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【挑む人】第31回 山田真由美「60歳になっても輝いているために50歳の今起業」

介護現場で15年間働いた経験を活かし、2020年、50歳にして高齢者向けにヘアセットやメイクを行いポートレートを撮る出張撮影サービスの会社を立ち上げた山田真由美氏。遺影の撮影も手がけ、日本郵便の終活紹介サービスメニューにも選ばれた。山田氏に、「五十知命」での起業に懸ける思いを語ってもらった。

※本記事は2021年5月に掲載されたものです

起業の目的は高齢者を枠にはめる社会を変えること

山田真由美(やまだ・まゆみ)プロフィール

1970年生まれ。高校卒業後、一度は就職するも、22歳で退社。23歳で結婚、24歳で出産し、子育てが落ち着いてからホームヘルパーの資格を取得。その後、介護施設での勤務をスタート。さらに、介護の仕事を続けながら美容学校に通い、42歳で美容師免許を取得。その後、福祉美容師の資格も取得。高齢者の笑顔を写真で記録に残したいと考え、写真を学び、2020年に起業。

2021年4月に施行される改正高年齢者雇用安定法では、企業に70歳までの雇用の努力義務が設けられる。「人生100年時代」を目前に60歳の定年後も働くビジネスパーソンが増えているが、年齢が高くなるほどキャリアの構築は容易でなくなる。そうした中で、山田真由美氏は50歳で出張撮影サービスの会社を起業した。

「60歳になった時に輝いているために今スタートを切った方がいいと思ったんです」

介護福祉士、ケアマネジャー、美容師の資格を有し、50歳直前で写真家という新たなキャリアを加えた。しかし、「もともとキャリアアップには関心がなかった」と言う。実際、山田氏のキャリアは、目の前の課題を解決するために技術を身につけて資格を取得し、現場での経験を重ねる中で地道に築き上げたものだ。

23歳で結婚を機に専業主婦となり、翌年、長男を出産。2世帯住宅を建て、義父母と同居した。子どもが幼稚園に通うようになると、住宅ローン返済の足しになればと自宅近くの商店街で働き始めた。「時間の融通が利くから」と大手ファストフードチェーンのアルバイト店員になったのは29歳の時だ。

「何事もやり始めると夢中になる性分なので」と述懐するが、適性もあったのだろう。3年目には店長代理に抜擢された。義父母の協力を得て週5日、朝5時に出社。シフトを調整したり、スタッフやお客様に目を配りながら店舗運営の適正化を図ったりする日々はやりがいに満ちたものだった。

起業の目的は高齢者を枠にはめる社会を変えること

その一方で、「スピード勝負の仕事だから、ある程度の年齢までしかできない」とも考えていた。年配のマネジャーが若いアルバイトからけむたがられている姿に、未来の自分が重なった。そんな時仕事仲間から誘われたのが、ホームヘルパーの受講だった。

折しも、要介護高齢者の増加や介護の長期化を背景に、高齢者の介護を社会で支え合う介護保険制度が本格的に動き出そうとしていた。「これからはホームヘルパーの資格があれば仕事に困らない」。仲間の言葉に軽い気持ちで取得を決めた。まさかそこに、自分の将来を左右する運命的な出会いが待っていようとは想像もしなかった。

資格を取得して最初に勤務した老人ホームには、ほろ苦い記憶しかない。ファストフード店に勤務していた頃から、「お客様に喜んでいただきたい」という思いが人一倍強かった。しかし、入居者によかれと思って通常の業務の枠を超えたサービスをすると、「あなたが余計なことをすると、他の人もやらなければならなくなる」と苦情を言われたという。

「介護施設も“お客様商売”のはずなのに……。何が正しいのか分からなくなった。ここでは私のやり方が正しくないのであれば、働き続けるのは無理だと思いました」

3年ほど勤めた後に施設を去った。

メイクで入居者の粗野な態度が一変

メイクで入居者の粗野な態度が一変

一時は「自分には介護の仕事は向いていない」とまで思い詰めた。だが、以前の同僚から勧められた別の老人ホームで働くようになって、考え方が一変する。

そこは比較的裕福な入居者が多いためか、女性はホールでの朝食にもばっちりメイクをして、しゃれたセカンドバッグを手にして現れる。そして、入居者同士で「あら、そのバッグかわいいわね」といった女子トークを繰り広げるのだ。山田氏にとっては、ちょっとしたカルチャーショックだった。

「前の老人ホームでは毎朝、車椅子の入居者をずらりと1列に並べ、洗顔代わりに蒸しタオルで顔を拭いていました。お世話をしやすいよう、入居者は皆、名札を見なければ男女の区別がつかないほど、髪を短くカットされていた。あの時の80歳の女性と、今度の80歳の女性とは、とても同年齢とは思えなかったのです」

着飾ったり、美しくメイクしたりすることが生きる活力を生み、若々しさや健康を維持する手段になり得る。そう確信するに至った背景には、老人ホームでのある女性との出会いがあった。女性は認知症を患っており、そのためか、スタッフに強い言葉を浴びせることも少なくなかった。にもかかわらず、山田氏がメイクやネイルアートを施しながら、「すごく素敵にしていらっしゃるのに、そんな言い方は似合わないですよ」とやんわりたしなめると、「あら、私ったら嫌だわ」とにわかに女性らしい反応を示したのである。

メイクで入居者の粗野な態度が一変

別の女性はリハビリをかたくなに拒み、日中もパジャマから着替えようとしなかった。しかし、山田氏によるメイクの最中に、鏡を見ながら「私、こんなに白髪が多かったかしら。美容院に行かなきゃね」とつぶやいた。そして、施術が終わると、美しくなった姿を周囲に見せようと、自ら歩き出したという。

メイクで変わるのは女性ばかりではない。男性も髪を整え、眉をカットするだけで、背筋がすっと伸び、居ずまいを正すようになった。

嫌がる高齢者にリハビリを強いるより、メイクで本来の自分を取り戻すお手伝いをする方が、よほど効果的なのではないか。とはいえ、メイク好きな施設の一スタッフが声を上げるだけでは、入居者に耳を傾けてもらえない。それなら、資格を取ろう。39歳で一念発起して美容学校に入学した。通信制だったが実技など通学が必要な講義もあり、「自分の子どもと同年代の若者たちと同じ夢に向かって頑張るのは楽しかった」と振り返る。

42歳で資格を取得した後は同じグループの施設も巻き込んで美容プロジェクトを立ち上げ、レクリエーションの一環として、6つの施設を回りながら入居者にメイクやネイルアートを施すイベントを開催した。プロジェクトは好評で、離職するまで7年近く続いたという。次なる転身へのきっかけは、そうした中で訪れた。

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