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【平成の世にサムライを探して】第159回 水族館プロデューサー 中村元「逆転の発想で水族館を再生させる」|システム構築やトータルソリューションをお探しなら、日立ソリューションズをご利用ください。

【平成の世にサムライを探して】第159回 水族館プロデューサー 中村元「逆転の発想で水族館を再生させる」

鳥羽水族館、新江ノ島水族館、北の大地の水族館、マリホ水族館と、名だたる水族館のリニューアルを手がけ、施設の人気を復活させてきた水族館プロデューサー、中村元氏。水産や動物の専門家ではない彼が個性ある水族館をつくり出せるのはなぜなのか。自ら手がけた「天空のオアシス」、東京・池袋のサンシャイン水族館にてその独特の発想法について伺った。

大人が楽しめる「大衆施設」をめざす

中村元(なかむら はじめ)プロフィール

1956年、三重県生まれ。成城大学経済学部卒業後、地元の鳥羽水族館に就職。アシカトレーナー、企画室長を経て副館長に。2002年の退任後、フリーの水族館プロデューサーとして10を超える水族館に携わる。『水族館の通になる』『水族館哲学』『常識はずれの増客術』『中村元の全国水族館ガイド』ほか著書多数。

中村元 氏
中村元 氏

※黒字= 中村元 氏

── 水族館プロデューサーとはどのような仕事なのですか。

いかに多くのお客さんに来館してもらうか。いかに来館したお客さんに満足してもらうか。その2つのことを考え、実現する仕事です。僕の知る限り、以前は、これらを真剣に考えている水族館はありませんでした。ならば僕がそれをやろうと、独立した時に自ら「水族館プロデューサー」を名乗りました。

── 以前から魚が好きだったのですか。

いや、全く(笑)。鳥羽水族館に入ったのもたまたまでした。大学は経済学部で、水産系でも動物系でも環境系でもありません。

── 鳥羽水族館を最初にプロデュースした時にめざしたのは、どのようなことだったのですか。

当時、水族館の関係者はみんな、水族館は「子どもが楽しむ場所」、あるいは「子どもに教育するための場所」と考えていました。しかし僕は、水族館を含む文化施設は、大人が満足できるものでなければならないと思っていました。大人を引きつけることで大衆化させる。それがめざすべき方向性だと。

── 大衆化、とは。

例えば、日本のスポーツの中で一番大衆的な競技は野球ですよね。野球を見て感動したり、選手から勇気をもらって自分も頑張って生きていこうと思ったりする人がたくさんいるでしょう。それが大衆スポーツというものです。僕は、水族館をそういう大衆性を持った施設にしたかった。そのためには、大人のお客さんに楽しんでもらえるようにしなければなりません。

「天空のペンギン」のもととなった中村氏のスケッチ。アイデアがほぼそのまま実現していることが分かる
「天空のペンギン」のもととなった中村氏のスケッチ。アイデアがほぼそのまま実現していることが分かる

これは、マーケティングの視点から見ても理にかなっているんですよ。日本の人口に占める子どもの割合は1割くらいです。入館料をもらえる年齢の子どもとなると6%くらいで、しかも料金は半額です。さらに、平日は学校があるから来られない。

── 経営戦略上も大人を狙った方がいいと。

そうです。鳥羽水族館を手がけたのは30歳になる少し前でしたが、それから今日まで、どの水族館をプロデュースする際もその方針は守っています。

圧倒的な弱点が生み出した成功

── サンシャイン水族館リニューアルの際に念頭にあったのはどのようなアイデアだったのですか。

女性をターゲットにすることでした。池袋には企業のオフィスが多く、平日も女性会社員がたくさんいる。サンシャインシティに買い物に来る客の多くは女性であり、周囲ではマンションの建設が進んでいるので、新婚の若い女性が今後増えていく。ということは、女性に注力すれば集客数は伸びる。そう考えました。

そこで思いついたのが、「オアシス」というキーワードです。女性雑誌の広告を見ると「うるおい」という言葉があふれているでしょう。女性は皆うるおいが好きなんです。ならば、都会のど真ん中にうるおいを提供するオアシスをつくろうと。「天空」とつけたのは、建設が進んでいた東京スカイツリーの展望台の高さがサンシャイン60ビルを超えると聞いたからです。それに対抗するために、「天空」という言葉で高さをアピールしようと思いました。結果生まれたのが「天空のオアシス」というコピーです。

