第25回 生産性向上のためには「業務効率化」と「チーム力強化」の二軸から!|Prowise Business Forum in KANSAI|株式会社日立ソリューションズ

株式会社 日立ソリューションズ

Prowise Business Forum in KANSAI 第25回

生産性向上のためには「業務効率化」と「チーム力強化」の二軸から!
~RPAやAI技術の導入と、組織内のコミュニケーション強化~

 2018年7月24日(火)に「Prowise Business Forum in KANSAI 第25回」が大阪市北区のホテルで開催され、大盛況のうちに終了しました。
 冒頭の基調講演では、組織人事コンサルタントである株式会社サーバントコーチの世古 詞一氏にご登壇いただき、今話題の「1on1ミーティング」のメリットと具体的な実施方法についてご講演いただきました。
 中盤に用意された日立ソリューションズセッションでは、RPA(Robotic Process Automation)の自社導入事例を基にRPAの製品選定や課題解決のポイントを紹介するとともに、監視カメラ映像とディープラーニング技術を組み合わせた活用事例についてご紹介しました。
 また、今回は特別講演に、日立ソリューションズ「チームAURORA」スキー部選手の新田 佳浩が登場し、障がい者スポーツ選手としてのこれまでの取り組みと、目標を価値化して結果につなげるチーム力について語りました。
以下より、各講演の概要レポートをご覧ください。

開催概要

日時 2018年7月24日(火) 14:00~17:20 (13:30 受付開始)
会場 〒530-8310 大阪府大阪市北区芝田1-1-35
大阪新阪急ホテル 2階 花の間
主催 株式会社日立ソリューションズ

【基調講演】
生産性UPのための「上司と部下の1on1コミュニケーション」

世古 詞一 氏
株式会社サーバントコーチ
代表取締役 世古 詞一 氏
【講師プロフィール】

1973年生まれ。千葉県出身。組織人事コンサルタント。早稲田大学政治経済学部卒。Great Place to Work®による「働きがいのある会社」2015、2016、2017中規模部門第一位の(株)VOYAGE GROUPの創業期から参画。営業本部長、人事本部長、子会社役員を務めて2008年独立。コーチング、エニアグラム、NLP、MBTI、EQ、ポジティブ心理学など、10以上の心理メソッドのマスタリー。クライアントは、一部上場企業から五輪・プロ野球選手など一流アスリートまでと幅広く、個人の意識変革から組織全体の改革までのサポートを行っている。著書『シリコンバレー式 最強の育て方 ―人材マネジメントの新しい常識 1on1ミーティング―』かんき出版(2017年9月)

 基調講演では、生産性第一主義の裏で問題となっているさまざまな課題を解決するための手法として、今注目されている「1on1ミーティング」の必要性を理解し、そのために必要なスキルや進め方について解説した。

大企業が1on1ミーティングに注目する理由は組織の関係性の構築にあった

 1on1ミーティングとは、上司と部下が高頻度に1対1の対話を行い、日々の業務での成果や失敗について自由に話し合いながら、上司が部下の考え方や今の状態を把握し、部下に気づきを促すことで本人の能力を引き出すことを目的としたミーティングのこと。「具体的には、最低でも月に1回、できれば月に2回ほどの頻度で、ベースは30分間、必ず1対1で対話を行うことを推奨している」と世古氏は解説する。

 1on1ミーティングは多くの大企業が取り入れているという。その理由について、世古氏は関係性の構築だと説明する。結果を出し続けることが求められている現代で、結果を変えるためには行動の質を変えるとともに、組織の思考の質を変えなければならず、同時に関係性の質も変えていく必要を感じているからだという。

 成果ばかり求めると、上司から部下への指示も短期的に成果が出るものに終始し、成果を出せない部下は自己防衛に走ったり、受け身に徹したりするなど、創造性は働かなくなり、自発性も失われる。しかし、関係性の質を高めていれば、アイデアや気付きが増え、創造性が高まり、自発性も増えていく。

