講演レポート:第13回 実践「機械学習」!将来予測を取り入れ新次元のビジネスへ|Prowise Business Forum|株式会社日立ソリューションズ
※本講演レポートは、「ビジネス+IT」2016年11月掲載の編集記事を転載したものです。
2045年、人工知能(AI)が人間の能力を超える技術的特異点「シンギュラリティ」が到来するといわれている。このような「強いAI」の登場はまだまだ先の話だが、数学的手法や論理的推論の延長で生まれた現段階のAIによって、サービス・知識労働の革新はすでに起こりつつある。こうした中で、人間とAIに求められる役割とは何か。そして両者は、どのようにすれば共存していけるのか。2016年9月7日に開催された日立ソリューションズ主催イベント「Prowise Business Forum in NAGOYA 第13回」では、人工知能のトレンドと日立グループにおけるAIの取り組みついて、日立製作所が解説。さらに、基調講演では、テクノロジーが進化しても普遍的に変わらない「対人関係」の課題について、アドラー心理学者で「嫌われる勇気」著者の岸見一郎 氏が解決のヒントを指南した。
日立ソリューションズからは、IoTと機械学習によるダウンタイム発生やメンテナンスコスト低減を実現した建設機械メーカーの事例、IoTとデータ分析による自動化といった「スマートなものづくり」をめざす取り組みが紹介された。
日時 | 2016年9月7日(水) 14:00~17:10 (13:30 受付開始) |
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会場 |
〒451-6016 愛知県名古屋市西区牛島町6-1 名古屋ルーセントタワー 16階 |
主催 | 株式会社日立ソリューションズ |
基調講演に登壇した日立製作所 高以良仁 氏は、「これからの時代に大きく変わるものがある」と語った。
従来、変化の少ない定型・単純作業を対象に、専門家が立案した仮説をもとにシステムは構築されてきた。そこではデータ収集のコストは高価で、それも狭い範囲に限られてきた。
しかし今後は、頻繁に変化し得るサービス・知識労働もシステム化の対象範囲に入り、AIが仮説立案を支援する。センサーやデータ収集装置の発達によりIoTが進み、ビッグデータが安価に収集できるというのだ。
AIが人間の能力を超えるというシンギュラリティの到来はまだ少し先になりそうだが、現段階でも、サービス・知識労働の革新はすでに始まりつつあるという。
自らが製造業であり、社会インフラの構築経験も豊富な同社では、IoT/ビッグデータソリューションを垂直統合で課題を解決し、全体最適を支援するしくみととらえている。
注力する分野のひとつが、現場からセンサーデータを収集してビッグデータ利活用基盤へ提供し、そこで得られた仮説を現場のオペレーションに適用するセンシング/アクチュエーション技術だ。
そして、仮説立案そのものにもAIを積極的に活用しようとしている。日立では、AIを学習、推論、判断といった人間の脳が行う知的な作業をコンピュータで実現したソフトウェアやシステムと定義している。めざすところは、多様で変化する状況にビジネスを自動適応させるシステムの提供だ。
同社の人工知能研究開発の歴史は長く、1960年代までさかのぼるという。その中でも、今回この講演で時間を割いて解説したのは、データマイニング自動化を実現する「Hitachi AI Technology/H」と、コンピュータの言語知識を活用した「ディベート型人工知能」だ。
「Hitachi AI Technology/H」は、大量かつ多様なデータから、大量の仮説を生成し検証できることを大きな特長とするAIソリューションである。同社の定義したAIレベルによると、これによってレベル2にランクされるジャッジ(判断)の自動化が可能になるという。
例えば、あるホームセンターでは、流通専門家と対決する形で「Hitachi AI Technology/H」が顧客単価向上施策を検討した。
その結果、流通専門家は「注力商品を定め、効果的にアピールすれば顧客単価は向上する」、このサービスは「店内のある地点に店員が滞在することと顧客単価に相関がある」と仮説を立てた。ホームセンターが両施策を実行に移したところ、前者では店舗の売り上げや顧客の行動に影響が見られなかったのに対して、後者は顧客単価が15%向上したという。