「天空のペンギン」。ビルを背景にペンギンが空を飛んでいるように見える。このような光景が見られる場所は世界中でここだけだ
「天空のペンギン」。ビルを背景にペンギンが空を飛んでいるように見える。このような光景が見られる場所は世界中でここだけだ

── 高層ビルの屋上にある水族館を表すには、これ以上ない素晴らしいコピーだと思います。

しかし、これは弱点を逆手に取ったコピーなんですよ。サンシャイン水族館は高層ビル屋上にある世界初の水族館としてオープンしました。しかし、2番目はいまだに出てきていません。つまり、まねをしたいと考える人が世界に誰もいないということです。それだけ、この施設は弱点だらけなんです。

まず、最上階までお客さんに上がってきてもらうこと自体が大変だし、高層階だから巨大な水槽を入れることもできない。屋内の天井は低いし、屋上には屋根がないので、雨風の影響をもろに受ける。しかも夏は暑いし、冬は寒い。

── なるほど、確かに弱点だらけです。

しかし、その圧倒的な弱みがあったからこそ成功したんです。例えば、天空のアシカの展示や「天空のペンギン」です。水槽の中を泳ぐアシカやペンギンが、まるで空を飛んでいるように見える。後ろには高層ビルがそびえ、青い空が広がっている。こんな景色、ここ以外で見られますか? これはまさしく「屋上」という弱点を逆手に取った発想です。

館内で一番大きい水槽は、「サンシャインラグーン」ですが、これは沖縄美ら海水族館にある巨大水槽の30分の1くらいの大きさしかありません。高層ビルの上に設置するにはこれが限界なんです。しかし、実際に見てみると、非常に大きく感じられる。これにはいくつかのマジックがあります。

都会の真ん中にありながら、緑あふれる屋上スペースでインタビューを受ける中村氏。後ろにアシカが泳いでいるのが見える
都会の真ん中にありながら、緑あふれる屋上スペースでインタビューを受ける中村氏。後ろにアシカが泳いでいるのが見える

まず、水槽のつくり自体に工夫を凝らし、お客さんの想像力によって視界以上の広がりが感じられるようにしてあります。また、心理的なギャップも利用しています。ほとんどのお客さんは、「ビルの上だから水槽はどうせ小さいだろう」と思ってやって来ます。そこにまあまあの大きさの水槽があると、実際よりもすごく大きく感じられるものなんです。

さらに効果的なのは照明です。僕は水族館の水槽は、映画館のスクリーンのようなものだと思っています。映画館では、たとえ小さなスクリーンでも、周囲が真っ暗でスクリーンしか見えないから映像がすごく大きく見えるでしょう。視覚が1カ所に集中すると、脳はそういう情報処理をするんです。だから館内を暗くして水槽に意識が集中するようにすれば、水槽はすごく大きく見えるわけです。

── まさしく逆転の発想ですね。

弱点は「克服しよう」と思っては駄目なんですよ。「武器にしてやろう」と思わなければならない。鳥羽水族館に入った時に僕が感じたのは、「どんなに努力しても他のスタッフには勝てない」ということでした。みんな魚や動物が大好きで、水族館の経験も長い。僕は水産や動物について学んだことすらない。この差を埋めるのは、どんなにあがいても無理です。

僕には「知識がない」というどうしようもない弱点があった。しかし見方を変えれば、それゆえに僕はお客さんと同じ立場に立てるということです。スタッフはみんな魚が大好きだから、魚について詳細な説明をすればお客さんが喜んでくれると思っている。どれだけ多くの種類の魚がいるかが水族館の魅力だと思っている。でも、お客さんから見ればそんなことはどうでもいいんですよ。お客さんが水族館に求めているのは、雰囲気であり、楽しさであり、驚きです。それを僕は追求しようと思いました。

中村氏が描いた水槽のスケッチ。客が水槽をどのように見るかを含めてイメージを膨らませる
中村氏が描いた水槽のスケッチ。客が水槽をどのように見るかを含めてイメージを膨らませる

── 見方を変えることで弱点が武器になったと。

さらに良かったのは「自分の長所は何か」とも考えなかったことです。僕に人より優れたところがあったとしても、そこで勝負したら絶対にどこかで負けます。なぜなら、一般に長所といわれるものは競争も激しいからです。例えば、中学で学年一足が速い子がいて、その子がオリンピックをめざそうとしたら、市大会、県大会、全国大会、高校とずっと勝ち続けなければならないでしょう。そんなの絶対無理ですよ。長所で勝負しようとしても、負ける確率の方が高いんです。それだったらむしろ、弱点をどう使えるかを考え、そこで勝負した方が勝つ確率ははるかに高くなります。

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