた。
 生物の進化とは、ある集団(コロニー)の中で突然に変異個体が出現し、その新しい個体が従来から存在する個体に比べて環境に適合する特性を持っていたならば、多くの子孫を残す可能性が高まり、変異した個体がコロニー内に拡散するようになることで、再び環境に適合した変異個体が生まれ、それが繰り返されることをいう。

「これを進化生物学では次世代の適応度といい、短期的効率の高い方が個体群内に広がっていく」と説明する長谷川氏は、営利企業においても多く売れる商品を作った企業が栄え、そうでない企業は衰退していくのに準えられるという。

 また、アリやハチのコロニーにおいて個体と集団の利益は必ずしも一致せず、進化は個体の利益を最大化することであり、集団の利益が最大になっても個体の利益が下がるなら進化は起こらないという。

HowとWhyの観点から物事を明らかにすれば自然現象を理解できる

 次に、自然科学とは何を明らかにする学問なのかについて論じた。その要件として、第1に、人為的に作り出されたものではなく自然に存在する事物が対象であること。第2に、それらについて、1)How:仕組みはどのようになっているのか、2)Why:なぜそのような現象が存在するのかという疑問に対して、"誰もが納得する理由"を与える行為だと定義する。

「HowとWhyに対する答えは本質的に異なるものであり、両立は可能で、この2つの観点から物事を明らかにした時に自然現象が理解できる」と長谷川氏は語る。

 では、働かないハタラキアリは、How:どのようにして生じるのか? また、Why:なぜ存在しなければならないのか?長谷川氏はこの疑問について考察した。
 アリは一般的に働き者として理解され、「アリとキリギリス」などの童話でもそのように表現されていることが多いが、アリの巣は地面の下にあり、地上でせっせと食物を運んでいるアリは働くハタラキアリであって、実は地下の巣には働かないハタラキアリが多く存在しているという。
 長谷川氏は、カドフシアリという種におけるコロニーごとの労働行動を分析したエソグラム(行動目録)を例に示し、巣の中で移動するだけで、グルーミングや給餌、ゴミの運搬などの労働を行っていない非労働行動の割合が、ある瞬間には約7割も存在していたという調査結果を示す。

アリの世界でも反応閾値の変異が発生しパレートの法則を証明

 そこで、How:どのようにして働かないアリは発生するのかという疑問が生じるが、それについては1970年代に「反応閾値モデル」という答えが出ているという。反応閾値とは、労働刺激に対する個体の反応性の分散(どこで労働を始めるかの差異)のことで、閾値の低いものから働くというシステムを表すもの。例えば、きれい好きな人とそうでない人がいる場合、閾値の低い(汚いことが我慢できない)きれい好きな人だけがいつも掃除するという傾向で理解できる。一方で、閾値の高いものは働きたくでも働けない(働く動機につながらない)ということにもなる。

「ハタラキアリの中にも閾値の違いが存在し、いつも働かないアリが一定割合で生じてしまう。反応閾値モデルが正しいときには、コロニーを働かない(反応閾値が高い)ものだけにすると、一部が働き出すようになり、反対に働く(反応閾値が低い)ものだけにすると、一部が働かなくなることが予測される」と長谷川氏。

 働くものや働かないものだけ取り出しても閾値の分布は残るので、反応閾値の変異が発生し、働くものや働かないものに分かれる。「パレートの法則」や「二八(にはち)の法則」などがこれにあたるという。
 しかし、この仮説はアリの分野で実証した例がなかったため、長谷川氏はシワクシケアリ(Myrmica kotokui)という種で行動観察による個体の働き具合の評価実験を行った。まず、予備観察によって150匹のアリの行動パターンを15通りにカテゴライズし、「社会行動」(他者に対する意味を持つ行動)と「非社会行動」(自分にのみ意味を持つ行動)に分類。1ヶ月の観察の結果、個体ごとに社会行動の頻度を算出し、よく働く個体と働かない個体を7つにコロナイズして、再び1ヶ月観察した結果、どちらも一部はよく働き、一部は全く働かないような労働頻度にばらつきが生じることが分かったという。
 この結果により、長谷川氏は「パレートの法則が証明された」と述べる。

