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【挑む人】第49回 斉藤徹「統制ではなく一人ひとりが自走する新しい組織のかたちへ」

心理的安全性や多様性の担保からアイデアは生まれる

──社員の自走を促すために、どのようなマネジメントが必要なのでしょうか。

いかに社員がやる気に満ちた場をつくれるかが基本になります。

個人の能力を肯定し、信頼関係を築いていくために、リーダーや管理者は「サーバント・リーダーシップ」、つまり社員への奉仕を重視したマネジメントが求められます。社員の自走を支援するかたちでリーダーシップを発揮し、指示ではなく、サポートに徹する。これがリーダーの役割といえます。

併せて、関係の質を高めるために不可欠なのが、安心できる場をつくること。ミスをしても非難しない、異質な意見を排除しない、個人のスキルと才能を尊重するなど、心理的に安全な場をつくることで初めて、社員は自然体の自分をさらけ出せるようになり、斬新なアイデアも出しやすくなります。チーム感が出てくると目的が共有され、価値観の共有もなされていくのです。

──マネジメントにおけるコツはありますか。

自分が変わることから始めていきましょう。1人から組織は変えていけます。そのためには主体性を発揮すること。周囲に何が起ころうと、自分視点で判断し、思考を選択できる能力を持つこと。それがやる気に満ちたチームづくりの大原則です。

とはいえ、過度にがんばり過ぎないこと(笑)。真面目でやる気のある人ほど、他者の行動に完璧さを求めたり、同じ価値観や意見を持った一体感ある仲間でいたいと考えたりしがちですが、それらは周囲の人の心理的安全性を毀損しかねません。

それから、トップはともすれば組織をいっぺんに変えようとしますが、組織をウォーターフォール型で一気に変えようとしないこと。小さなところからアジャイル型で組織を変革しましょう。自分たちの半径5mの中で変えるという意識が大切です。

どんな企業にも「今のやり方ではよくない」と危機感を持つ社員が2割はいるもの。まずはその2割だけで研修、連帯するなどして、ボトムアップのコミュニティをつくっていきましょう。その社員をできるだけ動きやすいようサポートすることが、トップや管理職の取るべき仕事です。エンゲージメントの高い人たちは生産性も他の社員より高く、これが社の推進力となっていきます。

成果が出てきたら、全社に広めていきましょう。面白いもので、成果が出ると様子見の人たちも「こういうやり方でいいんだ」と気づき、自分の組織にも取り入れようと前向きになります。日本の企業は動き出しは遅いですが、動き出したらドラスティックに変化するのが特徴です。

──自走型の組織を、斉藤さんは「やる気に満ちた、優しい組織」と呼んでいます。押しつけによるものと、自らの「したい」という意識から始まるものとでは、仕事の意味も取り組み方も全く変わってくると思います。

従来、ビジネスは損得勘定優先の「市場規範」が幅を利かせていました。しかし本来、お客様の困りごとを解決し、その感謝に対してお金をいただくのがビジネスの原点です。

これまで通勤時をスイッチとして、家庭では道徳重視、会社では営利重視と切り替えてきた方が多かったかと思いますが、今やリモートワークによって公私の境界は曖昧です。リモート会議中、子どもが近くにいるところで「損得勘定を最優先!」なんて言えませんよね。個人の幸福のためにも、企業には道徳的な価値を持った指標を取り入れてほしいのです。

市場規範ではなく「社会規範」を大切にしても、会社はきちんと回せます。日本には、顧客よし、会社よし、社会よしの「三方よし」という世界に誇れる商道徳もあります。

社会規範を持ち合わせることは、社員のエンゲージメント向上や組織強化などと同時に、サステナビリティのある経営にもつながっていくのだと思います。

斉藤徹氏
〈取材後記〉
「10年ひと昔」とはよくいったもので、現在、組織の上に立つ人たちがまだ新人だった頃と今とでは、社会の在り方が全く異なります。頭の中では分かっているのですが、私たちはどうしても「数字=結果」を優先して仕事を考えがちで、その結果、統制型の時代に合わない組織になってしまいがちという斉藤さんの話をうかがい、わが身を振り返るきっかけとなりました。自走できる社員をいかに多く育てることが、これからのリーダーの務めなのだと感じさせられる取材でした。
特集 斉藤徹/了
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