【平成の世にサムライを探して】第157回 京都大学総長 山極寿一「人間とゴリラに共通する『共感』の力とは」|システム構築やトータルソリューションをお探しなら、日立ソリューションズをご利用ください。

平成の世にサムライを探して 

【平成の世にサムライを探して】第157回 京都大学総長 山極寿一 「人間とゴリラに共通する『共感』の力とは」

過去30年にわたって何度となくアフリカを訪れ、ゴリラとじかに接しながら貴重な研究成果を伝えてきたゴリラ研究の第一人者、山極寿一氏。京都大学の総長に就任した後も、ゴリラをはじめとする霊長類の立場から人間を相対化するという視点がぶれることはない。5年ぶりのインタビューをお届けする。

「学者の代表」として就任した大学総長

山極寿一(やまぎわ じゅいち)プロフィール

1952年、東京都生まれ。75年、京都大学理学部卒業。80年、京都大学大学院理学研究科博士後期課程退学。理学博士。日本モンキーセンター研究員、京大霊長類研究所助手などを経て、京大大学院理学研究科教授に。2014年10月に京大総長に就任。ゴリラや人類の進化などに関する著書多数。

※黒字= 山極寿一氏

── 前回取材をさせていただいたのは2012年の10月です。京都大学の総長に就任されたのは、それからちょうど2年後でした。霊長類の研究者が大学トップになるのは異例のことだそうですね。

ケンブリッジ大学の元学長は霊長類学の研究者と聞いていますが、それ以外にはほとんどないケースのようです。僕の場合、京大総長だけでなく、国立大学協会と日本学術会議の会長にも選ばれてしまいました。この3つを兼任した人は過去にいないそうです。

山極寿一氏
山極寿一氏

── いろいろな大役を委ねられた理由をどう考えていらっしゃいますか。

つくづく考えてみましたが、それだけ学術界が危機にさらされているということなのでしょう。学問をしている人に対する世間の風当たりは年々厳しくなっています。日本の研究力が落ちているといわれる一方で、世の中に役立つ人材をもっと育てろと要求される。それに対して、学問の現場から声を上げられる人はそう多くはありません。現場の研究者の意見をもっと聞いてほしいという思いが高まっている中で、たまたま僕が選ばれた。そういうことなのだと思います。

── 学者の代表として選出されたということですね。一研究者だった頃から一番変わったことは何ですか。

以前はゴリラのことだけを考えていればよかったのですが、今はいろいろな学問分野に目を配らなければならなくなりました。法学、文学、理学、工学、農学、教育学。そういった分野の人たちと日常的に話をしています。それだけでなく、大学外の政治家や経済界の人たちともずいぶん会いました。物理的にゴリラに会いに行く時間はありませんが、その分、人間相手のフィールドワークをさせてもらっている感じです。

── 前回のインタビューで、ゴリラの研究をしているのは人間を知るためであるとおっしゃっていました。

その通りです。「人類の進化を考える」という根本的なテーマも変わっていません。今の立場になって、いろいろな分野の人たちと話す機会を得て、以前よりも広い視野でそのテーマについて考察できるようになりました。
残念なのは、教授を辞めなければならなかったことです。組織構成上、総長と教授の兼任はできないからです。教授ではないので、学生の指導ができず、後進を育てることができない。これは大いに寂しいことです。

人間とゴリラに共通する「共感」の力

── 30年にわたるゴリラ研究の経験は、今の仕事にどう活かされていますか。

人間の組織をいかに考えるか。その点で非常に役立っています。霊長類はいろいろなタイプの群れをつくります。それが人間の組織を考察する際の参考になるんです。重要なのは、我々の場所からゴリラやチンパンジーを見るのではなく、彼らの側から我々人間を見ることです。人間がスタンダードであると考えてはいけません。

── 人間の組織と霊長類の群れには共通性があるということでしょうか。

山極寿一氏

ありますね。一番の共通点は「共感」の力です。人間ほどではないにせよ、ゴリラやチンパンジーにも共感能力があります。群れの中でトラブルがあった場合も、自分と相手のつながりを考慮しながら、相手の立場に応じてトラブルを解消しようとします。

人類は、ゴリラやチンパンジーとの共通祖先から分かれた後に、共感能力を発達させて複雑な社会をつくってきました。ゴリラやチンパンジーは、群れの外の見たことのない相手には警戒を示します。しかし人間は、道路で知らない人とすれ違ってもいきなり警戒したりはしない。そこには発達した共感力に基づいた一般的な信頼関係があります。それがあるために、家族、会社、友人との集まり、趣味の会合など、いろいろな集団間を自由に遍歴することが可能になったのです。こんなことができるのは人間だけです。

しかし残念なことに、そのような共感や信頼の力よりも、効率や経済性といった価値を人間は優先するようになっている。自分の利益になる相手とのみ関係を結んで、利得感情によって構成された集団をつくるという傾向が強まっている。せっかくオープンな社会をつくる力を発達させたのに、それに逆行する閉鎖的な社会をつくろうとしているわけです。僕には、人間がゴリラやチンパンジー以前のサルの社会に戻ろうとしているように見えます。

── 人間は退化していると。

一種の退化と言っていいでしょう。人間の脳が1500ccまで大きくなったのはおよそ60万年前で、それ以降、現代人になっても脳の容量は増えていないと考えられています。逆に現代の人間の脳は1万年前よりも小さくなっているという説もあります。それは人間が言葉と文字を発明したからです。文字があれば、情報や記憶を記録して残すことができます。つまり、脳を外部化することができるわけです。脳に情報や記憶をためておく必要がなくなった結果、脳は小さくなったということです。

今後、ICTやAIがさらに発達すると、この傾向に拍車がかかる可能性があります。記憶する必要がどんどんなくなるし、思考すらAIがやってくれるようになるでしょう。人間は外部にあるデータベースにアクセスする方法だけを知っていればいい、あるいは必要な作業メニューを選べばいいということになるかもしれない。

価値観の変化、それからテクノロジーの進化。それらが人間を退化させる可能性は大いにあるのです。

この続きは、日立ソリューションズの会員様向け情報提供サイト『PREMIUM SERVICE WEB(プレミアムサービスウェブ)』をご覧ください。
プレミアムサービスのご案内はこちら >>
PREMIUM SERVICE WEBをご覧いただくにはプレミアムサービスへの会員登録が必要です。
※本サービスは法人のお客様向けに提供しております。法人に所属していないお客様は入会をお断りさせていただく場合がございます。何卒、ご了承下さいますようお願い申し上げます。
プロフィールや記事など、掲載内容は取材時点のものです。現在と内容が異なる場合があります。
前回の特集を読む サムライを探してトップ 
見出し、記事、写真の無断転載を禁じます。All Rights Reserved, Copyright (C) 2010, Hitachi Solutions,Ltd.
ページTOP

本記事の内容は公開当時のものです。本コラムに関するご意見等ございましたら、日立ソリューションズまでお問い合わせください。