働かないものがいる方が短期的には非効率でも長期的には有利

 次に、Why:なぜ働かないアリが存在しなければならないのかという疑問について考察した。「営利企業のようにコロニー全体の生産力を高く保つためにはアリ全体が働いていることが望ましいが、一部のものがいつも働かなくなる反応閾値の変異というシステムが採用されるのはなぜか」と長谷川氏は問いかける。

 企業には管理職が存在し、常に効率を高めるための指示を行うが、アリの世界ではリーダーは存在しない。女王アリは卵を産むために特化した個体だ。次々と現れる仕事にうまく個体を差し向けるために反応閾値の変異が必要だからという仮説もある。
 しかし、長谷川氏は「疲労モデル」というものを独自に提唱し、この疑問に答えようとした。アリは動物であるため筋肉を使うと必ず疲労する。疲れると作業効率が低下する。よって全員が働くようなシステムは長続きしないのではないかと考えた。それを格子モデルのコンピュータシミュレーションで検証したという。

 その結果、閾値や疲労のある・なしなどの条件に関わらず反応閾値の変異なしの方が時間あたりの仕事処理量が多く高効率だが、卵をなめてカビを除去するというコロニーを維持する上で重要で大変な仕事がある場合は、誰かが休むというシステム(変異あり)の方が、全員が仕事をするよりもコロニーが若干長く存続することが分かったという。
 普段働くアリがよく働く時は、普段働かないアリは働かないままだが、働くアリが疲労で働けなくなった時は、働かないアリがその代わりに働くようになる。一度コロニーが滅びると復活は非常に難しい。そのため、短期的な効率を目指すシステムよりも滅びにくいシステムを採用しているのではないかという。

「疲労モデルを検証した結果、反応閾値の変異がある方が長く存続することが可能と分かった。生物はみな疲れるという性質を持っているので、働かないものがいるシステムをあえて採用した方が短期的には非効率でも長期的には有利に働くという結論に達した」

 地球上に現存する生物は38億年という長い時間の中で一度も滅びずに生き残ってきた。ダーウィンが提唱するように短期的な効率(適応)に対する種のセレクションは確かに働いているものの、それと同時に長期的な存続を保証するメカニズムを持ったものしか生き残っていないはず。
そう考える長谷川氏は、「企業も同様に人が集まり短期的な効率と長期的な存続の間で綱引きをしながら進化している。企業が生き延びるためには長期的な問題も軽視しないことが重要だ」と述べ、基調講演のまとめとした。

【日立ソリューションズセッション】
ビッグデータ利活用強化における組織面での課題と対策
~小さな成功体験から全社的取り組みに繋げるためのポイントとは~

株式会社日立ソリューションズ
ビッグデータビジネス推進センタ
主任 白石 健太郎

 日立ソリューションズセッションでは、ビッグデータビジネス推進センタの白石が、組織内での情報/知識共有における課題と取るべき対策のポイントを、データ分析事例も交えて紹介した。

利用目的の制約なしに膨大な非構造化データを格納するデータレイクという概念

「調査会社の分析によると、ビッグデータ市場は2012年から2017年にかけて5倍の規模で拡大するといわれ、また総務省も2005年から2013年にかけて国内データ流通量は8.7倍に拡大し、ビッグデータ活用により年間60.9兆円もの売上向上効果があったと発表している。今後テクノロジーの進歩によりデータの活用機会が広がっていくだろう」と白石はいう。

