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コラムエネルギー業界の現状と今後 Vol.3

2018.02.28LPガス業界の現状と今後

(株)伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 代表取締役兼アナリスト 伊藤 敏憲

LPガス業界に影響を及ぼした石油元売の再編

石油元売の再編はLPガス業界に影響を及ぼしている。LPガス業界では、06年4月にアストモスエネルギー(設立時の出資比率:出光興産51%、三菱商事49%)、09年4月にジャパンガスエナジー(同:ジャパンエナジー(※1) 51%、日商LPガス(※2) 29%、伊藤忠エネクス20%)、11年3月にENEOSグローブ(同:JXエネルギー(※1) 50%、三井物産30%、丸紅20%)、15年4月にジクシス(同:コスモ石油(※3) 25%、昭和シェル石油25%、東燃ゼネラル石油(※1) 25%、住友商事25%)が、それぞれLPガス事業部門の経営統合によって設立され、15年7月にENEOSグローブとアストモスエネルギーが、広範囲にわたる業務の効率化などに向けた協力の検討開始を目的とした基本契約を締結するなど、元売の再編、協業化が進んでいた。

ところが、石油元売りの再編によって、JXTGエネルギーが、今年4月時点でENEOSグローブ、ジャパンガスエナジー、ジクシスの大株主となり、また、出光興産が、昭和シェル石油の発行済株式総数の30%を取得したことで、アストモスエネルギーに加えて、間接出資でジクシスの大株主になるなど、石油元売とLPガス元売との間で大株主や役員の重複関係が生じた。そして昨年12月に公正取引委員会が、JXホールディングスと東燃ゼネラル石油の経営統合、並びに出光興産の昭和シェル石油の株式取得を承認する条件として、東燃ゼネラル石油と昭和シェル石油にジクシス株式の譲渡あるいは出資比率の引き下げと役員の引き上げを要請したことから、ジクシスから今年5月にJXTGエネルギーが離脱し、昭和シェル石油も今年9月末に出資比率の1/3から20%への引き下げることとなった。

また、ジャパンガスエナジーの大株主の伊藤忠エネクスと大阪ガスが、今年10月に折半出資でエネアークを設立し、関東・中部・関西地区のLPガスの卸・小売り事業を統合するとともに、大阪ガスが日商LPガスの全保有株式を伊藤忠エネクスに譲渡することで合意した。

LPガス業界の今後の再編・集約を見通すうえでの主なポイントは、(1)設立後に起きた元売再編のあおりを受けて販売シェアを大きく落とし業績も悪化していたジクシスがどのような対抗戦略を講じるか、(2)JXTGエネルギーとジャパンガスエナジーの関係がどうなるか、(3)岩谷産業などの有力LPガス事業者が各元売とどのように向き合っていくか、(4)都市ガス大手、電力会社などがLPガス事業にどのように関わっていくかなどになると考えられる。

※1:現JXTGエネルギー
※2:日商LPガスの出資比率は、大阪ガス52.5%、伊藤忠商事25%、伊藤忠エネクス22.5%
※3:現コスモエネルギーホールディングス

電力・都市ガス小売全面自由化もLPガス業界に影響を及ぼしつつある

LPガスの事業規制は、97年に販売許可性が廃止されて届出制になったことで、小売事業は自由化されていた。ところが、事業用ではガス会社を選ぶ動きが広がっていたが、家庭用では、商権の売買や、事業者による勧誘(いわゆる「ビン倒し」)以外で、消費者がガス会社を切り替えるケースはほとんどみられなかった。家庭用の消費者の多くはガス会社を自由に選べるようになっていたとは認識していなかったように思われる。

今年4月に都市ガスの小売が全面自由化されたことをきっかけに、LPガスの需要家にも「ガス会社を自由に選べるようになった」と一般に広く認識されるようになり、ガス会社を選ぶ動きが一般家庭に広がりやすくなった。

LPガス事業は、ボンベやローリーで需要家に直接ガスを配送する業態なので、ガス導管で配送する都市ガスと違って、供給インフラによる制約を受けにくく。また、現状では同じ地域内でガス料金やサービスに大きな開きがみられるので、ガス会社の切り替えが広がる可能性は十分あると思われる。

電力・ガス小売の全面自由化をきっかけに、電力とLPガスのセット販売が始まり、LPガス事業者が電力販売に進出する動きも広がった。また、都市ガス会社や電力会社と提携して都市ガス事業に進出する事業者も出てきた。LPガス事業者の事業エリアは広がったが、本格的な競争時代を迎えつつあるともいえる。

LPガス事業者には本格的な競争を踏まえた対応が求められる

以前から関東地方ではLPガス事業者間で顧客の獲得競争が起きていたが、関東周辺地域や東海地方などに競争が広がってきた。今後、それぞれの地域の新規参入者が効率的にガス事業を展開できる需要密度が高い大都市圏を中心に競争が全国に拡散していくと予想される。

LPガスの価格は、規制されていないので、ガス事業者が自由に設定することができる。これが、同じ地域・同じガス事業者でも需要家によって大きな価格差が生じる背景事情の一つになっていたが、このような状況は合理的とは言い難い。行政主導で価格の透明性を高める取り組みが行われており、インターネットの情報サイトなどでLPガスの価格情報を提供するサービスも始まっている。LPガス事業は、原料価格が原価に占める比率が低いだけに、価格競争に陥りやすく、競争が広がると、LPガスの平均料金は低下していくと予想される。

LPガス事業者の数は年々減少しているが、17年3月末時点で1万9千と、事業規模がLPガスに比べて数倍大きい石油の販売業者数の1万5千を大きく上回っている。石油業界では、規制緩和をきっかけに、事業者やサービスステーションの集約ペースが加速された。LPガス業界でも競争が本格化すれば、同様の動きが起きる可能性は高い。

LPガス事業者は、事業環境の変化に耐えられるよう、お客様との関係の強化、サービスの拡充、コスト削減・効率化、そして、LPガス以外の事業の展開などに積極的に取り組んでいく必要があると思われる。ほとんどのLPガス事業者は、コスト削減・効率化の余地が十分にあり、業務提携や事業の共同化、経営統合などを図れば、その余地はさらに拡大する。また、保守・保安サービスの提供時や、検針時などに顧客とのコミュニケーションを図りやすく、ライフサービス分野や住宅リフォーム分野を中心に強みを生かせる分野に事業を展開できる余地も大きい。かつて石油販売業界では、コスト削減・効率化や非石油事業への事業展開が求められ、その取り組みの成否がその後の会社の存否をも左右することとなった。LPガス業界でも、本格的な競争時代を勝ち抜くためには、事業の変革に積極的に取り組む必要があると思われる。これらを適切に進めるためには、収益並びにコストをより正確に把握したり、顧客情報の取り込み・活用などを適切に進めたり、業務内容の複雑化に対応したりするため、システムソリューションの導入及び活用が重要な課題になると考えられる。

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