講演レポート|一橋大学名誉教授 石倉洋子氏と考える 企業と個人が発展し続ける「新しい働き方」|システム構築やトータルソリューションをお探しなら、日立ソリューションズをご利用ください。

一橋大学名誉教授 石倉洋子氏と考える
企業と個人が発展し続ける「新しい働き方」

 グローバル規模でビジネス環境や経済状況が急速に変化する時代において、企業と個人が競争力を持って発展し続けるために「ワークスタイル変革」が重要視されております。「働き方を変えること」は、ビジネス機会の創出、生産性の向上、多様性を重視した雇用・就労形態、社員間・企業間の円滑なコミュニケーション、社員のワークライフバランスの適正化に繋がることが期待され、多くの企業が経営目標として取り組み始めていますが、実現の手段を先行してしまい、目的を忘れてしまうこともあるのではないでしょうか。

 このたび、基調講演に一橋大学名誉教授石倉洋子氏をお招きし、「世界から、世界へ、将来の仕事、ワークスタイルとは?」と題し、ご講演いただきました。あわせて、このイノベーションには欠かすことができないITの活用について、日立グループのソリューションをご紹介いたしました。ご紹介したソリューションは、日立の長年の実績を基にしており、この実績は、経済産業省が選定する「ダイバーシティ経営企業100選」(2013年3月)、経済産業省と東京証券取引所が選定する「なでしこ銘柄」(2014年3月)に選定されるなど、多様な働き方を経営戦略として取り組む姿勢を評価されております。

開催概要

日時 2015年2月18日(水) 14:00~16:40 (13:30 受付開始)
会場 日立ソリューションズ 本社別館
東京都港区港南2-18-1
JR品川イーストビル20F セミナーホール
主催 株式会社日立製作所、株式会社日立システムズ、株式会社日立ソリューションズ
(順不同)

【基調講演】
世界から、世界へ、将来の仕事、ワークスタイルとは?

石倉 洋子 氏

一橋大学名誉教授
石倉 洋子 氏

【石倉 洋子 氏プロフィール】

一橋大学名誉教授。上智大学外国語学部英語学科(BA)、バージニア大学大学院経営学修士(MBA)、 ハーバード大学大学院 経営学博士(DBA)修了。マッキンゼー社でマネジャー。青山学院大学国際政治経済学部教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授、日清食品ホールディングス、ライフネット生命、双日社外取締役、世界経済フォーラムのGlobal Agenda Councilのメンバー。「グローバル・アジェンダ・ゼミナール」「ダボスの経験を東京で」など、世界の課題を英語で議論する「場」の実験を継続中。専門は、経営戦略、競争力、グローバル人材。主な著書に、「戦略シフト」(東洋経済新報社)、「グローバルキャリア」(東洋経済新報社) 「世界級キャリアのつくり方」(共著、東洋経済新報社)等。

石倉氏は基調講演で、世界では今、仕事や雇用について何を議論されているのか、何を調べ、何を発信しようとしているのかについて語った。

ホワイトカラーの生産性を高めなければ日本は成長軌道に戻れない

「高度経済成長を実現した国々では人口が高齢化しており労働人口が減少している。一方の新興国では人口が爆発的に増加し若年層が増えているが、若者の仕事がない状態にあるため社会不安が高まっている。世界経済の行く末は極めて不透明な状態にある」という石倉氏。

 ギリシャの債務問題によるEU体制の不安、移民・人種問題、石油の価格暴落、テロ組織の台頭、中国の経済成長の鈍化、ウクライナ・ロシア問題を起因とする冷戦再来の懸念、貧困とグローバリゼーションによる疫病の拡大など、「今の世界はいつ、いかなる状況になるのか予測困難な状態にあり、経済は成長していても雇用が生まれず、格差の拡大や将来の不確実性の高まりで、エコノミスト同士でも意見が合わない」と石倉氏は懸念する。