 今後は、社内に存在していた構造化されたデータ(顧客データ、取引データ、収益データ、資産管理データなど)のみならず、非構造化データ(マシンデータ、音声データ、映像データなど)も分析可能な状態に加工していくほか、社外に存在するオープンデータや他社提供データなども社内に取り込み、さらにソーシャルネットや災害情報からの生の情報なども積極的にデータ分析対象にしていくなど、データの種類を拡大する動きが始まっている。
 そうしたトレンドを表す言葉として、「データレイク」(情報の湖)というキーワードが欧米の研究者を中心に広まっているという。従来はデータウェアハウスという"情報の倉庫"という概念が一般的だったが、これは主に構造化されたデータの格納を対象にしたもので、データの格納時点で分類や体系化が必要とされるが、データレイクは格納時点では利用目的の制約を受けず膨大な非構造化データをも格納し、日々の業務などアドホックな用途に素早く利活用できるものとして注目されている。
 また、データアナリティクスという概念も変遷しているという。「アナリティクス1.0」では、自社内の小規模な構造化データを、裏方にいる分析者が"過去に何があったか"を明らかにするために行っていた伝統的なデータ分析手法だったが、「アナリティクス2.0」では構造化されていない大規模なデータ(ここで初めてビッグデータが登場)を、将来/未来を可視化する予測型分析手法として意志決定者のすぐそばで分析者がビジネスに活用していた。

「アナリティクス3.0」は、スモールデータとビッグデータの両方を対象に取るべき行動(施策)を明らかにするための指示型分析で、企業内のあらゆる分野でさまざまな人々が協力しデータ分析に参加するようになるという。

 しかし、今後はデータサイエンティストの人材不足が深刻化するだろうと白石は話す。
「米シンクタンクの調査では、米国で2018年までに高度なアナリティクス・スキルを持つ人材が14万~19万人不足すると予測するとともに、大規模なデータセットのアナリティクスを活用して意思決定が可能なマネージャーやアナリストが150万人不足するとも発表している。日本国内でもデータサイエンティストが約25万人不足するという調査結果もある」

長期的な視点でデータ分析のノウハウや知識を強化することが理想

 しかしながら、先に述べたビッグデータの市場拡大やIoT(Internet of Things:モノのインターネット)、M2M(Machine to Machine:機器間通信)、データレイク、データアナリティクス3.0といったキーワード/トレンドと、自社におけるデータ活用の現状とにギャップを感じている企業も多い。
 その対策として、白石は今後のビッグデータは分析対象を、従来のVolume(容量)、Variety(種類)、Velocity(頻度)よりも、Value(価値)という4つ目の「V」の実感を先決させることで、データ分析やデータ利活用の価値を拡大させるべきという。
 日立ソリューションズでは、お客様企業とともに実施したデータ分析の実績や事例、ノウハウを蓄積し、還元するための専門組織の仮想集合体「データアナリティクスCoE」(Center of Excellence)を作り活動を行っている。

 次に、白石はデータ分析時の要件を検討する際のポイントを説明した。データ分析/データ利活用の成否を左右する4要素として、「人的資源の醸成」、「組織/体制の整備」、「システムの導入/連携」、「データの整理/蓄積」があるという。本セッションでは「人的資源」および「組織/体制」の視点で組織内で共有すべき課題と対策を中心に述べている。
「データ分析という言葉は広く、何を対象とするのか、分析の目的は何か、分析の結果を何に活用するのかが曖昧なままの企業が多い」

 短期的な視点でコストをかけ多くのデータを対象とした分析結果を求めるよりも、中長期的なロードマップでデータ分析のノウハウや知識をどのように強化していくかを考えた方が、ITベンダの立場で話すと理想論に聞こえるが、うまくいくことが多いと白石は話す。
 続いて、データ分析の種類について定義した。データ分析を整理する場合には、"何を知るか"という分析の目的から見た場合「可視化分析」と「予測分析」があり、"どう知るか"といった分析の方法という視点では「仮説主導型」と「データ主導型」の予測手法が存在するという。

