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コラム

ワークライフバランスを正しく理解する

ワークライフバランスを正しく理解する

近年、働き方改革が推進されていることや、働く人それぞれの仕事観やライフスタイルが多様になってきていることを受けて、「ワークライフバランス」という考え方が注目を浴びています。では、「ワークライフバランス」とは一体どういうものなのでしょうか。ここでは、「ワークライフバランス」の意味や、企業が「ワークライフバランス」の実現に取り組むメリット、実現のためのポイントについて解説します。

ワークライフバランスとは?

ワークライフバランスは、日本語に訳すと「生活と仕事の調和」です。ここでの「生活」は仕事以外の時間、つまりプライベートな時間と考えて良いでしょう。ワークライフバランスという言葉は、プライベートと仕事のどちらも充実させることで、バランスよく両立させることができるという考え方です。また、ワークライフバランスが実現した社会について、政府は下記のように定義しています。

国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる社会

内閣府「生活と仕事の調和」推進サイトより引用

ワークライフバランスを正しく理解する

ワークライフバランスは、誤解されることの多い考え方です。働きすぎと言われている日本社会では、ワークライフバランスの実現のためにプライベートを充実させることに重点が置かれ、「仕事を控えて、プライベートを楽しむべき」といった考えになりがちです。しかし、これは誤りです。単純に仕事を減らすことを目的にしたものではないからです。他にも、「仕事とプライベートの時間のバランスを取るため、時間配分は50:50にすべき」という考え方も誤りです。絶対的な比率があるわけではなく、プライベートと仕事の両方が充実するように、働き方を見直すことが重要なのです。
また、ワークライフバランス実現の目的のひとつとして、育児や介護をしながら仕事もできるようにすることが掲げられています。このことから「ワークライフバランスは女性のためのもの」「育児や介護に関わっていない人には関係ない」と捉えているケースもありますが、これも誤りです。ワークライフバランスの実現は、働く人それぞれがライフステージに合わせて働き方を選択できることを目指したもので、性別や年齢を問わず、すべての人に関わるものです。 ワークライフバランス実現のために、まずはその考え方を正しく理解するようにしましょう。

ワークライフバランスの変遷

ワークライフバランスという考え方は、1980年代のアメリカで生まれました。アメリカでは1960年ごろから女性の労働力率が上昇しはじめ、1970年~1980年代に特に小さな子どもを持つ女性の労働者が増えたことにより急増しました。そこで優秀な人材を集めたい企業は、ワーキングマザーが仕事と育児を両立できるような支援策を講じるようになり、これが「ワークファミリーバランス」と呼ばれていました。その後、子育てをしている女性従業員だけではなく、子どものいない従業員、独身の従業員、男性従業員からも支援策を求める声が上がるようになりました。これに応えるため、保育支援だけでなく、介護支援や健康増進、生涯学習など、幅広い従業員が活用できるような仕組みを各企業が考えるようになり、「ワークファミリーバランス」から、すべての従業員にとって私生活と仕事の両立を意味する「ワークライフバランス」と呼ばれるように変わっていったと言われています。
一方、日本では1990年代ごろからワークライフバランスが意識されるようになりました。日本では、終身雇用や年功序列といった制度や、プライベートを犠牲にして仕事に専心する姿勢を美徳とするような企業文化が根付いていましたが、グローバル化やデジタル技術の発展によって、社会が急速に変化していきました。女性の社会進出もあり、多様な働き方を認めるべきという考え方にシフトしていき、ワークライフバランスの実現に取り組む企業が少しずつ増えていきました。

ワークライフバランスが重要とされている理由

現在、日本では各企業がワークライフバランスの実現に取り組んでいるだけではなく、政府が積極的にワークライフバランスを推進しています。それほどワークライフバランスが重要視されている理由はどこにあるのでしょうか?背景にある2つの理由を解説します。

人手不足に対応するため

日本では少子高齢化が進んでおり、労働力人口が減少することが予想されています。つまり、日本社会全体が人手不足に陥るということです。人手不足は、直接的ではないにしても、経済の縮小につながります。国内総生産が減少し、税収も減少、社会保障システムが維持できなくなる可能性があります。そこで、出産や育児、介護などを理由に離職する人を減らし、また、すでに離職した人に復職してもらうことで、人手不足解消につなげようとしています。そのためには、多様な働き方を認め、すべての人が働きやすい環境を整備する必要があります。これが、ワークライフバランスが重要とされている理由のひとつです。

労働者の心身の健康を維持するため

上で少し触れたように、日本社会では、「プライベートを犠牲にしてでも仕事に専心する」「従業員は会社のために存在している」といった考え方が古くから根付いており、今もまだ一部では残っています。実際に諸外国に比べて日本の正規雇用者の労働時間は長く、働きすぎの状態にあると言われています。その結果、過労死が社会問題化しました。この問題を解決するためにも、プライベートと仕事のバランスを取り、心身ともに健康な状態で働けるようにする必要があったのです。これが、ワークライフバランスが重要とされている、もうひとつの理由です。

