第一回 谷口雅男-文庫は日本の文化遺産、全収集に残りの人生を賭ける|システム構築やトータルソリューションをお探しなら、日立ソリューションズをご利用ください。

平成の世にサムライを探して 

谷口雅男-文庫は日本の文化遺産、全収集に残りの人生を賭ける

今日、日本人はみんな軟弱になってしまった? いいえ、平成の世にもホネのある日本人はたくさんいる。その志の高さに、無私の潔さに、道なき道を切り拓くたくましさに接するとき、日本人がかつてサムライであったことを思い出す。たった一度の人生なら、こんな風に生きてみたいと思わせてくれる熱血仕事人に取材する新コーナー。第一回は北九州・小倉を拠点に、インターネット専業のふるほん文庫販売業を展開する谷口雅男氏をズームアップ。波乱万丈な人生の果てに見つけたゴールに向かって、わき目もふらずに突っ走る姿がなんとも爽快だ。

ドラマを見るような生々流転

谷口雅男(たにぐちまさお)プロフィール
1946年山口県生まれ。広島県立三原東高校卒業後、百科事典セールス、キャバレーボーイなど 6年間に23回の転職をする。 24回目はメナード化粧品セールスマン。1973年株式会社メナード谷口販売設立。1994年愛知県豊田市で文庫本専門古書店「ふるほん文庫やさん」開業。翌年株式 会社化し、代表取締役会長に。 1996年同社を北九州市に移転。 2001年11月世に出た文庫本の全点蒐集をめざす「特定非営利活動法人としょかん文庫やさん」を設立。著書に「ふるほん文庫やさんの奇跡」、紀田順一郎との共同監修書に「ニッポン文庫大全」 がある。

谷口雅男さんという人
一見、強面。しかし、笑うとなんともやさしい顔になる。赤のタートルセーターに赤のVネックセーターを重ね着。最初は「そのファッションセンスはどうだろう?」と思うのだが、話しているうちに「谷口さんなら、まあいいか」と思ってしまう。そう、そして、その話し方だ。立て板に水とはこのことだろう。マシンガントークというわけではないのだが、決して話が途切れない。永遠にしゃべり続けることができるのではないかと思うほどだ。千夜一夜物語を求められたって、谷口さんならきっと余裕でクリアする。元有名化粧品メーカーで日本一を獲得したセールスマンだったそうだが、それはそうだろうと思う。ここまでスラスラしゃべられると、なんだか催眠術にかかったような気持ちになる。

すさまじい流転の末に、道を見つけた人である。転職30回、転居50回、倒産、離婚、それぞれ2回。その有能さで頂点に登りつめ「この世で俺にできないことはない」と豪語するまで成功した。大きなお金を儲けたが、湯水のように使いもした。しかし、起業に失敗して、坂を転がるように身を落としていく。いくつかの怪しい仕事を経て、ツテを頼って名古屋へ。パチンコ店の住み込み店員になった。「やるからにはトップに」という生来の負けん気が頭をもたげ、朝から晩まで働きづめの生活を続ける。結果、体を壊して入院するはめになる。とうとう健康さえも失った谷口さん。そこで出会ったものが文庫本だった。病床にあって唯一の生きる楽しみといっても過言ではなかった。

退院後、谷口さんは再びパチンコ店に戻る。もう昔のように贅沢な生活は望まなかった。衣服は店のユニホーム、食費は一食80円×3、そしてもちろん住み込みだから家賃はいらない。その合間に一日一冊文庫本を読んだ。これは読書で外に出ないようにしてお金を使わないためでもあった。

唯一の例外的外出が、読書用の古本を古書店に買いに行くときだった。ある日、谷口さんは客が売りに来た文庫本を店主が1冊10円で買い取る場面を目撃する。1冊10円で買い取って出版社定価の半額で売る。400円の本は200円。500円の本は250円。「これでは儲かってしかたないではないか」と思った谷口さんは店主に尋ねた。「儲かって儲かってしかたがないでしょう?」店主は答えた。「ああ、これが全部売れればね。文庫がどんどん売れ続けてくれれば、3日もすればビルが建ちますよ」

この「3日もすればビルが建ちますよ」という言葉は、谷口さんの心に深く刻まれた。古本文庫だけを専門に扱う商売はどうか。日本広しといえども、また過去を振り返っても、これは今までまったく誰も手がけていない領域なのではないか? 今までの古書店はみんな片手間にしか古本文庫を扱っていない。これだけ遅れ続けている業界なら、真剣にやれば一暴れできるかもしれない。通っていた古書店の友人に打ち明けてみる。間髪を入れずに返ってきたのが「そんなもの商売にならん」という返事だった。