 一方、日本はどうか。2014年まで石倉氏が在籍した経済財政諮問会議の「選択する未来」委員会における「成長・発展ワーキング・グループ」で、2050年の成長シナリオを議論したところ、日本は世界で類を見ないほどのスピードで人口減少に向かい、このまま何もしないと、経済は縮小スパイラルに陥る可能性が高いため、何らかの形でイノベーションや生産性の向上、あるいは非労働人口の労働人口化、移民政策の見直しなどに今すぐにでも着手しなければならないと提言したという。

 アベノミクスの第1の矢、第2の矢はある程度の成功は見られたものの、第3の矢の成長戦略は時間がかかっている。石油の価格が下落し、一方で為替が円安方向に落ち着いて成長軌道に乗るかと思われた時に、消費税増税が行われ、そのインパクトが想像以上に大きかったため成長率が低迷した。

「日本は、製造業の工場における生産性は極めて高いものの、ホワイトカラーの生産性が極めて低い。これを解決しなければ日本は成長軌道に戻れない。そこでITの役割が非常に大きく、生産性向上のためにイノベーションを進め、低い労働生産性を何とかして高めないと縮小スパイラルに陥ってしまう」と石倉氏は指摘する。

今後20年間にコンピュータが代替する確率が高い業種

 では、仕事や雇用における世界の動向はどのようになっているのか。スイスのダボスで年次総会が開かれる世界経済フォーラム(通称、ダボス会議)では、年間を通してGlobal Agenda Councilという活動が行われており、石倉氏はその中の「Global Agenda Council on the Future of Jobs」(以下、Future of Jobs委員会)のメンバーだ。そこで発表したデータによると、世界レベルで若年層の失業が深刻化しているという。特に貧困レベルが高い途上国では人口動態的に若者層が多く、希望が持てる面もあるのだが、水資源の汚染や環境破壊が貧困層を直撃し、大きく影響を受けてしまう状況にある。

 石倉氏が最も懸念するのがテクノロジーだ。「多くの仕事がロボットなどの手に委ねられるようになると、この数年で現在の仕事の半分がコンピュータに取って代わられると予測されており、私もその予測を信じている」

 ある調査で発表された、今後20年間にコンピュータが代替する確率が高い業種別ランキングによると、テレマーケター(99%)、会計士・監査人(94%)、不動産業(86%)、タイピスト(81%)などが上位となった。それに対し、簡単には機械に取って代わられないだろうとされた職業は、レクリエーショナルセラピスト(0.3%)、歯医者(0.4%)、アスレチックトレーナー(0.7%)、ケミカルエンジニア(2%)、編集者(6%)などがあるという。

 また、別の調査で、米国における1970年から2010年までの40年間に50%以上職業人口が減少した職種を見ると、ゼネラルクラーク、簿記人、秘書、タイピスト、電話のオペレーターなどの仕事は今ではほとんどが消滅していることがわかる。

 石倉氏は、「分析してみるとホワイトカラーの仕事の中には人がしなくてもいい業務が数多く存在することが分かった。人による意志決定が本当に必要なのかが疑問で、実は仕事の多くの部分を分解することで生産性を上げることができる」と述べる。

 IBMリサーチ社がチャレンジする「コグニティブ・クッキング」(Cognitive Cooking)では、IBMの人工知能「ワトソン」がシェフの仕事もこなせるのではないかという実験が行われた。シェフは五感を活用するクリエイティブな仕事ではあるが、頻繁に利用する食材がパターン化してしまうためメニューが保守的になりがちだ。しかしワトソンは膨大な食材の成分や味のデータを収集した上で先入観なしに組み合わせるので、想定したこともない新たなメニューが生まれるという。

