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街のSDGsで、どう住みやすくなる?

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今回のテーマは目標11「住み続けられるまちづくりを」。いま世界や国内で進行しているスマートシティ計画の状況を追いながら、新しいテクノロジーを生かしたサステナブルなまちづくりのあり方を考えていきます。

これからの街のデザインを考える

サス, デベ, ゴー

サス::みなさん、こんにちは。今回は私たちの住む都市の問題です。「住みやすい街って、どんな街なのだろう」というテーマを掘り下げていきます。

ゴー:なんだかワクワクするテーマですね。

サス:SDGsの目標は11番目の「住み続けられるまちづくりを」。詳しい内容は次の通りです。ターゲットはい ろいろありますが、2つにフォーカスを当てます。

「都市と人間の居住地を包摂的、安全、強靭かつ持続可能にする」

目標11「住み続けられるまちづくりを」

[ターゲット]11.2
2030年までに、脆弱な立場にある人々、女性、子供、障がい者及び高齢者のニーズに特に配慮し、公共交通機関の拡大などを通じた交通の安全性改善により、全ての人々に、安全かつ安価で容易に利用できる、持続可能な輸送システムへのアクセスを提供する。

[ターゲット]11.3
2030年までに、包摂的かつ持続可能な都市化を促進し、全ての国々の参加型、包摂的かつ持続可能な人間居住計画・管理の能力を強化する。

※イメージ
※イメージ
「世界最高の国」ランク(2020)
「世界最高の国」ランク(2020)

ゴー:住みやすさという評価とは違うのかもしれないけど、「USニューズ&ワールドレポート」誌の「世界最高の国」2020年度ランキングで日本は3位でした。あまり実感がわかないですね。
https://www.usnews.com/news/best-countries/overall-rankings

サス:新型コロナウイルスの感染拡大後は「ウィズ・コロナ」といわれるようになり、住みやすさの尺度も変わっていく気がします。社会のデジタル化がさらに進んで、テレワークや在宅医療、遠隔教育の質なども評価の対象になるかもしれませんね。

デベ:私もそうだと思います。「ニューノーマル」という新しい世界の姿ですね。そうした社会のデジタル化のニーズとともに、ターゲットにあるような「持続可能な都市化」をめざした「スマートシティ」がますます進化していくと思います。

ゴー:「スマートシティ」ってよく耳にするけど、その定義は何ですか。

サス:ざっくりいうと、IoT技術を生かした都市のことをいいます。再生可能エネルギーの導入や効率的なエネルギー管理を実現した「スマートエネルギー」をはじめ、自動運転技術を取り入れた「スマートモビリティ」、家庭と都市全体のインフラがネットでつながった「スマートガバナンス」など、さまざまな分野に先進的なテクノロジーが活用されているような都市ですね。

サス

世界のスマートシティ計画はいま

ゴー
サス
デベ
ゴー

ゴー:世界のなかで、いま気になるスマートシティはありますか?

デベ

デベ:やはり、この分野で先を行くのは中国です。広東省の広州市の郊外で建設が進む「中新広州知識城」は、世界でもっとも注目を集めるスマートシティのひとつです。中国とシンガポールの国家共同プロジェクトとして、2010年に計画がスタートしました。2035年の完成時には65万人が住む予定だそうです。中国では500以上のスマートシティ計画が進行しているといわれていますが、そのなかでも最大級のものです。

ゴー:何が注目に値するのでしょうか。

デベ:まず既存の都市ではなく、まったく新しい土地に建設されること。知識産業を集約していること。そしてシンガポールとの共同プロジェクトであることです。

サス

サス:広大な土地をもつ中国ならではですね。なぜシンガポールと組んだのでしょう。

※イメージ
※イメージ

デベ:「中新広州知識城」はスマートシティであるだけでなく、職場と住居が近接したコンパクトシティ、自然と調和したガーデンシティをめざしているので、そのお手本ともいえるシンガポールの都市づくりのノウハウを活用させてもらおうということなのです。シンガポールとしては、国土が狭く人口が少ない自国ではできなかったことを、広大な中国で実現できるというメリットがあります。

ゴー:ゼロから都市をつくるというあたり、スケールが大きいですね。

デベ:そうですね。しかも、スマートシティは手段にすぎないというのです。「知識城」というネーミングの通り、知識集約型の人材や企業に来てもらうことが目的で海外の企業にも門戸を開いています。いわば都市開発のかたちを借りた、壮大な実験場ともいえる試みなのです。

サス:その他のスマートシティの動きはどうですか。

カナダトロント「キーサイド」Sidewalk Labs
カナダトロント「キーサイド」Sidewalk Labs

デベ:カナダのトロントの再開発計画「キーサイド」に注目していました。Googleの親会社であるAlphabetの傘下にあるSidewalk Labsが計画したスマートシティです。2015年に開発がスタートしたのですが、プライバシー保護団体からデータ収集や大衆監視につながる可能性を懸念する声が強く、以前から反対の運動があったのですが、新型コロナウイルスによる経済的な問題も重なり、2020年の5月ついに計画が廃止になってしまいました。

ゴー:Googleがつくる街、ちょっと見たかったなという気がします。

街もスマートモビリティも進化する

ゴー
デベ
サス
サス

ゴー:日本で注目するスマートシティの動きはありますか。

デベ

デベ:私がおもしろいと思うのはトヨタの「WOVEN CITY(ウーヴンシティ)」です。2020年1月にラスベガスのCESで発表されました。人やモビリティ、住宅などのモノや情報をネットでつなぐ「コネクテッドシティ」を実現する構想です。