 可視化分析は、過去と今を可視化するもので、社内各所に散在するデータの整理統合、週次・月次などの定型/非定型レポート、OLAP(多次元分析)、複数のKPI(重要業務評価指標)を一覧化するダッシュボードなどがこれにあたる。
 予測分析は、将来を予測するためのもので、過去に起きた事象の要因・予兆を導出する統計解析や、得られた要因・予兆に基づき未来を予測する分析などをいう。
 また、仮説主導型とは、データ分析の結果をどのように導くのかを、人や組織のノウハウ、経験値を基に業務有識者が仮説を立て、データで裏付けするアプローチをいう。納得感はあるがありきたりの分析結果に終わる可能性がある。
 データ主導型は、業務有識者を介在させず、蓄積したデータから純粋にビッグデータ分析技術を活用してデータサイエンティストが分析する手法をいう。業務有識者が思いもしない新たな気付きを得られる可能性がある半面、予測結果を本当に業務で活用すべきか確信が持てないという問題もある。

 各社が改めてデータ分析を進める場合のアプローチも大きく分けて2つのパターンが存在する。1つ目は、分析対象のデータは既存のままだが、それに新規の分析手法を用いて新たな価値を求める方法である。2つ目は、分析手法はそのままでも既存のデータに加えて新たなデータを取得・生成することで新たな価値を見出す方法だ。
「それぞれ社内のデータ分析の経験値および分析の目的に応じて選択する必要がある」

データ分析者とはデータサイエンティストばかりとは限らない

 後半では、白石はいくつかの事例を紹介した。「新規データ取得」でのケースでは、流通業や商業施設業が既知の分析手法(商品/レイアウト/来店客の関係)と既存データ(POS/会員/商品データ)に加えて、新規データ(店舗内/店舗前の入店前~入店後における詳細な人の流れのデータ)を活用し、非購入客や非会員客に対する新たな知見を得ることで、店舗の運用改善・商品開発強化を通じた売上向上を実現するデータ可視化分析ソリューションを開発した。
 また、従来のデータを活用しながら「新規分析技術」を導入した金融機関の事例では、既知の分析手法(顧客属性ごとの取引/資産傾向の可視化分析)や既存データ(顧客属性/取引履歴/資産推移データ)に対して、未知の分析手法(大量変数を元に購入確立を算出する予測分析)を適用することで、全顧客/各金融商品の購入確率を予測可能とし、商品販売強化を通じた売上向上効果を実現している。

 さらに白石は、データ分析強化の際に直面しがちな組織的なハードルについて言及した。
「一般にデータ分析者とは、社内外のデータサイエンティストのみを指すと考えがちだが、分析技術を有する分析専門家ばかりではなく、業務部門の担当者や社外のITベンダの業務SEなど非専門家が分析ツールを活用して見える化や予測を行う場合もデータ分析者となる」

 中長期的視点に立った場合、データ分析の専門家から非専門家へノウハウを移転する流れもあれば、社外の分析者で試行して社内にそのノウハウを移行して内製化する流れもある。先進的なデータ分析技術を導入する場合は、データサイエンティストが一部の業務で試行・評価し、結果が他の業務でも適用できると判断すれば、データ分析支援ツールなどを導入することで社内の非専門家も同様の分析が可能になるという。

「必要とする分析手段の難易度、および継続性によって使い分ける視点を持つべき」と提唱する白石は、日本企業の場合はデータサイエンティスト主導ではなく、業種/業務を理解している組織がデータ分析者(データサイエンティストを含む)を統轄し、データ分析プロジェクトを進めるマネージャーになることが成果につながりやすいとアドバイスする。

 また、データ分析担当部門をどこに設置すべきかについては、マーケティング部門や研究開発部門など活用部門と離れた場所に集中配置する形(分析専門家+分析技術)と、事業部門やスタッフ部門など活用する側に分散配置する形(非専門家+分析ツール)があり、集中実施による分析技術の深化か、分析システムを通じた実績/知識の共有か、目的や分析の難易度によって判断が変わってくるという。
 全社的なデータ分析/利活用を実現する組織について、白石は、「ボトムアップ型よりも経営層からのトップダウン型で始める方が継続的な取り組みにつながりやすく、短期的視点よりも中長期的な視点で取り組むべき」と推奨する。
 さらに、「データ分析はIT部門起案ではなく業務部門起案が望ましく、ウォーターフォール型よりもアジャイル型のアプローチが有効。成功体験や費用対効果ばかりではなく、失敗体験の共有や評価検証の実現性も重視してほしい」と語る。