国境を越えて優れた人材を採用することが多くの経営者の常識に

 次に、新しい時代の雇用とはどのようなものになるのかについて石倉氏は論を進め、「フルタイムで1つの会社に勤め続けるということはなくなるのではないか」と予想する。

 日本はまだ、正社員、フルタイム(常勤)、ブランド企業至上主義という考え方が若い人々の間でも根強く残り、企業も人材を囲い込もうとしているが、世の中に不確定要素が増えていくほど、企業が戦っていくためには従来とは異なる課題に対する異なる意志決定が必要となる。企業がスキルや知識の全てを抱えていくことが現実的ではなくなるという。

 一方、個人の立場から見れば、1つの企業に勤務し続ければ生きていけるという時代は既に終わっており、正社員やフルタイムが未だに存在すること自体が疑問だと石倉氏はいう。

 イギリスのシンクタンクOxford Economics社の予測によると、2021年における大学、専門学校生の世界シェアは、中国(28%)、米国(25%)、インド(13%)、ロシア(11%)、日本(7%)となり、世界のどこに高等教育を受けた人がいて、どこで人材を確保するのがいいのかを、世界を舞台に考えなければならないという。

 「国境を越えて世界から優れた人材を採用すること」。石倉氏が講演のテーマに「世界から、世界へ」としたのはそうした意味があったという。「このことは少しずつではあるが、日本における将来性を持った企業の経営者の脳裏にも刻み込まれてきている」
 日立製作所はグローバルな人事制度を作ったが、日本だけに通用する人事制度では優秀な人材を確保できないため、世界全体を対象に人材獲得を考えなければ厳しいグローバル競争には打ち勝てないと考えたからに違いないと石倉氏は推測する。

「新しい産業分野では優秀な人材は日本にいるとは限らない。反対に、日本の社員を世界に出し、グローバル人材として育成することも非常に重要なこと」

仕事を細分化したクラウドソーシングの実施が将来の方向性

 新しい仕事の形態には、例えば遠隔医療のような国境を越えて医療のスペシャリストがタスクを分担するケースも登場している。Future of Jobs委員会は2014年11月にドバイで会議を開催したが、そこでは根本論に立ち返り、仕事や雇用とは何かを議論したという。

 石倉氏は、「正社員やフルタイムは存在しつつ、一方でプロジェクトごとに仕事を細分化し、クラウドソーシングが将来の方向性になると考えている」と話す。
 弁護士や会計士の仕事を細分化すると、実は機械学習によって代替できる部分が多い。肝心な核心部分のみを専門家の活動として残し、その他の仕事は生産性を高めるためにタスクに分解して、ITを駆使し、世界レベルで最も効率や効果の高い方法で分業する可能性が開かれようとしている。

「それは人のオープンイノベーションともいえるもの。社外の専門家に任せるためには、タスクの適性や期待成果、評価方法を明確に定義しなければならないが、まずはやってみることが必要。一度やってみて失敗してもそれが経験となる」という石倉氏は、仕事や雇用を決まったパターンで考えるのではなく、もっと細分化したらどうなるのか、今あるテクノロジーを全て駆使して実行したらどのような形になるのかを考えて、それを効率的に実施するためには、誰にどんなタスクを与えればいいのかを考えることが新しい働き方だという。

 最後に石倉氏は、「世の中は大きく、そしていろいろな意味で刻々と変化している。しかし、日本の企業は世界に比べてかなり遅れている状況にあり、今までの新卒採用や企業内育成などのやり方では通用しない。そのため仕事を細分化したクラウドソーシングを実施したり、新しいスキルをオンラインで身につけたりすることが必要になるだろう。今日のテーマの、"世界から、世界へ"をキーワードに、皆さんもこれからの働き方を考えていただきたい」と語り、基調講演のまとめとした。

【日立グループセッション】
多様な働き方を具現化する 日立のフレキシブルワーク

板橋 正文

株式会社日立製作所 情報・通信システム社
ITプラットフォーム事業本部 販売推進本部
ソリューションビジネス統括部
クライアント統合ソリューションビジネス開発ラボ 室長
板橋 正文

