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【挑む人】第29回 上原ゼンジ「身近にある自分だけの絶景を切り取る万華鏡写真の魅力とは」

2021年プロワイズ60号の表紙は、上原ゼンジ氏が撮り下ろした「万華鏡写真」です。上原氏は世界でただ一人の“実験写真家”。万華鏡写真の他にも様々な装置や技法を考案し、写真の可能性を広げています。一体なぜこの取り組みを始めたのでしょうか。また、他にはどんな作品があり、発想の源はどこにあるのでしょうか。上原氏が独自に開発した「万華鏡カメラ」の作り方とあわせて、実験写真の面白さをご紹介します。

※本記事は2021年4月に掲載されたものです

何気ない景色から面白いものを探す楽しさを知る

上原ゼンジ(うえはら・ぜんじ)プロフィール

実験写真家
1961年埼玉県生まれ。日本大学経済学部卒業。「本の雑誌社」に勤務する一方、写真家の森山大道氏に師事し写真を撮り始める。『うずらの惑星―身近に見つけた小さな宇宙 カメラプラス』(雷鳥社)、『こんな撮り方もあったんだ!アイディア写真術』(インプレスジャパン)『Circular Cosmos―まあるい宇宙』(桜花出版)等を上梓する他、「宙玉(そらたま)」等の装置を考案、販売を行う。

写真に興味を持ったのは大学時代です。当時、美術家の赤瀬川原平さんが、建物などに付属している無用の長物を「トマソン」と名付け、雑誌『写真時代』に紹介写真を連載していました。私は美学校という私塾の赤瀬川さんの考現学研究室に通っていて、授業でトマソン探索に出かけていたことから、カメラを持つようになりました。何気ない景色から面白いものを探す楽しさも、この授業で知りました。

本格的に写真を撮り出したのは、椎名誠さんらが立ち上げた「本の雑誌社」に勤め始めてからです。このころ『写真時代』のカルチャーに興味が広がり、主要な写真家であった森山大道さんに師事するようになりました。写真仲間と西新宿のアパートの1室を借りて、月1回、持ち寄った写真を森山さんに見てもらい、その後の飲み会で写真について語り合ったものです。この活動に夢中になり、もっと撮りたいと思って、25歳の時に退社しました。

何気ない景色から面白いものを探す楽しさを知る

「誰も見たことのない写真を撮りたい」

森山さんによく言われたのが、「見たことのない写真を見せてくれ」でした。この言葉は、それからずっと、作品を撮るうえでの私の大前提になっています。

2000年代に入って「実験写真家」になったのも、「誰も撮ったことがないものを撮りたい」という思いから。もともとモノクロの写真を撮っていたのですが、「こうしたらもっと面白いんじゃないか」と試しているうちに、新しい撮影装置や手法がどんどん生まれてきました。

もう1つ、実験写真を始めたきっかけがあります。それはデジタルカメラの登場でした。

私は1990年代半ばにはデジタルカメラを使うようになったのですが、デジカメを持つと写真家仲間から「魂を売った」呼ばわりされたんです(笑)。でも、アナログもデジタルも、それぞれ良さがあります。デジカメのいいところは、確実にピントを合わせられること、撮ったその場で確認できること、何枚でも撮れること、パソコンで色の調整を行えること。でも、アナログのフィルムカメラがつくるエフェクト(効果)は、デジタルでは絶対に出せない。デジタルとアナログの長所を融合させられないか。そう考え、装置を作り始めたのです。

あえて不自由さを楽しむ。すると作品に味わいが加わる

最初に考案したのが、「蛇腹レンズ」です。

蛇腹に折った紙筒の先に100円均一ショップで買った双眼鏡のレンズをつけ、デジカメにセット。筒を伸ばすとピントが近くに合い、引っ込めると遠くに合うという仕組みです。安価なレンズを付けることで、自分でピントを合わせる楽しさ、周辺がブレる面白さを得られる。不自由を楽しめるわけです。

あえて不自由さを楽しむ。すると作品に味わいが加わる

もっとブレた写真をとってみたいと考え、「手ブレ増幅装置」も作りました。カメラにゴムをつないで、ゴムを揺らしながら撮る装置です。被写体は自分で決めますが、出来上がりは偶然に任せるという必然と偶然をミックスさせた手法で、撮った写真はなかなかカッコいい。でもフィルムでこれを撮るのはさすがにもったいないので(笑)、やはりデジカメだからできる撮り方といえます。

やがてWeb雑誌に連載を持つようになり、定期的に新しいネタを出す必要に迫られました。

宙玉という透明な玉をフィルターに装着して撮るという案は、ドアミラーがヒントになりました。ドアミラー越しに撮影すると歪んだユニークな写真になる。じゃあ、周りの景色も写るようにしたらどうだろう、と。撮った作品を発表したら大好評でした。透明球を欲しいという声も出て、製品化に至りました。

あえて不自由さを楽しむ。すると作品に味わいが加わる

工夫する力があれば、無限に楽しめる

写真というと、出かけた先で素晴らしい景色を撮るものと考える人は多いでしょう。でも、少し見方を変え、手段を変えることで、誰も見たことがない自分だけの絶景を、身の回りで見つけることができる。例えば近所の石段を接写すると、外国の絶壁のような写真になります。またスーパーで買ってきたウズラの卵は、フィルターをかけて撮影すると、地球外の惑星のような写真に見えます。誰かがすでに見つけた絶景を見に行くより、自分で発見することに価値はあると、私は思っています。

実験写真には、セオリーはありません。コロナ禍で外出がままならない時でも、こうした写真なら家の中で楽しめます。興味がある方はやってみてはいかがでしょうか。

最後に万華鏡カメラの作り方と撮影方法をご紹介しましょう。被写体や背景の紙を替えたり、ライトの位置をずらしたり外で撮ったりとアレンジすることで、無限大に新しい景色が広がります。工夫する力と楽しむ力を発揮し、自分なりの絶景を発見してください。

私自身も、もっと新しい手法を考え、見たことのない写真を撮りたいと思います。

工夫する力があれば、無限に楽しめる

プロワイズ60号の表紙は、上原ゼンジ氏に万華鏡カメラを用いて春の草花を撮っていただきました。
角度を変えるたびに新たな美しさを描き出す万華鏡が、状況の変化に対応して新たなスタートを切ることの大切さを伝えてくれているようです。

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