『10年後、2027年のIoTビジネスで成功する施策』続:IoT 先行企業の狙いを見極める。|ドイツ、米国、日本におけるインダストリー4.0の現状|鍋野 敬一郎


製造・流通・通信業向けビジネスナレッジ

特集・コラム

第1回 ドイツ、米国、日本におけるインダストリー4.0の現状

 日本が、IoT/インダストリー4.0に取り組み始めたのは2015年からです。それから約2年が経ちましたが、日本企業でIoTビジネスに取り組んでいる企業はまだ1割にも満たないと言われています。
 この2年間の大きな変化としては、英国のEU離脱、米国が反グローバル、アメリカファーストを掲げたトランプ氏が新大統領となったこと、こうした一連の動きによって世界経済がグローバル化、自由貿易からブロック経済、保護主義貿易へと方向転換していくことが予想されます。
 こうした時代の変化を踏まえて、IoT/インダストリー4.0のこれから10年先を見据えた戦略について、ドイツ、米国、日本の動向を考察していきたいと思います。

第2段階へ入ったドイツ、ガラパゴス化の回避を図る日本

 インダストリー4.0(第四次産業革命)を掲げたドイツは、既に5年にもおよぶ活動と莫大な投資による成果や事例が出てきていますが、その取り組みが計画より遅れていることから「インダストリー3.6にようやく到達した程度」と自らを評しています。
 また、欧州経済が依然として厳しい状況にあり、難民問題や英国のEU離脱、ドイツ大手銀行の業績不振、米国のトランプ新政権による反グローバル・保護主義貿易、そしてインダストリー4.0に懐疑的な中小企業の存在など、その行く末には不透明感が漂っています。
 厳しい状況ですがドイツ経済は強く、欧州市場では唯一の勝ち組となっています。インダストリー4.0の当初の目的は、GDPの約3割を占める製造業を中国や日本などの脅威から守ることでしたが、現在の目的は中国や日本とも連携してドイツが市場をリードする役割を担うことで、ドイツの製造業が勝ち組をめざすことに変わってきています。ドイツが、中国や日本、そしてアジア新興国を脅威と感じているのは変わりませんが、それ以上に気になる存在として米国の新しいタイプの製造業に危機感を感じています。その仮想敵となっているのが、ゼネラル・エレクトリック社(GE)やグーグル社、アップル社、テスラ社などです。

 IoTは全ての産業に展開できるテクノロジーですが、最も先行しているのが自動車産業や機械産業です。これに次いで運輸業界やエネルギー業界、そしてヘルスケアなどが続いています。ドイツが自動車産業と機械産業を重点対象として、製造業のIoTに取り組んでいるのは周知の通りですが、その中心にあるのはヒトやモノを移動する手段であるモビリティに深く関連しているのです。
 GE社の主力産業は、航空機エンジンなどのアビオニクス事業です。グーグル社やアップル社は、自動車の自動運転に巨額の開発投資を行いこの市場を支配しようと考えています。さらに、独フォルクスワーゲン社や米ゼネラルモーターズ社、そしてトヨタ自動車が自動車の次世代市場として取り組んでいるのが電気自動車です。テスラ社は、ベンチャー企業でありながら電気自動車で最も実績を持つ自動車メーカーです。そして、テスラ社の自動車は新しいソフトウェアがネットワークで配信されてこれをダウンロードすれば新しい機能を後から追加することができます。高性能コンピュータを搭載しているテスラ社の自動車は、これによって運転支援機能が備わりました(既にハンドル操作をしなくても自動運転する動画が、YouTubeなどに多数アップされています。機能は提供されていますが、法的な問題はまだ議論の真っ最中です)。

 ドイツが危機感を強く感じているのは、IT技術に優れた企業を抱える米国がIoTによって製造業の主導権(イニシアティブ)を握ってしまうということです。逆に米国は、1990年のリセッションより製造業からIT産業と金融業界へ経済の主軸を移したことで、製造業の技術やノウハウが失われてしまいました。これを補完すべく、優秀な技術者やノウハウを持つドイツや日本に積極的に提携や買収を行っています。その結果、2016年3月にドイツのインダストリー4.0と米国のIIC(インダストリアル・インターネット・コンソーシアム)が、戦略的提携で合意して両者が協力して国際標準を策定していくことになりました。ひと言で言えば、ドイツと米国がこれからの製造業のルールを一緒につくって市場を支配することになったと言えます。
 中国はドイツとの強力なパートナーシップと、「一帯一路」構想と、これを資金面で支える「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」を背景に、中国版インダストリー4.0と呼ばれる「中国製造2025」に取り組んでいます。
 米国新大統領のトランプ氏は、大統領に就任したその日に「TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)」離脱を表明していますから、これまでのグローバル化、自由貿易構想は変更されて反グローバル、保護主義貿易へと転換すると予想されます。いずれにしても、ドイツと米国、そしてドイツと組む中国が大きな影響力を持つことになります。日本は、自動車産業や機械産業に大きなシェアを持っていますが、こうした方向転換に取り残される瀬戸際にあります。ドイツと米国の動きから目を離さず、変化に対して機敏に行動する心構えが求められます。