一方の「ディベート型人工知能」というのは、大量のテキストデータから生成した知識ベースに基づき、人間との間で論理的な対話を成立させるAIである。例えば「わが社は東南アジア市場に参入すべきか」という問いをディベート型人工知能に発したとする。するとAIは自分の中の「知識」から判断を下す。「われわれは参入すべきです。理由は3つあります。1つは…」といった具合に回答してくれるというのだ。
高以良氏はさらに、「Hitachi AI Technology/H」を応用した「組織活性化支援サービス」という取り組みについても紹介した。
これは、企業の社員にウェアラブルセンサーを身に着けてもらって組織活性度を計測・可視化するとともに、取得したセンサーデータを「Hitachi AI Technology/H」に入力して、組織を活性化させる施策を提案するというもの。具体的には、身体活動状態の持続時間を測り、その多様性がどうかを見る。
この身体活動持続時間の分布の多様性を数値化したものを組織活性度と定義しており、実際、コミュニケーションのある集団単位で算出すると、幸福度や業績との間に相関関係が見られるらしい。
分析の結果、部長に対しては「部下と短い会話を頻繁に(1日8回以上)行う」、課長に対しては「活発なディスカッションをする」など職責に応じたアドバイスが可能。すでに日立のみならず、三菱東京UFJ銀行や日本航空でサービスが利用された実績があるという。頻繁なコミュニケーションを取ることは、冒頭で岸見氏が説いた「共同課題」を達成する上でも重要といえそうだ。
同氏は「ビジネスの業績向上につながる要素は、コンピュータに見つけさせる時代。『Hitachi AI Technology/H』でビジネスを進化させる新たな価値を手に入れてください」と出席者に訴求して講演を締めくくった。
IoT技術の進展により、製造業は様々な設備からデータが取得可能になってきた。ただ、一口に製造業といっても、設計・開発、生産、販売、運用・保守と様々な工程がある。「2016年版ものづくり白書」によれば、IoTの取り組みを工程別で見たとき、製造業の企業規模に関わらず、運用・保守工程の取り組みはまだ手つかずの状態だという。
「逆に言えば、今後のIoT活用が最も見込まれる分野だ」と語るのは、日立ソリューションズ ビジネス・アプリケーション本部 ビッグデータ・ソリューション部 技師 矢田智揮だ。
「この分野にAIや機械学習を適用すると、機器の稼働状況に応じた寿命予測や不良が発生した製品の品質の要因分析などが可能になります。例えば、生産ラインで様々な製造条件やセンサーデータを大量に取得してAIや機械学習の技術を活用すると、歩留まりが低下した場合に何が影響したかを分析でき、品質改善に繋げる事ができます」(矢田)
予防保全、予知保全とは一体どういうものか。これまでは、保守といえば事後保全や予防保全だった。事後保全の場合、壊れてから手作業・人力で対処するため、修理が完了するまでのダウンタイムによる損失が大きい。
予防保全というのは、時間を基準にした保全で、定期的に部品交換・修繕を行うものだ。この場合ダウンタイムは発生しにくいが、中には壊れていない部品もあるため、保全コストが高くなる。
これらより優れているのが予知保全で、状況を基準にした保全が可能になる。センサーデータと機械学習を組み合わせることで、壊れる予兆を取得したデータから検知して故障を未然に防止したり、品質/性能要因分析を行ったりして品質改善できるのだ。
生産計画通りに生産が進まない、納期遅れが発生してしまう、十分に故障予防できないといった課題に直面している場合は、故障予兆検知によって解決できる例が多い。また、不良品の発生原因を人手で調査するのにコストがかかっている、量産に向けた製造条件を確定するために試作や試験に時間がかかっているという場合は、品質/性能要因分析が効果的だという。
これらの業務は従来、ベテラン技術者が勘と経験で対処していたが、近年そうした「伝承」がうまくいかなくなっている。こうした中で、データ活用による予知保全という考え方は、これを代替する形で製造業の間で徐々に浸透しつつあるという。
実際に矢田が関わった案件の事例もある。例えば、世界中にショベルカーを販売している建設機械メーカーでは、建設機械のセンサーデータ、メンテナンスデータを収集。その中から燃料の温度に着目し、正常稼働時のパターンを機械学習することによって異常検知に成功した。これによってダウンタイム発生低減や部品交換による高額なメンテナンスコスト低減が実現された。
