| 日立ソリューションズTOP | プレミアムサービスWeb TOP | この人に学ぶ | 平成の世にサムライを探して | 三宅由佳莉 |

【平成の世にサムライを探して】 海上自衛隊東京音楽隊 3等海曹 三宅由佳莉 「聴いてくれる人がいるなら、どんな場所でも歌いたい」

歌は人を救うことができるのだろうか──。三宅由佳莉氏は、そう問い続けている。海上自衛官にしてボーカリスト。その特別な場所で、彼女は今日も歌と向かい合う。

一人の歌い手から海上自衛官に

三宅由佳莉(みやけゆかり)プロフィール

岡山県生まれ。
岡山県立岡山城東高等学校普通科音楽系、日本大学芸術学部音楽学科声楽コース卒業。
2009年4月に海上自衛隊に入隊。同年9月、東京音楽隊に初のボーカリストとして正式に配属される。
13年8月、CD『祈り〜未来への歌声』がリリースされた。

東日本大震災の被災地を訪れたのは、震災からひと月以上がたった4月の終わりだった。震災直後は、歌を歌いたいとも、音楽を聴きたいとも思わなかった。東京・世田谷区にある海上自衛隊東京音楽隊の本部に身を置きながら、ただ、一刻も早く現地に向かいたいと焦り続けた。

「何で私はここにいるんだろう。何で被災地にいないんだろう──。そんなことを考え続けていました」

海上自衛隊東京音楽隊 3等海曹、三宅由佳莉氏はそう振り返る。

4月になって宮城の松島町を訪れ、被災者の前で初めて歌った時のことを三宅氏は鮮明に憶えているという。歌い終えると、人々が彼女のもとに次々に歩み寄り、涙を流しながら握手を求めてきた。

「ありがとう。また来てね。そう皆さんが言ってくださいました。来てよかった、歌を歌っていて本当によかったと、心の底から思いました」

主要な演奏会で使用される通常演奏服装で姿勢を整えたたずむ三宅氏
主要な演奏会で使用される通常演奏服装で
姿勢を整えたたずむ三宅氏

三宅氏が初の専業ボーカリストを目指して海上自衛隊に入隊したのは、2009年4月のことである。

歌の好きな子どもだった。小さな体で祖母に寄り添いながら、歌集を開いて「赤とんぼ」「夕焼け小焼け」「ふるさと」といった童謡を毎日のように一緒に歌った。小学5年生で合唱団に入り、地元岡山の高校に進んでからは、学年に1クラスだけあった音楽専科の学級で歌を学んだ。

その後、上京して日本大学芸術学部音楽学科に入学する。クラシックの歌唱を専門的に学びたいと考えてのことだったが、ほどなく大学の音楽教育に違和感を抱くようになった。

「歌に試験があって、点数がつくことに抵抗を感じたんです。それぞれの人が持っている声や歌い方がその人の音楽なのだから、それを点や順位で評価することはおかしいって」

ミュージカル俳優になって舞台に立ちたいという願いもあったが、与えられた役を演じることに向いていないことに気づいて、その夢もあきらめた。

「どんな役をやっても、結局、自分になってしまうんです」

そう言って、三宅氏は笑う。
最後に、「歌い続けたい」というシンプルな、しかし揺るがぬ思いだけが残った。その強い思いをいったんは胸にしまって就職活動に専念することにしたのは、大学4年生になってからだ。

仕事を得て、自立した生活を送りながら夢を追いかけよう。そう考えていたときに偶然舞いこんできたのが、海上自衛隊の音楽隊でボーカリストを募集しているという情報だった。

「正直、最初は全く興味がありませんでした。4年間お世話になった先生からいただいたお話だったので、説明会に行くだけ行って、やっぱり無理ですとお断りしようと思っていました」

入隊時を振り返る三宅氏
入隊時を振り返る三宅氏

その意識が変わったのは、説明会で海上自衛隊東京音楽隊の具体的な活動を聞いてからである。式典や国家行事だけでなく、地方を回ったり、学校に出向いたりしながら、日本中の人々に、そして世界各地の人々に音楽を届けていく。それが東京音楽隊の役割だ。一般の楽団と大きく異なるのは、それが自衛隊という「国民のための組織」に属する音楽隊であり、従って、演奏活動のすべてが「国民のため」であるという点である。

「自衛官とは人のために尽くす仕事なんだ。汗を流すことで多くの人に貢献できる仕事なんだ。そう知ってから、ここで歌いたいと強く思うようになりました」

内定までもらっていた企業に断りの連絡を入れ、そうして三宅氏は未知の世界へ足を踏み入れることとなった。

しかし、入隊後に待っていたのは、5カ月間におよぶ厳しい訓練だった。立場はあくまで一人の海上自衛官である。集団生活がスタートし、早朝6時から始まる生活のリズムを徹底的に叩き込まれた。起床ラッパでたたき起こされ、その5分後にはグラウンドに出ていなければならない。それから一日中、訓練が続く。