 「重要なことは、仮に結果や業績が悪くなった場合でも、関係性の質を高めていれば、上司と部下が問題解決に一体感をもって取り組むことができ、その関係性をより高めていきたいと考えるようになる」と世古氏はいう。

 一方で、この数年で関係性の質を高めるためのコミュニケーションが減ってきていることが大きな問題だと指摘する。昔は、喫煙タイムや残業時間中に雑談したり、飲みニュケーションが頻繁に行われていたりと、自然発生的な“一歩踏み込んだコミュニケーション”が存在していたが、最近はそうしたコミュニケーションが成り立たなくなり、短時間での仕事の話や情報交換に終始してしまっているというのだ。

1on1ミーティングの最大のメリットは人材マネジメントコストの軽減

 また、現在はワークライフバランスやダイバーシティの実現のほか、働き方改革やリモートワークを推進する中で、会社側が社員のプライベートな情報も把握する必要性に迫られていることも、1on1ミーティングの重要性を高めている要因だという。

 さらに、グローバル企業では目標が半年~1年で陳腐化するため、年次評価が廃止され、1on1ミーティングのような形で毎月レビューを行って、評価やフィードバックのスピードを加速させていくことも必要となっている。

 「コミュニケーションの不足は、優秀な人の突然の退職(ビックリ退職)や、メンタルに支障が出る人の増加、評価に対する不満など、人や組織に関する諸問題を引き起こしています。そのため、社員ときちんと対話をしながら、どのようなことを考えているのか、どんな強みがあるのかを認識した上で人材を活かすことが重要となっている」と世古氏は述べる。

 1on1ミーティングを実施することで、部下のモチベーションアップや、目標達成率の向上、問題の早期発見、タイムリーな配置転換による飽きの防止などのほか、話の要件の伝わりやすさや、会社へのロイヤリティ向上、退職率の抑制など多くのメリットが期待できるという。中でも最大のメリットは、人材マネジメントコストの軽減だと世古氏は強調する。

「部下から退職願いが提出されたり、メンタルヘルスが発覚したりと問題が露呈してから後手に対策を打つよりも、もっと前に先手で対策を行うことができれば、コストやリスクは大幅に抑制できるのです。」

部下の話を傾聴することで部下のエネルギーが高まることが重要

 では、1on1ミーティングはどのように実施すればいいのか。世古氏は、雑談や相談から始めることで信頼関係を深め、対話の質も高まっていくという。雑談によって部下の好きなものや興味があることなどの知識がアップデートするだけでも価値があり、それが自覚や可視化につながれば大きな成果となるというわけだ。

 「1on1ミーティングで最も大切なことは、部下のための時間であることを忘れないこと。上司が一方的に助言して満足するのではなく、部下の話を傾聴することで部下側のエネルギーが高まることが重要です。会話をしてよかったなと思えることがポイントだ」と世古氏は指摘する。

 上司の側も、部下の評価をフィードバックする力のほか、共感する力、関心を持つ力、承認する力(認める・ほめる)、傾聴する力、質問する力などを備えることが必要だという。また、部下は上司に対等な関係で話を聞いてもらえると安心し、もっと話したいと感じるため、1on1ミーティングでは“上から目線”ではなく、お互いに楽しく情報交換するような“横から目線”である意識が重要だという。

 最後に、世古氏は、「最近は生産性向上のためにAIやRPAの活用が注目されていますが、同時にウエットなFace to Faceの対話を活性化させていくことも、人を育てる上で非常に重要だと感じています。かっこつけずに、正しさよりも楽しさを前提としながら、1on1ミーティングを始めてみてはいかがでしょうか」と提案し、基調講演のまとめとした。

