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特集・コラム

第4回 グローバルサプライチェーンの全体最適化とSCMシミュレーションツール 第4回 グローバルサプライチェーンの全体最適化とSCMシミュレーションツール

グローバルサプライチェーン設計のために考えなければならないこと

 第3回で、FTAが企業のグローバルサプライチェーンに与える影響と効果に関してお話ししました。企業が具体的にグローバルサプライチェーンを構築するためには、FTA以外の効果も考えなくてはなりません。
 商品に関しては、ソーシングを変えた際のコストだけではなく、品質、納品最低ロット、リードタイムなどの要素も必要ですし、カントリーリスクなどを加味する必要があります。政治上の安定度や洪水、地震などの天災リスクも無視できません。

 FTAは関税のみを扱いますが、各国のその他の税も考慮に入れる必要があります。図1はインドでの税金の例を示したものです。インドは関税そのものが低く見える(それでも10%あるものが少なくありません)のですが、その他の税を払うと最終的に輸入に税が30%かかる事もあります。また、売買において、移転価格の問題もクリアにしなければなりません。
 それ以外にも、新興国では未整備な法的側面も考慮する必要があります。

図1 インドでかかる税金の例

図1 インドでかかる税金の例

日本企業のグローバルサプライチェーン構築のお粗末さ

 日本企業は、国内に関しては緻密な設計をして物流を構築しています。しかし、一旦海外に出ると、そのアプローチの粗さに私は驚かされることが少なくありません。
 まず、海外間の交易の物量などの情報が本社で把握されていません。とある大手企業の社長がおっしゃっていましたが、「海外は闇の中。いったいどうなっているのか、効率的なのか、改善の余地はないのか、そういったことがわからない」のが現状の企業が多いのです。

 また、仮に交易の情報がわかっていたとしても、先に述べたように日本のサプライチェーン構築とは比較にならない経営上の変数の多さです。それらが関連し合っています。各国の税制や法制のような基本的な情報もそうですが、海外の製造拠点の生産能力、人員数など、様々な当たり前の情報の把握の甘さも見受けられます。

 それだけ不確かな情報の中で、時として不足した情報から誤った経営判断をしてしまうことがあります。ある会社は、ベトナムに新工場を建て、EUへのGSP+という関税優遇を受けることで、低コストでの輸出を画策しました。そして工場を建て輸出する段になり、関税優遇の条件に当てはまらないことがわかり、結果として新工場はメリットがないどころかコストアップになりました。
 また、違う会社は、製造拠点を日本から中国に移管しました。これもタイ向けの輸出でのコスト(関税)メリットを狙ってのことでしたが、結果は税関のHSコードの解釈が中国とタイで違い、タイ側で関税メリットを享受できませんでした。これらの例は共に事前の調査ができていれば解決できたことです。

 見知らぬ土地に行く際には地図は必須のものです。グローバルサプライチェーンはその「地図」をもって構築されねばなりません。その地図なしには海外での成功はおぼつかないのです。

SCMシミュレーションの必要性

 国内でも必要ですが、海外で戦うための「地図」をどう作るか、これがグローバルサプライチェーン構築の第一段階です。曖昧な情報を基にして意思決定を行えば、その後の苦労は大きくなるばかりでなく、判断を間違えば、企業の存続にも影響があります。

 そこで、私は「地図」としてのSCMシミュレーションの実施を提案しています。サプライチェーンの全体像を俯瞰するだけではなく、部分の変化も定量的に理解できます。アプリケーションによるシミュレーション結果は、客観的な数値としてグローバルサプライチェーンのあり方を責任者間で共有、それにより検討・討議する根幹になります。

 具体的な進め方は、図2に示しました。最初のステップは、現在のサプライチェーンの現状認識・把握をしっかり行うこと。サプライチェーンの要素となる拠点がどこにあるか、それぞれの拠点間の物量がどの程度あるか、それぞれの拠点の情報(例えば生産能力など)をしっかり把握する必要があります。この点で手を抜くと後の結果に大きな影響があります。

図2 グローバルサプライチェーンの構築プロセス

図2 グローバルサプライチェーンの構築プロセス

 現状把握ができれば、次は想定されるサプライチェーン構造のシナリオ作りと、検討するために必要なデータを作り出すシミュレーションのモデリングを行います。サプライチェーンの現状認識がおよそできれば、どのような変更の可能性があるかを考えることはできます。将来をにらんでいくつかの可能性を考えてみてください。シナリオを構築するときには将来需要もいくつかのシナリオで用意すべきです。

