第七十六回 水戸岡鋭治『九州新幹線のデザイナーが語る、デザインの真髄〜先例を次々に打ち破る終わりなき鉄道デザインの旅』|システム構築やトータルソリューションをお探しなら、日立ソリューションズをご利用ください。

平成の世にサムライを探して 

水戸岡鋭治『九州新幹線のデザイナーが語る、デザインの真髄〜先例を次々に打ち破る終わりなき鉄道デザインの旅』

JR九州の車両デザインに携わって23年。水戸岡鋭治氏は今、最も先鋭的で洗練された鉄道車両を造るデザイナーとして、幅広い注目を集めている。休むことなく新たなステージを目指す水戸岡氏。そのデザイン思想の真髄に迫る。

イラストレーターから鉄道デザイナーへ

水戸岡鋭治 (みとおかえいじ)プロフィール
1947年岡山県生まれ。
岡山県立岡山工業高校デザイン科卒業。 大阪、ミラノのデザイン事務所勤務を経て、72年にドーンデザイン研究所を設立。
87年よりJR九州の車両、駅舎デザインを手掛ける。著書に『水戸岡鋭治の「正しい」鉄道デザイン』などがある。

※黒字=水戸岡氏

-- 鉄道デザインに携わることになったきっかけについてお聞かせください。

もともとの僕の仕事はイラストを描くことで、百科事典の解説イラストや、建築の完成予想図などを描いていました。

一方、実家が家具屋ということもありインテリアデザインにはずっと興味があって、多少自分で手掛けてもいました。いずれ本格的にデザインに取り組んでみたい。そんな思いが実現したのが、1987年のことです。福岡市の郊外に「海の中道」というホテルがオープンすることになり、そのアートディレクションを任されたんです。

ホテルのポスターのイラストだけでなく、インテリア、ロゴ、シンボルマーク、ユニホーム、備品などのデザイン全般をやらせてもらいました。デザイン会議というものにも初めて参加して、デザインの仕事はこうやるんだということを学びました。

そのホテルのオープニングパーティーで、当時JR九州の社長だった石井幸孝さんと初めてお会いしました。その出会いがきっかけで、ホテル近くを通る香椎(かしい)線を走らせるリゾート電車のデザインをプレゼンすることになりました。のちに「アクアエクスプレス」と呼ばれることになる電車で、それが僕が初めて手掛けた鉄道デザインになりました。

-- 初めてチャレンジする分野ということで、戸惑いはありましたか。

昔から無邪気で楽観的なところがあって、深く悩んだりすることがないんです。どんな仕事であれ仕事は仕事、全力でやれば何とかなるだろう──。そんなふうに考えました。

社長が全面的にバックアップしてくれたのも心強かったですね。「鉄道車両造りの基本的なルールさえ守ってくれれば、色も形も好きにやってくれていい」と言ってくれました。アイデアを自由に出すことを許してもらえたからこそ、それまでになかった真っ白な車両とか真っ赤な車両を提案して、実現させることができたんです。

-- イラストもデザインも、頭の中のイメージをビジュアル化するという点では共通していますね。異なる点があるとすればどこですか。

水戸岡氏イラストレーターは職人です。自分一人で最後まで仕上げるのがイラストレーターの仕事です。一方、工業デザインの仕事は、デザイナーが一人ですべてを行うわけではありません。いろいろな人と話し合い、完成イメージを共有し、作業を製作者に委ねていかなければならない。いろいろな人の知恵や工夫が混ざり合って初めて成立するのが工業デザインなんです。だから、僕がデザインした車両は僕の作品ではありません。作業にかかわった人みんなの作品です。

デザインの仕事を始めてから僕が知ったのは、デザインとは、いわば「代行業」であるということです。メーカーや職人やユーザーの意見を聞き、様々な情報を吸収し、多くの人の気持ちを色や形に翻訳し、まとめ上げていく。それがデザイナーの仕事だと僕は思っています。

不都合を受け入れれば能力は伸びていく

-- 鉄道をデザインする際に常に守っているポリシーのようなものはありますか。

初めて車両造りの世界に触れた時に僕が感じたのは、「利用者不在」ということでした。鉄道会社やメーカーの事情が優先されていて、ユーザーが何を求めているかは二の次になっていました。しかし、僕はあくまでも利用者の側に立った車両を造りたかった。だから、僕がイメージしたのは「サービスの固まり」のような鉄道車両でした。ホテルのように、総合的で創造的なサービスを提供できる空間。それが今日に至るまで僕が理想としている鉄道車両のあり方です。

-- デザインする際にコストについては考えますか。

水戸岡氏考えるふりをする、ということでしょうね(笑)。実際には、コストに縛られると、良いアイデアは出ないと思っています。デザイナーは最初にそろばんを弾いてはいけないんですよ。まずアイデアを出す。その上で、その実現がコスト的に難しいのならば、どうすれば実現可能かを考える。それが正しいやり方だと思っています。

仕事には、常にいろいろな不都合があるものです。鉄道車両造りでいえば、予算、スケジュール、技術。その三つがとりわけ大きな不都合です。その不都合を受け入れ、みんなの力でそれを乗り越える。不可能だと思われたことをやり遂げる。それによって新しいシステムが生まれるんです。

人間は、不都合を受け入れれば受け入れるほど、能力が伸びていくんですよ。都合の悪いことを克服することで、それまでの自分にはなかった発想、言語、スキルが身に付いていくんです。だから、成長しようと思ったら、どんどん不都合を受け入れていかなければならないんです。

-- 不都合を受け入れ、不可能を可能にしていく具体的なやり方を教えていただけますか。

例えば、能力を従来以上に発揮すれば、作業時間は短縮されるので、その分コストも引き下げられます。難しいことではありませんよ。担当者がすぐに書類を回すとか、決断を即座にするとか、注文の連絡をスピーディーに行うとか、そういうことを日常的に心掛けるだけで、1割くらいのコストはすぐに下がるんです。

さらにメーカーや職人などが、それぞれのセクションで能力を最大限発揮して新しいやり方を見付けていけば、コストはもっと下がるし、そこで培った新しいスキルは、そのまま資産として蓄積していきます。メーカーや職人自身のソフトになるんです。そのソフトは、ほかの仕事でも確実に活用できるでしょう。つまり、難しいと思われる仕事にかかわることによって、結果的には能力の開発になるわけです。デザイナーは、そういうところまで考えながらデザインをしていかなければならない。そういつも考えています。

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