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【平成の世にサムライを探して】第152回 落語家 三遊亭竜楽「8カ国語を駆使して日本の笑いを海外に広める」

日本の伝統芸の「笑い」は世界で通用するのか──。そんな問いに正面から挑み続けている落語家がいる。唯一無二の「8カ国語落語」を引っ提げ世界を股にかけて活躍する三遊亭竜楽氏だ。なぜ、彼は海外をめざすのか。文化を越えて人々の笑いの琴線を揺らす方法とは。そして落語のグローバルな魅力とは──。異色の噺家が、日本文化の本質を語る。

客を引きつけるのは生身の人間力

三遊亭竜楽(さんゆうてい・りゅうらく)プロフィール

1958年、群馬県生まれ。 中央大学法学部卒業後、司法試験合格をめざす。86年、27歳で五代目三遊亭円楽に入門。92年に真打昇進。2008年から欧州で字幕・通訳なしの落語を始める。以降、8カ国語(日本語、イタリア語、フランス語、スペイン語、ポルトガル語、ドイツ語、英語、中国語)での落語公演を行っている。これまで訪れた国は9カ国、公演は180回を超える。

※黒字= 三遊亭竜楽氏

── 落語界に入る前は司法試験合格をめざしていたそうですね。

大学が法学部だった。理由はそれだけです。何年か受験しても結果は出せず、後はフリーターみたいに過ごしていました。自分の将来を決断しなければならない状況に追い込まれた時、それまでの人生から一番遠いものを選んでみようと思いました。それが落語だったわけです。

── 落語が好きだったのですか。

以前から好きだったんですが、人前で話すこともできないくらいの赤面症でしたから、とても自分でやるなんて考えられませんでした。まあ、そのくらい思い切った選択をしないと、人生をご破算にできなかったということです。

三遊亭竜楽氏の画像
三遊亭竜楽氏

── 先代の円楽師匠に弟子入りした理由は。

ただの勘でしたが、今思えば、人間そのものに引かれたんでしょうね。技芸を抜きにしたところで、素晴らしい内容を持っている人であると感じたわけです。落語というのは非常に特殊な芸能なんです。歌舞伎にしても能狂言にしても、3歳くらいから稽古を始めるでしょう。しかし、落語は20歳から始めても、私のように30歳近くなってから始めても、それなりの芸ができるようになる。なぜかというと、継承する型がない。ですから「伝統芸能」と言うのはおこがましいんですね。
落語は、始めから終わりまで、お客さんが落語家1人だけを見ている芸です。見られている中で、1人で話を続けます。そうすると、お客様は演者の持っている生身の魅力に引きつけられるんです。人物そのものが、技術や台本を凌駕してしまうのです。円楽の存在感は群を抜いていましたね。

── やめようと思ったことはありましたか。

ありません。今でも、入門した朝のことはよく覚えています。目の前に限りない大地が広がっている感じがして、人生で一番の開放感を味わいました。入門して3年間、休みは1日もなかったですし、自分より10歳も年下の人たちと兄弟弟子として一緒に生活や稽古をしなければなりませんでしたが、大変だとは思いませんでした。

── 自分の芸ができるようになったと感じたのはいつごろでしたか。

それは時間がかかりました。10年以上は全くウケず、自分自身、やっていて少しも面白くありませんでした。それが根本から変わったのは、大阪で高座に上がった時です。東京って、8割、9割はもともと地方から来た人たちでしょう。だから気取っているし、人と人との距離感をいつも測ったりするわけですよ。でも大阪では、間合いなどを気にせず思い切りやって、それで笑ってもらえる。そのことに気づきました。派手で大げさな芸を「くさい」といって江戸落語では嫌うけれど、思い切り好きにやるという方法もあるんだなと。そう思えるようになってから、落語が本当に楽しくなりました。あの経験がなかったら、海外で落語をやることもなかったでしょうね。

字幕を付けない落語がとてつもなくウケた

── 海外で通訳や字幕をつけずに落語をやるようになったきっかけをお聞かせください。

お茶の先生がイタリアのフィレンツェで催しをやるというのですが、ギャラは出せないし、字幕をつけることすらできないというんですよ。それならイタリア語でやるしかないなと。ところが、予定した2演目のうちの1つがセリフが多過ぎて覚えられないのです。そこで、最初に概要を説明してもらって、後は、要所にイタリア語を入れながら、ほとんど日本語でやって、オチはイタリア語で締めるようにしました。十年近く日本の大学で留学生相手に口演していた経験から、言葉が通じなくても演技を工夫すれば、内容を理解させる自信はそこそこありました。

── ウケましたか。

2演目とも予想以上の大ウケでした。しかし、イタリアの陽気なお客さんですから、たまたまウケただけかもしれない。そこで、次はフランスでやってみると、やはりウケた。そんなこんなで、これまで9カ国、五十数都市でやっています。

── 語学の勉強は随分されたのですか。

まずは外国語での演目を音で覚えるんですよ。言葉を音楽として頭の中に入れてしまうんです。で、後から意味を調べる。最初から意味で覚えてしまうと、忘れた時に意味をたどって思い出さなければならなくなるでしょう。それじゃ高座では間に合いません。だから語学の勉強というよりも、発音やイントネーションをしっかり身につける練習。それを重視してきましたね。

── 国ごとに笑いの「つぼ」の違いはありますか。

日本人と同じところでたいがい笑ってもらえます。難しいのは、オチで物語が終了したことが分かってもらえない場合が多いことです。そんな時は、「ありがとうございました」とすぐに頭を下げたり、一番ウケたところをそのままオチにしてしまったり、その場その場で対応するしかありません。
演技でいうと、フランスでは細やかにやればやるほど気に入ってもらえるし、イタリアは動きをたくさん入れると喜んでもらえます。ドイツの人たちは頭を使うのが好きなので考える間(ま)をたっぷり取ります。アメリカでは、とにかく分かりやすく表現しないと面白がってもらえません。

── ウケる演目とそうでない演目があるのですか。

世界中どこでも起こり得て、共感してもらえる話がウケます。例えば、「親子酒」という話があるでしょう。禁酒の約束をした親子が最後は2人ともべろんべろんに酔っぱらってしまうという話。あれなどは、どこの国でも分かってもらえます。
落語の強みは「何もない」ことなんです。落語では、扇子をキセルに見立てるでしょう。本物でないから、お客さんは頭の中でキセルのイメージを膨らませられるわけです。外国人の前で、本物のキセルを使えば様々な違和感が生じますが、扇子なら、自国文化の延長線上で自分流の“日本のパイプ”をイメージできる。しかも、会場の全員が違ったものをイメージしていても、1つの空間を共有して楽しめるのです。このことに気がついた時、落語が世界中でできると確信しました。

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