訓練は、敬礼、回れ右といった基本的な所作から、ランニング、ほふく前進、銃機器の扱いに及んだ。

さらに、海上自衛隊ならではの水泳やカッターボートの漕艇訓練などもこなさなければならなかった。

心が安まる暇が全くなかった」と自身振り返るその怒とうの訓練期間を経て、三宅氏は正式に海上自衛隊東京音楽隊の一員となった。現在も、連日の練習のほか、企画係としてコンサートの台本や進行表の作成業務を担う。

自分のための歌から人を勇気づける歌へ

三宅氏が注目されるようになったのは、東京音楽隊長の河邊一彦2等海佐が作詞・作曲を手がけた「祈り〜a prayer」での歌唱が知られるようになってからである。自身、幼少期に交通事故で母親を亡くした経験のある河邊隊長が、東日本大震災で肉親や友人を亡くした人々を勇気づけようと作った曲だ。曲の中にはこのような歌詞がある。
  • 悲しい出来事や迷い悩んだこと
    やがて満たされるよ
    きっと信じている
    君の姿見えず声も聞けないけど
    いつも感じている
    君と共にいると

「祈り〜 a prayer」
作詞・作曲 河邊一彦 Kazuhiko Kawabe
©2012 by fostermusic Inc. All rights reserved.

三宅氏と東京音楽隊のアルバム『祈り〜未来への歌声』の冒頭で、三宅氏はこの曲をピアノとのデュオのスタイルで歌っている。澄んだソプラノの声は、震災の犠牲になった一人ひとりの魂に、また、残された一人ひとりの心にそっと語りかけるように響く。それはまるで、死者が生者に、生者が死者に告げることの叶わなかった最後の大切な言葉をすべて一身に引き受けて歌っているような、美しく感動的な歌唱である。

自衛官となってから歌に向かい合うスタンスがはっきり変わったと、三宅氏は言う。以前は、歌い終わった後で「上手だった」「いい歌だった」と言われることが快感だった。褒められるために、自分が楽しむために歌ってきた。

自分のための歌から人を勇気づける歌へ
自分のための歌から人を勇気づける歌へ

しかし、一自衛官となってからは、人を癒やし、勇気づけるために歌いたいという強い意識が芽生えた。

「自衛官になって初めて、歌を歌った後で『ありがとう』と言っていただく経験をしました。その言葉を聞いて、東京音楽隊の隊員という仕事は、人から感謝していただける仕事なんだと改めて気づかされました。あれが私にとっての転換点だったと思います」

自分のために歌う歌から、人のために歌う歌へ。その大きな変化が、ボーカリストとしての幅を広げることにもつながった。

「大学で学んだのはクラシックであり、自分はクラシックの歌い手であるという意識が常にありました。でも、東京音楽隊の演奏を聴いてくださるお客さまは、クラシックのファンだけではもちろんありません。演歌が好きな年配の方もいれば、アニメソングが好きなお子さんもいます。だから、それまで歌ったことがなかった演歌やアニメの歌、アイドル歌手の歌などを必死に練習して、何とか歌えるようになりました。今でも上手に歌えているとは思いませんが、たとえ上手でなくても、お客さまに喜んでもらえるならそれでいい。そう思えるようになりました」

『祈り〜未来への歌声』には、童謡、スタンダード、ミュージカル曲、オリジナル楽曲など幅広いラインナップが収録されているが、一聴して感じられるのは、三宅氏の歌の「自然さ」だ。クラシック、ポップス、日本の伝統曲といったジャンルごとのスタイルに一切とらわれることなく、ただ真っすぐに聴き手に向けて歌を伝えようとする率直さがアルバム全体を貫いている。この自然さ、この率直さこそが、自衛隊入隊後、一人のボーカリストとして三宅氏が新たに獲得した力と言っていいかもしれない。

会員登録をしていただくと、続きをご覧いただけます
会員登録はこちら
(別ウインドウでリンク。これより先はSSL暗号化通信と鳴ります。)

※本サービスは法人のお客様向けに提供しております。法人に所属していないお客様は入会をお断りさせていただく場合がございます。何卒、ご了承下さいますようお願い申し上げます。

会員詳細について>>

「この人に学ぶ -Expert-」カテゴリの他のコンテンツも見る

  • 平成の世にサムライを探して
  • キーパーソン
  • あの人のモノ選
  • プロ野球に学ぶ強い組織の作り方
※2010年9月30日以前に公開されたコンテンツについては、本文中の社名は当時のもの(日立システムアンドサービス)となっております。
会員登録がお済みでない方はこちら 会員登録 こちら
会員の方はこちらから ログインページへ
【プレミアムサービスについてのお問い合わせ】0120-571-488 受付時間:月〜金(祝祭日除く)10:00〜17:30
集まってつながる会員様の“声”の広場【WelcomeVoice】
ミスタープロジェクトマネジメント 名内泰藏特集