ドイツとの連携で世界標準へ迫るアメリカ

 2016年4月に、世界最大の国際産業見本市ハノーバーメッセが開催されました。2016年のパートナー国は米国で、オバマ大統領(当時)とメルケル首相が親しげに会場を視察する様子が公開されています(2015年はインド、2017年はポーランド)。ハノーバーメッセ2016の出展企業は約5,400社で、国別出展企業の内訳はドイツが約2,400社、中国が約800社、米国が約500社でした。ちなみに、日本企業は48社で、台湾の約80社、韓国の約70にもおよびませんでした。
 さらに日本企業にとって衝撃的だったのは、トヨタ自動車が、工場の生産設備をつなぐネットワークの新しい規格として工場自働化(FA)機器大手の独ベッコフオートメーション社の「EtherCAT:イーサキャット」を採用したことです。トヨタ自動車は、これまで日本電機工業会の「FL-net」を自動制御規格として採用してきましたが、これからは「EtherCAT」がその標準規格となります。欧州市場を攻める手段として、トヨタ自動車が抜かりなく布石を打っている現れだと思われます。もちろん米国も、製造業向けに新しいオープンな通信規格「MTコネクト(MTConnect)」を推進、オークマやヤマザキマザックなど大手工作機械メーカーがこの規格に対応した製品を公表しています。

 日本はIoTやインダストリー4.0への取り組みが遅かったことなどから、こうした動きを察知しながら機敏な動きができませんでした。コンピュータの基本ソフトや携帯電話の通信規格など、日本の先端技術や強みがガラパゴス化して世界市場から弾き出された懸念が、IoTに関連して自動車産業や機械産業でも顕在化しつつあります。
 これを回避するクリーンヒットが、ハノーバーメッセ2016開催と同じタイミングで経済産業省とドイツ経済エネルギー省が交わした「IoT/インダストリー4.0協力の合意」です。これは、次の6項目でドイツと日本が連携して取り組みを進めていく内容です。

  1)産業向けサイバーセキュリティ
  2)国際標準化
  3)規制改革
  4)中小企業に対するIoT利用の支援
  5)IoTおよびインダストリー4.0に対する研究開発
  6)人材育成

 以上の6項目が連携の対象となる領域です。日本政府の戦略は、日本とドイツの産業構造が似ていることからインダストリー4.0でイニシアティブを握っているドイツが優先すべき対象であると考えたようです。そして、既にこれまでの日米関係に頼って、製造業以外の運輸産業やヘルスケア、エネルギー、社会インフラなど米国が強みを持つ領域とのパイプを太くしていくことで、日本のガラパゴス化を回避してできるだけその中心に活路を見出したいようです。

 トランプ新政権が、自由貿易や日米関係に大きな変化を与えることは確実だと思われますが、米国と中国、米国とロシアの関係も路線変更されると思われ、必然的に日本の外交、貿易、経済などに影響が出ると思われます。ドイツが起点となるIoTとその関連市場のこの先のイニシアティブを握っているのは、間違いなく米国だと思われます。

先行事例とテクノロジーに活路を求める日本

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 日本企業が、IoT/インダストリー4.0に取り組んでいく上で、気になる表現が「IoTとは、モノにセンサーやコンピュータを組み込んでこれをネットワークにつなぐこと」であるという説明です。間違った内容ではありませんが、なんでもつないでデータを大量に集めれば、IoTが実現するという安易な発想を助長しているように感じます。IoTの本質は、モノにコトという情報(データ)をサービス化して提供することで付加価値を高め、売上/利益を得る可能性が広がるという意味です。つなげばIoT導入が成功して絶対に儲かるとは言っていません。確実に儲かるのは、「IoTあります、できます、簡単です」といって製品やサービスを売りつけるベンダだけです。