チーム力により時間当たりの価値創出の最大化に貢献する日立グループのフレキシブルワークソリューションについて、日立製作所の板橋が、その考え方と推進方法を具体的な活用例を交えて紹介した。

フレキシブルワークはICTを活用して人材の定着に貢献するもの

 日立グループのフレキシブルワークとは、いつでも、どこでも、いつまでも、安全安心に、いきいきとチーム力で活動することを達成目標としている。その実現に向け、大きく次の3点にフォーカスしていく。

  •  1つ目は、時間あたりの価値創出を最大化すること。長時間労働を前提とせず、時間制約の中でもタイムリーに成果を出していくために、価値の提供に着目して行動する。そのためには、価値を受け取るお客様やパートナーも同じ目標を持つ1つのプロジェクトチームとして考えて活動したり、成果の再利用や再活用、横展開なども推進していく。
  •  2つ目は、働く場所をフリーにすること。職場に縛られずどこでも安全にストレスなく業務ができ、チームメンバーが職場から離れていても有機的にアクションが可能なチーム活動とマネジメントを可能にする。
  •  3つ目は、時間の使い方をフリーにすること。時間を取られがちな意志決定のやり方や、コミュニケーションのやり方を見直し、個々の成長と価値を生み出す個人ワーク時間の捻出などを実現する。

 2つ目の働く場所をフリーにするというのは、ICTを活用した働き方であるテレワークを実現し、職場でなくても働き続けることができる環境を作ることで、1)在宅での育児・介護・看護・家事の対応や地域活動への参画、2)天候不順・自然災害発生による通勤困難時の対応、3)職場時間をシフトした隙間時間の有効活用、4)拠点を持たずに在宅勤務にて新規地域での営業開拓などを可能にする。

「フレキシブルワークとは、ICTを活用していつでも、どこでも業務を可能にする考え方のことで、多様な働き方を実現する柔軟な業務環境を会社が用意することで優秀な人財の採用に活かしたり、スキルを持つ経験豊富な社員のライフイベントを原因とした離職を防止したりする、人財の定着に貢献する経営戦略である」と板橋は説明する。

お客様の意志決定を支援し信頼関係を築くためのIT活用

 また、フレキシブルワークは、個人プレイや属人化した業務状態から脱却し、誰でも対応できるように「チームプレイ・チームシェア」のワークスタイルに変革することと定義する。

 日立グループでもグローバルレベルで人事制度を変革し、以前のような個々人の能力や期間成果で評価していた方法から、現在は組織やチームに仕事の中身を紐付けしその達成度によって評価する方法に変わった。チームメンバーやプロジェクトメンバーとしてのコミュニケーションや共同作業をお客様接点の活動につなげ、"価値を生み出す"、"価値を伝える"、"価値を届ける"という3つの目的に集中する。

「そのためには、ITが大きく役に立つ」という板橋は、場所を越えて情報を人に届ける、蓄積した情報を時間差で伝える、手のひらサイズのデバイスで無尽蔵の情報にアクセスする、情報をタイムライン(時系列整理)で蓄積することで記憶とリンクしやすくする、といったIT活用の本質を考えながら実行することがポイントだという。

 価値を提供するお客さま接点の強化のキーワードは「お客様の意志決定を支援する」こと。お客さまのやりたいことに対し、コンセプトや効果・効能、コスト、進め方、リスクと対応などをタイムリーに開示し、それをお客様が受け入れる/受け入れないと判断するまで十分に情報を提供する。

 そこに板橋は、「共感を得ていくことが重要なのではないか」と話す。共感を得るまでのやり方としては、それぞれの頭文字をとったINSPIREのアプローチが有効である。具体的には、興味を持つ(Interest)→気づきを得る(Notice)→探求する(Search)→イメージ化する(Picture)→対話する(Interactive)→実感する(Realize)→共感する(Empathy)というステップでお客様との信頼関係を築き、導入に向けて進んでいく。