【対談】
勝つためのビッグデータ
~勝利への方程式とは何か~

防衛省防衛研究所戦史研究センター
主任研究官 小谷 賢 氏

立命館大学卒業後、ロンドン大学キングスカレッジ大学院修士課程、京都大学大学院博士課程修了。2004年、防衛庁防衛研究所(当時)に入所し、英国王立安全保障問題研究所(RUSI)客員研究員、防衛大学校講師などを兼任する。現在、防衛省防衛研究所戦史研究センター主任研究官。著書に『日本軍のインテリジェンス なぜ情報が活かされないのか』(講談社選書メチエ)、 『インテリジェンス 国家・組織は情報をいかに扱うべきか』(ちくま学芸文庫)などがある。

合同会社DELTA
代表 岡田 友輔 氏

成蹊大学法学部を経て2002年から日本テレビ放送網株式会社でプロ野球中継を担当。データ配信会社を経て、2011年にスポーツデータの分析を手掛ける合同会社DELTAを設立。統計的な見地から選手の評価や戦略を分析する「セイバーメトリクス」を専門に活動。著書に『プロ野球を統計学と客観分析で考えるセイバーメトリクス・リポート1~3』(水曜社)『日本ハムに学ぶ勝てる組織作りの教科書』(講談社)『セイバーメトリクス・マガジン1~2』(デルタクリエイティブ)などがある。

 企業はグローバル時代の競争を勝ち抜くためにビッグデータをどう活用すべきか。そのテーマについて、インテリジェンス研究の第一人者である小谷氏と、スポーツデータ分析の専門家の岡田氏が対談形式で意見を述べ合った。

日本人が戦略を苦手とする文化は戦前から始まっていた

 最初に、小谷氏は、情報活用のためには情報そのものよりもその前段階である目的の設定を考えることが重要だと話す。
「目的がはっきりしない限り、どれだけ情報を集めても意味がない。突き詰めると、戦略を持たない限り情報は意味をなさないということになる。巷には経営戦略や国家戦略の本が多数存在するが、戦略とは周りの環境の中で自分の立ち位置をどこに置き、自分に有利なように周りの環境をどのように変えていくのかを考えること」

 続けて、小谷氏は日本の組織は戦略立案が非常に苦手だと指摘する。欧米企業の経営層は経営戦略や組織のマネジメントを学んだ人が多いが、日本の場合は現場主義が主流で、ボトムアップで物事を決める組織文化があり、中長期的な戦略を考えにくいところがあるという。
「戦前から日本人は戦略が苦手であり、旧日本陸海軍は太平洋戦争の戦略として資源獲得のために蘭印(現在のインドネシア)を攻めたが、その後の戦略を全く考えていなかったため、その後のミッドウェー海戦やガダルカナル島の戦いで自滅に近い結果となった」(小谷氏)

 日本は1941年に米国との戦争を避けるために日米交渉を半年ほど続けたが、米国はトップダウンにより大きな枠組みで戦略的な話を持ってくる一方、日本はボトムアップで決めるため細かな個別の戦術ばかり取り上げるため噛み合わず、最終的にこの交渉は破綻し、戦争に向かってしまったと小谷氏はいう。

 一方、岡田氏は、「日本のスポーツ分野、とりわけ野球界も歴史的に戦略が重要視されてきたわけではない」と言及する。日本のプロ野球では選手経験者が監督に就任し、自分の経験に基づいた現場主義的な戦術による戦い方が多く見られるが、米国のメジャーリーグ(MLB)などの統計的かつ中長期的にチーム経営を行う考え方からすれば、効率の悪い戦い方をしているように感じられるという。

「MLBでは『セイバーメトリクス』(※)という手法をほとんどの球団が導入し、オーナーや監督がその手法に精通する状況が増えている。中長期的に選手の獲得や育成、トレード、現場の戦術などで活用され、統計的に有効と思われる作戦や考え方に採用される形となっている」(岡田氏)

