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【「戦う城」に学ぶ経営戦略 城のストラテジー】第2回 唯一現存する漆黒の五重天守 国宝 松本城

◎長野県松本市丸の内 ◎主な築城:天正18年(1590年)〜文禄3年(1594年)石川数正・康長

鉄砲に強い城というクリティカルシンキング

松本城は現存12天守の中で唯一の平城(ひらじろ)である。平城は交通の便がよいというベネフィットがあるものの、急峻な地形を利用して敵を撃退できる山城(やまじろ)に比べて起伏がないため敵に攻め込まれやすく、防御に工夫が必要とされる。いかに弱点をカバーして堅固な城郭とするか。松本城におけるその対応策は実に理にかなったものであった。現代のビジネスから見ると、クリティカルシンキングの教材ともなりうる好例で、築城主のマネジメント能力の高さがうかがわれる。

「信州松本城之図」(起し絵付)(松本城管理事務局提供)
「信州松本城之図」(起し絵付)(松本城管理事務局提供)

松本城の設計の根幹をなすのは「鉄砲に強い城」である。石川数正が築城に着手した1590年頃は鉄砲隊を中心とした戦いの巧拙が勝敗を決する時代であり、城には相手を城内に入れないことはもちろん、銃撃戦を想定した構造や仕掛けが求められる。
まず城内を三重の水堀で囲む。内堀の幅は約60mだが、これには理由がある。当時の火縄銃が相手に命中する距離の限界は約60mであり、城内から内堀の対岸にいる敵を迎撃できる。敵が内堀の前で立ち往生している間に壊滅させるのが狙いだ。
水堀は3mの深さがあり、しかも城側の斜面が急になっている片薬研堀(かたやげんぼり)の構造のため対岸に渡るのは極めてむずかしい。

鉄砲狭間(さま)(松本城管理事務局提供)
鉄砲狭間(さま)(松本城管理事務局提供)

万一、敵が銃弾をかわし、内堀を渡りきったとしても、前に進むのは至難の技だ。敵を攻撃する鉄砲狭間(さま)や矢狭間が至るところに設けられている。狭間は大天守に115箇所、城内全体では2,000箇所以上ある。狭間は低いところにあり、鉄砲を安定した「ひざうち」の姿勢で撃つのに適した高さになっている。大天守には石垣を登ってくる敵を石や熱湯で撃退するための石落としも11箇所ある。
外壁には窓が少ないうえ、武者窓と呼ばれる竪格子を閉じると壁になる仕様だ。大天守1階と2階の壁は約29cmと厚く、内部には木の枝を頑丈な縄で絡めた部材が練りこまれ、鉄砲の玉が当たっても貫通しにくい造りになっている。

天守の壁と石落とし(松本城管理事務局提供)
天守の壁と石落とし(松本城管理事務局提供)

このように細部にわたって戦に備えた配慮があり、城内に隙を感じさせない。結果として松本城が戦の舞台になることはなかったが、もし戦闘が行われたとしても、高いパフォーマンスを発揮したに違いない。

完成度の高いデザインが後世まで生きる

月見櫓(松本城管理事務局提供)
月見櫓(松本城管理事務局提供)

松本城がユニークなのは、石川数正・康長のあとに行われた増築にある。
康長が徳川家康によって改易されたのち、松本城主は小笠原氏、戸田氏と入れ替わっていく。そして時は寛永10年(1633年)、徳川家康の孫、松平直政が城主となる。ここで城の増築が行われた。三代将軍、徳川家光が善光寺参詣の道すがら松本城に立ち寄ることになり、家光をもてなすため新たに月見櫓(つきみやぐら)と辰巳附櫓(たつみつけやぐら)が建造される。結局、家光が松本城に来ることはなかったが、2つの櫓は残った。

天守閣(松本城管理事務局提供)
天守閣(松本城管理事務局提供)

石川氏が築いた大天守・渡櫓(わたりやぐら)・乾小天守(いぬいこてんしゅ)に、直政の築いた2つの櫓が加わり、ここに現存の連結複合式天守が完成する。この5棟すべてが国宝である。
大天守のデザインの完成度が高いゆえに、あとから櫓を加えても違和感がなかったのだ。もし、大天守の評価が低ければ、増築を機に松本城は別の姿になっていたかもしれない。

松本城は戦乱期と泰平期との共存であり、また豊臣スタイルと徳川スタイルとの融合でもある。石川氏は改易となってしまったが、秀吉に認められ、みずからの名声を高める城をめざしたプロジェクトは大きな実を結んだといえる。いい仕事がなされたものは後世まで評価されることを、松本城は時の重みとともに伝えてくれる。

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