全部売れたら儲かってしかたがないかもしれないが、古本文庫は古書店にとってやっかいものの商品だった。大量に流通しているのが前提だったから、高値はつけられない。店主としてはできれば扱いたくないのだが、文庫本を売りに来る客は後をたたない。文庫本は退治しても退治しても現われるゴキブリのような存在だったのである。古本文庫専業書店という構想を語ると、書店業界の人間は10人が10人「無謀だ」といった。しかし、谷口さんは逆に「誰もやったこともないのに、どうしてダメだといいきれる?」という思いがどんどんふくらんでいく。そして、決意した。41歳のときのことだった。

愛知・豊田で開業後、北九州へ

開業までの時間を6年6ヶ月と設定し、その日から資金を貯めるため一層の倹約に励んだ。また自分が扱う文庫のことをよく知らないといけないと、最初の3年は一日一冊読了を自分に課した。3年間で1300冊。そして、休みの日には愛知県、岐阜県じゅうの古書店をめぐって、“その日”のために古本文庫を仕入れ始めた。どうせやるなら日本一の品揃えでと考え、東京・八重洲ブックセンターの店頭在庫10万冊より1万冊多い11万冊でスタートすることをめざした。倹約して貯めた資金で仕入れた在庫がどんどんパチンコ店の独身寮の部屋の中に積み上がっていく。ついには自室に置ききれなくなり、寮共用の納戸を勝手に拝借した。次は自室前の廊下に積み上げ、それも限界が来て同僚の部屋の空間を借りた。それでも足りなくなり、ついには文庫本入りの段ボールが寮じゅうの廊下を占拠することになった。

谷口氏在庫が増え続けてどうにもこうにもいかなくなりつつあった準備期間7年目のある日、ある書店での雑談から三河豊田駅前のビルの2階に空き店舗があることを知る。谷口さんは駅前という立地が気に入って、場所を見ることなく出店を決めた。ただ、文庫専門店であることから店頭販売だけに頼るつもりはなく、通信販売を行って最初から全国区のビジネスを展開するつもりだった。谷口さんにとって運命の日となった、その日は平成6年10月1日。店名はストレートに「ふるほん文庫やさん」と命名した。

古本の文庫だけを専門に扱うというユニークさは注目を集め、開店当初から通信販売を中心に多忙を極めた。谷口さんは扱う文庫を売れ行きのいい流通文庫をサービス文庫、絶版・品切れなどで希少性が高く入手しにくいスタンプ外文庫、それ以外の文庫をスタンプ文庫の3種類に分類した。サービス文庫とは、1枚100円30枚綴りのチケットを使って買える文庫のことで、スタンプ文庫とは、5000円の購入で1000円分のサービスが受けられる文庫のことでもある。いろいろな商売を経験してきた谷口さんならではの営業アイデアだ。

しかし、古本という骨董品を扱いながら、目を向くような値はつけなかった。どんなに希少性が高くても最上限で1280円に設定した。文庫に何千円、何万円という価格をつけるのは異常以外の何ものでもないと考えたからである。

こうして薄利多売をめざしたため、経営は決して楽なものではなかった。しかし、店舗業務と通信販売業務でやらなければならない作業は死ぬほどある。一人では限界があるが店員を雇う予算はなかったから、店にやってきた年若い客の中から、なぜか憎めないずうずうしさを発揮して、谷口さんはボランティアスタッフを確保した(この人物は後に同社の取締役になる伊藤健志さん)。そうかと思うと、資本金1000万円の提供つきで、仕事を手伝いたいと東京から来た人物も現われる(この人物は後に代表取締役社長になる小野正さん)。店の存在を知って、同社には同業者から、個人から文庫の仕入れも続々と持ちかけられた。谷口氏はそれらを買い続けた。そのようにして在庫がさらにふくれあがったので、同社は北九州市へ移転することに決めた。

谷口氏なぜ北九州市だったのか。谷口氏の三度目の伴侶となる女性が北九州市在住だったからである。それまでは「独身でなければこんな商売はできない」と日頃から断言していた。それをあっさり撤回しての結婚である。

なれそめがおもしろい。「ふるほん文庫やさん」はそのユニークが受けて、よくマスコミ取材が入った。その中の一つにテレビ局の取材があった。雑誌や新聞の取材には慣れっこになっていた谷口さんだが、さすがにテレビの取材は特別な機会と感じ、自分を知っている人にその放映を見てもらいたいと思った。頭に浮かんだのが、化粧品セールスマン時代の同僚の女性だった。20年ぶりに連絡を取って、またまたなぜか憎めないずうずうしさで愛知・豊田に呼び寄せる。再会して即座に結婚を決意。しかし、彼女は結婚の申し込みこそ拒まなかったものの、生まれてこの方ずっと住んでいる北九州を離れたくないという。その言葉を聞いて、谷口さんが会社ごと北九州へ引っ越すことを決めたというわけなのだ。小野さんや伊藤さんがよくOKしたものだが、すでに豊田の店舗が手狭になりつつあるのも事実だった。通信販売で全国区の商売を展開し続けるのなら、拠点は別にどこにあっても構わない。むしろ家賃の安くて広い土地のある北九州の方が「ふるほん文庫やさん」にとって好都合といえた。

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