日立では、この予知保全プロジェクトを3段階のフェーズで推進する。まずはコンサルフェーズだ。最初はスモールスタートで十分で、どの工程や設備でプロジェクトを実施するか、そこでのKPIをどう定めるかを検討する。実施を決断したら、データ分析に入る。データを整理して、分析コンセプトを検討し、モデルを構築するとともにそれを評価する。最後のフェーズは仕組みのシステム化で、分析エンジンやデータ収集基盤などの導入を検討するという。
また同社では、BI/DHWシステム構築で培ってきた技術スキルと幅広い製品知識を組み合わせ、BIコンシェルジェサービスというビジネスインテリジェンス全方位にわたる製品・サービス提供を行っている。矢田は「IoTと機械学習を活用すれば、故障が発生する前に対応可能な予知保全が実現します。これは設備や機械のメンテナンスコスト低減など、大きなビジネス価値をもたらします」と、運用・保守工程でのIoT、AI活用を訴求していた。
続いて登壇したのは、日立ソリューションズ ビジネス・アプリケーション本部 担当部長 奥沢浩 である。奥沢は「これまでのデータ分析ソリューションは難しすぎました」と語りつつ、データ分析の課題を次のように示した。
現場から膨大のデータが生成されるものの、その多くは未整理で、専門分析者が高度な統計知識を駆使して作り上げた報告書は意思決定者に理解されない。そのため、意思決定者はあいまいな指示を業務担当者に下すことになる。業務担当者もITや統計学のプロではないため、専門分析者とは話がかみ合わない。結局、業務改善は現場任せになる堂々めぐりだというのだ。
これに対する解決策は2つある。1つは業務ノウハウのある専門分析者と統計学にも強い業務担当者を採用して、的確な報告を上げて明確な判断が下せる環境を構築することだ。しかし、そのような人材獲得は難しく、獲得できた場合にも多大なコストがかかってしまう。
もう1つの案が、ITや統計学のプロではない業務担当者でも自分で分析可能な環境を整えることだ。これを実現するのが、新しいデータマイニングツールSAP Predictive Analyticsであるという。
「この製品は、データを分析するためのモデル構築と分析作業を自動化することができます。これにより、従来は専門分析者が行っていたデータ分析を現場の業務担当者が簡単に行えるようになります。家電に例えれば、洗濯物を入れると洗濯、乾燥までしてくれる全自動洗濯機です」(奥沢)
SAP Predictive Analyticsは、データ変数の選択、加工、データモデルの構築・検証など、モデル化処理を全自動化するとともに、モデル作成/スコアリングを短時間で処理できて分析のスピード化も図れるなど多くの特長を持つ。
例えば、とあるプリンタの保守会社で多数のプリンタが稼働している顧客において故障が頻発しているとしよう。何が原因なのかが不明な場合でも、全てのプリンタのセンサーデータを集めて、SAP Predictive Analyticsに投入すると、「センサーBの温度上昇が、最も故障に影響している」というように返答してくれる。
さらに、この分析結果を機種単位で掘り下げると、特定の製品で故障発生確率が高いことをも示唆してくれる。これに基づいて、保守点検の強化や、機種の変更を提案することにつなげて行くことができるのだ。
SAP Predictive Analyticsは分析結果をJavaのソースコードとしてエクスポートすることも可能で、これを業務システムに組み込み、プログラムジェネレータとして活用することもできるという。
「今までのデータ分析ツールに比べてはるかにやさしく、誰でも簡単に操作ができるという点で、SAP Predictive Analyticsは大きな違いがあります。業務担当者の方々に、まず『気づき』を届けるツールとして十分に活躍するでしょう」
こう語った奥沢は、データ分析は業務担当者が自ら現実的で、そこに自動化という利点を加えることで、業務/品質改善サイクルの大幅なスピードアップ可能と強調して講演を締めくくった。
