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【三国志から学ぶ人財戦略】第5回 コラボレーションで成果を上げる -「赤壁の戦い」の協創-

三国志は今から1800年以上も前の中国を舞台に繰り広げられた物語である。
これまで幾度となく小説、映画、漫画、ゲームの題材となり、ビジネスでも教材に取り上げられてきた不滅のコンテンツともいえる。
なぜ、いま三国志なのか。それはこの物語で展開される人材活用の妙にある。
人材不足が問題となる一方で、多くの仕事がAIに代用されていく現代。
いかなる「人“財”戦略」が必要なのか。三国志を通して考えていきたい。

外部と手を組み、事業を成功させる

湖北省赤壁
湖北省赤壁

「赤壁の戦い」は三国志のなかでもっとも重要な戦いとされる。この戦いによって、孫権と劉備が曹操の勢いを止め、三国が鼎立(ていりつ)するきっかけとなった。
さまざまなエピソードが知られている赤壁の戦いだが、実は正史の『三国志』にはわずかな記録しか残されていない。その多くは『三国志演義』で話を盛り上げるために脚色されたフィクションといわれている。
たとえば正史の『三国志』武帝紀では「公(曹操)は赤壁に至り、劉備と戦ったが、勝つことはできなかった。疫病が流行り、死者が多く出たので、軍を引いて帰還した」とわずかな記述があるのみだ。

フィクションの部分はさておき、赤壁の戦いを機に孫権軍と劉備軍が同盟を結び、曹操軍の侵攻をくいとめたことはまぎれもない史実である。ビジネスの世界に置き換えると、曹操の陣営がリーダー企業だとしたら、孫権と劉備の陣営はチャレンジャーといえる。チャレンジャーがリーダー企業に対抗するためには、一般的に3つの戦略があるといわれている。

(1)独自の路線で強みを発揮する「差別化戦略」
(2)特定の分野に経営資源を集中する「集中戦略」
(3)既存のルールを変えてしまう「イノベーション」

魯粛、諸葛亮肖像(Pen 2019年8月1日号 CCCメディアハウス イラスト:阿部伸二)
魯粛、諸葛亮肖像(Pen 2019年8月1日号 CCCメディアハウス
イラスト:阿部伸二)

孫権陣営と劉備陣営がとった戦略は、どちらかというとイノベーションに近い。中国は統一されるべきものという常識を変え、3つの国があってもいいじゃないか、という大胆なパラダイムシフトを行ったのである。その新しい世界像を成立させるために、まだ定まった領地もない劉備の陣営を、バーチャル国家的な存在として打ち出したところに革新性がある。最初に三国鼎立というビジョンがあり、その実現のために孫権陣営と劉備陣営がコラボレーションを推進したのである。そのキーパーソンは、それぞれ独自に天下三分の計を構想していた魯粛と諸葛亮である。
どちらの人物も組織にとって大きな戦力となるネゴシエーターである。だが、そうした交渉のエキスパートを得ることは通常ではむずかしい。ならば人材を育成しようじゃないか、ということで現代のビジネスには「交渉術」というコミュニケーションの技術が確立されている。アメリカのハーバード大学ロースクールが交渉のプロを養成する「Program On Negotiation(PON)」というプログラムを編み出したのである。
そこで学ぶのは相手を力づくでねじふせるような交渉ではなく、うまく相手の合意を得る技術である。このプログラムを立案したロジャー・フィッシャー、ウィリアム・ユーリーによる著書『Getting to Yes』は、日本でも『ハーバード流交渉術 必ず「望む結果」を引き出せる!』 (三笠書房) として出版されている。いかにして複数の利害関係者が合意にたどり着くか、全体としてベストの結論を導き出せるかという「合意形成のための説得術」が主な内容となっている。その交渉のスキルは、魯粛と諸葛亮のやり方と重なり合うところが多い。

今回はこの2人の参謀役のコラボレーションによる成功事例として「赤壁の戦い」を捉える。トップ企業の視点からは、さらなるシェア拡大にはどんなリスクが存在するか。チャレンジャー企業の視点からは、トップ企業に対抗するにはどんな策を打つべきか。そんなビジネスの参考となるようなヒントを導き出したいと思う。あなたならどの視点から、この戦いを見るだろうか。