システムのテイクアウトとチームとのコミュニケーションによる意志決定の迅速化

 次に、板橋はお客様接点でのよくある困り事について説明した。例えば、お客様企業を訪問し、複数要素からなる自社製品のPRを行う際に、なかなかひとりでは説明できないので大人数で訪問したが、結局質問に答えらず持ち帰った。あるいは、社内の有識者がアサインできず訪問日程がどんどん遅れていったため、競合会社に案件を奪われたといった失敗例は多い。

 こんなケースに陥らないために、ITを使って離れていながらお客様接点を持つことを可能にするのが「リモート訪問」だ。タブレット端末でビデオ通話を行い、会社にいる有識者とお客様とのコミュニケーションを営業現場でリアルタイムに実現する。必要に応じて資料画面共有機能で追加の情報も提供できる。

「社内で使っているITを、どんどん現場に持ち出してみてはいかがだろうか」と板橋は提案する。つまり、セキュリティという課題を最新のテクノロジーで解決できれば、システムのテイクアウトとチームとのコミュニケーションによってお客さまの意志決定の迅速化が実現するというわけだ。

 また、板橋は、時間と場所の使い方を最大限に組み替えるメリットにも言及する。モバイルワークや在宅勤務によって中抜けの数時間を介護や育児に費やすことを認めることができれば、実に多くの人財が離職せずに仕事を続けられるという。

チームの仕事をタイムラインで記録し情報共有と改善点をレビュー

 さらに、マネジメントのやり方を変えるという点にも注目する。お客さまに必要とされる成長するチームとなるために、1)価値を中心に「お客様の立場」で考える(チームはどのような価値を提供し、それに向けてどのようなアクションになっているのか)、2)サイクルで行動する(1週間で達成すべきことを組み立て、チームコミュニケーションの配分を考える)、3)「残業なし」を前提にアクションを組み立てる(価値を生まない作業は徹底的に排除する)といった方法をアドバイスする。

 板橋は、「チームで仕事をする上で注意すべきことは、業務を属人化しないこと」という。その解決策は、テクノロジーでチームの仕事を記録して見える化することにある。案件やテーマごとにチャットグループを作り、SNSツールのようにタイムラインで記録する。また、その記録を見ながら情報共有と改善点をレビューすることも効果的だ。メールのようにINBOXの中から過去の情報を探したり、フォルダーに振り分けたりする手間もない。

「こうしたチームとしての情報がITによって記録されてくると、それを使った新たなマネジメントが可能になる」という板橋は、ビッグデータなどの情報をチームの成長に向けて活用する方法を模索していくという。

【パネルディスカッション】
働く場面に最適なITツールの研究でよりよい「働き方」を実現する日立グループの提案

モデレーター:
  • 株式会社日立コンサルティング
    マネージャ 吉田 章宏
パネリスト:
  • 株式会社日立製作所
    室長 板橋 正文
  • 株式会社日立システムズ
    ネットワークサービス事業部
    ネットSaaS推進本部
    主管技師長 山野 浩
  • 株式会社日立ソリューションズ
    営業統括本部 マーケティング部
    部長代理 上原 勝也

パネルディスカッションでは、企業の最適なワークスタイルを提案する日立グループの専門家3人が登場し、新しい働き方とは具体的にどのように進めるべきか、また進める上での問題点は何かについて議論を深めた。

テレワーク導入で障害となる3つの課題はITで解決

 始めに、モデレーターを務める吉田が、企業のテレワークに対する状況について紹介した。総務省の「平成25年度通信利用動向調査」によると、テレワークを導入する企業は9%と低く、テレワークを利用する従業者の割合が10%未満の企業は61%にも上ることが分かった。しかし、テレワーク導入によって効果があったとする割合は81%もあるという結果も表れている。