 私の会社は10年来ある自動車メーカーのアフターパーツの需要予測に基づくSCMシミュレーションを請け負っています。はっきり言って、需要予測がぴったり当たったためしはありません。でも、その予測があるから今後どうしようという考えが浮かぶのです。
 そして、そのシナリオを検証するために、シミュレーションのモデリングを行うことになりますが、肝心なのは細かくしすぎず、シナリオ検証の評価項目に意識を合わせたものにフォーカスすることです。精緻にすればするほどシミュレーションのモデルの間違いを見つけることができません。
 例えば、生産地を変えることになれば、様々なことを考える必要があります。生産がシフトしてしまった工場ではどれだけのキャパシティが余り、従業員はどれだけ余剰になるのか、新しく受ける工場はどの程度のキャパシティを持てばいいのか、こういった情報をシミュレーションが返してくれることが大切でしょう。

 私は先の自動車メーカーのSCMシミュレーションではシミュレータを自作しましたが、世の中にあるすぐれたシミュレータを活用するのも時間と他のノウハウを活用する意味で大事です。日立ソリューションズが計画しているSCMシミュレータはその中でも秀逸なツールですので、検討されてもいいのではないかと思います。

 最後に、シナリオ毎に出てきた結果を基に、それ以外の要素(税務、法務他の定量・定性要素)を検討し、結論を導き出します。シミュレーション結果が思わぬ結論を出すことがあります。思ってもみなかった発見があることも少なくありません。
 私の例ですが、とある企業が東南アジアで生産した物の中南米への供給網を考えるのに、一旦ハブに集めてから供給することをシナリオとして考えました。①アメリカ、②メキシコ、③パナマといったハブとしてのシナリオが考えられ、シミュレーションを行いました。結果は、東南アジアのハブから各国へコンテナの直行便が近い将来的に成立するので、アクションを起こさず、そのタイミングまで様子を見るというものでした。評価者がシェアできる客観的な数値があっての結論です。

グローバルサプライチェーンを考える組織

 FTAから始まり、グローバルサプライチェーンのシミュレーションによる構築手法まで申し上げました。しかし、グローバルSCMを考えるための組織・体制が今の日本企業に一番欠けているものだと思います。

 日本企業の多くは、まず、「国内」と「海外」を分けて考えます。そして、「調達」、「生産」、「販売」を分けて考えます。SCMを担当しているわけではない「物流」部門は主として国内専門か、あったとしても輸出入まで。サプライチェーンは従来組織の横断的位置づけで、それぞれの組織に対してものが言える権限と責任を持たねばなりません。
 また、専門家である必要はありませんが、海外税務、海外法務の基本知識はあった方がよく、少なくとも相談できる組織、もしくは外部専門家へのコンタクトができる必要があります(図3)。
 FTA活用からグローバルSCM構築を行う部署は、そういった企業のファシリテータでなくてはならず、それ故、企業の意思決定に近い部門でなくてはなりません。

図3 グローバルサプライチェーンを考える組織のあり方

図3 グローバルサプライチェーンを考える組織のあり方

 第3回で申しましたように、FTAはデジタルの変革を求めます。正確な情報を基にして迅速な意思決定ができる体制を是非築き上げ、グローバルサプライチェーンの変革を起こし、競争に打ち勝って下さい。

嶋 正和 氏の写真

嶋 正和 氏

株式会社ロジスティック 代表取締役

【学歴】
東京大学工学部電子工学科卒業
欧州経営大学院(INSEAD)MBA取得

【職歴】
コンサルティング、物流企業での実経験の中から、ノンアセット型3PLサービスを経営の立場から構築、運営を展開。株式会社プランテックコンサルティング(社外)取締役

-ボストン・コンサルティング・グループ
 ・情報システム・ロジスティクス関連プロジェクト
-フットワーク・エクスプレス
 ・物流会社にマーケティング、戦略の導入を実施
-ローランド・ベルガー・アンド・パートナー・ジャパン
 ・ロジスティクスの包括アウトソーシングを核とした改革コンサルティング
-ロジスティック
 ・設立時に大前研一氏主催のビジネス・プラン・コンテストで大賞受賞

嶋氏著書 戦略的FTA 活用ハンドブック メリットとコンプライアンスの写真

嶋氏著書

戦略的FTA 活用ハンドブック メリットとコンプライアンス

出版社: Web販売のみ(2018年6月発売予定)

章立て(予定)
 -第1章 FTAと戦略的活用
 -第2章 FTAの基礎
 -第3章 FTAのメリットを享受するには
 -第4章 日本企業のFTA活用の問題
 -第5章 日本企業の課題の解決はこれでできる!
 -参考資料
 -図表目次
 -索引
 -語彙集
 -FTAお役立ちサイト
 -FTAに関する相談窓口

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