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第4回 野村一晟 フレーズに魂を込める「文字の魔術師」|システム構築やトータルソリューションをお探しなら、日立ソリューションズをご利用ください。

~【挑む人】新時代の「サムライ」を探して~第4回 アンビグラム作家 野村一晟「フレーズに魂を込める「文字の魔術師」」

見方を変えても文字として読める。そんな不思議なアートが「アンビグラム」だ。日本語でつくるのは非常に難しいそのアンビグラムの若き巨匠が野村一晟氏である。お客様情報誌「プロワイズ」の表紙の文字を担当していただく野村氏に、アンビグラムと出合った経緯や、このアートの魅力について聞いた。

Twitterで広まった作品の評判

野村一晟(のむら・いっせい)プロフィール

1990年富山県生まれ。富山大学芸術文化学部卒業。小学校と高校の図工・美術講師を務めながら、アンビグラムの作家としての活動を続ける。NHK時代劇「ぬけまいる」の題字や企業ポスターなどを多数手がけている。著書に『つくろうよ! アンビグラム』(飛鳥新社)がある。

※黒字= 野村一晟 氏

──初めに、アンビグラムについて読者の皆さんに向けて簡単に解説していただけますか。

アンビグラムとは180度回転させたり鏡像にしたりして見方を変えても読める文字のことで、1970年代にアメリカのデザイナーが最初の作品をつくったといわれています。しかし、しばらくはそれほど注目されていませんでした。世界中に知られるきっかけになったのは、ダン・ブラウン氏の『天使と悪魔』という小説です。この中に物語のキーアイテムとしてアンビグラムが登場します。僕は2009年に公開された映画版でアンビグラムに出合って、「何て面白いんだろう」と思いました。大学3年生でしたね。

──映画では「earth(土)」「air(空気)」「fire(炎)」「water(水)」という4つの文字の焼き印がアンビグラムになっていましたね。

そうです。僕は子どもの頃から絵を描くのが好きで、特にシャープペンを使って細密画を描くのが得意でした。感動するとそれを描いてみたいと思うのが癖で、アンビグラムにもすぐに挑戦してみたんです。最初に、映画に出てきたアンビグラムをじっくり眺めて、法則のようなものが分かってきたところで、自分の名前のローマ字をアンビグラムにしてみました。「ISSEI」という名前はアンビグラムにしやすくて、すぐにできました。次にひらがなの「いっせい」にも挑戦しましたが、これもわりと簡単にできましたね。

──もともと、アンビグラムになりやすいお名前だったのですね(笑)。

そうなんですよ。それでコツが分かってきたので、友だちや家族の名前をアンビグラムにしてプレゼントしたらみんな喜んでくれて、それで自信を持ちました。その後、同学年全員の名前をアンビグラムにして、慣用句などにも挑戦するようになりました。

──世の中から注目されるようになったきっかけは何だったのですか。

大学4年生の時に、教授に「面白いから、人前でやってみたら」と言われて、美術展で大学生のブースの一部に出展してみたんです。「その場であなたの名前をアンビグラムにします」という趣向だったのですが、当時はアンビグラムなど誰も知りませんから、1人のお客さんも来てくれないわけです。でも、たまたま同じイベントに参加していた他の大学の先生が興味を持ってくれて、美術館関係者や新聞記者に紹介してくれたんです。それで地方紙に載ったことがきっかけになって、地元のテレビやラジオへの出演依頼が来るようになりました。

──そこから作家人生がスタートしたのですね。

いや、アートですぐに食べていけるはずもないですから、卒業して美術教員の職に就きました。しかし、すぐにフルタイムの教員の仕事と作家活動の両立は難しいと分かって、半年で非常勤講師になりました。

そうやってしばらく二足のわらじを履いて活動していたのですが、年度の最後に、「次の年は非常勤講師の仕事はない」と言われたんです。どうやって生活していこうと思いましたが、悩んでいても仕方がないので、「作品をどんどん売って収入にしよう」と考えました。それが結果的に作家活動に本腰を入れるチャンスになりましたね。現在はまた非常勤講師をしながら作品づくりを続けています。

