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【平成の世にサムライを探して】第158回 競り人 森田美和「早朝の市場を駆け回る若き競り人」|システム構築やトータルソリューションをお探しなら、日立ソリューションズをご利用ください。

【平成の世にサムライを探して】第158回 競り人 森田美和 「早朝の市場を駆け回る若き競り人」

畑から食卓へと至る青果のサプライチェーン。そのちょうど中間に立って、作物の価格を最適に調整するのが卸売りの重要な仕事である。森田美和氏は、ベテランの男性たちがしのぎを削るその現場で、毎朝野菜を売りさばく。卸売りに賭ける若き競り人の思いとは──。
森田美和(もりた みわ)プロフィール

1989年、宮城県生まれ。福島大学経済学部卒業後、2012年に東京青果に入社。4年目に競り人免許を取得し、現在は東京・大田市場で競りや相対(あいたい)販売を担当する。担当作物はピーマン。

広大な建物の中に、数えきれないほどの段ボールが積み重ねられ、ターレと呼ばれる1人乗りの荷物運搬車が、その重なりの間を縫うようにして縦横無尽に走り回る。ターレに荷物を載せる人、運転する人、荷物をチェックする人、帳簿に何かを書き込む人、段ボールの山を歩きわたって作物を確認する人──。それぞれがそれぞれの仕事に黙々と従事し、場内に静かな活気が満ちる。

森田美和 氏
森田美和 氏

競りは意外なほどさりげなく始まった。競り人と、競りで決まった売値をノートに記載する「帳付(ちょうづ)け」と呼ばれる作業の担当者。その2人が競り台に上がって競りの開始を告げると、競りに参加する買参人(ばいさんにん)たちが次々に「手やり」で入札額を示していく。競り人は、買参人の帽子のプレートに書かれた4桁の数字とともに入札額を読み上げていく。「手やり」とは指で数字を表すサインのことだ。最高値がついたと競り人が判断した時点で、その「杯(はい)」ないし「山」の競りは終わる。「杯」も「山」も青果の一塊を表す単位である。その価格が決まれば、競りは次の杯や山に移っていく。

価格が決まるまでの時間は、早い時で数十秒程度。競り人は、1つのブロックの競りが終わると、台を移動させて、休みなく次の競りを始める。移動競売といわれるスタイルである。

広大な市場のあちこちで移動競売が進み、値がついた段ボールが次々に運び出されていく。気がつけば、段ボールの数はずいぶん減っている。まだ朝の7時前。市場の外の世界では、人々がようやく活動を始める時間だ。

求められるのは迅速かつ適正であること

場内の人々は、プレートに4桁の数字が入った帽子をかぶる人たちと、名前が書かれた帽子をかぶる人たちに大きく分けられる。前者が買参人、すなわち、市場で青果を仕入れて小売りに販売する仲卸や、市場での売買への直接参加が認められた小売業者などである。そして後者が卸売会社の従業員たちだ。女性の姿もちらほら目に入るが、競り台に上がる女性の数は多くはない。その一人が、日本最大の青果卸売会社、東京青果の森田美和氏である。まだ20代。よく通る声で、次々に競りをさばいていく姿が印象的だ。

森田氏が東京青果に入社したのは、2012年のことである。大学は経済学部で、当初は金融業界への就職を考えていたという。東京青果の会社説明会に参加したのは、全くの偶然だった。

「就職活動中に東日本大震災が起きて、その年だけ仙台で会社説明会が開かれたんです。恐らく、被災した学生たちのため、ということだったのだと思います。仙台は私が通っていた福島の大学から比較的近かったので、その説明会に参加することにしました。もし説明会が東京で開催されていたら、この会社との縁はなかったと思います」

森田美和 氏

採用担当者ののんびりとした雰囲気に惹かれ、青果の卸売りという仕事がどのようなものかほとんど知らないままに入社を決めた。同期入社10人中、女性は2人だけだったが、女性であることで苦労したことはないという。

「男性が圧倒的に多い世界ですが、その分、女性が働いているとみんな優しくしてくれるんです」

入荷した商品のチェックや帳付けの仕事などを数年間したのち、競り人試験を受けて、競りを行う資格を得た。競り人試験で試されるのは、取り扱う作物に関する知識ではなく、公正な市場取引のルールをどれだけ熟知しているかである。卸売市場法の内容を正確に把握し、コンプライアンスを順守し、フェアな取引を行う。そのスタンスが、青果物の生産者と買参人の間に立つ「中立者」たる卸売りには必須だからだ。

もっとも、いざ競りの現場に立てば、そういった法律的知識以上に、経験によって磨かれる技が重視される。迅速かつ適正な競りができるのがいい競り人。そう森田氏は言う。
「テンポよく競りを進めて、移動競売の流れを止めないのがいい競り人の条件です。買参人は自分の周囲のあちこちにいます。そのすべての人の手やりを瞬時に見て、素早く判断していかなければなりません。同時に、適正な価格で販売することも大切です。その時々の作物の出荷量によって、価格の相場はある程度決まります。その相場から見て、高過ぎず、安過ぎず、生産者も買参人も納得できる値段に決められるかどうか。それも、競り人の腕の見せどころです」

名前の入ったプレートのついた帽子をかぶっているのが卸売会社の社員だ。競りが行われる朝の6時半から7時半の間、休むことなく市場の中を駆け続ける。
名前の入ったプレートのついた帽子をかぶっているのが卸売会社の社員だ。
競りが行われる朝の6時半から7時半の間、休むことなく市場の中を駆け続ける。

朝の早い仕事だ。5時に起きて、6時頃には現場に入らなければならない。その生活スタイルになじめず、辞めたいと思ったことも新人時代には何度かあった。しかし、競り人の資格を取って、自分の競りのスタイルを確立していく中で、この仕事を続けていきたいという気持ちが固まったという。

「自分に長所があるとすれば、思い切りがいいところだと思っています。それから、子どもの頃から年上の人たちと話すのが好きでした。市場は、そんな性格を活かすことができる場所です。金融よりもこの仕事が自分には絶対向いている。今はそう言えますね」

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