【日立ソリューションズセッション1】
RPA全社導入を妨げる「8つの課題」とは
~日立ソリューションズの全社導入事例から成功の秘訣を探る~

松本 匡孝

株式会社日立ソリューションズ
営業企画本部 サービス・ソリューション推進部
部長代理 松本 匡孝

 日立ソリューションズセッション1では、RPA(Robotic Process Automation)の自社導入を実現した経緯を基に、RPAの製品選定や課題解決のポイントなどを紹介した。

RPA全社導入を妨げる「8つの課題」

 2017年頃から急速に導入が進むRPA。その注目の理由について松本は、「労働人口の減少に伴う人手不足と政府が主導する過剰労働規制の強化が、業務の自動化に対する企業の期待を高めたほか、近年相次いだ不正会計や製造データ改竄などの不祥事も、人を介在させない業務自動化を実現できるRPAに目を向かわせる要因のひとつとなっているようです」と指摘する。

 人事業務を筆頭に、サプライチェーン、経理・財務、顧客サービス関連、IT処理作業などさまざまな業務の自動化に適用可能なRPAだが、全社導入においては次の8つの課題があるという。1)野良ロボット/闇ロボットの発生。2)ロボット開発の困難さ。3)期待外れな活性化。4)自動化できない業務の存在。5)ROI(投資収益率)算出の困難さ。6)全社での管理・運用の難しさ。7)IT部門によるロボット開発の負荷増大。8)セキュリティの維持など。

 中でも、野良ロボット/闇ロボットの問題とは、ユーザー部門が自由にロボットを導入・開発することで、IT部門の認知外で多様なロボットが社内に日々増殖した結果、管理不能となり、システム・ネットワークへの負荷増大や、不正な情報の登録・更新・削除、情報の漏えいなどの発生につながるリスクを意味する。

国内未展開だった海外ビッグ3のひとつ、米Automation Anywhereに注目

 そこで松本は、日立ソリューションズのRPA活用・運用事例をモデルケースに、上記の8つの課題をどのようにクリアしたかについて説明した。

 日立ソリューションズでは、2016年7月頃からRPAの検討を開始。当時は少数の国産RPA製品と、国内展開済みの海外のマイナーなRPAは存在していたものの、海外ビッグ3といわれた大手RPA製品はまだ国内未展開の状況だったという。

 製品選定におけるチェックポイントとしては、a)開発のしやすさ(開発生産性、メンテナンス性)、b)対応システムの種類の豊富さ(自動化対応システム、自動化アーキテクチャ)、c)管理機能の充実、d)その他(導入実績、サポート体制、製品戦略、ライセンス体系など)を重視した。

 それらを条件に候補として挙げたのが、海外ビッグ3ベンダーのひとつ、米Automation Anywhere, Inc.の「Automation Anywhere Enterprise」(以下、Automation Anywhere)だった。一見簡便だがメンテナンスが難しいフローチャート型の開発手法ではなく、プログラミングのように開発管理が可能なスクリプト型を採用し、HTML構文解析方式やオブジェクト認識方式など多種のコマンドによってシステムを自動化できるほか、稼働・空き状況表示やROIのグラフィカル表示などの管理機能も充実していた。

 また、グローバルでトップシェアを誇り、1,000社以上の導入実績、60万を超える稼働実績も条件としては十分だった。この時点で、前述の8つの課題のうち、開発の難しさ、業務の自動化、ROI算出、セキュリティの4つについてはクリアできたことから、Automation Anywhereの採用を決定した。

RPAの導入により2,300時間/月の削減効果を創出

 「しかし、本当のチャレンジは、導入後の全社展開に向けて、専門組織の設置やエンジニアの育成、ルール設計、情報整備などを実施することでした」と松本は打ち明ける。そのため、1)RPAの周知と対象業務の選定、2)ルールの制定と標準化、3)ロボット開発、4)部品・ナレッジ共有の4つの施策を進めていったという。