サス

サス:静岡県の裾野市につくるんですよね。

デベ:トヨタの私有地なので制約がなく自由度が高いのがいいと思います。自動運転やMaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)、ロボット、スマートホーム技術、AIなどの新技術を組み合わせて、どのようなことができるかを実証実験できる街をつくる。さらに、その環境を利用して、新たな技術やサービス、ビジネスモデルを生みだそうという構想ですね。

サス:世界的に有名な建築家がデザインしたとか。

コペンハーゲンの「LEGO HOUSE」BIG_LEGO20House202_Photo20by20Kim20Christensen
コペンハーゲンの「LEGO HOUSE」
BIG_LEGO20House202_Photo20by20Kim20Christensen

ゴー:デザインしたのは、ビャルケ・インゲルスですよね。デンマーク出身の建築家で、ニューヨークの第2ワールドトレードセンター、Googleのマウンテンビューの新社屋、コペンハーゲンのLEGO HOUSEなどを手がけた人ですね。さらに火星で人類が生活するための建築の開発にも取り組んでますが、SFのような世界でかっこいい。

デベ:この街には自動車メーカーらしいコンセプトを生かした未来の姿があります。街を通る道を3つに分類し、それぞれの道が網の目のように織り込まれた街になっています。

(1)スピードが速い完全自動運転&ゼロエミッションのモビリティが走行する車両専用の道
(2)歩行者とスピードが遅いパーソナルモビリティが共存するプロムナードのような道
(3)歩行者専用の公園内歩道のような道
生活を支える燃料電池発電も含めて、街のインフラはすべて地下に設置されるのもユニークです。

ゴー:ほかに気になるプロジェクトはありますか。

デベ:「持続可能な輸送システム」という意味で、茨城県日立市で行われている「ラストワンマイル型デマンドサービス」も興味深い試みですね。電車の駅やバスの停留所から遠いところに住んでいる人たちはクルマがないと不便ですが、高齢者や障がいのある方などクルマの運転ができない人たちは多い。そういう人たちに向けて、MaaSによってバスやタクシーなどの公共交通の利便性を高め、快適なアクセスを提供しようというサービスです。

ゴー:具体的にはどんなサービスなんですか。

デベ:通勤型とワンマイル型の2つのデマンドサービスがあります。通勤型はバスを利用するのですが、ルート上にオンデマンドのバス停が数多く設置されています。利用する人はアプリで自宅の近くのバス停を指定しておくと、そこで乗り降りできます。通常のバス停まで遠い人もラクに利用できるんです。
ワンマイル型はバスとタクシーをミックスしたサービスです。アプリで予約しておくと、バス停と自宅の間を無料タクシーで送迎してくれます。複数の利用者がいる場合は乗り合いになるようです。高齢者や障がい者の方などで歩くのがむずかしい方には便利ですね。

サス:「誰一人取り残さない」 持続可能で多様性と包摂性のある社会というSDGsの精神を体現したプロジェクトといえますね。

都市のガバナンスはどうあるべきか

サス
ゴー
デベ
サス

サス:「住み続けられるまちづくりを」という目標を達成するためには、ガバナンスの役割が重要ですね。

ゴー

ゴー:まったくその通りですね。新型コロナウイルスの対策で給付金の振込に多くの手間や時間がかかってしまったけど、政府や自治体のデジタル化が思った以上に遅れていましたね。またマイナンバーカードの利用者が少なく、デジタル・ガバメントに対する信頼度が極端に低いのも、サービス遅延の原因のひとつといわれています。

デベ

デベ:デジタル・ガバメントとスマートシティは表裏一体ともいえるので、どんなに街のスマート化を進めても、ガバナンス側のデジタル・トランスフォーメーションが進んでないと、利便性や快適性は向上しませんね。 そういう意味では「都市OS」が今後ますます重要になりますね。
https://www8.cao.go.jp/cstp/stmain/a-whitepaper3_200331.pdf

※イメージ
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サス:地域や特定のサービス・システムに依存しないスマートシティ運用モデルを確立しようというプロジェクトですね。

デベ:コンピュータやスマートフォンのOSのように、共通で使える都市のオペレーションシステムがあれば、他の地域で生み出されたサービスをスムーズにスピーディに自分の地域に取り込むことができるというわけです。スマートシティ同士で協力しながらプロジェクトを行い、その成果を共有することもできますね。

ゴー:いわゆるデータドリブン社会が簡単に実現できますね。

デベ:都市OSのいいところは、限られた地域ではなく、すぐれたアイデアやサービスを世界共通で使える点だと思います。たとえばコペンハーゲンやバルセロナの都市OSを、東京で使うなんてことも可能になるわけです。
「住み続けられるまちづくりを」のターゲットに「全ての国々の参加型、包摂的かつ持続可能な人間居住計画・管理の能力を強化する」という内容がありますが、そうした目標を達成するためにも都市OSのようなコンセプトが生きてくるのではないでしょうか。

サス:ただ「どんなテクノロジーを導入するか」ということよりも、AIやIoTなどのデジタル技術を使って「どう人を幸せにするか」という視点が大切ですね。データドリブンといっても、データが世の中を動かすのではなく、人が世の中を動かすのだということを忘れないようにしたいですね。

ゴー:まったく同感です。

デベ:me tooです。

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第4回のまとめ

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目標11「住み続けられるまちづくりを」

住み続けられるまちづくりに欠かせないスマートシティ化。スマートエネルギー、スマートモビリティ、スマートガバナンスなどを活用したサステナブルな都市計画が必要。

データドリブンな社会でも世の中を動かしているのは、データではなく人であることを忘れないようにすることが住みやすい街をつくる基本となる。

サス, デベ, ゴー
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