 また、同じ調査で、テレワークを導入する目的については、「定型的業務の効率性(生産性)向上」(45.9%)、「勤務者の移動時間の短縮」(44.0%)、「非常時(地震、新型インフルエンザ等)の事業継続に備えて」(23.3%)などが上位となった一方で、テレワークを導入しない理由として、「テレワークに適した仕事がないから」(71.7%)が圧倒的に高く、「情報漏えいが心配だから」(19.1%)、「導入するメリットがよくわからないから」(18.2%)、「社内のコミュニケーションに支障があるから」(10.4%)という答えも上位を占めた。


株式会社日立コンサルティング
マネージャ 吉田 章宏

 従来のテレワークでは、在宅勤務者向けに作業を切り出したり、外出先では限られた作業しかできないために帰社することが前提となっていたりしたため、仕事に大きな制限があったが、発想を転換していつでもどこでも普段の仕事ができるようにすればテレワークの導入率も高まるだろうと予測する吉田だが、「そのためにはセキュリティ、コミュニケーション、マネジメントという課題を克服しなければならない。これらの課題はITで解決できないだろうか」とパネラーに呼びかける。


株式会社日立製作所
室長 板橋 正文

 個人の作業はオフィスでしかできないのかという課題について、板橋は、「結論はできると申し上げたい」と明言する。日立製作所でも10年前はパソコンの持ち出しによる情報漏えいの危惧から管理強化に傾き、パソコンを持ち出さずオフィスに戻っての働き方に逆戻りした。その状況を打破するため2004年からデスクトップ仮想化によるシンクライアントシステムの開発と導入に取り組み、職場を離れても普段と変わらない仕事環境を実現した。現在では、日立グループを含め約9万人規模でシンクライアントを安定運用している。

 山野は、「シンクライアントシステムを提案する際にデータセンターの運用費用が高い壁になっていたが、それに対するアプローチとしてクラウドで実現する方法を提案している」と話す。シンクライアントはコスト高で大規模導入が前提という常識も、ターミナル型仮想デスクトップサービス(DaaS)などで低コストと柔軟性を両立することで、ライセンス単位の月額サービスによる1ユーザーからでも始められるトライアルを低リスクで実現したという。

テレワークでは相手の状況をすみやかに把握して仕事を進める仕組みが必要

 次に、吉田は、「離れていてもいつものコミュニケーションを取るためにはどうしたらいいのか」という、気軽に雑談レベルでの会話ができにくいというテレワークの課題を問いかける。

 板橋は、「Web会議システムなどによる音声と資料の共有がポイントになる」と指摘する。プレゼン資料を見ながら音声でのリアルタイムな会話が有効であるほか、ちょっとした確認ができるチャット機能なども円滑なコミュニケーションに効果的だという。

 山野は、「相手の顔が見えない中では可能な限り相手の状況をすみやかに把握し、認識しながら仕事を進めることが重要」と述べる。その一例として、「Microsoft Lync」というユニファイドコミュニケーションサービスでは、相手の状況(プレゼンス)をリアルタイムに確認し、各種のコミュニケーション機能によって状況に応じた連絡がマルチデバイスで可能になっている。「当社でもスマホを内線電話化する工夫をして、Microsoft Lyncと連携する形でコストを削減しながら運用している」と山野は自社の実践例を示す。

 また、もっと小規模で運用したいという企業向けには、映像コミュニケーションツールの「VQSコラボ」を提案したいと山野は続ける。音楽圧縮技術を活用したリアルな音質と映像と音声をシンクロする技術によって、フィールドワークでも直接顔を見合わせているようなストレスのない会話が1対1、あるいは1対nで可能になっている。


