Chapter04「相手を説得するための心理テクニック -理論編-」
相手を説得するためには、意識的に仕掛ける戦略的な発想が大切です。日本は、伝える努力やスキルがなくても、お互いに相手の意図を察しあうことで、なんとなく通じてしまう「ハイコンテクスト」文化の国なので、どうしても伝える努力を怠ってしまいがちです。
しかし、それではグローバルな世界では通用しませんし、ビジネスにおいても非常に不利だと言えます。人の心を動かし、説き伏せるためには、本来、戦略的な努力が必要なもの。次に紹介する心理テクニックを使って、そのためのスキルを身につけましょう。
1「戦略的」に説得する
「これくらいは言わなくても分かってくれるはず」「察してほしい」という考えはやめることです。商品の説明をするときにどういう言い方をするのか、相手がこう言ったらどう答えるのか、何を着ていくか、話すスピードは……と、戦略性を持った事前の準備なしに、説得はできません。ちょっとした一言をつけるだけで結果が違ってくることもあります。
ポイントをおさえて、これをすれば思い通りの結果になる確率が上がる、という戦術を多く用意していなければいけないのです。
2相手の五感に訴えるのも戦略の一部

相手を説得したい場合、話す内容で勝負できないなら、とにかく早口で話すこと。患者の心の病気を治すのに成功しているカウンセラーは、「人柄」に関係なく単に「早口」なだけだったという実験など、いくつかの実験によって、人は「早口」の人の話の方が説得されやすいことが証明されています。特に相手が理解しがたい専門的な部分ほど早口が良いのです。
ただ、日本人を対象とした調査では、ゆっくり話す人のほうが「信頼できる」「落ち着ける」と評価されるという結果も出ています。ですから日本人の場合には、世間話や些細なことは早口でしゃべり、肝心な部分、核心的な部分ではゆっくり穏やかに話すと説得効果は高まると言えます。
また、色と心は密接に結びついています。ビジネスマンの間で赤いネクタイが「パワー・タイ」と呼ばれているように、力強く相手を圧倒したい時は赤、落ち着いてゆったりとした話し合いをしたいのであれば黒や茶色の服を着ていくと効果的です。
資料に盛り込むデータの順序についても、スポンバーグという心理学者による興味深い調査結果があります。相手が気乗りしない場合は初めにインパクトの大きなデータを示して興味を引き付けることが大事で、逆に話に乗り気な場合には、関連するほかのデータで証拠固めをしながら、最後の最後で強烈なデータを見せるほうがインパクトは強くなるというのです。
3説得の3大テクニック
次に挙げる基本的な三つの説得テクニックを、場面や状況に応じて柔軟に用いることで、説得のスキルは格段にアップします。それだけではなく、こうした方法があることを知っていれば、これを悪用して説得にかかろうとする相手のことも見抜くことができるでしょう。
「片足をドアに入れることができれば、もう商品を売ったも同然」という意味のこのテクニックは、最初の小さな依頼を受け入れると、次の大きな依頼は断りにくくなるという心理法則を突いたやり方です。
例:契約を取り付けるとき
「1台でいいですから、1週間サンプルとしておかせていただけませんか?」
(1週間後)
「ぜひ、このまま末永くお使いいただければと思うのですが……」
初めにあえて大きな要求を行い、相手がそれを断った時点で小さな(本当の)要求を行うやり方のこと。人は、それがどんなに法外な要求でも断ると無意識のなかで罪悪感が生まれるため、次の要求には応じなければと思ってしまう心理を利用したテクニックです。
例:営業が130万円以上の契約をしたいとき
営業:見積書の価格を提示したいのですが、150万円でいかがでしょう?
顧客:それは少し高すぎて厳しいですね。
営業:そうですね……では頑張って……130万円でいかがでしょうか?
人は一度要求を承諾してしまうと、「自分の決定に責任を取らなければ」という気持ちになり、その後は多少不利な条件が発生してもその要求を受け入れてしまうという心理を逆手に取ったテクニック。最初は相手にとって不利な条件に触れなかったり、受け止めやすい要求をし、受け止められれば初めて本当のことを言うやり方です。
例:部下に残業を頼むとき
上司:○○君、ごめん、30分だけでいいから残業頼めないかな?
部下:30分くらいならいいですよ。
上司:たぶん30分くらいで終わるから……(といいつつ1時間かかる)
4相手の本音をボディーランゲージで見極める
説得を成功させるためには、相手の本音を見極めることも必要です。ボディーランゲージのサインには次のようなものがあります。
・胸を張り、頭をひいている……「侮蔑」「軽蔑」「嫌悪」
・頭を前方に出す……「興味」「好意」
・手で頭を「こんこん」とたたく、体を斜めに構える……「考え中」
・あごを手でゆっくりこする、メガネを丁寧にふく……「考え中」
・脚組み……「退屈」「疑惑」
・腕組み……「拒絶」(防御の気持ちが強くなるほど腕組みの位置は高くなる。)
・笑いはせず、あごを前に出す……「説明くらいは聞く気持ちがある」
・手で口元などを触り始める……「ストレスを感じている」
5「交渉が難航している時は、アイコンタクトをしないようにする」
普通はアイコンタクトをすると好感度は高まるものですが、気づまりを感じている相手から見つめられると、その人のことを嫌いになってしまうという法則があります。交渉が難航して気づまりな状態になったら、アイコンタクトを求めるのは賢明とはいえません。今の交渉だけでなく、将来的にも敬遠されかねないからです。
6「セールスは右側から迫れ」
人間は無意識のうちに自分の心臓を守っているため、心臓に近い左側から近寄られると、無意識のうちに圧迫感を受けるのです。また、利き手が自由に使える位置に相手をおくと安心するという心理も働くため、セールスをする時には相手の右側から、が鉄則となっています。