次々に発見されている太陽系外の惑星
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1959年、奈良県生まれ。 |
※黒字= 田村元秀氏
── アストロバイオロジーとは、どのような研究分野なのですか。
![]() 田村元秀氏
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もともと、NASAが太陽系の惑星探査を進める時に使われ始めた言葉で、「太陽系の惑星に生命がいるかどうかを調べる学問」といった意味でした。その意味合いが拡大して、現在では「系外惑星(太陽系の外の惑星)の生命の可能性を探る学問」も指すようになっています。
── 系外惑星の存在は確認されていますか。
20世紀の終わり頃から望遠鏡や画像を検出する機器の性能が飛躍的に向上して、系外惑星を発見できる可能性が高まってきました。しかし、実際の発見にはなかなか至らず、この分野の研究者が肩身の狭い思いをする時代がしばらく続きました。
その状況が大きく変わったのは1995年です。太陽系の外に確実に惑星があることをスイスの研究グループが発見したのです。太陽系の木星クラスの大きさの巨大惑星でした。この発見以降、一気に系外惑星の研究が進みました。それから今日までの20年ほどの間に、数多くの惑星が発見されています。
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国立天文台では天体の観測と発見の歴史がパネルで紹介されている
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── その中に、生物がいる可能性のある惑星はあるのでしょうか。
私たちの太陽系には3種類の惑星が存在しています。1つ目はサイズが小さく、岩石でできている惑星で、水星、金星、地球、火星がこれに当たります。2つ目は、木星や土星のような水素とヘリウムでできている巨大惑星です。そして3つ目が氷を主体とする惑星で、海王星と天王星がこれに該当します。
この中で「ハビタブルゾーン」にある惑星は、地球と火星です。もし、太陽系の外に地球ぐらいの大きさと重さを持った岩石惑星があって、かつそれがハビタブルゾーンにあれば、そこには生命がいる可能性が考えられます。
![]() 太陽系のハビタブルゾーン |
── ハビタブルゾーンとは。
自ら光を発する太陽のような恒星には重さに応じた光量があります。その光量に対して適切な距離にあれば、その惑星には水や大気がある可能性があります。その距離の範囲を表すのがハビタブルゾーンです。このゾーンよりも恒星に近いと水は蒸発してしまいますし、ゾーンよりも遠いと水は凍ってしまいます。
── 水があれば、生命が誕生する可能性があるということでしょうか。
水と岩石と熱(エネルギー)。この3つが、生命が生まれる条件であると考えられています。火星はぎりぎりハビタブルゾーンの中にありますが、表面には水がないので、生物がいる可能性は限りなく低いとみられます。しかし、もし地下に水があれば、そこで生命の痕跡が見つかる可能性もゼロではありません。
4光年先の惑星に生命が存在するかもしれない
── ハビタブルゾーンにあって、かつ生命誕生の条件がそろっていれば、その惑星には生物がいる可能性が高いということになりますね。
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田村元秀氏
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もちろん、生命が誕生したとしても、酸素などを含む大気がなければその生命は生きていくことはできないでしょう。水や酸素など生命存続の条件を示す指標を「バイオマーカー」といいます。それを観測によって見つけることが、アストロバイオロジーの大きな目的です。
── バイオマーカーは天文学的方法によって観測することができるのですか。
できます。系外惑星を見つける方法の一つに「トランジット法」というものがあります。恒星を観測していると、わずかに明るさが変化することがあります。これは、公転する惑星が恒星の前を横切ったためであると考えられます。この時のスペクトル(光の色を虹のように分解したもの)を調べると、大気や水の影響による変化が微小ながら表れることがあります。それによって、恒星を横切った惑星にバイオマーカーがあることが分かるわけです。さらに、系外惑星を直接写し、その光を分析する直接観測も重要です。ただし、技術的にはよりチャレンジングです。
しかしその惑星が遠すぎると、観測は難しくなります。2009年にNASAが打ち上げた系外惑星探査衛星ケプラーによる調査では、少なくとも太陽系外には20個ほどのハビタブル惑星があるとされています。しかし、いずれも地球から数百光年から数千光年先にある惑星です。それだけの距離があると、バイオマーカーを見つけるのは非常に困難です。
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正確な時刻を知るための天文観測用クロノメータ
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── もっと近くにハビタブル惑星があればいいわけですね。
ええ。その発見がずっと待たれていたのですが、2016年8月に非常に大きなニュースがありました。プロキシマ・ケンタウリという太陽系に最も近い恒星(2016年現在)にどうやらハビタブル惑星があるというのです。距離にして地球からおよそ4光年です。すでに、そこに向けてロケットを飛ばす計画を立てている財団もあります。光速の10分の1程度の速さのロケットで40年かけてその惑星をめざし、途中、画像などのデータを地球に送り続けるという計画です。
さらに、2017年2月にもう一つのビッグニュースが飛び込んできました。39光年先のトラピスト1という恒星の周りに地球に似た惑星がなんと7個もあって、しかもそのうちの3つはハビタブルゾーンにある可能性があるというのです。それらの比較的近くにある惑星のバイオマーカーを観測することが、これからのアストロバイオロジーの大きなテーマとなりそうです。