※セイバーメトリクス: ボストンレッドソックスのシニア・アドバイザーのビル・ジェイムズ氏が考案した、野球の構造をデータから突き詰める分析手法。1977年に自ら出版したデータ分析集『Baseball Abstruct』で注目され、それを「SABRmetrics」(セイバーメトリクス)として命名し体系化。チームが勝利を得るためには得失点差を大きくすることが基本で、得点・失点に関係が強い指標で選手を評価すれば、その選手が勝利にどれだけ貢献したかが正確に分かるという考え方に基づいている。

インテリジェンスの活用でMLBの選手が世界で最も能力が丸裸にされている

小谷 賢 氏

小谷 賢 氏

 次に小谷氏は、インフォメーションとインテリジェンスの違いについて話題を移した。
「インフォメーションもインテリジェンスも"情報"だが、インフォメーションは生情報やデータという意味で、それそのものだけでは利用価値のない情報だが、インテリジェンスはそのインフォメーションをキュレーションして分析済みの情報にしたものとして区別される。そのため、ビッグデータはインテリジェンスの分析のひとつの形態と考えることができる」と小谷氏は説明する。

 天気予報に例えると、気温や湿度、気圧配置などのデータはインフォメーションで、気象予報士はそれらの情報から明日以降の天気を想定するインテリジェンスを生み出す。一般の人々にとっては、インフォメーションの気圧配置よりもインテリジェンスとして提供される明日の天気や降水確率が必要とされるという。
 小谷氏は「常に情報はインテリジェンスをいかにうまく作り出せるかに関心が向けられている。ネット上のデータが爆発的に増加している中、個々の情報を選別することはもはや困難で、情報をひとかたまりで捉えるようになったのがビッグデータの考え方だ」と語る。

 野球の世界も同じだという岡田氏は、「テクノロジーの進化によって取得できる情報が膨大になり、それにどのような意味があるのかを考えるためにインテリジェンスを活用している。選手の能力や価値が次々と分析されたことから、MLBの選手が世界で最も能力が丸裸にされている状況だ」と表現する。  日本のプロ野球では1つの球団の1軍と2軍の年間総打席数が約1万打席あり、それをどの選手に割り振るかが戦略になるという。チームごとに優勝を狙うのか、あるいは最下位から脱するために根本から作り直すのか、その状況によって1万打席の配分が変わってくる。

「優勝を狙うチームは短期的な結果を優先するため能力の高い選手に多くの打席を配分するが、若手で実績の少ない選手には打席の配分は少なくなるため、伸び率は下がってしまう可能性がある。一方、最下位脱出を狙うチームは、若手の成長を期待して中長期的視点で実務者に配分する打席数を少なくし若手にチャンスを与える。打席というリソースをどの部分に投資するのか、客観的に判断することがチームの戦略となる」(岡田氏)

 民間の企業活動や国レベルの活動でも全く同じことがいえるという小谷氏は、「国に戦略を作る機能がなければ誰も戦略を考えなくなってしまう。戦略がなければ情報がいくらあっても有効利用されることがなく、日本は戦後70年近くこのスパイラルに陥っていた」と指摘した。

情報の可視化における日米での少なからぬ差

岡田 友輔 氏

岡田 友輔 氏

 岡田氏は、MLBやNFL(National Football League)はあらゆる情報を一元化して戦略に利用し、それを投資にも活用して海外から有力な選手をスカウトするなど、非常に良いサイクルが続いていると話す。

「現在、多くの日本人選手がMLBで活躍しているのも、日本の球団が提示できる金額の5~10倍の年俸を支払えるためで、情報の一元化と情報を価値あるものにしながら組織を強化している」と岡田氏は指摘する。

 小谷氏もそれを受け、「データ至上主義は避けるべきだが、日本のスポーツ界は勘や経験や根性などに頼った前時代的なやり方が幅を利かせている」と厳しく批評した。

 岡田氏は、「野球はデータ分析を利用しやすい環境だが、日本ではなかなか活用が進んではいない」としながらも、「日本の球界も徐々にデータ分析が浸透し始めており、あと数年後には技術革新の成果が見えてくるはず」とフォローする。
 そこで、小谷氏から「MLBなどでは主観とデータが相反した場合にどう処理するのか」という疑問が投げかけられた。

