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【知られざるヒット商品のオモテとウラ】第6回 「電動車椅子『WHILL』」

「WHILL」は、自動運転システムが組み込まれた最新の電動車椅子です。最近は、個人利用が増えているほか、国内のテーマパークや空港、商業施設などへの供給も始まり、熱い視線が注がれています。開発の発端となったのは、車椅子ユーザーからの思いがけない一言でした。若き開発者たちの熱い想いが集結した「WHILL」の開発ストーリーをご紹介しましょう。

「やめてほしい」の一言に若き開発陣が奮い立った

北村 森

1966年富山県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。「日経トレンディ」編集長を経て独立。商品ジャーナリストとして、製品やサービスの評価、消費トレンドの分析を続けるほか、経済産業省やJETROなどと連携した地域おこし事業に数々参画。現在は「中日新聞」など8媒体でコラムを執筆、NHKラジオ第1「Nらじ」などのテレビ・ラジオ番組でコメンテーターを務める。サイバー大学IT総合学部教授(地域マーケティング論)。

10年以上前のこと。複数にまたがる大手メーカーの若手社員たちが休日に集い、自主勉強会を続けていました。

ある週末のテーマは「福祉」でした。彼らは、なぜ電動車椅子がもっと普及しないのか不思議に思っていました。そこで、足の不自由な人に話を聞くと、あることが判明しました。電動車椅子に乗ると、2つのバリアに直面するというのです。

一つは物理的バリア。車道と歩道のわずかな段差にも難儀するのだそうです。そしてもう一つは心理的バリア。周囲の目がどうしても気になるという話です。

勉強会メンバーはここで考えました。ならば、2つのバリアを解消する電動車椅子を試作してみよう、と……。具体的には、道の段差をものともせず、しかもスタイリッシュでかっこいいデザインだったら、多くのユーザーが乗るはず。

本業の合間をぬってメンバーは奮闘し、2011年の東京モーターショーに試作モデルを出品しました。その一台は確かに話題をさらいました。ところが……。

勉強会のブースを訪れた、一人の車椅子ユーザーが強い口調でこう告げたのです。「こういうことはやめてほしい」。

WHILL

どういうことか。「あくまで試作モデルで実際に販売されないなら、電動車椅子が必要な人間にとってそんな残酷な話はない。なまじ夢を見させるだけに」。

メンバーは言葉を失いました。そして、やめました。高性能でスタイリッシュな電動車椅子の開発を「やめた」のか?
違います。それぞれの勤め先を「辞めた」のです。

2012年、メンバーたちの手で、ベンチャー企業のWHILLが設立されます。2年後には第1号の市販モデルが99万5000円で登場し、さらにそこから3年後の2017年に「Model C」と名づけた45万円の普及価格モデルを発売。これが注文から数カ月待ちとなる爆発的ヒットになりました。

さらにすごいのはここからです。WHILLはこの電動車椅子に自動運転システムを組み込みました。世界最大級の電子機器見本市「CES」(米国)で大反響を呼び、現在では羽田空港で正規導入されるに至っています。

切実な声を当時の勉強会メンバーが真摯に受け止めたことで、今、2つのバリアが着実に世の中から消え始めています。

最新モデルである「Model C2」。自動車免許がなくても乗ることができる。購入47万3000円、レンタル月額1万4800円。(2021年8月27日現在)
最新モデルである「Model C2」。自動車免許がなくても乗ることができる。購入47万3000円、レンタル月額1万4800円。(2021年8月27日現在)

公共施設や観光地が
こぞって積極導入

WHILL株式会社の前身は、大手の自動車メーカーや電機メーカーなどに勤務していた若手社員による自主勉強会。同社が開発した電動車椅子は、個人への販売・レンタルのほか、空港、商業施設、テーマパークなどへの供給も進めている。近年は自動運転システムの開発にも注力。すでに羽田空港の第1・第2の両ターミナルで正式導入された。こうした「最もパーソナルなEV(電気自動車)+自動運転の実用化」という点において国内外の他企業に先んじており、同社の技術は強い存在感を放っている。

https://whill.inc/jp/

羽田空港での自動運転サービス。搭乗口まで自動運転で連れていってくれ、利用後は無人状態で待機場所まで自走する。
羽田空港での自動運転サービス。搭乗口まで自動運転で連れていってくれ、利用後は無人状態で待機場所まで自走する。

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