さらなる勢力拡大を狙い、呉に迫る曹操

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赤壁の戦いの前、華北をほぼ統一し、勢いに乗る曹操は、劉備が身を寄せていた荊州を説得工作によって降伏させ、呉に迫る。曹操は孫氏の兵法をよく学んだ人で、最良の策は「戦わずして勝つ」ことを心得ている。領主や重臣たちに恵まれた地位と待遇を与え従わせるほうが、むやみに兵を失ったり、経営資源を減らしたりすることもなく、はるかにコスト効率がいい。

このあたりの手法は、現代のビジネスのM&Aにも通じる。急速な成長を続ける企業がさまざまな会社を吸収合併していくなかで、自社の経営スタッフや企業文化を強引に押し付けると反発が強い。相手の人材や仕事の手法を尊重しながら、徐々に改革や統合を進めていくほうが結果としてうまくいく場合が多い。特に曹操は徐州において自身の家族が殺された報復として大虐殺を行い、多くの反発を招き、その後の徐州の統治に大変な苦労をした経験がある。その反省もあってか、ソフトパワーによる統治の重要性を身をもって理解していたといえる。

曹操、孫権肖像(Pen 2019年8月1日号 CCCメディアハウス イラスト:阿部伸二)
曹操、孫権肖像(Pen 2019年8月1日号 CCCメディアハウス
イラスト:阿部伸二)

曹操は孫権に宣戦布告ともいうべき手紙を送っている。

「水軍八十万の衆を治め、まさに将軍と呉に会猟せん」

「水軍八十万の兵を整えて、呉で孫権と狩りを楽しみたいものだ」といった意味で、かなり挑発的な内容である。水軍八十万で攻めてくると聞けば、相手は戦意を喪失するものだが、呉は曹操軍の戦力を冷静に分析し、八十万は誇張と見極め、戦いを挑んできた。
曹操軍の主力部隊である北方の軍は、騎馬隊を軸にした地上戦は得意とするが、水上戦の経験は皆無に等しい。そのため曹操は新たに傘下に加えた荊州の出身者を中心に水軍を編成する。だが急造の部隊だけに水上戦に不慣れなうえ、兵士たちは船酔いに悩まされる。しかも疫病が発生し、多くの死者が出た。死者は船ごと焼却したので兵力は次第に先細っていく。
曹操の参謀役の郭嘉(かくか)は赤壁の戦いの前に早逝してしまったが、生前に南方で戦う場合の疫病のリスクを予言していたという。被害の大きさは曹操の想像以上のものだったに違いない。

結果として、周瑜の巧みな火攻めによって曹操軍は大敗する。圧倒的な兵力を強みに、急速に勢力を拡大してきた曹操の油断と奢りがあった。未経験の分野や不得意な領域に進出するときは、ビジネスにおいても慎重な行動が求められる。もっとも重要なのは、その道に精通したエキスパート人材を獲得あるいは育成し、活用することだろう。
『三国志演義』では、曹操は水軍の指揮を元荊州の臣下で水軍の扱いに慣れた蔡瑁(さいぼう)と張允(ちょういん)の2人にまかせている。周瑜の策略でこの2人が謀反を企んでいるという偽の情報を流し、疑念を抱いた曹操は彼らを処刑する。これによって水上戦を指揮する武将がいなくなり、水軍の戦闘力が低下する設定になっている。この逸話はフィクションとされるが、曹操軍の敗因を的確に示した分析といえるだろう。

三国志クイズ

    • 「官渡の戦い」で袁紹が曹操に破れた決定的な理由はある情報がもれたため。
      その情報とは?
    • 「赤壁の戦い」で曹操が負けた大きな原因はふたつ。ひとつは周瑜による火攻め。
      もうひとつは?
    • 「樊城(はんじょう)の戦い」で曹操軍を攻めていた関羽は敗れる。
      敗因は曹操軍がある勢力と手を組んだため。その勢力とは?
    • 「夷陵(いりょう)の戦い」で劉備が孫権に破れた原因は陣営にあった。
      どうなっていた?
    • 「五丈原(ごじょうげん)の戦い」で蜀軍は撤退する。その敗因は?

    気になる解答は次ページの最後に!ぜひご覧ください。

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