Hitachi
EnglishEnglish お問い合わせお問い合わせ
メインビジュアル メインビジュアル

食料のSDGsって、どういうこと?

786回表示しました

最初のテーマは目標2「飢餓をゼロに」。世界では十分な食料が生産されているのに、今も8億の人が慢性的な栄養不足だといいます。どうしたらこの目標を達成できるのか。新しいソリューションを参考にしつつ考えます。

いま世界にある食料の課題とは

サス, デベ, ゴー

サス:みなさん、はじめまして、サスです。これから私とデベとゴーの3人で「サステナブル勉強会」をはじめることにしました。略して「サス勉」。毎回さまざまなテーマのもと、SDGsについて考えていきたいと思います。

デベ:こんにちは。デベ・ロペスです。デベと呼んでください。アメリカのIT企業に勤めていて、3年前から日本で働いています。

ゴー:よろしくお願いします、ゴーです。実はSDGsのことはよくわからないのですが、この機会に勉強したいと思います。

サス:じゃあ早速はじめますね。最初のテーマは食料です。まずSDGsではどんなことが問題になっているのか、簡単にまとめてみます。SDGsには17の目標と169のターゲット(達成基準)があるのは知ってますよね。食料の問題は目標2の「飢餓をゼロに」を達成することが重要になります。

ゴー:「飢餓をゼロに」。なんだかザックリしてますね。

サス:そうですよね。SDGsの目標って、わかりやすく平易な言葉で表現されていて、逆にそれだけでは詳しい内容がわからないかも。補足の説明を見てみましょう。
「飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する。」
さらに、これだけじゃなかなか実行に結びつかないから、より細かくかみ砕いた達成目標、ターゲットがいくつか細かく設定されているんです。その中でも食料の問題については次の2つがポイントになりそうですね。

目標2「飢餓をゼロに」

[ターゲット]2.1
2030年までに、飢餓を撲滅し、全ての人々、特に貧困層及び幼児を含む脆弱な立場にある人々が一年中安全かつ栄養のある食料を十分得られるようにする。

[ターゲット]2.a
開発途上国、特に後発開発途上国における農業生産能力向上のために、国際協力の強化などを通じて、農村インフラ、農業研究・普及サービス、技術開発及び植物・家畜のジーン・バンクへの投資の拡大を図る。

※イメージ
※イメージ

サス:「飢餓をゼロに」って日本に住む私たちにはピンとこないけど、飢餓の問題は年々深刻化しているんです。2019年の発表で、世界の穀物生産量は毎年26億トン以上。実は在庫もあるから、世界のすべての人が十分に食べられるだけの食料が生産されているし、在庫もあるんです。なのに、国連食糧農業機関(FAO)の2018年の報告では、世界の総人口76億3100万人のうち、約9%にあたる8億2160万人が慢性的な栄養不足といわれているんです。9人に1人ってことね。人数ではアジアが5億1390万人と一番多く、人口に占める割合ではアフリカが19.9%と、もっとも切実といえます。

サス
世界の食料事情 穀物生産量の推移(2019)出典:国連食糧農業機構(FAO)https://www.hungerfree.net/hunger/food_world/
世界の食料事情 穀物生産量の推移(2019)
出典:国連食糧農業機構(FAO)
https://www.hungerfree.net/hunger/food_world/
穀物生産量 消費量の推移(2017)出典:国際連合食糧農業機構(FAO)https://worldfoodday-japan.net/world/
穀物生産量 消費量の推移(2017)
出典:国際連合食糧農業機構(FAO)
https://worldfoodday-japan.net/world/

飢餓をなくすカギはスマート農業

デベ
サス
ゴー
デベ

デベ:「飢餓をゼロに」という目標のなかで、イノベーションになるのは農業生産能力向上、いわゆるスマート農業ですね。英語ではSmart Agriculture(スマートアグリカルチャー)、AgriTech(アグリテック)、AgTech(アグテック)とかいわれていますね。ICTやロボット、AIやビッグデータを活用することで、生産能力をあげようという動きだけど、これはかなり進化してきたし、これから先、ますます重要になってくると思います。

サス

サス:私もそう思いますね。いまアフリカで農業ソリューションを必要とする農家は約3,300万人とされています。そのうちデジタル技術を活用している農家はまだ多くて3割といわれています。でも、IoTやAI、ブロックチェーンなどの活用を望む農家は6割を超えています。2030年までにはアフリカの2億人以上が農業へデジタルを活用すると予想されているんです。

ゴー

ゴー:確かにアフリカにスマート農業を導入できればよさそう。でも、いろいろハードルがあるかもね。テクノロジーには、どんなのがあるんですか?

