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【知られざるヒット商品のオモテとウラ】第5回 「陸前高田の発酵パーク『CAMOCY』」

今回は、岩手県陸前高田にある商業施設「CAMOCY」に着目しました。陸前高田といえば、東日本大震災で多大なる被害を受けた場所。となると、震災からの復興のシンボルとして県外からの利用客を見込んでつくられたと思われがちでしょう。しかしこちらは、震災前から構想が立ち上がり、地元民が地元民のためにつくった「醸造・発酵」をテーマに据えた施設なのです。

「1社も潰さない」と誓った陸前高田の人々の奮闘

北村 森

1966年富山県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。「日経トレンディ」編集長を経て独立。商品ジャーナリストとして、製品やサービスの評価、消費トレンドの分析を続けるほか、経済産業省やJETROなどと連携した地域おこし事業に数々参画。現在は「中日新聞」など8媒体でコラムを執筆、NHKラジオ第1「Nらじ」などのテレビ・ラジオ番組でコメンテーターを務める。サイバー大学IT総合学部教授(地域マーケティング論)。

東日本大震災から10年を経た2021年3月、岩手県の陸前高田に、1つの商業施設がグランドオープンしました。
その名も「CAMOCY(カモシー)」です。

約7万本あったと言われる高田松原の中で唯一残ったことで知られる「奇跡の一本松」からほど近い場所で、木造平屋建てがその施設。そんなに大きいわけではないのですが、一歩入ると、飲食店にベーカリー、チョコレート店、クラフトビールの店などとても充実しています。CAMOCYのテーマは「醸造・発酵」です(「カモシー=醸し」が語源となっています)。それにしても、なぜ醸造・発酵なのでしょうか。陸前高田の中でも、この施設のある海に近い地区にはもともと醤油や味噌などの醸造業が根付いていたそうです。しかし社屋などが津波で流されてしまい、各事業者は一時、存続の危機に瀕(ひん)しましたが、それでも復活を期して力を尽くしてきました。

CAMOCY

そんな地元の事業者たちが出資したまちづくり会社が、CAMOCYの開業準備から運営までを担っています。出資した事業者自身がそれぞれのテナントを運営しており、よそから強いテナントを引っ張ってきたわけではないのです。そこがまたよい! 自分たちでお金を出し合い、醸造と発酵の文化を自ら引き継ごうというわけです。そして、震災後にこの地区を離れた人にも、「ここには醸造・発酵の文化があって、以前は生産現場から毎日、作業する音が聞こえてきていたなあ」としっかりと思い出してほしいという願いもあるそうです。

もちろん商業施設自体の魅力も十二分にあります。先に述べた通り、醤油や味噌を用いた和食を提供する食堂や、発酵をテーマに据えた総菜店、オーガニックカカオを練り上げたチョコレート店(この施設内で製造)、クラフトビールの店(醸造設備を店内に設置)、さらに、すでに地元客が列をなすベーカリーとバラエティー豊富。ぐるりと見て回るだけでも面白く、すでに地元から愛される陸前高田の新名所となっていました。

てっきり震災がきっかけとなってできた施設かと思っていたこのCAMOCYですが、構想の発端は実は東日本大震災の前に遡ります。2008年に起きたリーマン・ショックの頃、地元の企業経営者が集まってこんな話を交わしたそうです。「俺たち中小企業こそが諸悪の根源なんじゃないか」と。「地元の人たちが『ここで働きたい』と思えるような仕事をつくってこなかった俺たちの責任」というのが真意だったようです。そして、経営者仲間で2つのことを申し合わせました。1つ目は「この陸前高田で1社も潰すな」、もう1つは「1人も解雇するな」です。

そして東日本大震災が発生。震災の直後はさらにこの合言葉を大事に守ったといいます。さらに地元の高校には、「求人数無制限」をうたう地元企業経営者が相次いで現れました。今回の商業施設には、やはり陸前高田に新しいビジネスをつくり上げて、仕事がしたい人を受け入れるという側面もあるそうです。

CAMOCYの開業をリードしてきた地元経営者はこうも言いました。「震災被害が甚大だった陸前高田は、『かわいそうな街』というイメージで捉えられがちです。それを変えたかったんです。『俺たちの街は活力がある』と……」。

このCAMOCYはまさに、地元の底力を結集した存在であるわけです。

各テナントに囲まれるようにして、くつろげるフリースペースをしつらえている
各テナントに囲まれるようにして、
くつろげるフリースペースをしつらえている

地元経営者が自ら出資、運営

CAMOCYは木造平屋建て。面積は700u強と、商業施設としてはさほど大きいわけではないが、開業後1カ月で約6000人を集客するなど、地元・陸前高田の住民にその存在が浸透している。テナントはすべて「醸造・発酵」をテーマに据え、地元事業者がそれぞれ新規の事業に挑んでいる。販売する商品は、1枚1000円以上のチョコレートなど高価格なものも少なくないが、それでも地元民に支えられて、順調に売り上げを伸ばしているという。

https://camocy.jp/

提供する食事も醸造・発酵をテーマに据えている。写真の献立は「塩麹シャケのはらこ飯」(1200円)
提供する食事も醸造・発酵をテーマに据えている。
写真の献立は「塩麹シャケのはらこ飯」(1200円)
ベーカリーも人気。震災直後にボランティアに訪れてくれたパン職人に頼み、技術を教わった
ベーカリーも人気。
震災直後にボランティアに訪れてくれたパン職人に頼み、
技術を教わった
地元経営者たちが開業に尽力したCAMOCYの主宰である、八木澤商店の9代目河野通洋氏
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