1956年、京都生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学(西洋古代哲学史専攻)。専門の哲学に並行して、心理学のフロイト、ユングと並ぶアドラー心理学の第一人者。京都教育大学教育学部、甲南大学文学部、奈良女子大学文学部非常勤講師などを経て、現在、京都聖カタリナ高等学校看護専攻科(心理学)非常勤講師。日本アドラー心理学会認定カウンセラー、日本アドラー心理学会顧問。著書に『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』(古賀史健と共著、ダイヤモンド社)、『生きづらさからの脱却 アドラーに学ぶ』(筑摩書房)、『アドラー 人生を生き抜く心理学』(NHK出版)、訳書にアドラー『人生の意味の心理学』(アルテ)、『プラトン ティマイオス・クリティアス』(白澤社)など多数。
あらゆる組織に属する人間にとって、コミュニケーションの悩みはつきものだ。オーストリアの精神科医で心理学者のアルフレッド・アドラーは、「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」と断言している。
日立ソリューションズ主催による「Prowise Business Forum in NAGOYA 第13回」の特別講演に登壇したのは、「アドラー心理学」の第一人者で、累計発行部数が135万部を超えた『嫌われる勇気―自己啓発の源流「アドラー」の教え』の著者である岸見一郎 氏だ。同氏は、対人関係をよくするためには、何よりも「課題の分離」が重要であると語った。
課題の分離とは、自分の課題と他者の課題を分離し、他者の課題に踏み込まないことだ。例えば、勉強しない子どもに向かって「勉強しなさい」と小言を言う。岸見氏は「これは子どもの課題に親が土足で踏み込むこと。勉強しないということで降りかかる結末を引き受けるのは子どもで、言われてうれしいわけはない。それによって対人関係が悪化するのは当然」と指摘する。
ただ、ビジネスにおいては、業績が上がらない部下に対して上司が介入しないわけにはいかない。業績を上げるという部下の課題は、上司や組織にも関係する「共同の課題」だからである。
しかし、こうした共同の課題に対しても「このままだとどうなると思っているのか?」というような上司の立場からの「皮肉や威嚇、挑戦めいた言い方」をしてはいけないと岸見氏は語る。
「あらゆる人間関係は、年齢、性別、職責に関係なく、横の関係、つまり対等なものとしてとらえるというのがアドラー心理学の考え方です。皮肉や威嚇、挑戦の態度で向かってきた相手を身近に感じることができるでしょうか? やみくもに部下をしかっても招くのは反発だけです」(岸見氏)
では、ほめて育てる作戦を取ればいいかというと、アドラー心理学ではほめることも否定する。なぜなら、ほめるというのは、能力のある者が自分よりも能力の劣る相手を操作する行為だというのだ。
適切な行動をとったら、ほめてもらえる。不適切な行動をとったら罰せられるという賞罰教育は、「ほめてくれる人がいなければ、適切な行動をしない」「罰する人がいなければ、不適切な行動もとる」という人間を生んでしまうというのだ。
岸見氏はその例として、人が見ていなければ落ちたゴミを拾わない子どもを挙げた。重要なことは、「ほめられなくても自分には価値がある」と個々人が自信を持って自分を好きになり、他人の顔色をうかがうことなく、少しぐらい嫌われることを恐れることなく、「私は相手の期待に沿うために生きているのではない」と達観することであるという。
上司は、ほめてもいけなければしかってもいけない。そんな中でも部下の業績を上げるという共同課題を達成するためにはどうすればよいか。岸見氏は「『行為』のレベルではなく『存在』のレベルで『ありがとう』という言葉を数多く発することだ」と解決策を提示する。
これは、何かをしたから感謝するのではなく、相手が「そこに存在していること」に感謝することを意味する。例えば、ある部下が休んだとき、その分の仕事を他の誰かがカバーしなければならず、組織は負担が増す。つまり、部下は出勤しただけでも仕事が進むわけで、これに関して「ありがとう」と感謝する。感謝されれば部下は「自分はここに居場所がある」「この組織のために貢献しよう」と思えるようになるのだ。
加えて「課題に勇敢に取り組む姿を見せること」も効果がある。こうした勇気というのは自然に伝染するからだ。
「いやそうは言っても…、と反論したい方もおられるでしょう。しかし、課題の分離、横の関係、賞罰教育の否定、行為レベルでの『ありがとう』、このような考え方があることを知っているか知らないかの差は大きいことは確かです」と岸見氏は語り、ビジネス現場での対人関係のヒントになれば幸いだと語って特別講演を締めくくった。
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