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第8回 国立大学法人 静岡大学 農学部附属地域フィールド科学教育研究センター 教授 稲垣栄洋 「動植物の生き方に生命の本質を見る」|システム構築やトータルソリューションをお探しなら、日立ソリューションズをご利用ください。

~【挑む人】新時代の「サムライ」を探して~第8回 国立大学法人 静岡大学 農学部附属地域フィールド科学教育研究センター 教授 稲垣栄洋 「動植物の生き方に生命の本質を見る」

虫、動物、魚などの「死にざま」を簡潔にして詩的な筆致で描いて8万部超(2020年2月時点)のヒット作となった『生き物の死にざま』。著者の稲垣栄洋氏は雑草学を専門とする研究者である。植物の研究を手がける稲垣氏は、なぜ生き物の死を書こうと考えたのか──。生き物の生と死を巡るドラマから、人間の生き方や企業活動のヒントが見えてくる。

次世代のために自分の命を捧げる

稲垣栄洋(いながき・ひでひろ)プロフィール

国立大学法人 静岡大学 農学部附属地域フィールド科学教育研究センター 教授
稲垣栄洋(いながき・ひでひろ)
1968年静岡県生まれ。1993年、岡山大学大学院農学研究科修了。農学博士。専攻は雑草生態学。農林水産省、静岡県庁、農林技術研究所などを経て、2013年より静岡大学大学院教授。ベストセラーとなった『生き物の死にざま』(草思社)のほか、『弱者の戦略』(新潮社)、『身近な雑草の愉快な生きかた』(筑摩書房)、『面白くて眠れなくなる植物学』(PHP研究所)などの著書がある。

※黒字= 稲垣栄洋 氏

──雑草研究が専門だそうですね。

大学院から雑草の研究に取り組んでいます。雑草は比較的メジャーな研究分野で、主に防除を目的とした研究が多いのですが、他にも砂漠の緑地化や環境浄化に雑草を利用する研究も進んでいます。

──2019年に出版されて話題となった『生き物の死にざま』では、植物ではなく虫や魚、動物を取り上げています。

子どもの頃から好きだったのは、動物と虫でした。現在の研究対象は植物ですが、「命」という点では、植物と動物に差はないと考えています。生き物の長い歴史の中でたくさんの生命が生まれ、生きてきたということは、それと同じ数だけの死もあったということです。生物多様性の世界には命とともに死が溢れていて、死は特別なことではない。そんなことに気づいて、あの本を2週間くらいで一気に書いてしまいました。

──生き物の生と死にまつわる事実を淡々と書いている点が多くの読者の胸を打っているように思います。

虫や魚は人間からすればつまらない存在かもしれませんが、与えられた命をしっかり生ききるという点では、虫や魚の方が人間よりも立派なのではないか。そんな思いがありました。読み手を感動させたいとか、お説教をしたいという考えはみじんもなくて、生きて死ぬことの本質をただシンプルに書きたいと考えました。

──30種類くらいの生き物を取り上げています。反響が一番大きかったのはどの生き物ですか。

ハサミムシとタコでしょうか。どちらも母親の話です。

次世代のために自分の命を捧げる

──ハサミムシの母親は卵を守った末に、ふ化した子どもに食べられてしまう。タコも卵を外敵から守って、子どもが生まれると間もなく死んでしまう──。そんな話ですね。

もっとも、僕自身の最初の執筆の動機はセミでした。夏の終わりになるとセミがあちこちにひっくり返っていますよね。死んでいるわけではなくて、つつくと動いたりします。でも、もう飛ぶこともできないし、歩くこともできない。ただ死ぬのを待っている状態です。精いっぱい生きて、じたばたせずに淡々と死を迎える。その潔さのようなものを書きたかったんです。

──「死ぬ」という事実だけでなく、親という存在の本質が表現されていると感じられます。

次の世代のために、未来のために自分の命を捧げる。それがすべての生き物の基本的な生き方です。だから、父親も母親も子どものために生き、子どものために死んでいくわけです。書き終えてみて、それが命の本質であることを改めて感じました。子どもたちを犠牲にしたり、未来を犠牲にしたりすることは生き物の世界ではあり得ないんですよね。

オンリーワンの方法でナンバーワンになる

──生死のメカニズムはすべての生物に共通していても、生存戦略は種によって異なりますよね。戦略の違いが生まれるのはなぜなのですか。

生物の世界では、ナンバーワンでなければ生き残れません。ナンバーツーは淘汰されて滅びてしまう。それが生物界の鉄則です。しかし、だとすると最終的に最も強い種だけが地球上に生き残ることになるはずですが、自然界はそうなってはいません。たくさんの生物で溢れています。なぜか。ナンバーワンになる方法がたくさんあるからです。

現在の自然界にいる生物は、ナンバーワンになれる戦略を選んで、特定の場所でナンバーワンになった存在です。ナンバーワンになる方法は生物の数だけある。「ナンバーワンになる方法」はすべてオンリーワンということです。逆にいえば、他の生物の戦略を模倣しては生き残れないということです。オンリーワンの戦略によってナンバーワンになった場所。それが「ニッチ」です。

オンリーワンの方法でナンバーワンになる

──ビジネスでも「ニッチ戦略」という言葉がしばしば使われます。

ビジネスでは「隙間」という意味で使われていますが、ニッチとは本来「生態的地位」を意味する言葉です。すべての生物がその種だけのニッチを持っています。ただし、ニッチは安定的なものではありません。そのニッチに挑んでくる他の生物がいるからです。そこで生存をかけた争いが起きてしまう場合、生物は周辺で新たにナンバーワンになれるところを探します。それが「ニッチシフト」です。私はそれを「ずらし戦略」と呼んでいます。ニッチシフトは絶えず起こるので、生態系は長い目で見ればダイナミックな変化を続けていることになります。

──生物は同じニッチで競い合うことをしないのですね。

生物にとって最大のリスクは競争することです。競争して破れてしまったら、地球上に存在できなくなってしまうからです。だから、正しい戦略は「競争しない」ことです。しかし、有限な空間の中で争いから逃げ続けることはできません。どこかで勝負しなければならない局面は必ずあります。その場合は、絶対に勝てる場所で、絶対に勝てる方法で勝負しなければなりません。それがオンリーワンの戦略ということです。

──「生き残るのは強い種ではなく、変化できる種である」というダーウィンの言葉があります。ニッチシフトも、そのような変化の一つといえそうですね。

他の生物との関係の変化や環境の変化は予測不能です。そこに柔軟に対応できる種が生き延びるということです。植物界で変化への対応力を最も発達させているのが、実は雑草です。人に踏まれたり、耕されたり、除草剤をまかれたりするところで生きる力を雑草は備えています。雑草が苦手なのはむしろ安定した環境です。安定した環境には必ずライバルが入り込んでくるからです。先行きの予測が難しい現代において、雑草の生存戦略は大いに参考になるのではないでしょうか。

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