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【平成の世にサムライを探して】第156回 デザイナー 水戸岡鋭治 「『世界に一つしかないもの』を生み出すために」

鉄道のデザインに関わって30年。国内最高峰の豪華寝台列車「ななつ星in九州」を実現させた水戸岡鋭治氏が考える「デザイン」とは、「旅」とは、そして「仕事」とは──。2011年1月号でのインタビューから7年。鉄道デザインの第一人者としての地位を名実ともに確かなものにした水戸岡氏が自身のデザイン哲学と仕事の流儀を熱く語る。

最高のものをつくらなければ 次のステップには行けない

水戸岡鋭治(みとおか・えいじ)プロフィール

1947年、岡山県生まれ。72年にドーンデザイン研究所を設立する。88年、福岡の「ホテル海の中道」のデザインに参加。それをきっかけにJR九州・香椎線のリゾート列車「アクアエクスプレス」をデザインする。以後、数多くの鉄道車両、駅舎などのデザインを手がける。これまで交通文化賞、菊池寛賞、毎日デザイン賞などを受賞。JR九州と両備グループのデザイン顧問を務める。『鉄道デザインの心』ほか著書多数。

※黒字= 水戸岡鋭治氏

── 2010年10月の取材では「クルーズトレイン──二泊三日九州一周の旅」というプロジェクトが進行していると話されていました。「オリエント・エクスプレスの志を継いだ」というその電車が、そのちょうど3年後の13年10月に運行が始まった「ななつ星in九州」ですね。

ええ。九州を鉄道で一周する「アラウンド・ザ・九州」という企画書をJR九州に最初に出したのは、実はもう25年前になります。「これから大鉄道時代が来る」とぶち上げたのですが、当時は誰にも相手にされませんでした。
この企画が日の目を見たのは、現在はJR九州の会長である唐池恒二さんが2009年に社長になってからです。唐池さんが「九州に豪華列車を走らせたい」と言い出して、僕の企画が復活したわけです。もっとも、僕が考えていたのは豪華列車ではなく、家族が楽しめる「ファミリー寝台列車」でした。九州を一周するファミリー列車を実現する夢は、もう少し先に取っておきます。

水戸岡鋭治氏
水戸岡鋭治氏

── 「ななつ星in九州」は、3泊4日のプランで一番高い部屋が95万円ですが、それでも乗りたいという人が引きも切らないそうですね。

チケットはすべて抽選で、今の倍率は15倍から20倍くらいですが、一番高い95万円の部屋だけは約180倍です。

── 多くの人たちを引きつける秘密はどこにあるのでしょうか。

僕も最初は、こんな値段でお客さんが乗ってくれるのだろうかと半信半疑でした。鉄道の専門家も、国土交通省の人たちも、みんな無理だろうという意見でした。しかし完成1年前にチケット販売を始めたら、いきなり7倍以上の予約が殺到したんです。当時、公開していたのは3枚の完成予想図だけだったのに。
やはり、本気になって最高のものをつくろうとすれば、そのロマンと夢に懸けたいという人がいるんだと僕は思いました。同時に、本当にいいものが欲しい、本当に豊かで質の高い体験がしたいと多くの人が考える時代になったのだとも感じました。

水戸岡鋭治氏

── 素材、内装、レイアウト、乗客の動線設計と、隅々まで徹底的にクオリティを追求したとのことです。

最高のものをつくらなければ次のステップには行けない。それが唐池さんの方針でした。世界に一つしかない最高のものをつくれば、その過程で得られた経験知が社内全体に広がっていく。それによって会社のレベルが上がっていく。そう彼は言っていました。リーダーが明快な方向性を出して、理想を掲げて突っ走る姿を見せれば、みんなそれについていくんです。
しかも唐池さんは、プロジェクトがスタートした後は、僕のデザインができるのをじっと待ってくれました。時間がかかっても、「どうなっているの?」とは聞かない。途中で「見せろ」とも言わない。ただ、デザインが完成するのをじっと我慢しているんです。
僕は自分が信頼されていることを実感しました。ものをつくる人間にとって、一番大切なのは発注者から信頼されているという感覚です。それがあれば、信頼に応えるために全力を出したくなるものです。信頼されているという感覚はメーカーや職人など、電車づくりに関わるすべての人たちに伝わります。そうして、それぞれの人がそれぞれのポジションで全力で自分の仕事をすれば、予算などに関係なくいいものができるのです。
他人を信頼することは難しいし、信頼は目に見えるものではない。しかし、その信頼を言葉や行動で示すことができるのがリーダーであり、その信頼に懸けていくところに、ロマンと希望と勇気があると思っています。それらがあれば、とんでもないものを生み出すことができるんですよ。