 まず、専門組織のRPAセンターを作り、ソフトウェアロボット開発ガイドラインを策定して、ソフトウェアロボットを正しく動作させるために必要な項目や禁止事項を明確にした。また、実際の業務を例にロボット化してデモを実施したほか、業務をヒアリングしてロボット化する対象業務を抽出し、RPAセンターにて受託開発を実施。同時に、現場での勉強会の実施や現場主導でのロボット開発をトライさせることで、現場にRPAを定着させる工夫も行っていったという。

 これらの活動により、8つの課題の残りである、野良ロボットの発生抑止、現場への定着、全社での管理・運用、IT部門の負荷軽減が実現し、全て解決できたという。

 Automation Anywhereの導入後は、健康管理用の勤休データセンターの作成作業が4時間→10分になり約95%削減し、業務取りまとめ表の作成作業は13時間→数分に約95%削減するなど、業務効率化と業務品質向上によって2,300時間/月の削減効果を創出し、40~75%のコスト削減(残業時間の削減)が可能になったという。

 最後に松本は、RPA導入のアドバイスとして、「最初はPoC(概念実証)から始め、部門導入でスモールスタートし、最終的には全社展開で体制を整備するというプロセスを踏むことをお勧めします」と述べ、セッションのまとめとした。

【日立ソリューションズセッション2】
画像認識AIによる業務改善の最新事例
~Deep Learning 技術を活用した検査/判定/監視作業のオートメーション~

岡本 光平

株式会社日立ソリューションズ
モビリティソリューション本部 オートモティブソリューション部
主任技師 岡本 光平

 日立ソリューションズセッション2では、当社がめざすAIソリューションの基本コンセプトや、さまざまな業種での画像認識AIを活用した導入事例を中心に紹介した。

画像認識AI技術とお客様から提供される現場画像を組み合わせた業務改善提案

 1960年代、1980年代の2度のブームを経て、3回目のブームといわれる現在のAI(人工知能)は、機械学習(入力されたデータから統計的に識別や予測を実現する機能)やディープラーニング(脳神経回路をモデルとしたアルゴリズムを多層構造化したディープニューラルネットワークによる機械学習)によって実用化が進展し、ビッグデータへの対応とともに、車の自動運転や事務処理作業の代行などで活用範囲が拡大していると岡本は語る。

 ただし、AIは行為に対して責任を取れないため、人間の行動に取って代わるまでには至らず、特に主要業務では最終的に人間の判断が必要とされます」

 岡本は、AIの種類は大きく3つに分けられると解説する。1つ目は質問応答型。人間の質問(テキスト)を理解し、その答えを大量の文書データ(マニュアルやレシピなど)の中から探索して回答するタイプ。2つ目は運転判断型。大量の数値データの中から規則性を見つけることでデータを自動で区分けし、人の勘に依存せずに新しい仮説を導くタイプ。そして3つ目がパターン認識型。画像や波形などのパターンから規則性を見出し、主にYes/Noで答えを返すタイプだ。これがディープラーニングによる画像認識/音声認識の用途に利用されている。

 「日立ソリューションズでは現在、いくつか存在するディープラーニングの主要な技術のうち、“クラス分類”と“物体認識”の技術を活用して業務課題を解決しようと試みています」と岡本は説明する。

 日立ソリューションズが提案するソリューションの基本コンセプトは、目視でチェックしている作業を自動化すること。具体的には、カメラで撮影して画像を判定するというものだ。

 「当社はシステムインテグレータであるため、デジタルカメラ開発における自動車の物体認識機能など組込みソフト開発で培った技術のほか、ITシステム構築やビッグデータ解析などで蓄積した機械学習技術の知見があり、それらとお客様から提供される現場の画像データとを組み合わせて、品質改善や生産性向上などの業務課題を解決する提案をしています」と岡本は語る。

監視カメラ映像+ディープラーニング技術+判定プログラムで危険行動を監視

 その具体例として岡本は、日立ソリューションズが手掛けた最新のAI適応事例を5つ紹介した。

 1)入出庫業務改善事例:入出庫の際に段ボール表面に貼られたラベルを、全数目視で確認していた企業は、カメラによるラベル撮影とAIによる物体認識技術を活用することで、単純作業の工数低減やチェック漏れの抑止が可能になるという。