株式会社日立システムズ
ネットワークサービス事業部
ネットSaaS推進本部
主管技師長 山野 浩

「離れた場所でのコミュニケーションは分かった。では、いつでもコミュニケーションをするにはどうしたらいいのか」という吉田の問いに、山野は、「時間を共有しない場合はメールによるコミュニケーションが主体だったが、昨今のスマートデバイスを使うユーザーにとってメールは無駄が多く避けられがちなため、LINEのようなグループ内のチャットコミュニケーションが好まれる」と答える。

「InCircle」というアプリはそうした手法を取り入れ、素早い意志決定や部門を超えた情報共有を高いセキュリティの上に実現する。山野は、「数年後には、メールは会社の通達や情報共有で利用され、プロジェクトごとのコミュニケーションではチャットで行われる時代が来るのではないか」と予想する。

大規模プロジェクトでは時間と場所を越えたコミュニケーションが重要

 一方で、さらに大きなプロジェクトで利用できるコミュニケーションツールにはどのようなものがあるのだろうか。


株式会社日立ソリューションズ
営業統括本部 マーケティング部
部長代理 上原 勝也

 それについて、上原は、「グローバル規模で国や企業を跨いだプロジェクトを推進する機会が増えたことから、時間と場所を越えたコミュニケーションを行うことの重要性が増している」と話す。そのためのポイントとして、プロジェクトメンバーの入れ替えがあってもこれまでの経緯を引き継ぐことや、プロジェクトで共有しているファイルの一元管理が行えることなどを挙げる。

 「活文MIE」という製品では、メールとファイルサーバに依存しないことをポリシーとして開発され、案件やテーマごとにチャットグループを定義し、タイムラインで文字・ファイルを記録するほか、記録(ナレッジ)を見ながら情報共有と改善点をレビューすることを可能にする。「やりとりが見えるため、アクション状況や背景までも把握できる」と上原は強調する。

 そこで吉田は、「オフィスにいなくても働き方をマネジメントするにはどうしたらいいのか」とアドバイスを求めた。

 山野は、新たなワークスタイルの導入に伴うIT管理者の悩みとして、遠隔地で在宅勤務する社員の通信環境や、マルチデバイスの使い方サポート、端末のライフサイクル管理などがあるとした上で、「コールセンターやオンサイトの運用管理サポートなどをアウトソーシングするBPOサービスで利用者の業務を止めない仕組みも必要」と推奨する。

 また、「人材のマネジメントが大きなポイントになる」と指摘する上原は、自社の実体験と就業管理システム「リシテア」の機能を例に、フレキシブルワークの推進における「人財(キャリア)マネジメント」をどう設定すべきかについて3つの目的を示す。
1つ目はコンプライアンス。人事・就業管理のコンプライアンス要件を満たすためには、労働基準法、厚労省からの通達といった法令対応のほか、多様な勤務形態、社内規則改正および業務運用ルールの変更などの社内対応を確実に実行することが求められる。
2つ目は人財管理業務の効率向上。勤務実態を報告する側と、報告された勤務実態を管理する側の作業を軽減するため、画面/ファイル入力や自動集計による関連作業の廃止などが有効となる。
3つ目は現場の生産性向上。要員の作業従事率把握やプロジェクトの工程別集計での生産性把握により、改善点を抽出し対策の迅速化を実現する。

働き方を良くしたいならば「ラボ室長が行く」を検索

「ならば今後、日立グループに新しい働き方の支援を求めたい場合はどうすればいいのか」という吉田からの問いに、板橋は、「さまざまなツールが世の中に溢れ、なかなか使いこなせないという悩みはお客様からも多く聞かれる。そのための改善提案活動を進める中で、『働き方を良くする!』ラボ活動を日立グループの中で組織横断的に推進している」と紹介する。

 これは「クライアント統合ソリューションビジネス開発ラボ」のことで、働く場面に最適なITツールの研究を通じてよりよい「働き方」を実現する活動を提案するもの。
 最後に、板橋は「ぜひ、『ラボ室長が行く』で検索して問い合わせいただきたい」と語り、今回のパネルディスカッションは終了した。

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