※イメージ
※イメージ

デベ:代表的なものにしぼると、基本の技術はざっとこんな感じ。ドローン、衛星写真とセンサー、位相追跡、気象予報、自動灌漑、光と熱の制御、害虫および病気の予測、土壌管理、バイオテクノロジーとかでしょうか。

ゴー:なんだか、むずかしそうですね。

デベ:ところが、そうでもないんです。たとえば、ドローンを使った方法だと、光学センサー、距離センサー、GNSS(全地球航法衛星システム)が搭載された農業用ドローンで、畑、水田、果樹園など現場のデータを収集するわけです。これを農場の地形情報、生産履歴、気象データなどと組み合わせて、農作物などの育成に役立つ支援をタイムリーに行っていきます。
システムとしてはやや大がかりだけど、農家の人たちはスマートフォンさえあれば、次に何をするべきか、生育の状況はどうか、注意するべき点は何かなど的確なアドバイスを得られるんです。

サス:そのテクノロジーは開発途上国でも使えるのかしら。

※イメージ
※イメージ

デベ:もちろん。たとえば音楽のサブスクリプションって、どんな仕組みで動いてるかなんて気にしないでしょ。ただ自分の聞きたい音楽を選んで楽しむだけ。要はアプリの設計の問題なんですね。プラットフォームのことは気にせず、農家の人たちのカスタマーサクセス、つまりシステムを使うことで確実に生産性が上がるような成功体験を支援するアプリを提供することは、いまの時代でも十分に可能だし、将来はもっとカンタンな方法になっていくことでしょう。

ゴー:スマートフォンはアフリカでもかなり普及しているから実現できそうですね。ただ問題はコストかな。以前よりは安くなってはいるとは思うけれど、これだけのシステムを運用するには、組織的なバックアップが必要になりそうですね。

サス:そうですね。日本でもスマート農業の導入を検討している農家の多くがコスト負担の軽減を求めているようです。コストの支援はもちろんだけど、最初はIT人材の支援も必要かもしれませんね。

農業のあり方を変えるロボティクス

ゴー
デベ
ゴー

ゴー:さっきドローンの話が出たけど、ほかにはどんなイノベーションがあるのでしょう?

デベ

デベ:やはりロボティクスの潜在力は大きいですね。たとえば、スイスのスタートアップ企業Ecorobotixが開発した「AVO」は、4本脚の自律走行型除草ロボットなんだけど、除草の手間を大幅に省いてくれます。
1時間に0.6ヘクタールのペースで農場を自動走行しながら85%以上の精度で雑草を検知し、ピンポイントで除草剤を散布する仕組みです。除草剤の散布量を9割削減できて、作業コストも3割軽減できるといわれています。ソーラーパネルつきで太陽光発電で動くのでエコなんですね。
https://www.youtube.com/watch?v=PQK3nP8jrLA

AVO-除草ロボット(画像提供:Ecorobotix)
AVO-除草ロボット(画像提供:Ecorobotix)

ゴー:それはすごいですね。除草剤を一気に減らせるのもいいですね。

デベ:あと、こんなロボットもいます。イギリスのSmall Robot Companyが、電流を活用した独自の除草技術をもつルート・ウェーブ社と提携し、世界初の化学物質を使わない除草ロボットの開発を進めているんです。
雑草と農作物を区別する小型ロボット「DICK」に、ルート・ウェーブ社の除草技術を組み合わせ、自動で検知した雑草に電流をあて、熱によって根まで枯れさせて除草するわけです。
https://www.youtube.com/watch?v=tnaN7FlPfEo

DICK(画像提供:Small Robot Company)
DICK(画像提供:Small Robot Company)

ゴー:農薬そのものがいらないんですね。枯れた植物は自然に分解され、やがて農地の養分となるし、これは革新的だ。オーガニックな農産物って、つくるのが大変だけど、こんなロボットがいてくれたら、これからの農作業はかなり楽になりますね。