ワークライフバランスのメリット

従業員にとっては、自社がワークライフバランスの実現に取り組んでくれることで、プライベートが充実したり、より働きやすい環境が整ったりと、さまざまなメリットがありますが、実は企業にとってもメリットがあります。ここでは、企業がワークライフバランスの実現を行うメリットを3つ紹介します。

コストを削減できる

ワークライフバランスを実現するための取り組みのひとつとして、まずは労働時間の適正化が必要です。業務内容やフローを見直し、長時間労働を是正します。これによって、残業代を削減することができます。他にも、育児や介護との両立を可能にするため、在宅勤務を導入すれば、通勤費を削減することができます。働きやすい環境が整うことで、離職率の低下が見込めるため、人員補充のために費やしていた採用コストを削減することができます。

生産性が向上する

ワークライフバランスの実現は、従業員のプライベート充実だけでなく、仕事の充実にもつながります。仕事に対するモチベーションが向上し、持てる能力を存分に発揮できるようになります。そうなると個々の業務の質が上がるため、生産性向上が見込めます。それだけではなく、モチベーション向上は、社内全体の活性化にもつながるため、新たな価値創造のためのアイデアが生まれる可能性も高くなります。また、長時間労働の是正のために、無駄な業務を排除するなど、業務効率化に取り組むことで、生産性が向上すると考えられます。

人材確保につながる

働きやすい環境を整備することは、離職率低下が見込めるだけではなく、新規採用にもよい影響があります。従業員を大切にする企業、社会の変化にも柔軟に対応できる企業として、求職者から見た企業イメージが向上するからです。また、働き方の選択肢が増えることで、これまでは採用できていなかった人材にもアプローチできるようになります。人手不足が予想される中、企業にとって人材確保は大きな課題になるため、採用に関する競争力をつけられるメリットは大きいと言えるでしょう。

ワークライフバランスを実現するためのポイント

企業にとってもワークライフバランス実現に取り組むメリットがあることが分かりました。では、具体的にどのように進めていけば良いのでしょうか。ワークライフバランスを実現するために企業が取り組むべきことを3つ紹介します。

労働時間の管理

心身の健康を害するような長時間労働を是正するためには、労働時間の把握と管理が不可欠です。これは、労働基準法によって求められていることでもあります。ただし、単純に労働時間を減らせば良いわけではないことに注意しましょう。業務内容や人員体制の見直しなど、業務効率化をしながら進めないと、決められた時間内に業務を終わらせることができず、隠れ残業を行う従業員が出てきてしまうからです。労働時間の管理と業務効率化はセットで取り組むようにしましょう。

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多様な働き方の実現

アメリカでワークライフバランスという考え方が生まれるきっかけとなった育児と仕事の両立は、ワークライフバランス実現において重要なポイントです。今では介護の問題もあり、企業は従業員が自分の家庭事情に合わせた働き方が選択できるような体制をつくる必要があります。具体的な制度としては、短時間勤務制度やフレックスタイム制、さらには在宅勤務制度が挙げられます。在宅勤務には、情報漏洩のリスクや従業員のモチベーション低下などの課題があると言われていますが、適切な対応策を講じながら、多様な働き方ができる組織へと変革しましょう。

福利厚生の充実

ワークライフバランスの実現には、プライベートな時間の充実も重要です。そのために企業ができることとしては、従業員がより休暇を楽しめるように、自社で保養所をつくったり、一般のレジャー施設やホテルを安く利用できるような福利厚生サービスを導入したりすることが考えられます。他に、オフィスに従業員専用のフィットネスジムをつくる企業もあります。適度な運動が心身のリフレッシュにつながり、プライベートも仕事も充実させることができると考えられます。

「ワークライフバランス」と「ワークライフインテグレーション」

ワークライフバランスに似ている言葉として、ワークライフインテグレーションというものがあります。ワークライフインテグレーションは、ワークライフバランスに代わる新しい概念と言われることもありますが、この2つには違いがあります。
ワークライフインテグレーションとは、プライベートと仕事の統合です。ワークライフバランスは、プライベートと仕事を分離し、相反する両者それぞれを充実させることでバランスよく両立させるという考えですが、ワークライフインテグレーションは、両者の間に線引きをするのではなく、一体として捉えています。「仕事が充実すれば、プライベートは充実する。プライベートが充実すれば、仕事は充実する」という発想で、そこには相乗効果があるとされています。また、ワークライフインテグレーションでは、プライベートも仕事も同じ人生の一部であると捉えており、これを充実させることは人生全体の豊さにつながると考えています。

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まとめ

少子高齢化による人手不足や過労死といった労働に関する社会問題を解決するために、政府主導で働き方改革が推進されていますが、その中で重要なテーマとなるのが、今回解説したワークライフバランスです。ワークライフバランスを正しく理解できていないと、一部の従業員だけに偏った支援策になってしまったり、働きやすい環境を整備するはずが、逆にモチベーションが低下してしまったりする可能性があります。ここで紹介したワークライフバランス実現のポイントなどを参考に、従業員が真に満足できる働き方改革に取り組みましょう。

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