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2ページ目|第一回「ザックジャパンはなぜ負けたのか?なでしこジャパンとの差」|脳が変わればビジネスも変わる 脳医学者 林成之の成果を生み出す勝負脳講座|システム構築やトータルソリューションをお探しなら、日立ソリューションズをご利用ください。

第一回「ザックジャパンはなぜ負けたのか?なでしこジャパンとの差」
第一回「ザックジャパンはなぜ負けたのか?なでしこジャパンとの差」

脳の「同期発火」を生む「最後の砦」理論

 もう一つ、私が今回のワールドカップで日本は厳しい試合になるだろうと予想した理由があります。それは、本番直前のテストマッチなどでのベンチの様子からです。私はベンチの映像を見て、すぐに「ああ、これでは難しいな」と思いました。なぜなら、「試合に出ているメンバーとベンチメンバー」が、そして、またここも重要なのですが「ベンチメンバー同士」も、お互いに「同期発火」していない。それが私の目にはベンチメンバーの態度や表情などからはっきりと見えたからです。

 機会があれば「なでしこジャパン」と「ザックジャパン」それぞれのベンチの映像を見比べてみてください。明らかに「なでしこジャパン」は、試合に出ているメンバーだけでなく、ベンチにいるメンバーも全員が一緒に戦っている。全員がお互いに「同期発火」していることが外から見ていてもひしひしと伝わってくるのです。これが、本来の実力以上の力を発揮させるために非常に重要なことなのです。

 なぜ、同じ日本代表チームなのに、「ザックジャパン」と「なでしこジャパン」とでこうも違うのでしょうか。「なでしこジャパン」組織から、脳医学者としてアドバイスを求められた者として、一つだけ種明かしをしますと、私は「なでしこジャパン」のサブメンバーたちに対して、こう言ったのです。「あなたたちは、このチームの“最後の砦”なんですよ」と。

 「なでしこジャパン」の佐々木則夫監督に、人間の脳細胞が一体で機能する仕組みなのと同じよう、一軍・二軍、レギュラー・ベンチ組に分けるのではなく、エース軍団・最後の砦軍団に分け、エース軍団がうまく行かないとき、その原因と解決法をベンチから砦軍団が冷静に見ていて、すぐに取り返してゆくという戦い方を提案したのです。

 名付けて「最後の砦理論」です。説明するまでもないと思いますが、サブメンバーというのは、いつでも試合に出られるよう、気持ちを切らさず、試合に集中しなければなりません。と、頭ではわかっていても、人間にとってこれがなかなか難しいのです。野球の抑え投手や代打であれば役割も明確ですし、出番もほぼ予想できますので集中力を高めやすい。ところが、サッカーのようになかなかサブメンバーに出番が回ってきにくいスポーツの場合は、集中力を維持するのは非常に難しいのです。しかし、「自分たちは控え選手じゃない、“最後の砦”なんだ、自分たちが出て失敗したら、もうチームは終わりなんだ」という意識を持つことで、レギュラー以上の責任感が芽生えるのです。また、その意識がメンバー全員で「同期発火」すれば、試合に出ているメンバーは、自分たちの後には“最後の砦”が待っているのだから、と安心して思い切りよくプレイすることができるのです。

 「同期発火」を脳医学的にいうと、“人と人との離れた脳の領域が同時に信号を送り出す脳現象”となります。脳の神経細胞はテレビがOFFの状態でも予備電流を流しているのと同じように、常にわずかながら自然活動しています。ですので脳に情報がもたらされるや否や瞬時に「発火現象」が起き、情報を伝達し合った神経細胞の間では、連鎖的に発火が起きているという「同期発火連鎖」の考えが、1990年に神経生理学者のディーズマンによって提唱されたのです。