 2)危険行動監視事例:業務における危険行動(フォークリフトと作業員の異常接近など)の監視が必要と考えていた企業では、監視カメラによる撮影と、ディープラーニングによるオブジェクト検知技術+判定プログラムを組み合わせ、監視の自動化を可能にすることで、危険行動に警告を与えることで事故の予防、作業品質の向上、監視員のチェック工数の削減などが可能となるという。

 3)設備異常監視事例:設備の異常監視(ブレーカーのON/OFF状態確認)の自動化をめざした企業では、ネットワークカメラやスマートフォンのカメラによる設備の撮影と、ディープラーニングのクラス分類技術+判定プログラムを組み合わせることで、異常状態の早期発見と、設備の早期正常化(生産性向上)を両立し、実現するもの。

 4)帳票業務改善事例:帳票仕分け作業後の細かな分類を人手で行っていた企業では、帳票種別を学習したAIのクラス分類技術と、画像補正プログラムを連携させることで、数百~数千種類もある帳票のスキャンデータから、エッジ強調・台形補正・傾き補正などの細かな修正も加えて各種フォルダーへの自動仕分けを実施。生産性向上を実現する。

 5)個人情報保護事例:個人情報に該当するデータのマスキング作業を効率化したいと考えた企業では、物体検知技術(人を検知するAI)と画像処理技術を組み合わせて、個人が写っている可能性のある画像の抽出や、個人が特定できる情報のマスキング処理などを自動化。コンプライアンスに早期に対応したという。

 最後に岡本は、「他にも顧客の課題に対する提案/活用の事例は豊富にあり、利用可能な技術や現段階での限界などについてお話することができます。ご興味がありましたらぜひご連絡ください」と呼びかけ、セッションを終了した。

【特別講演】
「勝つためのチーム力」

新田 佳浩

株式会社日立ソリューションズ
チームAURORA
スキー部選手 新田 佳浩

 特別講演では、日立ソリューションズグループの障がい者スキー部と車いす陸上競技部で構成される「チームAURORA(アウローラ)」に所属し、スキー部 クロスカントリースキー選手である新田 佳浩が登場。選手・スタッフがチームとして協力し合い、いかに成果を挙げてきたのかを、自身の体験談を交えて紹介した。

自分が失ったものを常に考えることで記録は伸びた

 2018年3月に韓国・平昌で開催されたパラリンピックにおいて、男子クロスカントリースキー・クラシカルのミドル(10km)で、自身の8年ぶりとなる金メダルを獲得したほか、男子クラシカルスプリント(1.5km)の銀メダルや、混合10kmリレーのメンバーとしても4位を獲得するなど、昨シーズン大活躍を見せた新田。持参した金・銀のメダルを会場の参加者に自由に触れてもらいながら、チームAURORAでの活動について語り始めた。

 「チームAURORA が発足した2004年11月当時は、企業における障がい者スポーツはまだ珍しく、支援も得られにくい中で、日立ソリューションズで競技活動を行えることは幸運でした。競技に集中できる環境さえあれば、必ず世界のトップに立てると信じ、日々努力してきました。」

 岡山県出身の新田は、3歳の時に祖父が運転するコンバインに巻き込まれて左前腕を失った。だが、持ち前のチャレンジ精神で4歳からスキーに親しみ、小学3年生の時にクロスカントリースキーを始めて、中学2年生時には岡山県代表として全国大会に出場するまでに成長。その当時、恩師である監督に推奨されて世界の頂点をめざすことになった。「祖父に金メダルをかけてあげたいという思いを胸に、一貫してクロスカントリースキーをやってきました」と新田は思いを述べる。