デベ:収穫にもずいぶんロボットが導入されてきています。ちょっと変わっているのが、アメリカのAbundant Roboticsという会社が開発したリンゴ収穫ロボットですね。リンゴが熟したかどうかをロボットが判断して、自動的に収穫するんだけど、枝をカットするんじゃなくて、吸い込むようにしてもぎとるからリンゴを傷つけないんです。このロボットの性能に合わせて果樹園を設計すれば、生産性は飛躍的に高まるでしょうね。これは将来の農業のあり方を変えるような、おもしろい試みだと思います。
https://www.youtube.com/watch?v=XwpUxEY8D10

サス

サス:アフリカは小規模農家が多いけど、土地が広いから将来は大規模農家が成長できる可能性が高いですよね。ロボットの導入でメリットを出しやすいはず。いまはRaaS(Robotics as a Service)というやり方も注目を集めてるでしょ。SaaS(Software as a Service)とかMaaS(Mobility as a Service)のロボット版ですね。
農家が高価なロボットを所有しなくても、貸し出したロボットが収穫した作物の量に応じた対価を払うというモデルですけど、これなら比較的容易にロボットを使えるんじゃないかしら。
今は無人化された工場がたくさんありますよね。工場と農場は違うけど、農業の無人化、省人化は、この先もっともっと当たり前になっていくんじゃないかと思うんです。

流通の改善がフードロスを解消する

サス
デベ
ゴー

サス:最初に私が言ったこと、覚えていますか?「すでに世界のすべての人が十分に食べられるだけの食料が生産されている」ってこと。

サス

ゴー:そうでしたね。食料が余っているのに、困っている人のところに食料がない。これは流通の問題も大きいですよね。

※イメージ
※イメージ

サス:その通り。アフリカの農業は生産性が低いから、人口増加による食料の需要に供給が追いつかないんです。余っている国から輸入すればいいじゃないと思うかもしれないけど、流通インフラが整っていないから問題の解決にならないようです。いわゆる地産地消型で、住んでる場所の近くから食料を調達することが望ましいんですね。

ゴー:インフラだけじゃなくて、流通ルートの問題もあるみたいですね。

デベ

デベ:私が注目するのは、ナイジェリアのAlosfarmというスタートアップ企業の取り組みですね。小規模農家をバイヤーと直接つなぐデジタルのプラットフォームをつくったんです。これまでのやり方だと仲買人が農家から農産物を買い付けるんだけど、消費者に届けるまでのプロセスが多く、輸送にも多大な時間がかかっていたんです。それに何度も積み下ろしをするうちに農産物が傷んでしまうことも多かった。農家とバイヤーがプラットフォームを通じてダイレクトにつながることで、こうした流通のコストや時間のムダを減らして、フードロスの問題を軽減することができるようになりました。

イメージ

サス:この問題はサプライチェーンだから、SDGsの目標2よりも、目標12の「つくる責任 つかう責任」に関わる問題になりまね。その目標と具体的な達成目標となるターゲットはこういうことになると思います。

目標12「つくる責任 つかう責任」

目標12「つくる責任 つかう責任」

持続可能な生産消費形態を確保する。

[ターゲット]12.3
2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食料の損失を減少させる。

サス

ゴー:これは本来、「もったいない精神」を継承する日本人が得意とするソリューションのはずだけど、残念ながら日本は多くのフードロスを生み出してきました。ちょっと前の2016年のデータになるけど、農林水産省と環境省の調査では日本では年間2,759万トンの食品廃棄物があって、このうち、まだ食べられるのに廃棄されるフードロスが643万トンありました。これは世界中で飢餓に苦しむ人たちに向けた世界の食糧援助量をはるかに上回る量なんです。

サス:そうした反省もあって、余った食料を寄付する「フードバンク」のような活動も最近では目立ってきましたね。スマート農業も大切だけど、食料がないところに食料を届けられるシステムやネットワークがもっと発達すれば、「飢餓をゼロに」の目標はちょっと前進できそうですね。いま盛んに研究されている「人工肉」なども飢餓の解決に役立ちそうですね。

第1回のまとめ

イメージ
目標2「飢餓をゼロに」

世界の食料問題解決には
目標2「飢餓をゼロに」の達成が必要

  • ◎開発途上国へのスマート農業の導入が有効
  • ◎ロボット活用による大規模農場への転換も視野に
目標12「つくる責任 つかう責任」

さらに目標12「つくる責任 つかう責任」の
食料サプライチェーンの見直しも重要

サス, デベ, ゴー
記事一覧
次の記事
twitter facebook
その他のシリーズ
おすすめ・新着記事
PICKUP