 日本はIoT後発となったことから、「まず事例を紹介して欲しい!その事例を我が社にも導入する」という話が蔓延しています。酷いケースだと「どのベンダの何を買えばIoTが導入できるのか?」とか、「IoT関連銘柄を教えて欲しい、その企業の株を集めて投資商品を開発します」という話が毎日のように届きます。
 かつて、外資系IT企業がERPという業務パッケージを日本企業に売込みましたが、これを見た日本のIT企業が自社の会計ソフトをERPであると称してブランドだけ差替えて販売していました。すっかり感化されたユーザー企業のある経営者は、株主総会で「我が社の経営戦略はERP導入です!」と真面目に語っていました。目的と手段が逆になっているような気がするのですが、IoTも全く同じパターンに見えます(人工知能(AI)、ビッグデータも恐らく同じレベル)。

 センサーやロボットなどテクノロジーに優れている日本は、IoT後発でも追いつくのは簡単だと楽観的に見る人が多いようです。各種センサー類や工作機械などの世界シェアが高く、IoTに積極的に取り組んでいる自動車産業やハイテク産業の大手メーカーが多数存在し、なによりも日本には、匠(たくみ)と呼ばれる優れた技術力と豊富な経験を持つ熟練技術者が数多く存在しています。IoTに取り組み始めたのは、欧米より遅かったのですが、高い技術力と優れた技術者がこの遅れを取り戻して欧米に追いつくことは、それほど難しいことではないと見られています。建機大手の小松製作所(コマツ)やFA機器大手の三菱電機、電機大手の日立製作所など、既にIoT技術で先行する大企業が多数存在しています。しかし、先行企業に追いついたその次について考えている人はどれだけ居るのでしょうか?

 成功事例を持つ先行企業が優れているのは、その内容以上に誰もやったことが無い新しい取り組みを、試行錯誤して自ら切り拓いているところにあります。後発企業に追いつかれても、目的とビジョンを明確に持つ企業はその先に進んでいくことができます。逆に事例に頼って外見だけをマネしても、先行企業を追い抜くことはできません。IoTへの取り組みとは、ゴールを自ら決めて進むことができる企業だけが成功を手にすることができます。

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鍋野 敬一郎 氏

株式会社フロンティアワン 代表取締役
ERP研究推進フォーラム講師

1989年 同志社大学工学部化学工学科(生化学研究室)卒業
1989年 米国大手総合化学会社デュポン社の日本法人へ入社。農業用製品事業部に所属し事業部のマーケティング・広報を担当。
1998年 ERPベンダー最大手SAP社の日本法人SAPジャパンに転職し、マーケティング担当、広報担当、プリセールスコンサルタントを経験。アライアンス本部にて戦略担当マネージャーとしてSAP Business All-in-One(ERP導入テンプレート)立ち上げを行った。
2003年 SAPジャパンを退社し、コンサルタントとしてERPの導入支援・提案活動に従事。
2005年 独立し株式会社フロンティアワン設立。現在はERP研究推進フォーラムでERP提案の研修講師、ITベンダーのERP/SOA/SaaS事業企画や提案活動の支援、ユーザー企業のシステム導入支援など、おもに業務アプリケーションに関わるビジネスを行っている。
2015年よりインダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI):サポート会員(ビジネス連携委員会委員、パブリシティ委員会委員エバンジェリスト)

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家電や自動車、住宅、ロボット、工場など身の回りのあらゆるモノがインターネットにつながる――。
IoT(モノのインターネット)によって、10年後の私たちの暮らしやビジネス、産業構造は、大きく変わるでしょう。
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鍋野氏寄稿ムック

インダストリー4.0の衝撃

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製造業に押し寄せる新たな波「インダストリー4.0」――。
生産システムがつながる「スマート工場」の登場により、生産現場、サプライチェーン、われわれの暮らしはどう変わるのか!?
インダストリー4.0の立役者ヘンニヒ・カガーマンはじめ、日本GE、経産省のインタビュー、専門家の論考などにより、21世紀の新産業革命を多角的に読み解く。

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ご参考サイト

2015年7月31日(金)開催「日本の製造業はインダストリー4.0にどう対処すべきか」スペシャルレポート(SBクリエイティブ株式会社(ソフトバンクグループ)のサイト「ビジネス+IT」へ)

インダストリー4.0から見る日本企業が執るべき戦略~日本的「つながる工場」とは何か。その示唆を探る~ 講演資料ダウンロードはこちら

連載目次

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『10年後、2027年のIoTビジネスで成功する施策』一覧

第1回:ドイツ、米国、日本におけるインダストリー4.0の現状

第2回:インダストリー4.0のイニシアティブを握りつつあるドイツ

第3回:アメリカ・ファースト時代の米国IoT戦略の行方

第4回:IoTビジネスに成功する日本企業の取り組み



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