──最初に話題となった作品を覚えていますか。

忘れもしません。仕事がなくなってすぐの4月のイベントに出店した時のことです。雨でお客さんはほとんど来なくて、ポストカードがたった3枚しか売れませんでした。

 しかし、実はそれが人生の転機になりました。そのポストカードの中に、「陽」と「陰」のアンビグラムを立体にした写真を印刷したものがあったのですが、それを買ってくださった方がTwitterにその写真をアップしたら、1週間で4万ものリツイートがあったんです。そこからですね。アンビグラムという言葉と僕の名前が一気に広まったのは。

2つの言葉からストーリーが生まれる

──アンビグラムをつくる技術はすべて独学で習得したのですか。

見よう見まねです。誰かがつくり方を教えてくれるわけではないし、本があるわけでもありません。インターネットで見つけたアルファベットの作品を参考にしながら、独自に手法を編み出しました。

──『天使と悪魔』に出てくるアンビグラムは、180度回転させても同じ言葉になりますよね。見方を変えると別の言葉になるという発想はどこから生まれたのですか。

英語のアンビグラムに、回転させると「LOVE」が「PEACE」になる作品があって、それを見て「日本語でもできるかも」と考えたのがきっかけでした。単に別の言葉になるだけでなく、対応関係や会話が成立するのが面白いと考えて、「陰」と「陽」とか、「ただいま」と「おかえり」といった作品をつくりました。そのうち、2つの言葉を組み合わせるとそこにストーリーが生まれることに気づきました。

──ボートレースのポスターに使われた「挑戦」と「勝利」のアンビグラム作品が有名です。あれはまさに「“挑戦”の結果、“勝利”を獲得する」というストーリーになっていますね。

あの作品は依頼をいただいてつくったものです。勝負事に関わる単語を30くらいずらっと並べて、対応関係を試していきました。アンビグラムになりそうな2つの言葉のうち、ストーリーになりそうなものを探し続けた末にようやく見つけたのが「挑戦」と「勝利」だったわけです。

──アルファベットと比べると、ひらがなや漢字はアンビグラムにするのがかなり難しいと思います。

確かに難しいのですが、「くずし」が許容されるところにアンビグラムが成立する余地があると思っています。

 アルファベットには、縦線を太くして横線を細くするなどの法則があります。ひらがなや漢字にそういう法則はないし、ある程度くずしても文字として成立するという性質もあって、その「くずし」が味わいになったりします。恐らく、西洋ではもともと石に文字を刻んでいたので、直線的で法則性のある文字が書きやすかったのではないでしょうか。それに対してアジアでは、墨汁と筆を用いて文字を書いていたので、いろいろな線が表現できたし、文字の変形もある程度許容されるようになったのだと思います。

──やはり一番難しいのは漢字ですか。

難しいし、その分うまくできた時はすごく気持ちいいですね。アンビグラムをつくる楽しさは、悩んだ末にいい作品ができることです。しかし、それ以上に楽しいのは、それを見た人が喜んでくれたり、驚いたりしてくれることです。自分が生み出したものに反応してもらえた時の達成感や充実感があるから、作品づくりを続けていられるのだと思います。

──アンビグラム作家の立場から見て、日本語にはどのような魅力があると感じますか。

日本語には物事を婉曲に表現する日本人の気質が表れていて、そこに独特の魅力があると感じます。誘われて、行く気はないのに「行けたら行く」と言ったり、申し出を断るつもりなのに「善処します」と言ったり。アンビグラムは、その建前と本音の関係を表現するのに非常に適した方法だと思うんです。「いけたらいく」を回転させると「いくきなどない」になる作品をつくったことがありますが、こういう表現が成立するのは日本語ならではですよね。

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