 さて、誰かと一緒にお茶を飲んでいるとき、あなたが足を組むと、まるで打ち合わせでもしたように相手も足を組んだという経験があると思います。これも脳のダイナミックセンター・コア(※)に「気持ちが伝わる仕組み」のためです。脳は、同一もしくは似た情報を受け取ると、相手の同期発火のループとほぼ同じループをつくる力を持っています。脳神経細胞群は、情報を受け取ると同期発火しますが、それと同じ現象は他人と他人との間にも発生するのです。たとえば、誰かから悲しい話を聞くとき、話の内容だけでなく、話す人の表情、身振りなどの情報を受け取ると、あなたも悲しい気持ちになるはずです。それが「同期発火」です。情報が伝達されることで、人と人との間に生まれる感情の共有です。人間の脳細胞には「仲間になりたい本能」があります。また、ヒトの脳組織には、できれば相手と同じにしようとする「統一・一貫性を好む本能」もあります。誰かと一緒に走っているといつの間にか同じリズムで走っているというのも、ここから来ているのです。

 とはいえ、他人と他人の脳の間で同期発火が起きるには、思考のスタートである物事への興味が同じであったり、強い感情が伝わることが不可欠です。「なるほど!」「そう思う!」と共感すれば、お互いの前頭葉の中の「理解する」「判断する」といった脳機能が複数の人との間でも同期発火現象を発生させ、気持ちが通じ合うことになるのです。これが「以心伝心」の仕組みです。

 つまり、「同期発火」が起こっているメンバー同士は、お互いの動きを予知し、まるで同じリズムで動くことができたりもするのです。そういうときにこそ、実力以上の力が発揮できるわけで、「なでしこジャパン」の強さの秘密のひとつが「同期発火」にあるといってもいいでしょう。

「同期発火」するコミュニケーションが大切
「同期発火」するコミュニケーションが大切

 「同期発火」は、人と人とのコミュニケーションを考えるうえで、非常に重要な現象、もしくは概念です。人間は一人ひとり違いますから、同じことを話しても、それが伝わる人と伝わらない人がいます。では、伝わらない人に伝えるためにはどうすればいいか。例えば相手に感動してもらおうと思ったら、まず自分が感動しなければなりません。自分が感動するからこそ、それが相手に伝わり、相手の脳の大脳皮質とダイナミック・センターコアに「同期発火」が起こるわけです。ですから、人に気持ちを伝えるには、自分が感動すること、そして気持ちを込めて話をすること、相手を好きになること、相手を尊敬すること、これが大切です。自分がワクワクした気持ちで話せば、「同期発火」が起こりやすくなり、そのワクワクした気持ちが伝わって、聞いた人も「何か面白そうだ」となるのです。また、相手を嫌いだと思っていると、その気持ちも相手の脳の中で「同期発火」してしまいます。皆さんも嫌いな相手と話しをしていて、どうも相手も自分を嫌っているようだ、と感じた経験はありませんか?自分の気持ちは隠しているつもりでも、実は相手には伝わってしまうものなのです。逆に好きだったり尊敬できる人の話は、スポンジが水を吸収するようにすっと頭に入ってくるのですから、指導者やリーダーは、人に好かれるようになった方がずっと得です。話を真剣に聞いてもらえるうえ、相手の理解も早く、チームワークよく働けるはずです。リーダーとして素晴らしい力を発揮するためには、尊敬され、好かれる自分を鍛えることが大切なのです。部下に好かれる上司には聞き上手が多いと言われています。部下の話に耳を貸さない上司より、心を込めて聞いてくれる上司の方が信頼を集めるのは当然です。アメリカの実業家で「人を動かす」「道は開ける」といったビジネスコミュニケーションの名著の作者でもあるデール・カーネギーもこういっています。「人を熱烈に動かそうと思ったら、相手の言い分を熱烈に聞きなさい」。感動して人の話を聞く姿勢が、感動して話を聞いてもらえるリーダーをつくり上げるということです。

※ダイナミック・センターコア:人間の脳は、「生きたい」「知りたい」「仲間になりたい」という3つの“先天的な細胞由来の本能”と、生きるために自分を守りたいという「自己保存」や、情報を理解しやすくするために整ったもの、秩序立ったもの、筋が通ったものを好む「統一・一貫性」、さらに「自己報酬神経群」といった“後天的な組織由来の本能”の二重構造になっています。この2つの本能から生まれる、相反する感情を調整する働きをする「脳の司令塔」を、私は「ダイナミック・センターコア」と名付けました。

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