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3ページ目|第6回 偉人たちに学ぶ人間関係力(最終回)|齋藤孝の人間関係力養成講座|システム構築やトータルソリューションをお探しなら、日立ソリューションズをご利用ください。

齋藤孝の人間関係力養成講座
第6回 偉人たちに学ぶ人間関係力(最終回)

孔子の「学ぶ力」

 渋沢といえば、著書『論語と算盤』も有名です。経済成長と道徳は矛盾するものではなく、むしろ一致すべきものであると説いたこの本は、その後の日本的な会社経営の指針となりました。渋沢にとっては『論語』こそが道徳的規範であり、精神的な柱でもあったわけです。

 周知のとおり、『論語』は中国の思想家・孔子が語った言葉を、その死後に弟子たちがまとめたものです。堅苦しいイメージがあるかもしれませんが、実に簡潔で平易。しかも人間の本質を捉え、実践的なノウハウに満ちています。2000年にわたって風化することなく読み継がれてきたことが、その何よりの証拠です。経営者の中には愛読する方が多いようですが、それだけではもったいない。一般のビジネスパーソンにとっても、おおいに指針になると思います。

 例えば、以下のような言葉はいかがでしょう。

子の曰わく、我れ三人行なえば必らず我が師を得。
其の善き者を択びてこれに従う。
其の善からざる者にしてこれを改む。
(『論語』述而第七-二一/岩波文庫より)

 誰かが3人集まれば、私はそこでかならず「師」を見つける。 いい人のいい部分を見つけて見習い、悪い人の悪い部分を見て自戒する、というわけです。ポイントは、すでに多数の弟子を抱え、「師」と仰がれる立場の孔子自身が、なお「師」を見つけて学ぼうとしていることにあります。

孔子の「学ぶ力」
誰からも学ぼうとする姿勢は、周囲の関係も良好にする。

 ある程度仕事を覚えてくると、なんとなくわかったような気になって、「学ぶ姿勢」を失うことは少なくありません。あるいは「知ったかぶり」が板につき、今さら「知らない」とは言えなくなっている人もいるでしょう。こういう人は、自らの身を守ろうとするため、特に部下や後輩に対して尊大な態度になりがちです。

 しかし、誰からでも学ぼうという姿勢は、相手に対するリスペクトにつながります。必然的に、自身の態度も変わってくるでしょう。もちろん、相手も悪い気はしないはず。つまり、 学ぶことによって自身が向上できるとともに、周囲の人間関係も良好に保つことができるわけです。この一言だけを見ても、孔子の「ただならぬ人物」ぶりが伺えるのではないでしょうか。

 ここに挙げた3名は、それぞれ国の年表に登場するような偉人中の偉人です。同じ人間とはいえ、いささか距離を感じる人もいるかもしれません。そこで最後にもう1人、参考となる人物を紹介します。
  ドイツの文豪ゲーテといえば、知らぬ人はいないでしょう。『ファウスト』や『若きウェルテルの悩み』といった作品群は、まさに世界文学の大金字塔です。しかし真のゲーテの姿を知るには、これらの著作より優れた本がある。それが、ゲーテの秘書官エッカーマンによる『ゲーテとの対話』(岩波文庫)です。
 晩年のゲーテが、孫ほどに年齢の離れたエッカーマンを相手に、およそ9年にわたって繰り広げた会話の記録。話題は森羅万象にわたっていますが、一貫して誇張や気負いのない“ふだん着”の言葉で綴られています。偉大な作品群の“メイキング”的な部分もあるため、この本からゲーテの世界に没入した人も少なくないと思います。

エッカーマンの「未熟力」
人間関係を円滑にする大原則は、自分が未熟であると認め、相手をリスペクトすること。

 ではゲーテはなぜ、彼にとっては“一介の若造”でしかないはずのエッカーマンを相手に、これほど膨大に語り続けたのか。もちろん相性が良かったとか、エッカーマンの質問力や要約力が優れていたといった事情もあるでしょう。しかしもう一つ、忘れてはならないのが、エッカーマンの「 未熟力」です。

 頭脳が明晰すぎる人、隙がない人との会話は、刺激的である反面、下手なことを言うとツッコミが入るという緊張感を伴います。逆にいえば、 隙がある人、自分はまだまだ未熟であると認めている人との会話はリラックスできる。できれば何か教えてあげようという気にもなる。ただし、あまりにも無知では、そもそも会話にならない。この中間点が、「未熟力」の妙味です。

 翻って考えてみると、私たちはまだまだ「未熟」なはず。先の『論語』の言葉にも通じますが、お互いにそれを認め、リスペクトし合うことが、人間関係を円滑にする大原則だと思います。「偉人」を志す前に、まずはエッカーマンを目指してみてはいかがでしょう。

 「人間関係力養成講座」は今回で終了となります。上司とのコミュニケーションにはじまり、具体的なシチュエーションを想定しながらさまざまな“技”を紹介してきました。「 マッピング・コミュニケーション」や「 偏愛マップ」など、どれも私自身が実践し、格段にコミュニケーション力が向上したメソッドです。

 本来、日本人はコミュニケーション力が高いと私は考えています。しかし、仕事上の人間関係でストレスを抱えている人は非常に多い。これは、ビジネスの場で形式的な考えに囚われてしまい、思考が停滞することが一因ではないでしょうか。それがコミュニケーション不全を引き起こしているのです。

 他者とのコミュニケーションは、アイディアの源泉です。コミュニケーションの密度と速度で、ビジネスの生産性は決まります。人間関係力を高めれば、日本のビジネスがどんどん元気になっていく。私はそう考えています。もちろんこれは、仕事上だけでなく私生活においても言えることです。クリエイティブな人間関係を育むことが、自分の世界を広げ、人生を豊かにしてくれるのです。


 この講座が、皆さんの人間関係力を身につける一助となることを願っています。

齋藤孝

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