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【平成の世にサムライを探して】【第154回】四本裕子|システム構築やトータルソリューションをお探しなら、日立ソリューションズをご利用ください。

【平成の世にサムライを探して】第154回 東京大学大学院総合文化研究科 生命環境科学系 准教授 四本裕子「最新の研究方法を駆使し、脳の真実に迫る」

人間にとって最も本質的でありながら、最も謎に満ちた器官である脳。MRIなどの最新技術を駆使してその謎に挑んでいるのが、東京大学准教授の四本裕子氏である。人の脳は本当に「男脳」と「女脳」に分けられるのか。「左脳型」と「右脳型」という人間の分類には果たして妥当性があるのか──。脳をめぐるスリリングな見解を四本氏が語った。

最高のものをつくらなければ 次のステップには行けない

四本裕子(よつもと・ゆうこ)プロフィール

1976年宮崎県生まれ。98年東京大学卒業。2001年から米国マサチューセッツ州ブランダイス大学大学院に留学し、05年にPh.D.を取得。ボストン大学およびハーバード大学医学部付属マサチューセッツ総合病院リサーチフェロー、慶應義塾大学特任准教授を経て、12年、東京大学大学院総合文化研究科生命環境科学系の准教授に就任する。

私たちの身体や心を司る器官である脳について、私たちは知らないことがあまりにも多い。それ故に、私たちは脳に関する俗説をつい信じてしまう。

例えば、「左脳型」と「右脳型」というよく知られた分類がある。論理的能力に優れた人が「左脳型人間」、直感に優れた人が「右脳型人間」であり、左脳型人間は弁護士、教師、公務員などに向き、右脳型人間はクリエイター、アーティスト、スポーツ選手などに適している──。

四本裕子氏の画像
四本裕子氏

東京大学で脳の研究を続けている四本裕子氏は、生得的な脳の特性によってその人の適職や人生が決まってしまうとするそのような考え方を「全くの誤り」だと言う。

「左右の脳によって働きの違いは確かにあります。例えば、言語を司る機能は左脳が優位であり、人の顔を直感的に認知したりする機能は右脳が優位です。しかし、左右の脳はものすごく密接につながっているので、それぞれの役割が完全に分かれているというわけではないのです」

人の能力は「左脳型」「右脳型」という脳の類型によって説明できるものではない。それはあくまでも「個人的な」特性である。四本氏はそう強調する。

男性と女性の脳は本当に異なるのか

学部時代、「人間の心を理解するための学問」という漠然としたイメージで心理学を専攻した。しかし、現在専門としている心理物理学と出会い、そのイメージが大きく変わったという。

「見る、聞く、触る、といった知覚を物理量として測定したり、そこから脳のどの部分がその知覚を感知しているかを推察するのが心理物理学です。その方法論に触れて“人間に対してこんなに論理的で客観的なアプローチができるんだ”と驚きました」

専門的見地から見ても、脳にはまだまだ分からないことが多いと四本氏は言う。例えば、「錯覚」という現象がある。同じ長さの2本の線の背景の模様を変えると長さが異なって見える、という錯覚のシンプルな例の1つだ。ある物理現象があって、その現象とは異なる知覚を人が得る。その「ずれ」が錯覚だが、それが起こるのは脳内の処理がずれているからだ。そのずれのメカニズムは完全に解明されてはいない。

あるいは、「時間」に関する感覚がある。ある行動に熱中している場合、人はその時間を短く感じ、退屈な時間は長く感じられる。その感覚を司る脳内の部位はどこか。答えは「そのような部位は見つかっていない」である。

四本裕子氏の画像

「脳の様々な部分がインタラクティブにつながり合いながら時間の判断をしているのです。それは非常に複雑なシステムで、探究すべき点がまだまだたくさんあります」

脳の断面画像を撮影できるMRIなど、最新の技術を駆使しながら脳の働きに物理的、客観的に迫る研究をしている四本氏にとって、脳をめぐる俗説の多くは極めて単純な決定論に映る。「男脳」「女脳」をめぐる議論もそんな決定論の1つだ。男性の脳は相手の話を聞くのを苦手とし、女性の脳は地図を読むことを苦手とする。ちまたでまことしやかに語られるそんな通説もまた、完全な誤りであると四本氏は話す。

「男性の脳と女性の脳は確かに同じではありません。しかし、生まれつき男脳、女脳という決まった形があるわけではなく、環境や文化の中で後天的に獲得された要素も非常に多いのです」

例えば、受験生の成績を男女で比較すると、男性の方が数学の平均点が高く、国語や外国語の平均点は女性が高いという結果が見られる。日本だけでなく、海外諸国でも同様の傾向があるが、仮にその男女の脳をスキャンしても「男性が数学が得意」であり「女性が国語が得意」である証拠を発見することはできない。そう四本氏は説明する。それはむしろ、数学的論理性を身につけることが男性の役割であり、言語的コミュニケーションの力を発揮することが女性の役割であるというバイアスを持つ文化で生活してきた結果と考えられるのだ、と。つまり環境的、文化的要請、もしくは訓練によって人間の能力は変わっていくものであり、固定された男脳、女脳、左脳、右脳といったものの働きがあるわけではないということだ。

今ここに2組の男女計4人を連れてきて、脳の働きの傾向の違いを調べるとする。男性Aさんと男性Bさんの間には差があるだろうし、男性Aさんと女性Cさんの間にも違いが出るだろう。この場合、AさんとBさんの差は「個体差」であり、AさんとCさんの違いは「性差」であると考えるのはナンセンスである。性別によるバイアスが多少はあるにしても、人間の脳の働きの差は結局のところ多くが個体差なのだと四本氏は言う。

私たちは、男女の脳には違いがあるのだから、例えば男性向きの職業と女性向きの職業が厳然としてあるのだとつい考えてしまう。その考え方がいかにおかしいかを示す逸話として、四本氏は次のような例を挙げる。

ある幼稚園で、子どもを血液型によって分けて、名札にそれぞれの血液型を明記した。A型にはA型の人にふさわしい教育をし、B型にはB型向けの教育をするというのがその園の方針だった──。

「血液型によって性格が決まるとか、血液型に見合った教育の仕方があるといった科学的事実はありません。それも全くの俗説です。そんな俗説に基づいた教育をしている幼稚園の方針を、多くの人は滑稽に感じると思います。それと同じくらい、男性にのみふさわしい仕事があり、女性だけができる仕事があるという考え方も滑稽である。そう私は思っています」

ある職業、ある業務により向いている人とそうでない人はいるだろう。しかし、それは個人の能力や適性の差であって、性別や左脳型、右脳型といった類型の差ではない。そんな事実を最新の脳研究は明らかにしているのである。

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