── このプロジェクトの過程で一番苦労したことは何でしたか。

僕はデザインの仕事が好きなので、それ自体に苦労は感じません。つらいことがあるとすれば、自分の能力がないために、なかなか思うような形やレイアウトをつくれないことです。意見の異なる人を説得することはそれほど難しくはないんです。本当の難しさは自分の中にあります。「自分にこのデザインができるんだろうか」という不安に打ち勝ち、自分で問題を解決し、自分で納得する。それができなければ、相手に理解して納得してもらうことはできません。一番大切なのは、自分の中にある問題を解決するための体力、気力、知力です。

上/大正10年(1921年)に当時の鉄道省が発行した「鉄道旅行案内図」 下/水戸岡氏がデザインを手がけた「ななつ星」のオリジナルバッジ。数字の7があしらわれている
上/大正10年(1921年)に当時の鉄道省が発行した「鉄道旅行案内図」
下/水戸岡氏がデザインを手がけた「ななつ星」のオリジナルバッジ。数字の7があしらわれている

── 「ななつ星in九州」が日本の電車の旅を変えたという意見もあります。

この電車が走った時に感じたのは、「最高の旅は飛行機でヨーロッパに行くこととは限らない」ということでした。日本食を食べ、行き届いたサービスを満喫しながら、日本国内をゆっくり回る旅。それによって、日本という国、町、人々、自然、文化を理解できる旅。それこそが日本人にとっての最高の旅ではないかと思うようになりました。
悲しいこと、つらいこと、あるいは楽しいことがあった時に一番したいことは旅に出ることだと多くの人が言います。旅は癒やしであり、再出発のきっかけであり、知らないことを知る機会です。多くの人がいい旅ができるようになること。それによって心を癒やすことができること。それこそが最高の観光立国であると僕は思います。そのためには電車だけでなく、ホームも、駅舎も、駅前の広場も、街並みも、風景もすべてが美しくなければならない。それを実現するのが、まさにデザインの仕事です。

美しいデザインではなく「正しいデザイン」を

── 鉄道だけでなく、駅舎、バス、船舶など数々のデザインを手がけてこられました。デザインにおいて最も大切なことは何であるとお考えですか。

「正しいデザイン」をすることです。目先の利便性と経済性にとらわれず、将来まで使えるもの、時代を超えても感動が残るもの、多くの人の心を豊かにできるものをつくる。それが「正しいデザイン」です。昔は、デザインとは美しい色や形のことであると考えられていました。僕もそう思っていた。しかし、年を重ねるごとに、デザインに必要なことは「美しさ」よりも「正しさ」、「大きさ」よりも「小ささ」、「強さ」よりも「弱さ」、「明解さ」よりも「曖昧さ」であると感じるようになってきました。日本人本来の価値観に近づいているのだと自分では考えています。世界との競争に入っていく中で価値観を変えなければならなかったのは、日本にとって幸せなことばかりではありませんでした。日本人の昔からの価値観を大事にすれば、多くの人がより心地よく、楽しく、豊かになれるデザインができると思っています。

水戸岡鋭治氏

── 「デザイン」が意味する範囲も広がっています。

デザインとは、僕の言葉で言えば「総合的で創造的な活動」のことです。プロジェクトのリーダーが構想を立てるのもデザインだし、出来上がったものを運用していくのもデザインです。農業は自然を相手にしたデザインだし、子育てとは子どもの人生をデザインすることです。お母さんこそまさしく最高のデザイナーであると僕は思っています。さらに言うなら、「いかに生きるか」ということは「いかにデザインするか」ということです。デザインとは特別なことではないんですよ。

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