 その夢は、ついに2010年のバンクーバー大会で叶うことになる。それまでの新田は、世界記録という基準のないクロスカントリースキー競技を続ける意義について、多少の迷いがあったという。「何を自分の目標にすればいいのか、当初は分からなかったのですが、ある時から目標の数値を価値化することにしました」と説明する。

 バンクーバー大会の前の年に行われたプレ大会では、スプリットタイムは2分52秒だったが、トップタイムに追いつくには3%のタイムアップが必要だった。何をするべきなのか、新田は焦っていたという。「心技体のうち、自分には技術はある。足りないものは、海外のトップ選手に負けないパワーと精神力だと考えました。そこで、2008年からウエイトトレーニングを本格的に開始したのです。」

 当初は1分間に64回だった腹筋反復が、1年後には78回まで記録が伸び、世界トップクラスのレベルになった。「自分が失った左前腕を補うものは何かを常に考えるようになっていたからこそ、記録が伸びたのだと思います」と新田は話す。

 

スポーツでは感性とコミュニケーション力が重要

 しかし、その後のソチ大会では、チームの総力を挙げたチャレンジにもかかわらず、メダル獲得まで一歩及ばなかった。コースコンディションの変化に、選択したワックスが合わなかったことが原因だった。

 「日本では天然の雪を前提に競技を行いますが、世界では人工降雪機でコースを作り、塩をまいて固めることが常識だと知りました。そこで、ワックスやストラクチャー(微細の溝を滑走面に施して水分をコントロールするための加工)はもちろん、人工降雪機による雪質の特性や、地形ごとの風向きなどを複合的に分析し、トレーニングに取り入れるようにしました」と新田は説明する。

 また、新田は左手側を補うためにどうしてもクセが出てしまう。それを無くすために、国立スポーツ科学センターの協力を得て、3Dプリンターで1mmのプレートを作り、それをスキーに取り付けることで板を蹴る力と角度を変化させた。

 「スポーツにおいては、感性が非常に重要であるとともに、それを回りのチームのメンバーに正確に伝えるためのコミュニケーション力も極めて大切だと感じました。」

物事を少し変えればチームも個人も変わることができる

 クロスカントリースキーという競技は、チーム力と戦略が非常に重要だと新田はいう。滑るためのワックスと、あえて着雪させるワックスを組み合わせ、雪面温度が1℃変化するごとにワックスの硬度を調整するほど繊細なチューニングが求められる。そこで日本チームは、気象庁に協力を依頼してピンポイントでの気温予想を提供してもらうこととなった。平昌の競技コースは1日に-15℃~15℃と大きく変動し、決勝のスタートである午前10時からは、1時間で7度も気温が上昇すると気象庁は予測した。

 その時、新田は賭けに出た。「前半は遅くなっても、勝負の後半に合わせて柔らかいワックス選択しました」。スタッフは反対したが、新田は自分の決断を押し通したという。しかし、あろうことか、スタート直後の50mで新田は転倒してしまう。

 「誰もが、新田はこれで終わったと思ったでしょう(笑)。けれども、まだ十分に挽回するチャンスはありました。これまでの4年間の自分の努力と、さまざまな人たちからの支援を考えた時に、残り10分の全てを使い、全力を出し切る勇気が湧いてきたのです」

 新田は肉体と精神の限界の中、終盤にも関わらずラップタイムを短縮させるという奇跡的な追い上げを見せ、トップでゴールラインを越えた。 「会社やチームスタッフ、そして家族のサポートがあったからこそ、自分を信じて金メダルを獲ることができました。重要なことは、長期的な取り組みと、変化を恐れないこと、そしてコミュニケーションが勝つためのチーム力につながったと感じています」と新田は振り返る。

 そして最後に、「私は物事を少し変えればチームも個人も変わることができると学び、競技生活を続けています。それは社会や世の中も同じでしょう。これからも、障がい者スポーツに取り組む選手にぜひ注目してください」と語りかけ、特別講演を終了した。

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