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米国の消費行動から見るサステナビリティへの取り組み

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前回は年初のCESやNRF(National Retail Federation)といった大規模カンファレンスから見る2022年のトレンドについてお伝えしました。今回は少し視点を変えて米国の消費行動におけるサステナビリティへの取り組みについてお伝えします。

※本記事は2022年7月に掲載されたものです

北林拓丈(きたばやし・ひろたけ)
北林拓丈
(きたばやし・ひろたけ)
2000年に日立ソフトウェアエンジニアリング株式会社(現・株式会社日立ソリューションズ)にSE職で入社。JavaエンジニアとしてECサイト開発・運用に3年間携わり、その後米国ITベンダーの製品開発研究所にて1年3カ月の海外業務研修。日本帰国後は主に大手通信事業者向けの業務・システム再構築プロジェクトにコンサルタント、ITアーキテクト、プロジェクトマネージャーとしてそれぞれ従事。2016年からワークスタイル変革ソリューションの事業企画・開発に従事し、2020年1月からシリコンバレーに駐在。スタートアップとのパートナーシップや日系企業間連携による新規事業立ち上げ、事業拡大に従事。

2021年にバイデン政権が発足してから、米国の環境政策は大きく転換しました。大統領選挙キャンペーンから環境対策を訴え、大統領就任初日にパリ協定への復帰を大統領令で指示するなど、積極的な環境対策を打ち出しました。バイデン大統領はサミットの開会の挨拶で、「今が気候変動問題への取り組みにおける勝負の10年であり、気候危機による最悪の結果を避けるための決断を下す時だと、科学者たちが言っている」と述べ、米国は2030年までに二酸化炭素(CO2)排出量を2005年比で50~52%削減すると約束し、これまで2025年までに26~28%削減するとしてきた目標を、2倍近くに引き上げました。

日本でもそうですが、全体としてのCO2排出量の削減という観点だとなかなか個人の日常の消費行動の中でどのようにして実現していけばいいのかというのがイメージしづらいと思います。そこで消費行動のバリューチェーンから各プロセスでの課題や解決策を見てみることにします。

消費行動のバリューチェーン

1:調達・製造

調達・製造ですが、最も廃棄が多い業界の一つであるファッション業界においての取り組みが特にめだっています。例えばハイロス(HILOS)というメーカーでは3Dプリンティングを駆使し、従来よりも短期間で製造かつサステナブルなシューズを提供します。また利用後は再利用可能な形に分解できるので、従来よりも99%の水と48%のCO2排出量を削減できるとうたっています。このハイロスに限らず、D2Cの新興プレイヤーはサステナビリティへの効果をうたうことでアマゾン(Amazon)に対抗しています。

2:購買

購買については、サステナブルな商品を好む消費者が増えてきている傾向があるようです。サステナブル商品のマーケットシェアは約17%(※1)といわれており、従来商品よりも価格指標が28%(※2)も高いにもかかわらず、2.6倍(※3)の成長率を実現しています。また、中古品やリサイクル品といった二次流通の市場が特にファッション業界において成長しており、プラットフォームを提供するスレッドアップ(threadUP)は2021年3月に上場を果たし、グッチ(GUCCI)も同プラットフォームのザ・リアルリアル(The RealReal)と2020年10月に提携してグッチの二次流通オンラインストアを立ち上げました。身近なところでは私が住んでいる街の大型スポーツショップも店内で二次流通コーナーがオープンし、シューズをはじめウェットスーツやキャンプ用品などが半額程度で販売されています。

※1~3:出典
https://www.stern.nyu.edu/sites/default/files/assets/documents/FINAL%202021%20CSB%20Practice%20Forum%20website_0.pdf

3:包装

包装についてはまず、プラスチック利用の削減並びに再利用/リサイクルが課題として挙げられます。プラスチックの焼却によるCO2排出は今後も増えていくと予想されており、一方でプラスチックの再利用/リサイクルは高いコスト削減効果があるといわれています。そこで、単にプラスチックを紙に置き換えるというだけでなく、様々なサステナブルパッケージングの取り組みが行われています。例えばアマゾンはプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)と協業して洗剤タイド(Tide)のための新しい段ボールパッケージを開発しました。従来と比較してプラスチックは60%減、水は30%減、重量も4ポンド減となり、エコであるだけでなく原材料や輸送コストの減少も期待できます。

エコベーティブ・デザイン(Ecovative Design)はキノコ由来で堆肥にすることが可能な素材を開発し、発泡スチロールやその他のプラスチック製品の代替として提供を行っています。

4:配送

配送については、ECの普及によって配送量が増える中、特に自動車での輸送によるCO2排出量をいかにして抑えるかというのが課題です。一つの解決策としてオリーブ(Olive)のサービスが挙げられます。提携している125のブランドの商品がECで購入されると、ブランドがオリーブの倉庫に商品を送り、再利用可能なオリジナルパッケージで1週間分の出荷にまとめられます。その後1週間分の荷物を顧客の住所へ配送します。同社によると、まとめて梱包することで1回あたりに配送する商品数を約2倍にでき、CO2排出量を約30%削減します。

ユーザー満足度向上も図るサステナビリティへの取り組みの概要

このように配送回数を減らし、1回あたりに配送する数を増やすことでCO2排出量を削減し、加えて再利用可能な箱で梱包することでプラスチック利用の削減も図っています。

また、自動車以外での輸送手段もまだ実験段階ですが行われています。商用のeVTOL(Electric Vertical Take-Off and Landing 電動垂直離着陸機)は、各社(※4)2024年から2026年にかけてローンチ予定で、アマゾンはドローンを用いた配送に2013年から取り組んでいます。

受け取りにあたっては住居にスマートロッカーが設置されているところが増えています。私が住んでいるアパートメントでは荷物がロッカーに入れられるとスマートフォンに通知が来るほか、ロッカーではスマートフォンの操作で扉を開けて荷物を取り出すことができます。これにより不在での再配達を避けCO2排出量を削減するだけでなく、輸送コストの削減とユーザー満足度の向上も図っています。

今回紹介した以外にも消費行動に関わる各所でサステナビリティへの取り組みを見ることができます。企業側はCO2排出量を削減するということに加え、サステナブルなプロダクト、サービス、オペレーションを提供することでコスト削減やユーザー満足度向上を図り、自らの事業機会へとつなげています。日本ではサステナビリティというとCSR(企業の社会的責任)として一見利益度外視の社会問題として捉えがちなところもありますが、新たな事業機会と捉えて取り組んでいく姿勢は米国から学ぶべき点があることをあらためて感じました。

※4:出典アーチャー アビエーション(Archer Aviation)、ジョビー・アビエーション(Joby Aviation)など

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