 すると岡田氏は、「米国でも主観を強く唱える人もいるが、相対的にデータと比較し論理的に判断する人の割合が日本より多い」と答える。
「野球の場合はシーズン前に立てた戦略がシーズン途中で勝てる見込みがなくなった場合、どこを目指すのか目的の変更を柔軟に行うことによって最適な組織運営が可能になる」(岡田氏)

 その考えに同意する小谷氏は、「戦略を一旦立ち上げたらそれを金科玉条で変えないのではなく、柔軟に修正できることが大事。」と補足する。
 また、「情報やデータを組織で使いこなすという点では、組織のリーダーやデータ管理者のマインドを変えていく必要がある」という小谷氏は、「日本の組織は縦割りになりがちだが、情報を組織で活用するためには横のつながりこそが重要で、組織をフラットにし、組織の中にどんな情報があるのかを常にガラス張りにすることで、トップやデータの管理者がいつでも把握できるようにすることが重要」と訴える。
 岡田氏も情報の可視化について日米での少なからぬ差を指摘する。「MLBでは最新のトラッキングデータをはじめとしてほとんどの試合のデータが公開されており、一般のファンから分析の専門家まで誰でもそれを利用して分析ができるようになっており、分析の新たな知見が生まれている。一方、日本のプロ野球は情報があまり公開はされておらず、分析できる人も限られ、分析の技術革新も起きにくい状況だ」(岡田氏)

ビッグデータで新たな物差しを見つけた人が新たなイニシアティブを得る

 続いて、話題はビッグデータの活用に関するテーマへと移った。

 データをビッグデータとして扱うためには必ず数値化して蓄積することが重要だという小谷氏は、「私たちは、身の回りのデータの多くを無駄にしている」と訴える。
「ビッグデータはその無駄になっているデータを掘り出して見直し、意味を見出すことが目的だが、私は最近テレビの情報を相当無駄にしていることに気付いた。新聞の読み方に一家言ある人は多いが、テレビの見方にこだわりを持っている人は少ない。テレビからいかに情報を引き出すかについて考えることも必要だろう」と課題を提示する。

 野球でも同じことがあるという岡田氏は、「キャッチャーのキャッチング能力が重要だと思われていても、日米でそれをなかなか分析できずにいた」と話題を振る。
 そこで、自動的にストライクボールを判別可能なシステムを導入したところ、ボールゾーンに投げられた球がキャッチャーのテクニックによってストライクとコールされる割合に変わっていることが判明したという。キャッチング能力が顕在化し、優れたキャッチャーなら20~30点ほどの失点がそのキャッチング能力で抑えられるという研究もあると岡田氏は打ち明ける。

「データの取り方ひとつでキャッチャーへの評価が一変してしまう可能性がある。日常的にデータ分析方法を考えることで、新たな発見が生まれるのではないだろうか」(岡田氏)

 事実、サイバーメトリクスでは出走率が得点と大きく関係すると重要視する。得点は出塁と長打との掛け合わせで決まってくるといわれ、従来の常識だった送りバントや進塁はあまり重要ではないという。出塁率の高い選手と長打が多い選手をいかに多く揃えるかが重要で、まさにそれが戦略として注目されているというわけだ。
 それを受け、小谷氏は、「打率や防御率の高い選手を高い金額で揃えるのは弱小球団では難しい。そのため、勝つ条件をデータ分析で突き詰めることで、打率は悪くても出塁率の高い選手は安くスカウトすることができる。目的を突き詰めることで従来とは異なる見方や、本来なら見向きもされないデータが生きてくる」と評価する。

 最後に、岡田氏も続ける。「従来、当たり前だと思われてきた打率や防御率などの物差しが実は曖昧だったことになる。ビッグデータを分析することで、それまでの評価や物差しが変わってくる可能性がある。新たな物差しを見つけた人が新たなイニシアティブを得ることは間違いない」と語り、2人の対談は終了した。

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